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両手に収まらきらない花

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外に出るとレイは黒いパーカーのフードを目深に被った。これでは見下ろしても顔が見えない。

「なぁレイ、毎朝俺の家の前で待つつもりなのか?」

「はいっす。ご迷惑っすかね?」

「……本業とかあるだろうし無理はしないで欲しいけど、来たいならいつでも来てくれていい。俺は問題ないよ、レイのことが心配なだけだ」

「俺こう見えても体調管理とかは万全なんすよ!」

塀にもたれてウトウトしていた彼のそんなセリフ、信じられるわけがない。

「そうだ、レイ。今日バイトが終わったらプレゼントあげるから、今日も家まで着いてきてくれるか?」

「プレゼント……!? 懐中電灯もらったばかりっすよ? ダメっすよ、無理しないで欲しいっす。他の彼氏にもこんなに尽くしてるんすか? お金いくらあっても足りないっすよ」

「懐中電灯はずっと前に衝動買いしちゃったヤツだし、今日あげる予定のものも大したことないから、そんなかしこまらないでくれ」

信号待ちでじっと俺を見上げたレイの瞳が潤む。

「嬉しいっす……! 傍に居られるだけでいいのにこんなによくしてもらえて、俺もう、幸せ過ぎて怖いっす」

元カレにセフレ扱いを受けていたらしいし、男運がなかったんだろうな。可哀想だが俺に会うための前フリだったのだ。

「ほら、信号赤になったぞ」

「はーい、っす」

手を挙げて子供のようにはしゃぐレイの腰をしっかりと抱く。離したら走り出してしまいそうな危うい幼さが彼にはある。

「あ、水月ぃー! おはよーさん」

駅でリュウと合流する。毎朝のことだが、満面の笑みで駆け寄ってくるリュウは本当に可愛くて癒される。しかし、俺は心を鬼にして舌打ちをし、目を逸らす。

「あぁ……! 最高や水月ぃ、たまらん」

リュウは嬉しそうに擦り寄ってきた。二日ぶりだしスキンシップを行いたいのだが、リュウのM心を満足させるとなると──よし、思い付いた。

「ひんっ……!? んっ、んんっ……!」

尻をパンッ! と叩き、今日も後孔に入っているバイブの持ち手を手のひらで押し回す。

「……しっかり咥えてるな。えらいぞマゾ豚。そろそろもう一段階太いの入れるか?」

「んっ、ぁ、はぁあっ……! 欲し、いっ……ですっ、水月様ぁ……」

「リモコンは?」

真っ赤な顔をしたリュウが差し出したリモコンを胸ポケットに入れる。

「安心しろよ、どこでもイき散らかすどこぞのマゾ豚と違って俺には常識がある。こんな人が多いところで動かしたりしないよ」

「は、ぁっ……そらっ、安心やわ」

もうバイブには触れず、ただ尻肉を揉みしだいている。リュウの尻は男にしては肉付きがよく、ぷりっとしていて揉み心地がとてもいい。

「……みゃっ!? ぁ、わわっ、せんぱいっ?」

「ん? どうした、レイ」

リュウの尻を揉みしだく右手は幸せだが、左手が退屈だったのでレイの尻も揉んでみた。弾力はリュウに軍配が上がるが、ボリュームと柔らかさならレイだ。なんというか、女寄りの尻だな。女の尻揉んだことないけど。

「どうしたって、その、お尻」

「触っちゃダメだったか?」

「もちろんいいっすよ! せんぱいは俺の彼氏っすから。いつでもどこでも俺の体を自由にしてくださって構いませんっす!」

「そうか、それは嬉しいな。お前いい尻してるぞ、抱き心地よさそうだ」

恋人相手でも問題のある酷いセクハラ発言だが、レイは照れつつも喜んでくれる。超絶美形の権力ってすごいな、ちょっと怖くなってきた。



電車内は流石に痴漢扱いされそうなので二人から手は離し、カンナと待ち合わせしている駅で一旦降りた。

「カンナ! おはよう」

「……! み、く…………おは、よ」

手のひらにキスをする朝の挨拶を済ませたらカンナの両頬を包むように撫でる。

「土曜日は楽しかったよ」

「ぁ……ぼ、くも」

「今度はぜひ、俺の家に遊びに来てくれ。可愛いカンナを母さんにも紹介してやりたい。こんな可愛い彼氏の情報を独り占めなんてバチが当たるからな」

「ぅ、ん……行き、た…………誘、て……くれ…………ぁり、が……と」

次の電車が来るまでカンナとたっぷりイチャつき、また電車に乗る。電車内ではカンナはリュウと話したそうにしていたので、そうさせてやった。

「……は、よ……てん、く……」

「おはようさん、しぐ。土曜は家で水月とお楽しみやってんてなぁ、どこまで行ったん?」

「おし、り……ちょ、と……」

いいことだが、俺の彼氏達オープン過ぎやしないか?

「せんぱいって彼氏によって対応変えてますよね。リュウせんぱいにはキツく当たったり、カンナせんぱいにはゲロ甘だったり」

「あぁ、この二人は極端だけど、ある程度はな。みんなされたいことも、されたくないことも違うから」

「……俺にも何か注意してることとかあるんすか?」

「レイはなんか不安になりやすいみたいだから、勘違いしないよう言葉足らずにならないよう気を付けてるよ。それでも不安にさせちゃう時あるけどな。ごめんな」

「い、いえそんな、俺が悪い方悪い方に考えちゃうのがアレなんすから。むしろご迷惑かけて申し訳ないっす」

「そういうところも可愛いよ。迷惑なんて言わないでくれ、お前が繊細だから丁寧に扱ってやりたいだけだよ」

頬を撫でながら小さな勘違いを解消してやると、レイはまた涙目になって微笑んだ。

「面倒って言われることは多いっすけど、繊細なんて言ってくれたのせんぱいが初めてっす。本当に言葉に気を付けてくれてるんすね。大事にされてる気がして嬉しいっす」

「されてる気、じゃなくて、されてるって分かりやすくて……だろ? 俺はお前を大事にしてるんだから」

「せんぱい……もう、心臓爆発しちゃいますっすぅ……優しい言葉は身体に悪いっすね」

ぽすんと甘えるように俺の胸に顔を押し付けてきたレイの肩を抱く。すると少しむくれたカンナがもう片方の腕の中に潜り込んでくる。まさに両手に花だ。

「大変やのぉ水月」

ケラケラと笑うリュウも抱き締めてやりたい。俺の大切な花は両手では抱えきれない。もしも願いが一つだけ叶うとしたら、俺は腕をもう二対か三対ほど頼むだろう。
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