上 下
487 / 604

竜の里からの帰還

しおりを挟む
俺の子が描いた魔法陣のようなものの中を抜けると元の世界へ戻ってこられた。室内だ、この内装には見覚えがある、俺達が宿泊しているホテルのドラゴン棟の一室だ。

「ここは……! あぁ、やっと帰ってこられた! あっ、そうだ、カタラとアルマは平気か?」

「婚姻の呪のおかげで死ぬことはない。お前の旦那はともかく、カタラはまだ起きないだろう。人間は回復に時間がかかる」

「ネメスィは治療してやったりはしないのか?」

「熱で一番ダメージを受けたのは脳だ、あまり弄りたくない。呪のおかげで勝手に回復するからそれに任せたい」

座り込んでボーッとしているだけのアルマに対し、カタラはまだ意識を取り戻してすらいない。ネメスィはそんなカタラを丁寧に抱きかかえ、心配そうに見つめている。

「…………結婚してよかった。していなかったら、こいつは今頃……」

婚姻の呪は死に別れを防ぐ。夫婦のどちらかが致命傷を受けても、もう片方の魔力を使って回復する。その特性がなければカタラは死んでいたかもしれない、そうでなくても脳機能に何らかの損傷が出たかもしれない。

「……あぁ、本当……結婚させてよかったよ、お前ら。結婚と言えばシャル、おじさんは?」

「部屋で待たせてあります。ドラゴンとの戦闘になって僕が死んでも蘇生できるように」

ネメスィとカタラは二人で来るのは危険だったかもしれない、アルマもそうだ。あの蒸し焼きの時間がもう少し長ければ全員死んでいたかもしれない。

「…………ごめんな、みんな。迷惑かけて」

「そんな、サク、君は悪くない……僕が、僕が、もう少し気を付けていれば」

「どうしようもなかったって、ネメシス、気にすんな。それよりありがとうな、みんな。助けに来てくれて嬉しかった」

当然だと笑われて胸が温かくなるのと同時に、竜の里での数週間は話さないようにしようと決めた。数時間の手間取りが何十倍にもなっていたなんて知ったら、みんな落ち込むだろう。

「ネメスィJrは平気か?」

「にぅう?」

「平気そうだな、ぐったりしてたから心配だったんだ」

「熱で細胞の三分の一くらい使えなくなったんじゃない? 僕やお兄ちゃんもそんな感じだよね。分裂させまくったからお腹すいたよ」

「にぃ、ママ、おなかスイた」

ネメシスの発言に同意するように空腹を訴え、俺に額を押し付ける。よろけながらも食べ物を持ってくることを約束すると、他の子供達からもリクエストが入った。

「じゃあもらってくるから、誰か運ぶの手伝ってくれ」

「じゃあ僕が」

「僕も行く。お兄ちゃんはカタラさん見ててあげて」

ドラゴン棟にはホテル職員も近寄りたがらない。なのでキッチンまで自分で取りに行く。ドラゴン達は基本食材をそのまま食べたがるので、大して時間はかからなかった。

「ぴぅ、ママおカエり」

「ただいま。ほら、チーズ」

「ぴぃいい……! ぴぅうん……!」

両手で抱えなければならないサイズのチーズを投げてやると黒いドラゴンは見事に口でキャッチし、頬を手で押さえる可愛らしい仕草を見せた。

「分け合って食えよ、ネメスィJrはちょっと多めな」

カートから下ろした食材の山に群がるドラゴン達に呼びかけ、ついでにもらってきた水をネメスィに渡し、俺も一杯持ってアルマの元へ向かった。

「アルマ……平気?」

「……あぁ、サクか。大丈夫だよ、すまないね心配をかけて」

「ううん……助けに来てくれて嬉しかった」

頬に触れさせたコップを受け取ったネメスィは一口でそれを飲み干し、遠慮していた俺の手を引いて自分の足の上へ触らせた。

「サクの席はここだ」

「……うん」

「そう落ち込むな。みんな無事だったろう?」

「うん……」

ちょうど甘えたかった気分だ。何週間も離れ離れになっていた寂しさを見せるのは、子供達や弟であってはいけない気がして、ずっと堪えていた。

「サク……? あぁ、サク……泣くな」

俺を支えるのとコップを持つので両手が塞がっているアルマは、焦り困った末に大きな舌で俺の頬を舐めた。

「ん……ん、ふふ、くすぐったい。アルマ……アルマに食べられてるみたい」

頬は涙の代わりに唾液でぐっしょりと濡れた。アルマの舌の分厚さと大きさを再認識し、しゃぶりたいという願望が湧く。キスをねだろうとした瞬間、部屋の端から打撃音が聞こえてきた。

