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一旦お別れ
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学校の最寄り駅の改札を抜けると、駅前のロータリーを超えた先に見覚えのある後ろ姿。
「あれシュカせんぱいじゃないっすか?」
「だな」
ゆっくり近寄って驚かせてやろうか、なんて企んでいるとリュウが小走りでシュカの元へ。背後にぴったり立ったかと思えば膝カックンを仕掛けた。
「……っ!?」
油断していただろうシュカは見事に引っかかり、その場に膝をついて弄っていたスマホを落とした。
「はははっ! えっらい見事に引っかかってくれたもんやのぉ、ありがたいわ!」
ゲラゲラと笑っているリュウを注意するため、両腕に美少年を抱きつかせたまま現場へ急ぐ。しかし声をかける寸前にシュカが立ち上がり、リュウの両肩をしっかり掴んでの容赦ない膝蹴りを放った。
「リュウっ! だ、大丈夫か……? レイ、カンナ、ちょっと離してくれ」
両腕の自由を取り戻した俺はじろっと俺を睨むシュカをまず見つめた。
「えっと……シュカ、スマホ大丈夫か? 画面割れてないか? 膝は?」
「大丈夫ですよ。でも、あの程度で倒れるなんて……思っているより、昨日のあなたとの行為は足腰にきてるみたいです」
「それは……申し訳ないというか、光栄だな」
思い切り腹を蹴られたリュウはまだ蹲っているが、心配した方がいいのだろうか? 下手に優しさを見せると文句を言われるからな……ドMは面倒臭い。カンナが屈んで様子を見ているし──本当に見ているだけだが──まぁ、軽く声をかけておくか。
「リュウ」
リュウの望むSっ気の強い言葉は何だろう? 俺の感覚だと酷過ぎるくらいがちょうどいいんだよな。
「……おい豚、いつまで怠けてんだ、置いて行くぞ」
「ちょ、せんぱい。酷過ぎないっすか?」
ドM用対応はこれだから嫌なんだ。罪悪感がものすごい上に、他の彼氏達に俺が嫌なヤツに見られてしまう。
「ま、待ってぇな、水月ぃ……」
ふらふらと立ち上がったリュウは足を震わせて俺の腕にしがみつく。膝蹴り一発でそんなにダメージがあるものなのかと少し怯えてシュカに視線をやると、彼は首を傾げて微笑んだ。
「ディルド入れとんのにあのアホが腹蹴りよったから、ちょっと、もう……俺、あかん」
「なんだよマゾ豚、蹴られてイったか?」
「イってはないわ。寸前……やな」
腕にしがみついているリュウを振り払い、期待に満ちた視線を送るリュウの腹を掴む。細身の彼の腹を両手で鷲掴みにするくらい、俺には楽勝だ。
「お前は俺の豚だろ? 何を俺の彼氏に蹴られてよくなってるんだよ、浮気者。忠誠心が足りないな、犬には程遠い……だから豚だって言うんだよマゾ豚、痛くしてくれりゃ誰でもいいんだろ? この節操なしのド淫乱」
ぐっぐっと腹を押しながら耳元で囁く。思い付く限り罵って、一旦顔を離してリュウの様子を伺う。リュウは濡れた瞳で俺を見上げ、頬を紅潮させて熱い吐息を漏らしていた。
「発情してんじゃねぇぞ。お前、シュカに蹴られたくてあんなことやったんだろ? 今度俺以外のを欲しがったらただじゃおかないぞ。痛いお仕置きじゃない、お前が本気で嫌がることしてやるからな」
「……っ、水月が腹パンしてくれへんからあかんねんやんかぁ!」
浮気されたくないなら俺に腹を殴ったり蹴ったりしろと? ふざけるな、そんなことしてたまるか。
「このごっつい筋肉で殴られたいねん……サンドバッグにしてぇな、水月ぃ」
どうする? 断るか? 暴力を振るうのは論外だ。そんなに殴って欲しいなら他の男のところへ行けと突き放してしまうか? だが、彼は俺が他の男に彼を貸し出すのは好んでも、俺が彼を捨ててしまうのは好まない。ならば一旦誤魔化そう。
「また後でな」
「ほんまっ? ホンマに殴ってくれるん?」
「お前が期待してるようなものとは違うと思うけど、それに近いことはしてやるよ」
「絶対やで!」
何とかごまかせたかな? 時間を食ってしまった。さっさと学校へ行こう。
「水月、早く行きましょう。遅刻してしまいますよ、誰かさんのせいで」
「ほんま誰のせいやろなぁ」
「喧嘩するなよ」
カンナとレイに両手を塞がれているから言葉でしか彼らを止められない。ヒヤヒヤしたが、校門に着くまで彼らは嫌味の言い合い程度で喧嘩にまでは至らなかった。
「ではせんぱい、いってらっしゃいっす!」
「あぁ、行ってきます」
「今日のプレゼント期待してるっす」
「そんないいものじゃないぞ? 肩透かしくらっても知らないぞ」
「せんぱいから物もらえるなら何だって嬉しいっす!」
ゴミでも喜びそうだからな……俺の家のゴミ、漁ってないよな? 漁ってそうなんだよな。
手を振って一旦別れ、自由になった片腕を軽く回す。
「み、くん……ぷれ、ぜ……と……って?」
「あぁ、今日の夜にレイに渡そうと思ってるんだ。カンナにも今度あげるよ」
「……! そ、な……つもり、じゃ」
