冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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おまけ

おまけ 息子に友達が増えていく

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※カンナパパ視点 図書館で集まった後、カンナの家に泊まることになったリュウとハルのお話。



今日の昼、カンナは出かけたようだ。彼氏の鳴雷 水月に誘われて、他数人の友人と図書館で勉強会を行うらしい。名門校の生徒達のことだから、俺の学生時代のように放置していた夏休みの宿題を金を払って手伝ってもらうような集まりではないのだろう。

「ん……? 電話……?」

息子の交友関係が広がっていくのを歓迎するのが親というものだろう。だがしかし俺の息子は顔に酷い火傷を負っておりそのせいで何度も虐められ、転校と引越しを繰り返してきた。
彼氏は傷跡フェチのド変態を捕まえられたから大丈夫だろうけど、それ以外の友人達は別だ。お坊ちゃま学校だからって聖人君子ばかり集まる訳じゃない、表立ってイジメを行うバカは流石に居ないだろうけど、内心どう思われているか分かったもんじゃない。

「もしもし、カンナ? どうしたんだ電話なんて珍しい、お父さんまだ仕事中だぞ」

鳴雷 水月はその辺りを分かっているんだろうな。カンナは今日の集まりで疎外感を覚えたりしていないだろうな。天正くんのようないい子でなければカンナの友人とは認めないぞ。そんな子ばかり集められたのか?

「え……? なんて? ご、ごめんカンナ、もう一回言っててくれ」

『友達……二人、お泊まりしていい? って、言ったの』

「友達お泊まりぃ!?」

俺は仕事中に私用の電話に出ていることも忘れて大声を張り上げた。

『天くんと、ハルくん』

友人とのお泊まり会なんて、普通の高校生なら不自然なことではない。俺の許可なく彼氏を連れ込んだことよりずっとマシだ。少し前なんてカンナは友人の別荘に一週間以上泊まっていた。だから別に、カンナが家に友人を招いて泊めたいと言い出したって、驚くことはないのだ。

「あ、あぁ……天くんな、天正くん……あの子ならいいか。ハルくんってのは……お父さん知らないな、別荘持ってる子かい?」

『別荘は、もっさん。ハルくん、友達。前、家で遊んだ』

「お父さんそれ聞いてないよ!」

『……そうだっけ?』

「そうだよ……まぁ、いいんだけどな。高校生にもなって父親に交友関係全部把握させろなんて無茶だもんな……二人だけか? 水月くんは?」

『みぃくん、宿題終わってないから、ダメなの』

「アイツ……」

ということは、今日泊まりに来る二人は宿題を終えている優等生という訳だ。最終日に泣きべそかきながら友人に頭を下げて丸写しさせてもらった俺のようなヤツらではないのなら、まぁ第一関門はクリアだな。

「分かったよ。二人だな、その子達何か食べ物にアレルギーとか好き嫌いはあるか?」

『天くん、ハルくん……ご飯……うん、うん…………お父さん、天くんハルくん、激辛と虫以外なら、何でも大丈夫って』

「んなもん息子の友達に出すかぁ! 嫌いな物ない子なんだな……カンナ、今日の夕飯何か希望あるか?」

『……! はんばーぐ!』

希望を聞いたらいつもこれだ。それもただのハンバーグではなく、チーズ入りを求めてくる。チーズがけではなくチーズ入りだ、ファミレスではよく注文するが家で作るのはちょっぴり面倒臭い。

「あぁ、分かったよ。チーズ入ってるヤツな」

『うん、ちーはん……』

「分かった分かった、楽しみにしとけ」

可愛い息子のためならこの程度、手間のうちに入らない。俺は仕事を終えた後スーパーに寄り、普段の倍の量の食材を買った。



帰宅して荷物を置いて、普段のラフ過ぎる部屋着は選ばず、最低限威厳が保てる服装に着替えた。

「よし……」

コンコン、と扉を叩く。すぐに返事が来て、俺はカンナの部屋の扉を開けた。

「おかえりなさい、お父さん」

白ウサギのぷぅ太を膝に乗せて愛でている、顔が隠れる長い前髪が特徴的なカツラを被った少年、俺の息子のカンナが愛らしい声で挨拶をしてくれた。

「おかえりなさい。お邪魔しとります、天正 竜潜言います。今日はお世話んなります」

独特なイントネーションでの挨拶が聞こえてきた。深々と頭を下げているのは以前一緒に牧場に遊びに行った天正くんだ。相変わらずチャラけた見た目だが、頭が良くていい子なのは知っているから驚きはしないが──

