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寝ても覚めても
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病室のベッドに寝転がり、他愛ない話をしながらスキンシップを楽しむ。セイカは異常なまでのマイナス思考で、ひねくれていて、何気ない言葉を曲解して落ち込んでしまう。
けれど同時に俺が嫌味や皮肉なんて言わないと理解しているようで「鳴雷はそんなこと考えてないのに勝手に嫌なように受け取ってしまう」と自己嫌悪で泣き出してしまう。
面倒臭い。まともに話せない。可愛い。もっと話して対セイカの話術を磨かなければ。
「……鳴雷、学校どこ行ってるんだっけ」
「十二薔薇だよ」
「お坊ちゃま高校だな……授業どう? 質いい?」
「俺あんまり真面目に聞いてないからなぁ……でも中学の時の先生よりは分かりやすく教えてくれてると思うよ」
「…………いいなぁ」
「転校しちゃうか?」
「出来るわけねぇじゃん。学費いくらだよ、めちゃくちゃ高いだろ……」
正確な学費は分からないが、学校の敷地の広さと建物の優美さ、設備の整いっぷりから考えて他の学校とはそこそこ差があるのだろう。
「まぁ……でも、バリアフリーかなり整ってるから、車椅子でも過ごしやすいと思うんだよなぁ」
「……宝くじ当たった想定する感じなら楽しめる話かもな。俺もしもの話あんま好きじゃないけど」
「そ、そっか……えっと…………」
セイカが楽しめる話を──と考えていたのに頭の回転がときめきで止まる。セイカが俺の腕を枕にし、機嫌を伺うような目で俺を見つめてきたのだ。
「…………」
俺は黙って微笑み、セイカの頭を抱いた。ホッとしたような表情になったセイカは俺のシャツをきゅっと掴み、胸に顔を寄せた。
「鳴雷……」
「ん?」
「こんき……? のアニメは、当たり……あったか?」
「前々から楽しみにしていた二期が始まったのですがやはり一期に比べるとクオリティが低くて、制作会社が変わった時から嫌な予感はしていたのですが。しかしノーマークだったアニメの出来が良くて、百合アニメですが作画が本当に良くて……」
「…………ふふ」
アニメに興味なんてないくせに楽しげに笑って、時折「それで?」だとか「漫画はいいのあった?」だとか聞いてくるから止まらない。
「──ですからわたくしはブラシ型触手が……おや? セイカ様?」
エロ漫画の触手ものの話をし始めた頃、セイカが俺の腕の中で眠っていることに気が付いた。安らかな寝顔だ。
「……寝ている間は穏やかですな」
もう口を滑らせて泣かせてしまう心配もない、そう考えると思わずため息が漏れた。
「どんな夢見てるんですか? ふふ……」
今だけは生きるのが苦痛に感じたりはしないのだろう。起きていても心安らかな時間を提供してみせるからなと意気込んでいると、セイカが魘され始めた。
「ぅう……ん…………め……さ……」
睡眠中でさえ苦痛から逃れられないのかと絶望に近い哀れみを抱き、震える身体を抱き締めて背をさする。寝言を言っているようなので耳を近付けてみれば、彼が「ごめんなさい」と何かに謝っているのが分かった。
(起こした方がいいんでしょうか)
どんな夢を見ているのだろう、誰に謝っているのだろう。母親に叱責されているのか、イジメっ子達に理不尽な謝罪要求でもされているのか──
「なる、かみ……ごめ……な、さ……」
──俺、か。
「セイカ様……? なんで……」
なんで、なんて聞かなくても分かる。俺を虐めたことに対する謝罪だろう。セイカが楽しそうに聞いてくれるからとオタク話に一人で花を咲かせたから、中学時代を思い出したんだ。いや、違う、思い出したから楽しそうにしていたんだ、夢の中でその続きであるイジメの思い出を反芻しているんだ。そして罪悪感に襲われて……あぁ、なんて、愛おしい。
