395 / 2,048
誕生日アピールとかじゃないけど
しおりを挟む
木曜日の朝、朝食を作るために朝支度を終えてからキッチンに向かうと美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐった。
「おはよう、鳴雷一年生。早いな」
「おはようございます、先輩。朝食を作ろうと思ったんですが……」
「作っておいた。今朝はゆっくり過ごすといい」
「……ありがとうございます」
ちょうど料理を終えた年積は持参したのだろうエプロンを外し、使った調理器具を洗い始めた。その手際の良さは俺の母に匹敵する。
「先輩はネザメさんの近侍だからネザメさんの傍から離れられないんですよね? だったら、俺と付き合えばネザメさんから離れずに恋愛が出来ますよ! ネザメさんと一緒に楽しく過ごせます、いいアイディアだと思いませんか?」
「相手が貴様だという一点を除けばな」
「……急に俺を好きになれなんて言っても無理だって分かってます。でも、俺はあなたを好きなのやめませんから、気が変わったらいつでも言ってください。いつでも受け入れます」
「十一人も男が居てよくもまぁそんな小綺麗な台詞が思い付くものだ、貴様は本当に不気味だな」
はぁっとため息をついた年積は俺の傍を通り抜けてネザメを起こしに向かった。俺は机に料理を並べ、自室で眠ったのだろうレイを起こしに行った。
ネザメ達は生徒会長として早く学校に行かなければならないらしく、俺よりも早く家を出た。俺はいつも通りの時間に出て合流したリュウの頭を撫でてみた。
「今朝もイイ子で俺を待ってた賢い犬をちょっとは可愛がってやらないとな」
優しく接するなと文句を言い出す前に先手を打つ。リュウは頬を赤らめ、目を閉じてうっとりと俺の手に擦り寄った。
「……なでなで好きやわぁ。なんか上手なっとるし……気持ちええわ」
ネザメの手つきを真似てみたのだ、気に入ってもらえてよかった。カンナは人の多いところで頭に触られるのは嫌いだからパス、シュカにも試してみた。
「やめてください、なんなんですか急に」
予想通り手を払われた。二人きりならもう少し甘えてくれるだろうから、機会を作って再チャレンジだな。ハルは……今日はポニーテールだ、やめておこう。
「今日のお昼、生徒会室で食べないかって誘われてるんだ。ちょっと遠いけどソファあるし、いい環境だと思うんだけど……どうかな?」
「昨日メッセで聞いたで」
「え? 俺言ってないけど……」
ネザメか年積か? いや、彼氏達を集めたチャットグループで話したのなら俺にも通知が来るから分かるはずだ。
「ちょっそれみっつん入ってないグループのヤツ……!」
「え、ぁ、すまん」
「えっ、何、俺抜きのグループあんの!? 何その女子の陰湿なイジメみたいなヤツ! 傷付くんだけど!」
「な、ないよそんなの! ないない!」
「言ったじゃん今絶対あるじゃん! ちょっと見せろよ!」
「わ、ちょ、しゅー!」
ハルのスマホを見てやろうと掴んだ直後、強烈なボディブローを食らってその場に倒れ込んだ。
「えっ……や、やり過ぎ!」
「すいません、焦って……この強さで殴るのは迂闊な天正さんの方でしたね」
「ちょ、待ちぃな話せば分かっ……!」
カンナはすぐに俺を助け起こし、シュカは続けてリュウを殴った。一体何が起こっているんだ、俺は昼休みの話をしただけなのに。
「カンナ……カンナも俺が入ってないグループ知ってたのか?」
カンナだけはと希望を抱いていたが、彼が小さく頷いたことでその希望も絶たれた。
「……なんでそんなことするんだよ」
「ご、め…………まだ……言え、な……」
「いつか話してくれるのか?」
大きく頷き、続けて「仲間はずれにしてるとかじゃない」と弁明した。
俺抜きで話したいことがあるのは理解出来るし、それをやめさせるほど束縛しようとも思っていないが、イジメみたいな真似にただ傷付いた。いつか話してくれるという理由がもっともらしいものであることを願い、それ以上の追求をやめた。
「ごめんねみっつーん……もうちょい待ってくれたら全部ちゃんと話すから。それよりさ、みっつんの肋骨折った子って連絡先交換してないの? 話したいんだけど」
