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本を読んだ代金

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自室に戻ると歌見はレイからの贈り物であるテディベアを眺めていた。

「水月、お前なかなか可愛い趣味があるんだな」

「あぁ……それレイからのプレゼントなんですよ。カメラと盗聴器仕掛けられてます」

「は……? お、お前……それ知っててこんなとこに置いてるのか?」

「画角広い方がいいかと思って」

歌見は信じられないといった顔で俺を見つめた後、そっとテディベアに後ろを向かせた。

「別に何もする気はないが……ちょっとな」

「……本、今出しますね」

そうだ、盗聴器を仕掛けられているから本来の話し方は出来ないんだったな。気を張らなければ。

「楽しみだな……ん? 悪い、電話だ」

庭に埋めていたが昨日掘り返しておいた同人誌を準備していると歌見のスマホが鳴った。妹さんだろうか? スマホを見た歌見は顔を青ざめさせている。

「先輩?」

歌見は無言で俺の隣にやってくるとスピーカーをオンにし、電話に出た。

『もしもし、歌見せんぱい? クマちゃんあんまり動かさないで欲しいっす。ちゃんとせんぱいが見えるようにしてくださいっす、カメラは目に仕込んであるんすよ。別に俺せんぱいと歌見せんぱいがヤってるとこ見ても平気っすから』

「なっ……! ヤ、ヤらない! そもそも何なんだお前、カメラと盗聴器って……犯罪だぞ!」

『せんぱいに許可もらってんすからいいっしょ、歌見せんぱいは硬いっすねー』

「お前なんで断らなかったんだ」

「いやぁ……別に困ることないし、断るのも……」

レイに電話と盗聴器で二重に聞かれている今、断ったらレイは何をするか分からないから怖くて……だなんて話せない。

『とにかく、クマちゃんの位置、頼むっすよ』

ぶつ、と通話が切られた。あれでも売れっ子イラストレーターだ、そんなに暇でもないのだろう。歌見はしぶしぶテディベアを元の向きに戻した。

「……本、読ませてもらうぞ」

「あ、はい。端っこ曲げたりしないでくださいね、開きすぎたりもやめてください」

「本の扱いくらい分かってるさ。特にこれはもう手に入らないかもしれない本だしな」

「こないだフリマアプリで見たら一冊八千円ちょっとでしたよ。ムカつきますよね」

「マジか……手袋ないか?」

鉛筆で絵を描く時だとかに使う薄い手袋がある。それを先輩に渡し、はめてもらう。

「ぴったりだな」

「先輩と手の大きさ一緒なんですね」

「……お前の方が指が細いように思うが」

歌見は俺と手のひらを合わせ、指を絡め、呟く。そういえばこの手袋は痩せる前に買ったものだった、当時は指が太かったのだろう。

「ま、手袋なんてそんなもんですよ。俺夕飯食べてくるんで、ゆっくり読んでてください」

「あぁ、悪いな」

暫しの別れにキスをして、俺だけ部屋を出た。今日も母の料理は美味しい。本当に何でも出来る人だ。

(バリキャリだわビッチだわバイだわ……)

向かいに座る母をじっと見つめていると怪しまれた。

「なぁにその熱烈な視線。女に興味出てきた?」

「なわけありませんぞ。出たとしてもママ上には出ませんし。色々と万能な人だなーって思ってるだけでそ。本当に、マジで、パイセン奪らないでくださいましね」

「分かったってば」

あんまりダメだと言うと逆効果だな。人はダメと言われたことほどやりたくなるものだ。カリギュラ効果ってヤツだな。

「……ごちそうさまですぞ。では、パイセンとしっぽりヤるでそ~」

「防音工事しようかしら……」

夕飯を終えて歌見が待つ自室へ戻ると彼は既に同人誌を読み終えており、ぼーっと余韻に浸っていた。

「…………あぁ水月、おかえり。とてもよかった……凄まじい画力は昔からなんだな」

「商業行って特に鍛えられたのはコマ割りっぽいですからね」

「あぁ、確かに今連載してるヤツの方が分かりやすいコマ割りだな。あとキャラデザが大衆向けになった気がする」

返却された同人誌を片付け、クッションに座っている先輩の隣に膝立ちになる。

「せ、ん、ぱ、い」

吐息を多く含むよう意識しながら耳元で囁く。

「……っ、そろそろ遅いし、これ以上居るのも悪い……だから、その、帰る」

「先輩、まだ本を読ませてあげたお礼をもらってませんよ」

「今度ジュースでも奢るから……!」

「一冊八千円ですよ? その価値分のジュースをくれるんですか?」

「買った時は八百円だったんだろ! この潜在的転売ヤーが!」

「はぁ~!? ひでぇ侮辱! 遺憾の意~! 賠償金追加します!」

往生際の悪い先輩の右太腿に跨り、立てないようにした上で彼の胸に手を這わせた。タンクトップ越しに全体を軽く撫でただけで歌見は大人しくなり、無言で俺を見つめた。

「先輩だって期待して来てくれたんですよね」

「…………俺は」

「嫌ならそう言ってください、やめますから」

歌見は無言で目を伏せた。タンクトップでは隠せていない鎖骨や胸筋の谷間をなぞり、彼の呼吸が荒くなっていく様子を堪能する。

「襟ぐりの広い服から見える胸の谷間が最高なんですよ。こんな誘うような服着て……先輩のえっち」

「……っ」

ぎゅっと握った拳で口を押さえた歌見は微かに震えている。耳に息を吹きかけてやるとビクンと大きな身体が跳ねた。

「敏感ですね」

「そんな、こと……ない」

「先輩、どこ触って欲しいか言ってください」

黒いタンクトップの上から揃えた人差し指と中指で乳輪の周りをゆっくりくるくると撫でてみる。陥没乳首はこんなことでは勃たないが、陰茎の方は勃ってきた。ズボンの大きな膨らみがたまらなくいやらしい。

「……先輩、勃ってますね。手で扱いてあげましょうか、口がいいですか?」

「…………ちく、び……乳首、してくれ。指で、前みたいに……下はいいからっ……乳首を、頼む」

「はい、先輩」

俺が何も言わなくても歌見はタンクトップを自らめくり上げ、褐色の肌とのギャップが大きいペールオレンジの肌を晒した。
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