「あっ、しぐのパパなの……こんばんは! 初めまして、お邪魔してます、霞染 初春です!」

──こっちは、何だ? 金髪だとかチャラい見た目だとか、そんな問題じゃない。女の子だ。ほどけば腰まであるだろう長い髪に赤色のメッシュを入れている。タイトなデニムから足が折れそうなほど細いことが分かる。

「あ、あぁ……はじめ、まして…………カンナ、ちょっと来てくれるか」

「……? うん。天くん、ハルくん、待ってて」

ぷぅ太を下ろしたカンナが着いてくる。狭い歩幅が愛らしい。鳴雷 水月はちゃんとカンナの歩幅を分かっているだろうか? 長い足を見せびらかすように歩いてカンナを置いて行ったりしていないだろうな。

「なに? お父さん」

調理しながら話そうと、俺はカンナにキッチンまで来てもらった。

「……霞染さんも十二薔薇の子なのか?」

「ハルくん? うん」

「なるほどな……これも時代か」

十二薔薇高校は男子校だ、共学になったという話は聞いていない。だが、心は女だからと男が女子大に入った話をニュースで見たことがある。霞染さんもそうなのだろう、心は男で……いや、待てよ、めっちゃ女の子っぽくなかったか。心と体の性が不一致だった場合、あんなふうに女の子らしい格好はしないのでは? いや、好む服装が性別や年齢に合わないというのはよくあることだ、カンナだって男子高校生なのに着ぐるみのような寝間着を持っている。つまり、霞染さんは女の子らしい格好が好きな男の心を持った女の子ということだ!

「大丈夫なのかな……」

心が男だろうと体が女なら男の群れの中に居るのは危険に思える。十二薔薇というお坊ちゃま学校の生徒は皆紳士だとでも言うのだろうか。

「……? お父さん? ハルくん、どうしたの?」

「ん、いや……大丈夫。何でもないよ。もう部屋に戻っていい、料理が出来たら呼ぶから遊んでいなさい」

「うん」

カンナは不思議そうな顔をしながらも何も尋ねず自室へと戻って行った。俺は彼らがどんな会話をするのか妄想を膨らませつつ、調理を進めた。

「ふぅ……出来た」

チーズインハンバーグ一つと、チーズがけハンバーグ三つ。なかなか上手く出来たぞ。

「おーい、夕飯出来たぞ~」

カンナの部屋の扉を叩く。元気で可愛らしい返事が三つ返ってきた。子供が増えたような気分だ。

「いただきます」

「ありがとうございますー、いただきます」

「美味しそ~! ありがとうございます~、いただきまーす!」

やはり霞染さんに目が向いてしまう。女の子にしては声が低い気もするけれど、あえてそういう声を出しているのだろうか。

「しぐのんチーズなし?」

「ぼくの、チーズ中」

「えーすごーい! こういうのって手作り出来るんだ~」

天正くんと同じく、霞染さんも軽薄そうな見た目に反して箸の扱いなどに上品さが見られる。十二薔薇に入るだけはあるということだろう。

「お父さん料理上手いんですね~」

「まぁ、男手一つでカンナを育ててきたからな。自然と上達したんだよ」

「しぐしぐお父さんに習ったら? みっつんに手料理~とか、ねぇりゅー」

「いやぁー……水月料理上手いしなぁ」

俺が長らく危ないからと包丁や火を遠ざけてきたせいで、カンナは台所に立つのに慣れていない。生来器用な子だから下手だったりはしないようだけれど。

「……水月くん料理出来るのか」

「ええ、こないだの別荘旅行でねぇ、料理担当は年積はんと水月やったんです」

「しぐしぐも野菜のカットとかしたよね~」

「ぅん、ちょっと……だけ」

「水月料理上手ぁてねぇ、なんや小洒落たもんも作りよるんですわ」

カタカナの長い名前の料理を作ってドヤ顔しているヤツの顔は何故か想像しやすい。

「しぐに食わせてはハァハァしとりましたし」

「は? 変なもん入れてないだろうな……」

「りゅー! 言い方! ごめんなさいお父さん、りゅーが変な言い方して~……食べさせてたの野菜スティックとかですよぉ。しぐしぐ受け取らずにウサギみたいに手から食べて可愛いから~、みっつん、ぁ、水月くんが悶えてたってだけで~」