「セイカのことか? セイカはスマホ持ってないんだってさ」
「えー? そんなヤツ居るの? みっつん実は鬱陶しがられてるとかじゃなーいぃ?」
「まさか。スマホ持たせたら何百通も送ってくるタイプだよ、多分」
「ホントに持ってないのー? えー……どうしよっかなぁ……」
「別にいいじゃないですか、まだ退院出来ないんでしょう?」
「うーん……そっかぁ、それもそだね」
今は病院の公衆電話を使っているけれど、退院後はどう連絡を取り合えばいいのだろう。劣悪な家庭環境やイジメっ子が待つ学校からも救ってあげたいけれど、俺に何が出来るだろう。退院までに考えないと。
昼休み、約束通り彼氏達と五人で生徒会室に向かった。既に俺抜きのグループチャットで話していたからか、彼らが打ち解けるのは早かった。
「同じ学校には僕を含めて五人しか居ないんだね。もう五人はどこで出会ったんだい?」
「レイはバイト先で、アキはご存知の通り弟です。歌見先輩はバイト先の先輩、あと遠くに居るカンナの弟はカンナ繋がりで」
「しぐ弟俺らもまだ会ってないんだよね~、気になる~」
「なるほど。あと一人は?」
俺は中学時代のことは隠してセイカとの出会いを正直に話した。
「本当に君は美しい心の持ち主だね、自分の命を絶とうとしていた者を救うなんて……その上、愛情を注いで生きる気力を湧かせるなんて、感涙ものだね」
「大袈裟ですよ。あの、ネザメさんに一つ謝らなきゃならないことがあるんです」
「なんだい?」
俺は以前ネザメに親戚の子供として相談したのがセイカのことだったと白状した。嘘をついて申し訳ないという謝罪に加え、テディベアは本当に気に入ってくれていると、相談して本当によかったと改めて感謝も伝えた。
「そうなのかい、今正直に言ってくれたのはえらいし嬉しいけれど、ダメだよ? 結果的には上手くいったからいいものの、悪化するようなアドバイスをしてしまっていたのかもしれないんだから、正直に詳細を話してくれないと」
「はい……すいませんでした」
「テディベアなんかあげたの!? いいなぁー、俺もなんか欲しい!」
「何が欲しいんだ?」
「え? んー……みっつんが悩み抜いて俺にあげたいって思ったものなら何でもいいよ! 高いものでなくても、食べ物とかじゃない残るものなら何でも! あ、でも、他の男に相談されるのは嫌かも……みっつんが考えたのが欲しいんだから」
ハルは服やアクセサリーなど贈り物の種類に悩むことはないだろう。食欲全振りで物欲がなさそうなシュカや、M向けのプレイ道具ではない健全な贈り物が思い付かないリュウが悩みの種だ。
「誕生日にでもやるよ」
「えー、そいつ誕生日って訳でもなかったんでしょ? なんか弱ってたらなんかもらえるってー、なんか納得いかなーい!」
「誕生日……セイカの誕生日は確か五月だったからいいんだよ、遅れた誕生日ってことで」
「俺一月!」
「遅れ過ぎだろ、また来年な」
と言いつつ今度さり気ないプレゼントをしてみよう、何でもない日にこまめな贈り物をする男がモテるって何かで聞いたし。
「私は四月なんですけど……」
「ぅ……ちょっと贈っといた方がいい時期だな、欲しいものあるのか?」
「………………ごはん?」
やっぱり物欲ないんだな。シュカに奢ると下手な装飾品より高くつきそうだ、バイト頑張ろう。
「っていうかお前ら、俺六月六日生まれだから明後日が誕生日なんだからな? 俺にたかるな、俺に寄越せよ」
誕生日は以前伝え合っているから知っているはずだ、忘れていなければだけれど。俺も全員の誕生日を覚えて──っとネザメ達のはまだ聞いていなかったな、後で聞いておこう。
「わ、分かってるしー……まぁ、あんま期待しないでよ」
「冗談だよ、そんな高いもの用意したりとかしなくていい。おめでとうって言ってくれたらそれでいいよ。ネザメさん達もすいません、知り合ったばっかで誕生日とか言っちゃって、何かくれって意味じゃありませんから深読みしないでくださいね」
「僕なりのお祝いをさせてもらうよ」
ネザメはいつも通りの微笑みを見せているが、他の彼氏達はみんなドギマギしている、シュカでさえそうだ、まさか俺の誕生日を忘れていたのだろうか……今日は傷付くことが多いな。
