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お昼ご飯

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カンナに手を引かれてダイニングへ。全体的に古く、生活感がある。

「なぁ、昼飯ってカンナの手料理なのか?」

「……ぅん。つく、て……おいたっ、あっため、て……たべる」

「本当にカンナが作ったのか! あぁ、嬉しいな……カンナが俺のために作ってくれたなら丸焦げだって美味しく食べるよ、ちなみに何の料理なんだ?」

「ちゃー、はん……ぁ、みぃくん、あれるぎ……とか」

「ないよ。チャーハンも大好き。ありがとうなカンナ」

カンナは照れくさそうに微笑みながら戸棚からラップをかけたチャーハンを二皿取り出し、レンジに入れた。

「……ごめんカンナ、ちょっとトイレ行ってきていいか?」

勃起したままではカンナの手料理をしっかり楽しむことが出来ない。俺は足早にダイニングを出てトイレを探した。

(場所聞くの忘れましたぞ!)

戻って聞こうかとも考えたが、狭い家だし自力で見つけられるだろうととりあえず目の前の引き戸を開けた。

(お……? オタ部屋ですかな?)

トイレではなかった。壁や天井にはポスターが貼られ、棚にはCD類やグッズが並び、推しを見るためだろう最新型のテレビも置かれている。

(これはカミアどのですな。カンナたそはカミアどの推しだったのですか。いえ、確かに気になる態度でしたが、推してる感じでは……うーむ?)

ポスターもグッズもカミアのものだけだ。時代が時代なら戦争が起こるクラスのあの美貌が所狭しと並んでいる。良い空間だ。

「……っ! みぃ、くんっ! 何、してるのっ!」

睫毛バサバサ、お目目うるうる、やはりカミアは瞳が特に魅力的だななんて考えているとカンナに腕を掴まれた。

「こ、こ……おと、さんの……部屋っ! はいっ、ちゃ、だめ!」

「あ……ごめんごめん、トイレの場所分からなくて」

「……とい、れ、こっち」

カンナに案内されたトイレに入り、シコりながら考える。
まさかカミア推しのドルオタはカンナの父親の方だったなんて……と。別に好きなものは好きでいいのだが、息子と同い年の男性アイドルをああまで熱狂的に推すって……いや、いいんだよ、好きなら好きで。

(カンナたそ結構怒ってましたな……ぅー、失敗ですぞ)

まぁ父親があれだけ推しているならカンナも結構カミアは好きだろう、そこから話を膨らませて機嫌を治してもらって──出た。トイレからも出よう。

「ただいま、カンナ。待たせてごめんな」

賢者タイムのスッキリした頭でダイニングに戻り、ほかほかのチャーハンが二皿並んだ机に向かう。

「いただきます」

席につき、手を合わせる。向かいに座ったカンナも同じようにして箸を持つ。スプーンが欲しかったなと思いつつも箸を取り、食べ始める。

「……うん、美味い! めちゃくちゃ美味いよ、コショウが効いてるな。俺、濃い方が好きなんだよ、すっごく好みの味だ。嬉しいよカンナ、カンナと味の好み一緒なんだな」

思ったことをそのまま言うとカンナは嬉しそうに頬を緩めて謙遜した。いい調子だ、そうだ、カミアの話題を入れてみようか。

「そうだ、カンナのお父さんはカミア好きなんだよな。カンナもか? 睫毛すごいよなあのアイドル。握手会のチケット当たってるんだけどさ、よかったらやろうか? 俺は一緒に行くだけでいいから……あ、ハルも一緒なんだけど、どうだ?」

機嫌を治すついでにデートの約束も取り付けようとしたが、カンナが箸を置いたのを見て喋るのをやめた。

「…………みぃ、くん……みぃくん、アイツのほぉがっ、すき?」

「へ……?」

「カンナ、よりっ……カミアが、いいのっ?」

突然何を言い出すんだ。俺はカミアに対して興味がないし、あったとしても普通アイドルと恋人への好意は別物として考えないか?

「ど、どうしたんだよカンナ……嫉妬か? 俺そんなこと言ってないだろ、そもそもカミアはアイドルだぞ? カンナ……お、おいっ、泣くなよ……」

カンナの頬を涙が伝った。俺は慌てて席を立ち、カンナの隣へ向かってその涙を拭った。彼が座っている椅子を引いて正面に回り、俯いた彼と見つめ合うため床に膝をついて彼を見上げた。

「みぃ、くん……まつげ、あるほぉが、いい……? カミアのが、いいのっ……?」

「カンナ……何言ってるんだよ、どっちの方がいいとかない。俺はカミアのこと全然知らないし、カンナを愛してるんだぞ?」

「でも……でもっ、カミアのが、かわい……し。稼い、でるし……髪、あるし……」

カミアのが髪あるってどういうことだ。確かにカミアのパーマヘアは魅力的だしすごい毛量だとも思うが、カンナのメカクレヘアもそこそこの毛量で──そういえばカンナ、髪に触られるのをめちゃくちゃ嫌がって──いや、関係ない。今考えるべきことはそれじゃない。

「……ごめんなカンナ、不安にさせたんだな。俺が悪かったよ、俺は今カンナのことしか考えてないよ。カンナがカミア推しなのかなって思って、カミアの話すれば喜んでくれるかなって……そう思っただけなんだ。ごめんな」

「ぼく……を、あい……して、る?」

「あぁ、愛してるよ……んむっ……カ、カンナ、ごめんっ、まだ気分じゃなかったか」

キスをしようとしたがカンナの手のひらに遮られた。

「……も、し……カミアが、来て……付き合って、て……言って、も……ぼく、すて、ない?」

「当たり前じゃないか。カンナは俺の初めての彼氏で、大切な人なんだからな」

ようやく嬉しそうに笑ってくれた、今ならキスも拒絶されないだろう、いや、むしろカンナも待っている。

「じゃあ……握手、か…………かない、で……れる?」

「え……? 握手会行かないでくれるかって……それ、は」

キスの寸前の質問はハルとの約束に反するもので、俺はすぐに返事が出来なかった。
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