「セイカ、セイカ、起きて、セイカ」
「んっ……ん、ぅ……なる、かみ? 鳴雷……何?」
「……寝てたから」
「あ、嘘、ごめん……教えてくれてありがと。鳴雷と会えんの週一なのに寝ちゃったらもったいないよな……」
「週二だよ」
「……休み両方使ってくれんの? どっちかでいいのに…………嬉しい」
夢の内容は覚えていないようだ、うっとりとした顔をしている。生き辛いセイカへの愛おしさが溢れた微笑みを向けながら頭を撫でると、訝しげな目で俺を見つめた。
「…………なんでそんなハムスター手に乗せてる時みたいな顔してんの?」
「そ、そんな顔してるか?」
「うん……」
「セイカが可愛いなぁー幸せだなぁーって気持ちだったんだけどな」
自分が世話をしなければすぐに死んでしまう小動物に対する慈しみの気持ちと似ていないと言えば嘘になる。
「……そっか。鳴雷……そろそろ帰るよな」
「え、あぁ……もう時間か。でもギリギリまで離さないぞ~」
ベッドに寝転がったままセイカをぎゅうっと抱き締める。初めは満更でもなさそうに嫌がっていたが、すぐに素直に甘えるようになった。
「…………あのー、面会時間……終わりです」
「……っ!? あ、す、すいませんっ!」
扉が開く音が聞こえないほどセイカとのイチャつきに集中してしまっていた。セイカはそれほど驚いていなかったので、多分看護師が入ってきていたのに気付いていたのだろう。
「また明日な、セイカ」
「……ん、ばいばい。鳴雷」
テディベアを左手で抱き、右手の先端を揺らす。
「可愛っ……あ、す、すぐ出ます。すいません……」
病室を出て看護師と二、三話し、病院を出た。スマホを確認するとレイからメッセージが届いており、今日はスーパーに寄ることなく手ブラで帰ってきていいとのことだった。
(みなさまレイどのの家に居てくれてるんでしょうか)
レイが一人で出かけて買い物を済ませるとは思えない、少なくとも料理が出来る彼氏がまだ家に居るのだろう。俺は彼氏達の顔を思い浮かべながら帰路を急いだ。
けれど同時に俺が嫌味や皮肉なんて言わないと理解しているようで「鳴雷はそんなこと考えてないのに勝手に嫌なように受け取ってしまう」と自己嫌悪で泣き出してしまう。
面倒臭い。まともに話せない。可愛い。もっと話して対セイカの話術を磨かなければ。
「……鳴雷、学校どこ行ってるんだっけ」
「十二薔薇だよ」
「お坊ちゃま高校だな……授業どう? 質いい?」
「俺あんまり真面目に聞いてないからなぁ……でも中学の時の先生よりは分かりやすく教えてくれてると思うよ」
「…………いいなぁ」
「転校しちゃうか?」
「出来るわけねぇじゃん。学費いくらだよ、めちゃくちゃ高いだろ……」
正確な学費は分からないが、学校の敷地の広さと建物の優美さ、設備の整いっぷりから考えて他の学校とはそこそこ差があるのだろう。
「まぁ……でも、バリアフリーかなり整ってるから、車椅子でも過ごしやすいと思うんだよなぁ」
「……宝くじ当たった想定する感じなら楽しめる話かもな。俺もしもの話あんま好きじゃないけど」
「そ、そっか……えっと…………」
セイカが楽しめる話を──と考えていたのに頭の回転がときめきで止まる。セイカが俺の腕を枕にし、機嫌を伺うような目で俺を見つめてきたのだ。
「…………」
俺は黙って微笑み、セイカの頭を抱いた。ホッとしたような表情になったセイカは俺のシャツをきゅっと掴み、胸に顔を寄せた。
「鳴雷……」
「ん?」
「こんき……? のアニメは、当たり……あったか?」