「おはよう、鳴雷一年生。早いな」
「おはようございます、先輩。朝食を作ろうと思ったんですが……」
「作っておいた。今朝はゆっくり過ごすといい」
「……ありがとうございます」
ちょうど料理を終えた年積は持参したのだろうエプロンを外し、使った調理器具を洗い始めた。その手際の良さは俺の母に匹敵する。
「先輩はネザメさんの近侍だからネザメさんの傍から離れられないんですよね? だったら、俺と付き合えばネザメさんから離れずに恋愛が出来ますよ! ネザメさんと一緒に楽しく過ごせます、いいアイディアだと思いませんか?」
「相手が貴様だという一点を除けばな」
「……急に俺を好きになれなんて言っても無理だって分かってます。でも、俺はあなたを好きなのやめませんから、気が変わったらいつでも言ってください。いつでも受け入れます」
「十一人も男が居てよくもまぁそんな小綺麗な台詞が思い付くものだ、貴様は本当に不気味だな」
はぁっとため息をついた年積は俺の傍を通り抜けてネザメを起こしに向かった。俺は机に料理を並べ、自室で眠ったのだろうレイを起こしに行った。
ネザメ達は生徒会長として早く学校に行かなければならないらしく、俺よりも早く家を出た。俺はいつも通りの時間に出て合流したリュウの頭を撫でてみた。
「今朝もイイ子で俺を待ってた賢い犬をちょっとは可愛がってやらないとな」
優しく接するなと文句を言い出す前に先手を打つ。リュウは頬を赤らめ、目を閉じてうっとりと俺の手に擦り寄った。
「……なでなで好きやわぁ。なんか上手なっとるし……気持ちええわ」
ネザメの手つきを真似てみたのだ、気に入ってもらえてよかった。カンナは人の多いところで頭に触られるのは嫌いだからパス、シュカにも試してみた。
「やめてください、なんなんですか急に」
予想通り手を払われた。二人きりならもう少し甘えてくれるだろうから、機会を作って再チャレンジだな。ハルは……今日はポニーテールだ、やめておこう。
「今日のお昼、生徒会室で食べないかって誘われてるんだ。ちょっと遠いけどソファあるし、いい環境だと思うんだけど……どうかな?」
「昨日メッセで聞いたで」
「え? 俺言ってないけど……」
ネザメか年積か? いや、彼氏達を集めたチャットグループで話したのなら俺にも通知が来るから分かるはずだ。
「ちょっそれみっつん入ってないグループのヤツ……!」
「え、ぁ、すまん」
「えっ、何、俺抜きのグループあんの!? 何その女子の陰湿なイジメみたいなヤツ! 傷付くんだけど!」
「な、ないよそんなの! ないない!」
「言ったじゃん今絶対あるじゃん! ちょっと見せろよ!」
「わ、ちょ、しゅー!」
ハルのスマホを見てやろうと掴んだ直後、強烈なボディブローを食らってその場に倒れ込んだ。
「えっ……や、やり過ぎ!」
「すいません、焦って……この強さで殴るのは迂闊な天正さんの方でしたね」
「ちょ、待ちぃな話せば分かっ……!」
カンナはすぐに俺を助け起こし、シュカは続けてリュウを殴った。一体何が起こっているんだ、俺は昼休みの話をしただけなのに。
「カンナ……カンナも俺が入ってないグループ知ってたのか?」
カンナだけはと希望を抱いていたが、彼が小さく頷いたことでその希望も絶たれた。
「……なんでそんなことするんだよ」
「ご、め…………まだ……言え、な……」
「いつか話してくれるのか?」
大きく頷き、続けて「仲間はずれにしてるとかじゃない」と弁明した。
俺抜きで話したいことがあるのは理解出来るし、それをやめさせるほど束縛しようとも思っていないが、イジメみたいな真似にただ傷付いた。いつか話してくれるという理由がもっともらしいものであることを願い、それ以上の追求をやめた。
「ごめんねみっつーん……もうちょい待ってくれたら全部ちゃんと話すから。それよりさ、みっつんの肋骨折った子って連絡先交換してないの? 話したいんだけど」
「セイカのことか? セイカはスマホ持ってないんだってさ」
「えー? そんなヤツ居るの? みっつん実は鬱陶しがられてるとかじゃなーいぃ?」
「まさか。スマホ持たせたら何百通も送ってくるタイプだよ、多分」
