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安心と眠気
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風呂を出た後、俺達は部屋に戻らずリビングのソファに腰掛けた。俺の肩に頭を置いてくれないかと期待したが、シュカは背もたれに身体を預けている。
「なぁシュカ、風呂から出た後ちょっと歩き方おかしかったけど……腰とか足とか痛い感じか?」
「いえ、力を込めると震えてしまって……きっと水月が私をイかせ過ぎたからですよ。今のところ少し重だるいだけで痛みはありません」
「性欲のままに動いてたからな……明日あたり筋肉痛になるかも。ごめん、反省する。今度から次の日に支障が出ない程度にするって心に決めるよ」
「何言ってるんですか。ヤりまくった次の日の腰の痛みやケツの違和感、それがいいんじゃないですか」
筋肉痛が好きで筋トレするタイプか?
「そう……なの、か? 分かったよ。じゃあこれからもヤりたいだけヤろうな。シュカが嫌ならやめるから、嫌だったらハッキリ言ってくれよ」
「本当に嫌になったら殴ります。つい嫌だと言ってしまうことは私、よくあるみたいですから……その時は止まらず続けてくださった方が嬉しいです」
「……嫌よ嫌よも好きのうちって?」
「ふふっ、ちょっと違うと思いますけど」
シュカの腰と背もたれの間に腕をねじ込み、シュカの腰を抱く。抱き寄せる。するとシュカは俺の心を読んだように俺の肩に頭を乗せてくれた。
「…………この体勢じゃ、あなたのオンナって感じですね」
「シュカは男だろ?」
「そういう意味ではなくて……腰を抱かれてやっただけで、私はあなたに支配なんてされてやりませんよ。という話です」
「支配なんかするつもりないよ。べたべたイチャつきたかっただけだ」
頬にちゅっとキスをしてやるとシュカはほのかに頬を赤らめ、目を閉じて俺にもたれかかった。静かに息をする様子から見ても、このまま寝るつもりなのは明らかだ。何十回何百回もの絶頂の後、風呂に入って温まったのだ。眠くなっても仕方ない。
「水月、私……これまで恋だの愛だのが存在するとは思っていませんでした。でも……」
眠気で羞恥心が剥がれているのか、シュカは珍しく素直に話してくれている。
「私、きっとあなたに恋をしました。おそらくあなたを愛しています」
「……そっか。心も振り向いてくれて嬉しいよ、シュカ」
太腿にシュカの手が落ちてきた。その手は俺のズボンを力なく掴む。
「私、短気で……手も早くて……可愛げもなくて……嫌になるでしょう」
「そういうところも可愛いんだよ。全部照れ隠しなんだろ? 素直になれない子も好きなんだ、俺は」
今のように稀に素直なところを見せてくれたらより好きになってしまう。俺の惚れっぽさか、それとも節操なしなところか、何がおかしかったのかシュカは穏やかに笑った。
「水月……あなたの近くに居たい。あなたに触れていたい、触れられていたい……最近よく不安になるんです、あなたが急に私に飽きたらどうしようって、嫌になったらどうしようって……」
「……ならないよ、絶対。不安にしちゃってごめんな、これからはシュカにもスキンシップしていくよ。そういうの嫌いかと思ってた」
「…………水月、あなたは私の憂いをすぐに取り除いてくれるんですね」
切れ長のタレ目が俺を見上げる。キツく、目付きが悪く、怖さを覚える目をしているが、今は可愛く思える。
「私あなたに捨てられたら、きっと泣きます。きっと復縁するって言うまで殴っちゃいますから」
「俺がシュカを捨てるなんてありえなさ過ぎて怖くないな」
「……ですね。ふふ……安心したら、なんだか本当に温かくなってきました。不思議ですね……あなたの体温が移ってきたんでしょうか」
暖かくなってきたように思えるのはきっと、睡眠前の体温上昇だろう。寝入ったら体温は低下するから、シュカが眠ったらすぐに毛布を取ってこないとな。