「何しやがんだこの変態!」

カタラが起き抜けにネメスィを殴ったようだ。彼が目覚めた喜びと夫との甘い時間を邪魔された苛立ちを胸に、どういう状況なのか聞いてみた。

「こいつが俺にキスしようとしてやがったんだよ気色悪い!」

カタラの言い分は目が覚めた瞬間にネメスィの顔がドアップで見えたので、驚いた勢いそのままに殴ったということだった。

「……誤解だ、俺はサク一筋だ」

「嘘つけ! てめぇちょっと小綺麗な男なら何でもいいんだろ!」

「違う! サクもお前も小綺麗どころじゃない、大綺麗だ! いや違う……そうじゃなくて、頬擦りしてただけなんだ」

「そっちでも謎だし気色悪いわ!」

ネメスィの言い分は、ただなかなか起きないカタラに心配や庇護欲が高まって頬を擦り寄せてしまっただけだと言う。

「仲いいなぁ……子供達の前で喧嘩すんなよ」

「それもそうだな、悪い。ネメスィ、表出ろ」

ネメスィは立ち上がって扉へ向かっていたカタラを慌てて追いかけ、腰に腕を回して抱き寄せた。

「まだ回復しきっていないはずだ、一人で歩くな」

「病人扱いすんな触んなぁ!」

「部屋に戻ってゆっくり休むんだな、送ってやる。じゃあな、サク、お前ら、また明日」

大騒ぎをしながら二人が出ていった後、俺達もドラゴン達の食事の終わりを見届けて部屋に戻ることにした。

「今日は何だか疲れましたね……すぐに寝たい気分です」

「あ、俺アルマともうちょっと話すから……」

「そうですか? では、お先に戻らせていただきますね」

シャルと途中で別れ、ネメシスをホテルの出口まで送った後、俺とアルマはそのまま玄関で唇を重ねた。

「……少し出ようか、サク」

「…………うん」

空は茜色に染まっている、十分もしないうちに夜の帳が降りるだろう。俺達はそんな街中へ──は向かわず、自然公園へ向かった。

「サク、何も話していなかったが……いいんだな?」

「やだって言うわけないじゃん……」

素早く木陰に隠れた俺達は自ら服をはだけさせ、お互いの首や体に腕を回して舌を絡めた。

「んっ、んん、ん……!」

アルマの舌は大きく、口内に入られてしまうとフェラのようにしゃぶる以外の選択肢が失われてしまう。貪られるような感覚に酔いながら、彼の唾液を貪る。

「は、ぁん……んん、美味しかった。アルマ……」

「腹が減っているのか?」

「うん、アイツに抱かれないように頑張ってたから……でも、無理矢理、一回だけ……」

「………………そうか」

ギリ、と鋭い牙が音を立てた。よくないことだと分かっていながらもアルマの嫉妬を喜び、怒りの気配に興奮した俺は詳細を話すことにした。

「アルマよりも太くて、長くて……でも柔らかくて、でもイボイボしたの突っ込まれた。片手で掴まれて、物みたいにされて……たくさん精液入れられて、口から出ちゃった」

「…………サク」

「アルマぁ……お願い、忘れさせて?」

腰に回されていたアルマの手を掴み、ゆっくりと剥がし、足の間に導く。

「まずは……指で、ね、アルマ」

手首に硬くなった股間を押し付けて熱い吐息をかけると、アルマは更に理性をすり減らしてくれた。
しおりを挟む
感想 156

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れているのを見たニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆明けましておめでとうございます。昨年度は色々ありがとうございました。今年もよろしくお願いします。あまりめでたくない暗い話を書いていますがそのうち明るくなる予定です。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

処理中です...