「前々から楽しみにしていた二期が始まったのですがやはり一期に比べるとクオリティが低くて、制作会社が変わった時から嫌な予感はしていたのですが。しかしノーマークだったアニメの出来が良くて、百合アニメですが作画が本当に良くて……」
「…………ふふ」
アニメに興味なんてないくせに楽しげに笑って、時折「それで?」だとか「漫画はいいのあった?」だとか聞いてくるから止まらない。
「──ですからわたくしはブラシ型触手が……おや? セイカ様?」
エロ漫画の触手ものの話をし始めた頃、セイカが俺の腕の中で眠っていることに気が付いた。安らかな寝顔だ。
「……寝ている間は穏やかですな」
もう口を滑らせて泣かせてしまう心配もない、そう考えると思わずため息が漏れた。
「どんな夢見てるんですか? ふふ……」
今だけは生きるのが苦痛に感じたりはしないのだろう。起きていても心安らかな時間を提供してみせるからなと意気込んでいると、セイカが魘され始めた。
「ぅう……ん…………め……さ……」
睡眠中でさえ苦痛から逃れられないのかと絶望に近い哀れみを抱き、震える身体を抱き締めて背をさする。寝言を言っているようなので耳を近付けてみれば、彼が「ごめんなさい」と何かに謝っているのが分かった。
(起こした方がいいんでしょうか)
どんな夢を見ているのだろう、誰に謝っているのだろう。母親に叱責されているのか、イジメっ子達に理不尽な謝罪要求でもされているのか──
「なる、かみ……ごめ……な、さ……」
──俺、か。
「セイカ様……? なんで……」
なんで、なんて聞かなくても分かる。俺を虐めたことに対する謝罪だろう。セイカが楽しそうに聞いてくれるからとオタク話に一人で花を咲かせたから、中学時代を思い出したんだ。いや、違う、思い出したから楽しそうにしていたんだ、夢の中でその続きであるイジメの思い出を反芻しているんだ。そして罪悪感に襲われて……あぁ、なんて、愛おしい。
「セイカ、セイカ、起きて、セイカ」
「んっ……ん、ぅ……なる、かみ? 鳴雷……何?」
「……寝てたから」
「あ、嘘、ごめん……教えてくれてありがと。鳴雷と会えんの週一なのに寝ちゃったらもったいないよな……」
「週二だよ」
「……休み両方使ってくれんの? どっちかでいいのに…………嬉しい」
夢の内容は覚えていないようだ、うっとりとした顔をしている。生き辛いセイカへの愛おしさが溢れた微笑みを向けながら頭を撫でると、訝しげな目で俺を見つめた。
「…………なんでそんなハムスター手に乗せてる時みたいな顔してんの?」
「そ、そんな顔してるか?」
「うん……」
「セイカが可愛いなぁー幸せだなぁーって気持ちだったんだけどな」
自分が世話をしなければすぐに死んでしまう小動物に対する慈しみの気持ちと似ていないと言えば嘘になる。
「……そっか。鳴雷……そろそろ帰るよな」
「え、あぁ……もう時間か。でもギリギリまで離さないぞ~」
ベッドに寝転がったままセイカをぎゅうっと抱き締める。初めは満更でもなさそうに嫌がっていたが、すぐに素直に甘えるようになった。
「…………あのー、面会時間……終わりです」
「……っ!? あ、す、すいませんっ!」
扉が開く音が聞こえないほどセイカとのイチャつきに集中してしまっていた。セイカはそれほど驚いていなかったので、多分看護師が入ってきていたのに気付いていたのだろう。
「また明日な、セイカ」
「……ん、ばいばい。鳴雷」
テディベアを左手で抱き、右手の先端を揺らす。
「可愛っ……あ、す、すぐ出ます。すいません……」
病室を出て看護師と二、三話し、病院を出た。スマホを確認するとレイからメッセージが届いており、今日はスーパーに寄ることなく手ブラで帰ってきていいとのことだった。
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