「シュカ、ちょっと横になろう」
「ソファで、ですか? 少し狭いと思いますけど」
当然シュカを背もたれ側にして、俺は落ちかけながらもシュカに腕枕をしてやった。シュカは俺の服をきゅっと掴んで目を閉じ、うとうととしている。
「ん……水月、そんな……背中、とんとんされたら……私、寝ちゃいますよ」
背中を優しく叩いてやるとシュカは嬉しそうに微笑んだ。ほどなくして寝息が聞こえ始める。そっと腕をシュカの頭の下から抜こうとすると、目がパチッと開いた。
「水月……? どこへ……」
俺に捨てられないか不安だと漏らした彼から離れるのは慎重にならなくてはいけなかった、判断が早過ぎたようだ。
「毛布持ってくるんだよ、シュカ眠そうだし。すぐ戻るから安心してくれ」
信用してくれたようで、シュカはゆっくりと目を閉じた。俺は小走りで毛布を取ってきて彼にかけ、床に腰を下ろしてシュカの背を優しく叩いた。
「…………水月」
「今日は疲れさせちゃったな、ゆっくり休んでいいぞ」
「……メガネ、お願いします」
シュカのメガネを取り、机の上に置く。瞼を重たそうに開いたシュカの顔を見ていると違和感を覚えた。
「メガネ外したところはレアだな。可愛いよ」
「水月の顔が見えません……」
「この近さでも?」
「近視だけでなく乱視も入ってますし、両目で視力に差があるのでピントが合わせにくくて……眠い、ですし」
綺麗に切り揃えられたセンター分けの前髪をかき上げ、額にキスをする。
「……他人の傍で眠くなったのなんて初めてです。何徹していようが、人の気配のするところでは眠れないのに……不思議ですね、あなたは」
「俺は不思議なんかじゃないよ。シュカの恋の力だ。ありがとうな、俺を好きになってくれて、俺に安心してくれて……嬉しいよ」
ようやく本当の恋人らしくなれた気がする。恋愛関係においてセックスの有無なんてなんの指標にもならないのだとよく分かった。
「おやすみ、シュカ」
耳元で囁いてやるとシュカの手から力が抜け、瞳が瞼の奥に隠される。俺は居眠りをする学生のような姿勢でソファを机代わりにして眠った。
「なぁシュカ、風呂から出た後ちょっと歩き方おかしかったけど……腰とか足とか痛い感じか?」
「いえ、力を込めると震えてしまって……きっと水月が私をイかせ過ぎたからですよ。今のところ少し重だるいだけで痛みはありません」
「性欲のままに動いてたからな……明日あたり筋肉痛になるかも。ごめん、反省する。今度から次の日に支障が出ない程度にするって心に決めるよ」
「何言ってるんですか。ヤりまくった次の日の腰の痛みやケツの違和感、それがいいんじゃないですか」
筋肉痛が好きで筋トレするタイプか?
「そう……なの、か? 分かったよ。じゃあこれからもヤりたいだけヤろうな。シュカが嫌ならやめるから、嫌だったらハッキリ言ってくれよ」
「本当に嫌になったら殴ります。つい嫌だと言ってしまうことは私、よくあるみたいですから……その時は止まらず続けてくださった方が嬉しいです」
「……嫌よ嫌よも好きのうちって?」
「ふふっ、ちょっと違うと思いますけど」
シュカの腰と背もたれの間に腕をねじ込み、シュカの腰を抱く。抱き寄せる。するとシュカは俺の心を読んだように俺の肩に頭を乗せてくれた。
「…………この体勢じゃ、あなたのオンナって感じですね」
「シュカは男だろ?」
「そういう意味ではなくて……腰を抱かれてやっただけで、私はあなたに支配なんてされてやりませんよ。という話です」
「支配なんかするつもりないよ。べたべたイチャつきたかっただけだ」
頬にちゅっとキスをしてやるとシュカはほのかに頬を赤らめ、目を閉じて俺にもたれかかった。静かに息をする様子から見ても、このまま寝るつもりなのは明らかだ。何十回何百回もの絶頂の後、風呂に入って温まったのだ。眠くなっても仕方ない。
「水月、私……これまで恋だの愛だのが存在するとは思っていませんでした。でも……」
眠気で羞恥心が剥がれているのか、シュカは珍しく素直に話してくれている。
「私、きっとあなたに恋をしました。おそらくあなたを愛しています」
「……そっか。心も振り向いてくれて嬉しいよ、シュカ」
太腿にシュカの手が落ちてきた。その手は俺のズボンを力なく掴む。
「私、短気で……手も早くて……可愛げもなくて……嫌になるでしょう」
「そういうところも可愛いんだよ。全部照れ隠しなんだろ? 素直になれない子も好きなんだ、俺は」
今のように稀に素直なところを見せてくれたらより好きになってしまう。俺の惚れっぽさか、それとも節操なしなところか、何がおかしかったのかシュカは穏やかに笑った。
「水月……あなたの近くに居たい。あなたに触れていたい、触れられていたい……最近よく不安になるんです、あなたが急に私に飽きたらどうしようって、嫌になったらどうしようって……」
「……ならないよ、絶対。不安にしちゃってごめんな、これからはシュカにもスキンシップしていくよ。そういうの嫌いかと思ってた」
「…………水月、あなたは私の憂いをすぐに取り除いてくれるんですね」
切れ長のタレ目が俺を見上げる。キツく、目付きが悪く、怖さを覚える目をしているが、今は可愛く思える。
「私あなたに捨てられたら、きっと泣きます。きっと復縁するって言うまで殴っちゃいますから」
「俺がシュカを捨てるなんてありえなさ過ぎて怖くないな」
「……ですね。ふふ……安心したら、なんだか本当に温かくなってきました。不思議ですね……あなたの体温が移ってきたんでしょうか」
暖かくなってきたように思えるのはきっと、睡眠前の体温上昇だろう。寝入ったら体温は低下するから、シュカが眠ったらすぐに毛布を取ってこないとな。
「シュカ、ちょっと横になろう」
「ソファで、ですか? 少し狭いと思いますけど」
当然シュカを背もたれ側にして、俺は落ちかけながらもシュカに腕枕をしてやった。シュカは俺の服をきゅっと掴んで目を閉じ、うとうととしている。
「ん……水月、そんな……背中、とんとんされたら……私、寝ちゃいますよ」
背中を優しく叩いてやるとシュカは嬉しそうに微笑んだ。ほどなくして寝息が聞こえ始める。そっと腕をシュカの頭の下から抜こうとすると、目がパチッと開いた。
「水月……? どこへ……」
俺に捨てられないか不安だと漏らした彼から離れるのは慎重にならなくてはいけなかった、判断が早過ぎたようだ。
「毛布持ってくるんだよ、シュカ眠そうだし。すぐ戻るから安心してくれ」
信用してくれたようで、シュカはゆっくりと目を閉じた。俺は小走りで毛布を取ってきて彼にかけ、床に腰を下ろしてシュカの背を優しく叩いた。
「…………水月」
「今日は疲れさせちゃったな、ゆっくり休んでいいぞ」
「……メガネ、お願いします」
シュカのメガネを取り、机の上に置く。瞼を重たそうに開いたシュカの顔を見ていると違和感を覚えた。
「メガネ外したところはレアだな。可愛いよ」
「水月の顔が見えません……」
「この近さでも?」
「近視だけでなく乱視も入ってますし、両目で視力に差があるのでピントが合わせにくくて……眠い、ですし」
綺麗に切り揃えられたセンター分けの前髪をかき上げ、額にキスをする。
「……他人の傍で眠くなったのなんて初めてです。何徹していようが、人の気配のするところでは眠れないのに……不思議ですね、あなたは」
「俺は不思議なんかじゃないよ。シュカの恋の力だ。ありがとうな、俺を好きになってくれて、俺に安心してくれて……嬉しいよ」
ようやく本当の恋人らしくなれた気がする。恋愛関係においてセックスの有無なんてなんの指標にもならないのだとよく分かった。
「おやすみ、シュカ」
耳元で囁いてやるとシュカの手から力が抜け、瞳が瞼の奥に隠される。俺は居眠りをする学生のような姿勢でソファを机代わりにして眠った。
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