冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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優等生の朝帰り

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着信音で目を覚ます。ポケットの中で震えるスマホを取り出し、耳に当てる。

「もしもし……」

立ち上がってリビングの灯りを点け、まだ眠っているシュカが顔を顰めるのを楽しむ。

「あぁママ上、どうされました?」

シュカに母との通話を聞かれるのはまずい。俺は自室に戻り、扉を背にして話を続けた。

『デートいい感じでね、ホテル連れ込めそうなのよ。だから今日中には帰れないかも。夕飯作ってあげられないから、自分で作って食べて。材料は買ってあるから』

「分かりましたぞ」

『一人前だけ食べるのよ。リバウンドしたら引っ叩くから』

「ひぇ、分かっておりますぞ。わたくしもこの体型を維持したいですし」

『よろしい。じゃね』

スマホをポケットに戻し、精液臭い部屋を見回す。白濁液が染み込んだシーツを剥がし、予備のシーツを敷く。汚れたシーツを浴室に放り込んだ俺はため息をついた。

「太ったら……フラれるのかな」

彼氏達がコロッと落ちてくれたのは俺が超絶美形だからだ。太っても顔のパーツそのものは変わらないが、頬に肉がつけば目は細くなるし鼻も相対的に低くなる。

「…………昔の写真、処分しときませんとな」

オタク趣味が分かるものも処分してしまおうか? いや、それは無理だ。隠し場所を考え直すくらいにしておこう、今のままではハルあたりがそのうち見つけそうな気がする。



リビングに戻るとシュカがソファに座ってボーっとしていた。まだメガネをかけていない。

(おっほ、シュカどののキャストオフ。メガネっ子はメガネあってこそですが、だからこそ外しているレアシーンが際立つんですよなぁ)

行儀のいい髪型をしているとはいえ、左目の切り傷は厳つく、メガネをしていないとさほど優等生らしさはない。

「シュカ、おはよう」

ソファの隣に立って話しかけるとシュカは無言で俺を見上げる。いや、眉間に皺を寄せて睨み上げている。

「…………水月? 私のメガネ知りませんか?」

「机の上に置いてあるけど」

「机の上……」

シュカはソファから降りて床に膝をつき、机にぺたぺたと手を這わせた。まさかメガネが見えていないのか? 確かにソファ前の机は黒でメガネフレームと同じ色だが、そんなに視力が低かったのか。

「シュカ、メガネここだぞ」

「……ありがとうございます」

メガネをかけ直したシュカはほんのりと頬を赤らめて俯いた。恥ずかしかったのか? なら話題を変えてやらないとな。

「シュカ、そろそろ帰るか? 明日月曜日だし、泊まるわけにはいかないもんな」

「……泊まってもいいですか?」

「俺はいいけどさ、シュカが困るだろ?」

「明日少し早く起きればいいだけですよ」

早朝に家に帰って制服と荷物を回収するつもりか。朝帰りとはいよいよ優等生の仮面が剥がれてきたな。

「そっか。じゃあ晩飯一緒に食おう。今日は水炊きのつもりだったんだ」

「私、水炊きには一家言ありますよ」

「お、鍋奉行やってくれるか?」

鍋の材料は二人前しかない。母と俺の分なのだから当然だ。母が帰ってこずシュカが泊まるから普通なら足りるのだが、シュカの胃袋は普通ではない。

「肉は豚バラですか? 豚バラは油が浮くんですよねぇ……鶏肉の方が好きです」

「でも豚の方がポン酢に合うと思うぞ」

「……鶏団子はどこですか?」

「つみれか? ないぞ」

「…………正気ですか?」

二人で楽しく鍋を作り、俺はきっちり一人前だけ食べた。シュカはやはり一人前では足りないと言い出し、雑炊を作り始めた。

 「二パックも食べるのか? 米が水分吸うから普通より多くなると思うぞ」

「これくらい食べないと足りません。豚肉より鶏肉を入れるべきでしたね、豚や牛は雑炊に向きませんよ」

「他人の家の食料二日弱分減らしておいてお前」

水炊きの残り汁に米と卵を投入、塩やポン酢などで味付けされた雑炊は美味しそうに見えた。だが、母が決めた摂取カロリーを超過するわけにはいかない。

「ふー、ふー…………水月、あーん」

「えっ?」

「先程から羨ましそうに見ていらしたのて。食べたいんでしょう?」

絶対に食べてはいけないと自分に言い聞かせていたが、ふーふーとあーんの組み合わせ技に俺は負けてしまった。

「あ、あーん……ん、美味しい」

明日は筋トレを少し増やさないとな。



夕飯の後、風呂場でシーツを洗いながら俺はもう一度くらいセックスしておきたいなと性欲を湧かせた。洗ったシーツを洗濯機に放り込んでリビングへ向かうと、ソファに腰掛けてテレビを見ていたはずのシュカはまた眠っていた。

「……シュカ、シュカ」

「ん……」

「眠いか?」

小さく頷いた。今日はもう抱かせてもらえなさそうだ。

「風呂はさっき入ったからいいとして、歯磨きはしないとな。歯ブラシは買っておいてあるからな。立てるか? 洗面所行こう」

「……準備いいですね」

俺達は並んで歯を磨いた。目を閉じてうつらうつらとしながら力なく歯を磨くシュカを鏡越しに見つめ、幸せな気持ちになった。

「一緒に寝よう。シーツ変えたから安心してくれ」

俺のパジャマを着たシュカに萌え、股間に熱が集まるのを感じつつ、二人でベッドに横になり、彼に腕枕をした。

「……おやすみなさい、水月」

安心しきった微笑みにイタズラする気にはなれず、俺は悶々として眠れない夜を過ごした。



翌朝、シュカのスマホのアラームで目を覚ました。ぐっすり眠ったシュカの寝起きはよく、俺を放ってさっさと朝支度を済ませてしまった。

「水月、私は先に出ます。家に寄らなければいけないので」

「あぁ、また学校で。朝飯は? トースト今焼いてるぞ」

「一枚ください。食べながら行きます。残りは家で食べますから」

「残り……あぁ、バターでいいよな?」

バターを焼いたトーストを咥えて出ていったシュカを見送り、彼の大食いに関心する。

(やっぱり朝食もトースト一枚じゃ足りないんですな……ん? トースト咥えての登校とかベッタベタじゃないですか。うわぁ「残り」発言に気を取られてましたぞちくせう)

一人きりの朝にどことない寂しさを覚え、朝のニュースをお供にゆったりと朝支度を進める──

「水月! 外になんか居ましたよ!」

「おはよーございますっすせんぱーい……ふわぁ」

──どうやら超絶美形のこの俺には、寂しさなんて似合わないらしい。
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