過労死で異世界転生したのですがサキュバス好きを神様に勘違いされ総受けインキュバスにされてしまいました

ムーン

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義姉って呼びにくい

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愕然という言葉がこれほど似合う表情はないだろう。周囲のオーガも、アルマも、俺だって、驚きで声も出なかった。

『……僕は魔神王、世界に魔樹を根付かせ世界を見守り支配するモノ。僕の目と耳、あるいは手足として働くモノこそ魔王。この島は実験的に人間を王としていたが、失敗に終わった。彼は魔性を差別した』

人間と魔物の差異は多く、大きすぎる。区別されて当然だと思っていたが──ネメシスの父が治める大陸でごく普通に共存していた光景を見た今は、不当な扱いだったと思える。

『魔王には種族の差異など気に留めない悪魔などの上位存在を採用するが……このインキュバスは出生や経歴を考慮して選出した。不安要素はないわけではないが……彼が前王のように愚かなら僕が処分する。君達が心配することはない』

なんか今とんでもないこと言わなかったか?

『……君達が人間に何をされたかは言わなくていい、僕は君達の思考が読める』

魔神王の視線は一瞬だけアルマに向けられた、誘拐され監禁され虐待されてきた彼はオーガ一族が人間に憎悪を抱く立派な理由になる。

『僕は君達に全種族との共存共栄を求める、そのために婚姻の呪も開発した。力が強い君達が自分は上位種族だと言い張るのも、過去の怨恨を人間に向けるのも許さない』

「……人間を憎むなと? アルマ以外にも多くの子供がさらわれ、その多くが殺されたのに?」

『王都の人間は全て処分した、死んだモノを憎みたいならそうすればいい。他の大陸や島から移り住んでくる人間が居るかどうかは魔王の政策次第だが……その人間は産まれてからずっと魔物と共に生きるのを常識としてきたモノだろう、それを虐めて気が晴れるならやればいい、魔王が作る法に則って処罰を受ける覚悟があるならね』

犯罪と見なすと言っておきながら「やればいい」なんて、無責任な人だ。

「……っ、魔物には人間を弄り殺していた歴史がある、そのせいで人間は我々を恐れ憎むようになった。人間側はどうなんだ、本当に魔物を受け入れられるのか?」

『過去の怨恨なんて過去を知るモノを全て滅ぼせば消える脆いものだ。どうせならこの島の生物全て滅ぼした方がいい、こんな説明をする手間も省けるし』

「ちょ、ちょっと魔神王さん……」

軽い言葉にしてしまうならリセット癖とでも言うべきか、前世の創作物でもよく見かけた「一度世界を滅ぼして理想の世界に作り直す」系のラスボスと同じタイプだ。全く尊敬出来ない。

『僕は魔物にも人間にも肩入れしない、どっち側でもないからね。気に入らない出来のモノは潰して作り直す、それだけだよ』

まさに神だな。

『……なんで僕、君が魔王だって証明するためだけに話してたはずなのに、こんな話してるんだろ……ま、いいや、後は一人で大丈夫だね? あぁ、二人? まぁどっちでもいいや……ばいばい』

「あ、はい……ありがとうございました、失礼します」

深々と頭を下げているうちに魔神王は消え、重苦しい空気に包まれた俺達だけが取り残される。

「えっと……俺頑張ります! ちゃんとした王様になります、次失敗したら今度こそこの島の生物全部消されちゃうかもしれませんし……とってもとっても頑張ります! だから、その、協力して欲しいんです! 立派な王様には一人じゃなれないから」

オーガ達は微妙な顔をしているが、魔神王に脅されたのが効いているのかポツリポツリと肯定的な返事が返ってきた。

「それで、あの……今、王都の跡地に新しい城下町を作ろうと思っているんです。もしよかったら移住してください、無理強いはしません、他の種族……人間も来るかもしれませんから、嫌ならここで変わらない暮らしを続けてください。森を切り開いたりとかはしないつもりですから」