「いやいやカンナが催促してるとは思ってないよ、受け取って欲しい物があるだけだ」
少し遠慮がちにだが嬉しそうに微笑むカンナは愛らしく、人通りの多い校門前だというのにキスしてしまいそうになった。
「あれシュカせんぱいじゃないっすか?」
「だな」
ゆっくり近寄って驚かせてやろうか、なんて企んでいるとリュウが小走りでシュカの元へ。背後にぴったり立ったかと思えば膝カックンを仕掛けた。
「……っ!?」
油断していただろうシュカは見事に引っかかり、その場に膝をついて弄っていたスマホを落とした。
「はははっ! えっらい見事に引っかかってくれたもんやのぉ、ありがたいわ!」
ゲラゲラと笑っているリュウを注意するため、両腕に美少年を抱きつかせたまま現場へ急ぐ。しかし声をかける寸前にシュカが立ち上がり、リュウの両肩をしっかり掴んでの容赦ない膝蹴りを放った。
「リュウっ! だ、大丈夫か……? レイ、カンナ、ちょっと離してくれ」
両腕の自由を取り戻した俺はじろっと俺を睨むシュカをまず見つめた。
「えっと……シュカ、スマホ大丈夫か? 画面割れてないか? 膝は?」
「大丈夫ですよ。でも、あの程度で倒れるなんて……思っているより、昨日のあなたとの行為は足腰にきてるみたいです」
「それは……申し訳ないというか、光栄だな」
思い切り腹を蹴られたリュウはまだ蹲っているが、心配した方がいいのだろうか? 下手に優しさを見せると文句を言われるからな……ドMは面倒臭い。カンナが屈んで様子を見ているし──本当に見ているだけだが──まぁ、軽く声をかけておくか。
「リュウ」
リュウの望むSっ気の強い言葉は何だろう? 俺の感覚だと酷過ぎるくらいがちょうどいいんだよな。
「……おい豚、いつまで怠けてんだ、置いて行くぞ」
「ちょ、せんぱい。酷過ぎないっすか?」
ドM用対応はこれだから嫌なんだ。罪悪感がものすごい上に、他の彼氏達に俺が嫌なヤツに見られてしまう。
「ま、待ってぇな、水月ぃ……」
ふらふらと立ち上がったリュウは足を震わせて俺の腕にしがみつく。膝蹴り一発でそんなにダメージがあるものなのかと少し怯えてシュカに視線をやると、彼は首を傾げて微笑んだ。
「ディルド入れとんのにあのアホが腹蹴りよったから、ちょっと、もう……俺、あかん」
「なんだよマゾ豚、蹴られてイったか?」
「イってはないわ。寸前……やな」
腕にしがみついているリュウを振り払い、期待に満ちた視線を送るリュウの腹を掴む。細身の彼の腹を両手で鷲掴みにするくらい、俺には楽勝だ。
「お前は俺の豚だろ? 何を俺の彼氏に蹴られてよくなってるんだよ、浮気者。忠誠心が足りないな、犬には程遠い……だから豚だって言うんだよマゾ豚、痛くしてくれりゃ誰でもいいんだろ? この節操なしのド淫乱」
ぐっぐっと腹を押しながら耳元で囁く。思い付く限り罵って、一旦顔を離してリュウの様子を伺う。リュウは濡れた瞳で俺を見上げ、頬を紅潮させて熱い吐息を漏らしていた。
「発情してんじゃねぇぞ。お前、シュカに蹴られたくてあんなことやったんだろ? 今度俺以外のを欲しがったらただじゃおかないぞ。痛いお仕置きじゃない、お前が本気で嫌がることしてやるからな」
「……っ、水月が腹パンしてくれへんからあかんねんやんかぁ!」
浮気されたくないなら俺に腹を殴ったり蹴ったりしろと? ふざけるな、そんなことしてたまるか。
「このごっつい筋肉で殴られたいねん……サンドバッグにしてぇな、水月ぃ」
どうする? 断るか? 暴力を振るうのは論外だ。そんなに殴って欲しいなら他の男のところへ行けと突き放してしまうか? だが、彼は俺が他の男に彼を貸し出すのは好んでも、俺が彼を捨ててしまうのは好まない。ならば一旦誤魔化そう。
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「ほんまっ? ホンマに殴ってくれるん?」
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何とかごまかせたかな? 時間を食ってしまった。さっさと学校へ行こう。
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「ほんま誰のせいやろなぁ」
「喧嘩するなよ」
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ゴミでも喜びそうだからな……俺の家のゴミ、漁ってないよな? 漁ってそうなんだよな。
手を振って一旦別れ、自由になった片腕を軽く回す。
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「あぁ、今日の夜にレイに渡そうと思ってるんだ。カンナにも今度あげるよ」
「……! そ、な……つもり、じゃ」
「いやいやカンナが催促してるとは思ってないよ、受け取って欲しい物があるだけだ」
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