「ハルくんも、食べさせてくれた」

「そだったね~、しぐしぐ可愛いんだも~ん」

霞染さんはカンナの女友達のようなポジションなのかな。ウチの息子は男だけれど、昔から男が好きで乙女っぽいところがあったからなぁ。

「やっぱり男って~、小動物系好きなんですよね~」

「確かにカンナは小動物感あるけど…………なぁ、水月くんなんだが……野菜スティック食わせて傍から見て分かるほど興奮してるのって、君達友人からするとどうなんだ?」

「え、うーん……またやっとるなぁって感じですわ」

「俺もそんな感じです~」

一学期で慣れて呆れられるほどウチの息子に興奮してきたのかあの変態、しかも人前で。いや人前でなくてもダメだ、人前でない方がダメだ! 何をするか分からん。

「そうなのか……」

ヤツが立派な大人になれたなら、その上で他の者に靡かずカンナだけを見つめて、一生守るとでも約束してくれたなら……その時は認めてやってもいいけれど、性欲剥き出しのクソガキになど俺のカンナをくれてやるものか。

「ごちそうさまでした! 美味しかったです~」

「ごちそうさまでしたー。美味かったです~」

元気に料理の感想を言ってくれた二人は皿洗いを手伝うと言ってくれた。もちろん客人にそんなことはさせられないので丁重にお断りしたけれど、俺の中で彼らの評価は鰻登りだ。

「ふぅ……」

皿洗いを終え、一息つく。普段なら話し相手になってくれるカンナは友人達と自室に戻ってしまっていて、少し寂しい。



風呂の準備が出来た。こんなおっさんの後は嫌だろうからカンナ達に先に入ってもらおうと、彼の部屋の扉を叩いた。

「なぁに、お父さん」

扉を開けて首を傾げるカンナ、最高に可愛い。チラリと奥に居る天正くんと霞染さんに視線を移すと、彼らは笑顔で会釈をしてくれた。なかなか可愛いな、カンナには遠く及ばないけれど。

「お風呂沸いたから入ってきなさい」

「分かった。天くん、ハルくん、お風呂出来たって」

「えーありがとうございます~。一緒に入ろ~!」

「やだ」

「えっあっそっか、ごめーん忘れてたぁ……しぐ別荘でもずっと一人風呂だったもんね~……別にいいのにぃ」

「……みぃくん専用なの」

アイツはカンナと一緒に風呂に入らなかったのか? 性欲のままに行動はしていないようだな、少し評価を上げてやろう。しかしカンナが照れた様子で「みぃくん専用」と自身の火傷跡を指すのは複雑だ! 傷跡をポジティブに受け止められるようになったのはとても喜ばしいことだけれど! だけれども! ムカつくあの変態!

「じゃありゅー、一緒に入ろ~」

「ええで」

「えっ? ちょ、ちょっと待った……二人で入るのか?」

「……? どうしたのお父さん。うち、そんなに狭くない」

「い、いや……その、二人は付き合ってるのか?」

二人は「二人?」と不思議そうな顔をする。君達のことだぞと指し示してやると、彼らは声を揃えて──

「ないないないないないない」
「ないないないないないない」

──と否定した。

「絶対嫌だしこんな数学バカの雑人間! 絶対ないですから!」
「数学がバカなん自分やろがぃ自分棚に上げくさってホンマ!」

息ピッタリだな。

「まぁ付き合ってても止めるけどな……付き合ってないなら尚更だ。霞染さん……君の心がどうあれ、君は女の子なんだから……」

「……へっ?」

「何言ってるの、お父さん」

「あの……俺、男ですけど」

「…………ぷっ、ふっ、ふひっ……ひゃっひゃっひゃっひゃっ! あーっはっはっはっはっ! 女や思われとる! 女や思われとるがな! あっひゃっひゃっひゃっ! あはっ、あは、ひひっ、げほっ、ぉえっ、ひっ、ひーっ、苦しっ」

天正くんが床を叩いて笑っている。

「オエッてなるほど笑うことないじゃんバカぁ!」

「お父さん……ハルくんのこと、ずっと女の子だと思ってたの? 同じ高校って、言ったのに」

「あ、あぁ、いや、ほら……女の子だけど、心が男だから……男子校に入った、的な……アレかと」

「十二薔薇、そんな、うずらみたいなこと、してない」

呆れた様子のカンナの背後では、未だに笑いが止まらないらしく苦しそうな天正くんと、そんな彼に怒ってバシバシと肩や背中を叩いている霞染さん……いや、霞染くんの姿が見える。