「移住……人間が住んでいた土地に?」

「はい、でももう既にボロボロで、建物は跡形もありません。嫌ならいいんですよ、でも選択肢としてみんなに知っておいて欲しいんです」

あまり乗り気ではないように見えたが、見るだけ見てみたいという意見が多かった。見学は自由だと伝えると何人かが見に行くと約束してくれた。

「集落の他の人達に伝えてください、もう人間の王都は滅びて、魔物が住めるようになったんだって……」

「……分かった。他ならぬアルマの嫁さんの頼みだ、喧伝はしておこう」

族長の老年のオーガの協力的な言葉に感激し、一瞬言葉に詰まる。何とか礼を言って頭を下げ、もう一つの目的のための質問をしてみる。

「それと……あの、アルマのお姉さんに会わせていただきたいのですが……」

「あぁ、今なら釣りに出ているはずだ。お前、案内を」

族長の脇に立っていたオーガが頷き、手招きをする。無口で申し訳ないと謝る族長にしっかりと挨拶をし、集落を出て釣り場へ向かう。

「やったねアルマ、お姉さんに会えるって」

「……あぁ」

「…………嬉しくない?」

「いや、嬉しいよ。すまないな、色々起こったから……少し驚いているんだ、それだけだよ」

足場の悪い道を自ら歩こうとするとアルマに抱き上げられ、城ですら転んで酷い怪我をするのだからと諌められた。

「あ、女の人……かな? いっぱい居る」

筋骨隆々で女性らしさはあまり感じないが、女性オーガ達が川辺に集まっている。聞いた通りここは釣り場のようだ。

「アルマのお姉さんどこ? 一回会ったけど……遠くからじゃ見ても分かんないや」

間抜けな俺にアルマは優しく姉の居場所を教えてくれる。

「アルマ、アルマが声掛けてよ」

「……いや、だが」

「お姉さん絶対喜ぶから!」

「…………姉さん!」

アルマの呼び掛けに数人のオーガが振り向く。その中の一人が釣り竿を落とし、こちらへ駆け寄ってくる。

「アルマ、俺下ろして」

「あぁ」

俺を下ろしたアルマは突進とも言うべき姉の抱擁を受け止める。

「……久しぶり、姉さん」

「アルマ! アンタ……追放されたんじゃなかったの?」

「そうなんだが、今回はそれとは別で族長に話があってな。ついでに姉さんに会いに来た」

アルマは王都が滅びたから移住してはどうかという話をかいつまみまくって話し、姉を混乱させた。

「あの……お義姉さん」

「アンタ……えっと……」

「サクだ」

「そう、サク! ちゃんと治ったのね」

治った? あぁ、そうか、姉はアルマがこの集落を去った時の重傷の俺が最後に見た俺なのか。

「……なんか、可愛くなった? 前のいけ好かなさがなくなってる」

女神に付与された女に嫌われるスキルを失ったからか、姉含め他の女性オーガ達にも白い目で見られない。集まってきた彼女達に可愛い可愛いと撫でくり回されてしまった。

「やめなさいアンタ達! 私の義弟よ!」

姉が追い払ってくれて解放される頃には髪はすっかりぐちゃぐちゃになっていた。

「弟って認めてくれて嬉しいです。あの……移住、しませんか? アルマの近くに居てあげて欲しいんです」

「んー……別にここが好きって訳でもないんだけど」

「見に来るだけでも来てみてください、他にも見学だけって人は何人も居ますから是非一緒に」

「分かった分かった、行くだけ行ってみるから」

わしわしと雑に頭を撫でられ、本能的に察してしまった。姉含め他の女性オーガ達には俺は犬くらいの感覚で可愛がられていたのだと。モテたわけではなかったのだと。

「それじゃあ、俺達は先に王都に戻っている。またな、姉さん」

「もう帰るの? アルマ、もっとお姉さんと話せばいいのに」

「……あの崖を登るのは行きよりも時間がかかる、暗くなってしまうだろう? 俺が居るとはいえ夜の森は危険だ」

「じゃあウチに泊まれば……」

「ダメだっ!」

アルマは鼓膜を破るような大声を上げ、怯んだ姉の手の下から俺を奪った。強く抱き締められて肋骨が軋むが、その痛みも気にならないほど牙を剥いたアルマの形相が恐ろしかった。
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