「ホントに持ってないのー? えー……どうしよっかなぁ……」
「別にいいじゃないですか、まだ退院出来ないんでしょう?」
「うーん……そっかぁ、それもそだね」
今は病院の公衆電話を使っているけれど、退院後はどう連絡を取り合えばいいのだろう。劣悪な家庭環境やイジメっ子が待つ学校からも救ってあげたいけれど、俺に何が出来るだろう。退院までに考えないと。
昼休み、約束通り彼氏達と五人で生徒会室に向かった。既に俺抜きのグループチャットで話していたからか、彼らが打ち解けるのは早かった。
「同じ学校には僕を含めて五人しか居ないんだね。もう五人はどこで出会ったんだい?」
「レイはバイト先で、アキはご存知の通り弟です。歌見先輩はバイト先の先輩、あと遠くに居るカンナの弟はカンナ繋がりで」
「しぐ弟俺らもまだ会ってないんだよね~、気になる~」
「なるほど。あと一人は?」
俺は中学時代のことは隠してセイカとの出会いを正直に話した。
「本当に君は美しい心の持ち主だね、自分の命を絶とうとしていた者を救うなんて……その上、愛情を注いで生きる気力を湧かせるなんて、感涙ものだね」
「大袈裟ですよ。あの、ネザメさんに一つ謝らなきゃならないことがあるんです」
「なんだい?」
俺は以前ネザメに親戚の子供として相談したのがセイカのことだったと白状した。嘘をついて申し訳ないという謝罪に加え、テディベアは本当に気に入ってくれていると、相談して本当によかったと改めて感謝も伝えた。
「そうなのかい、今正直に言ってくれたのはえらいし嬉しいけれど、ダメだよ? 結果的には上手くいったからいいものの、悪化するようなアドバイスをしてしまっていたのかもしれないんだから、正直に詳細を話してくれないと」
「はい……すいませんでした」
「テディベアなんかあげたの!? いいなぁー、俺もなんか欲しい!」
「何が欲しいんだ?」
「え? んー……みっつんが悩み抜いて俺にあげたいって思ったものなら何でもいいよ! 高いものでなくても、食べ物とかじゃない残るものなら何でも! あ、でも、他の男に相談されるのは嫌かも……みっつんが考えたのが欲しいんだから」
ハルは服やアクセサリーなど贈り物の種類に悩むことはないだろう。食欲全振りで物欲がなさそうなシュカや、M向けのプレイ道具ではない健全な贈り物が思い付かないリュウが悩みの種だ。
「誕生日にでもやるよ」
「えー、そいつ誕生日って訳でもなかったんでしょ? なんか弱ってたらなんかもらえるってー、なんか納得いかなーい!」
「誕生日……セイカの誕生日は確か五月だったからいいんだよ、遅れた誕生日ってことで」
「俺一月!」
「遅れ過ぎだろ、また来年な」
と言いつつ今度さり気ないプレゼントをしてみよう、何でもない日にこまめな贈り物をする男がモテるって何かで聞いたし。
「私は四月なんですけど……」
「ぅ……ちょっと贈っといた方がいい時期だな、欲しいものあるのか?」
「………………ごはん?」
やっぱり物欲ないんだな。シュカに奢ると下手な装飾品より高くつきそうだ、バイト頑張ろう。
「っていうかお前ら、俺六月六日生まれだから明後日が誕生日なんだからな? 俺にたかるな、俺に寄越せよ」
誕生日は以前伝え合っているから知っているはずだ、忘れていなければだけれど。俺も全員の誕生日を覚えて──っとネザメ達のはまだ聞いていなかったな、後で聞いておこう。
「わ、分かってるしー……まぁ、あんま期待しないでよ」
「冗談だよ、そんな高いもの用意したりとかしなくていい。おめでとうって言ってくれたらそれでいいよ。ネザメさん達もすいません、知り合ったばっかで誕生日とか言っちゃって、何かくれって意味じゃありませんから深読みしないでくださいね」
「僕なりのお祝いをさせてもらうよ」
ネザメはいつも通りの微笑みを見せているが、他の彼氏達はみんなドギマギしている、シュカでさえそうだ、まさか俺の誕生日を忘れていたのだろうか……今日は傷付くことが多いな。
0
お気に入りに追加
1,240
あなたにおすすめの小説


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる