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カンナの秘密
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彼氏を増やしてもほとんど文句を言わなかったのに、握手会には行かないで欲しいなんて、カンナの思考はよく分からない。その戸惑いもあったし、ハルとの約束を破ることなんて出来ないしで、返答が遅れた。
「…………なん、で。なんで……なんで、なんでぇ……なんでっ、なんでっ!? なんでっ、嘘ついたのっ! や、やっぱりっ……ぼくより、カミアがいいんだっ……」
僅かな遅れがカンナの不安を膨らませた。
「え……? う、嘘って、嘘なんか俺は言ってない! 俺がいつ嘘ついたんだよ……」
「カミアと会えるのにカンナ持ってる必要ないもんっ! すて、ないって……言ったのに、捨てるんだ……カンナ捨てるんだぁ、嘘つき、嘘つきぃっ……!」
「な、何言ってるんだよカンナ! 俺はカンナのこと捨てたりなんて絶対しない、嘘じゃない愛してるんだ! カミアは関係ないだろ、なんでカミアにそんなこだわるんだよ……」
俺の話を聞かずに泣きじゃくるカンナを落ち着かせるため、目を擦るのをやめさせるため、とりあえず手を掴もうとした。それを察知したカンナに手を払われ、俺の手の甲はカンナの髪に触れた。
「……っ!」
カンナは慌てて両手で頭を抱える。何かに安心してため息をつき、それからまた泣き始めた。
(髪……髪触られるのが嫌いで、カミアには髪あるとか言って…………え? まさか、ですけど……カンナたそ、ヅラ? いや、いやいやいや、ありえませんな、めっちゃ生えてますもん)
俺はカンナを慰めるのをサボって失礼な疑惑を片付けるのを優先し、艶のある黒髪のつむじを見つめた。
「……っ!? 見ないでっ!」
カンナに頭を見つめているのがバレた瞬間、ぺちっと顔を叩かれた。
「あ……! ちが……叩く、つもり…………ごめ……ぁ、あ……みぃくん、みぃくん……」
「カンナ、落ち着け。謝らないで、怯えないでくれ……俺怒ってないから。俺、知らないうちにカンナに嫌なこといっぱいしちゃったんだろ? ごめんな、カンナ……嫌な思いばっかさせて」
抱き締めようとしたがカンナは俺を押しのけて部屋に走った。慌てて追おうとしたが、食べかけのチャーハンが目に入ってしまう。
(食べ物さんを粗末には出来ませんぞ! ラップ、ラップはどこですかな! 返事をしてくだされラップどの!)
ラップを探し出し、二皿のチャーハンを包む。
「カンナ!」
手間取ってしまったが俺も部屋に走った。引き戸には鍵はついておらず、あっさりと入れた。カンナは引き戸を押さえたりせずに部屋の隅でウサギを抱いて泣いていた。
「カンナ……」
スキンシップで心をほぐすべきか、距離を保って会話で心をほぐすべきか、迷う。
(どうすればいいんですかコレ……そもそもカンナたそが何が泣くほど嫌だったのか分かりませんぞ。カンナたそは会話とスキンシップの時間をちゃんと取っていれば、目の前でリュウどのやハルどのとイチャついても怒りも泣きもしなかったわけで……どうしてカミアどのだけに過剰反応するのでそ)
とりあえず手が届くか届かないかくらいの距離まで近寄る。
(……お父上がカミアどのに夢中でカンナたそのこと放ったらかしとかそういう話じゃありませんよな? もしそうなら酷いとばっちりですぞ)
一旦立ち止まり、カンナと目線を合わせるため屈む。
「…………カンナ、ごめん。俺、どうしてカンナが泣いてるのか分からない。俺の何が悪かったのか、どうしてカンナが傷付いたのか、頑張って考えたんだけど……ダメだった」
カンナを口説き直す気取ったセリフはいくつも考えたけれど、結局正直にバカを晒した。
「俺はカンナのこと大好きなんだ。このまま別れるなんてことになったらって……考えるのも嫌だよ。今までみたいに仲良くしていたいんだ、恋人同士でいたいんだ…………何より、カンナが傷付いたままなんて嫌だ」
ぴくりと頭が動いた。前髪のせいで目線は分からない、俺を見ているのだと思おう。
「大好きなカンナ、カンナには笑ってて欲しいんだ。俺にはもう……カンナを笑顔に出来ないのかな」
話すうちに声が震え出した。俺まで泣いてどうする。必死に目を擦って目頭の熱を消そうとしていると、いつの間にか立ち上がっていたカンナに手を掴まれた。
「…………き、て」
言われるがままに、手を引かれるままに、再びカンナの父親の部屋へ入る。カミアのポスターやグッズが所狭しと並ぶ中、カンナは棚の最下段の古い雑誌を引っ張り出した。
「ジュニアアイドル……?」
低年齢のアイドルを特集した雑誌のようだ。カンナはペラペラとそれをめくり、あるページを俺に見せた。
「双子ユニット……あ、これ、昔のカミアか?」
流石にリアルショタはゾーン外だが、ぱっちりとした目の愛らしさは変わっていない。しかも、同じ見た目の可愛い男児は二人いる。
「カミア、双子だったのか。えっと……兄、時雨 神在、弟、時雨 神無の……カンナ? 時雨って……え?」
「…………これ、ぼく」
「カンナ、アイドルだったのか!? カミアがお兄ちゃん!? へぇー……! えぇー……マジか、はぁー……そりゃカンナは愛くるしいわけだ」
驚きのあまり間抜けな声を出してしまった俺に、カンナは棚から取った手帳を渡す。新聞のスクラップのようだ。
「今度は何だ? ジュニアアイドル襲撃、硫酸……?」
それは、凄惨な事件の報道だった。
「…………なん、で。なんで……なんで、なんでぇ……なんでっ、なんでっ!? なんでっ、嘘ついたのっ! や、やっぱりっ……ぼくより、カミアがいいんだっ……」
僅かな遅れがカンナの不安を膨らませた。
「え……? う、嘘って、嘘なんか俺は言ってない! 俺がいつ嘘ついたんだよ……」
「カミアと会えるのにカンナ持ってる必要ないもんっ! すて、ないって……言ったのに、捨てるんだ……カンナ捨てるんだぁ、嘘つき、嘘つきぃっ……!」
「な、何言ってるんだよカンナ! 俺はカンナのこと捨てたりなんて絶対しない、嘘じゃない愛してるんだ! カミアは関係ないだろ、なんでカミアにそんなこだわるんだよ……」
俺の話を聞かずに泣きじゃくるカンナを落ち着かせるため、目を擦るのをやめさせるため、とりあえず手を掴もうとした。それを察知したカンナに手を払われ、俺の手の甲はカンナの髪に触れた。
「……っ!」
カンナは慌てて両手で頭を抱える。何かに安心してため息をつき、それからまた泣き始めた。
(髪……髪触られるのが嫌いで、カミアには髪あるとか言って…………え? まさか、ですけど……カンナたそ、ヅラ? いや、いやいやいや、ありえませんな、めっちゃ生えてますもん)
俺はカンナを慰めるのをサボって失礼な疑惑を片付けるのを優先し、艶のある黒髪のつむじを見つめた。
「……っ!? 見ないでっ!」
カンナに頭を見つめているのがバレた瞬間、ぺちっと顔を叩かれた。
「あ……! ちが……叩く、つもり…………ごめ……ぁ、あ……みぃくん、みぃくん……」
「カンナ、落ち着け。謝らないで、怯えないでくれ……俺怒ってないから。俺、知らないうちにカンナに嫌なこといっぱいしちゃったんだろ? ごめんな、カンナ……嫌な思いばっかさせて」
抱き締めようとしたがカンナは俺を押しのけて部屋に走った。慌てて追おうとしたが、食べかけのチャーハンが目に入ってしまう。
(食べ物さんを粗末には出来ませんぞ! ラップ、ラップはどこですかな! 返事をしてくだされラップどの!)
ラップを探し出し、二皿のチャーハンを包む。
「カンナ!」
手間取ってしまったが俺も部屋に走った。引き戸には鍵はついておらず、あっさりと入れた。カンナは引き戸を押さえたりせずに部屋の隅でウサギを抱いて泣いていた。
「カンナ……」
スキンシップで心をほぐすべきか、距離を保って会話で心をほぐすべきか、迷う。
(どうすればいいんですかコレ……そもそもカンナたそが何が泣くほど嫌だったのか分かりませんぞ。カンナたそは会話とスキンシップの時間をちゃんと取っていれば、目の前でリュウどのやハルどのとイチャついても怒りも泣きもしなかったわけで……どうしてカミアどのだけに過剰反応するのでそ)
とりあえず手が届くか届かないかくらいの距離まで近寄る。
(……お父上がカミアどのに夢中でカンナたそのこと放ったらかしとかそういう話じゃありませんよな? もしそうなら酷いとばっちりですぞ)
一旦立ち止まり、カンナと目線を合わせるため屈む。
「…………カンナ、ごめん。俺、どうしてカンナが泣いてるのか分からない。俺の何が悪かったのか、どうしてカンナが傷付いたのか、頑張って考えたんだけど……ダメだった」
カンナを口説き直す気取ったセリフはいくつも考えたけれど、結局正直にバカを晒した。
「俺はカンナのこと大好きなんだ。このまま別れるなんてことになったらって……考えるのも嫌だよ。今までみたいに仲良くしていたいんだ、恋人同士でいたいんだ…………何より、カンナが傷付いたままなんて嫌だ」
ぴくりと頭が動いた。前髪のせいで目線は分からない、俺を見ているのだと思おう。
「大好きなカンナ、カンナには笑ってて欲しいんだ。俺にはもう……カンナを笑顔に出来ないのかな」
話すうちに声が震え出した。俺まで泣いてどうする。必死に目を擦って目頭の熱を消そうとしていると、いつの間にか立ち上がっていたカンナに手を掴まれた。
「…………き、て」
言われるがままに、手を引かれるままに、再びカンナの父親の部屋へ入る。カミアのポスターやグッズが所狭しと並ぶ中、カンナは棚の最下段の古い雑誌を引っ張り出した。
「ジュニアアイドル……?」
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「カミア、双子だったのか。えっと……兄、時雨 神在、弟、時雨 神無の……カンナ? 時雨って……え?」
「…………これ、ぼく」
「カンナ、アイドルだったのか!? カミアがお兄ちゃん!? へぇー……! えぇー……マジか、はぁー……そりゃカンナは愛くるしいわけだ」
驚きのあまり間抜けな声を出してしまった俺に、カンナは棚から取った手帳を渡す。新聞のスクラップのようだ。
「今度は何だ? ジュニアアイドル襲撃、硫酸……?」
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