「酷い勘違いしてたみたいだ……ところでカンナ、うずらみたいって何だ?」

「うずら、ヒヨコの雌雄の区別、難しいから……たまに、メスだけのところに、オス混じるの。だからうずらの卵は、鶏卵と違って、温めるとたまに孵るの」

「市販のパックのヤツでもか? へぇー……メスだけの小屋にオスが、それはそれは……天国だな。あのなカンナ、説明が必要なことを使ってみたいとか言うのは会話面倒臭くなるから控えような」

「…………みぃくんなら、詳しい、すごいって、褒めてくれるのに」

カンナはふいっと俺から顔を逸らし、俺に背を向けて座ってぷぅ太を抱き上げた。コミュニケーションのテンポが悪くなって友達との溝が深まらないようにと考えて言っただけで、俺が面倒臭く思った訳じゃないのに、俺だって感心したのに……おのれ鳴雷 水月!

「えっとぉ~……なんか、ごめんなさい勘違いさせちゃって~」

「あ、いやいや、こっちこそごめん、勝手に思い込んで……」

「俺ぇ、身も心も男なんで~……髪とか服はぁ、俺姉ちゃんいっぱい居て~、ちっちゃい頃から着せ替え人形にされてきたから~……これが俺の普通ってだけで~…………ごめんなさぁい」

「謝らないでくれ、悪いのは俺だよ。ごめんな。じゃあ……えっと、お風呂、湧いてるから」

「あ、はーい。ありがとうございます~」

気まずい。霞染くんの顔はまだ少し暗い。落ち込ませてしまったのだろうか。

「ぼく、いちばんぶろ」

ぷぅ太を愛でていたカンナがそう宣言して、俺の心臓はドキリと跳ねた。昔心身の療養のためにカンナを温泉に連れて行って、他の客に「汚い」「気持ち悪い」とヒソヒソと話されたことを思い出してしまった。

「カ、カンナ……」

ただの傷跡なのに、まるで伝染病患者のように煙たがられたあの日の光景は、二人への信頼を飛び越えて俺にカンナを注意させようとした。

「いいけど~、一番風呂ってお湯ピリピリしな~い? 大丈夫~?」

「え、俺好きやでアレ」

「アンタMだから……しぐは違うじゃん? いいの?」

「ぼく、綺麗好きだから」

「部屋からしてそうだよね~……って俺汚くしないよ! りゅーはするけど」

「せぇへんわ!」

「ま、いいや。行ってらっしゃ~い」

目の前で繰り広げられた会話は、とても優しいものだった。彼らは無礼なことを口に出さない常識を持っているだとかそんなんじゃない、カンナが汚いなど心の片隅に抱いてすらいない、本当にいい子達だ。

「……お父さん? どうしたの?」

「カンナ……よかったな、本当によかった……えらいな、カンナ…………お父さん部屋に居るから、何かあったら呼びなさい。じゃあな」

目元を押さえて部屋に駆け込む。息子にはあまり泣き顔を見せたくない。

「カンナ……」

俺はカンナが傷付けられるのが嫌だった。だから整形するまで他人と関わらせたくなかった。けれどカンナは醜い火傷跡を抱えたまま恋人を作り、家に泊まらせるような友人まで作った。

「……本当に、よかった」

辛い目に遭ったのはカンナなのに、俺が人間不信に陥っていた。もしカンナが俺の言う通りに閉じこもった生活をしていたら、水月くんとは付き合えず、生き別れの弟とまた会うこともなかっただろう。

「…………」

カミア、かつてのカンナ、トップアイドルになった俺の息子。画面越しではないあの子に再び笑いかけてもらえたのは、鳴雷 水月のおかげだ。カンナに笑顔が増えたのも。

「…………………………ちくしょう」

支え導くのは親の役目のはずだったのに、俺は何もしてこなかった。そんな自分の無能さを思い知らされるからと息子を盗られたような気になって、苛立ちを募らせて……


あぁ、鳴雷 水月よ、君を心底から尊敬する。けれど俺のような人間には君は眩し過ぎるから、どうかもう顔は見せないでくれ。どんなに反省したって俺は君に苛立って、苛立ったことに落ち込んで、今のように一人悔しさに泣くことしか出来ないのだから。
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