過労死で異世界転生したのですがサキュバス好きを神様に勘違いされ総受けインキュバスにされてしまいました

ムーン

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喧嘩の絶えない金髪兄弟と共に半壊した王城へ戻り、地下の沐浴場で身体を清める。魔樹の樹液が溶け出しているらしい水はやはり心地いい、いつまでも浸かっていたい。

「さっきも言ったけどさ、この城壊れそうで怖いよ。もっと無事な建物あるよな? ここ寝床にするのやめないか?」

「サクは怖がりだね、僕が傍にいてあげる」

左隣にぴったりとネメシスが引っ付く。

「倒壊程度からなら守れると言ってるだろ」

右隣にぴったりとネメスィが引っ付く。

「倒れるの怖いとかじゃなくてさ……いや、怖いけどさ、逆になんで壊れかけの城に住んで平気なんだよ」

「サクはこの島の魔王様になるんだからお城がないといけないよ。このお城そのまま使えば?」

「だから壊れかけてるんだって、嫌だよそんな城……平屋でいいから壊れてない家がいい」

大きめの地震があれば崩れてしまいそうな城だが、ネメスィは「今、雨風が防げる豪華な住処」に夢中になっているようで聞く耳を持たない。

「この街の復興、お城の修理から始めようか」

「それだ! 流石ネメシス」

「この城がそんなに不安か?」

「不安だし、壊れてる家なんて嫌だよ」

ネメスィはどうしてヒビの入った壁が気にならないんだ?

「カタラが体調崩して寝てる時とか崩れてたらどうする気だったんだよ」

ネメスィは何も答えない。少し苛立って彼の方を見れば、過程が目で見て分かるほどに顔色が悪くなっていった。

「…………修理しよう」

「お兄ちゃんってサクよりカタラの方が大事なの?」

「サクは大抵倒壊から守れる誰かの傍に居るが、カタラは一人になるし寝ると無防備だからな」

「ふぅん……で、どっちが大事なの?」

「……そんな話したくない」

俺ともカタラとも言ってしまわなかったのは好感が持てる。そっぽを向いたネメスィのたくましい腕にそっと頭を寄せた。

「僕はサクが何より大切……えっ、ちょっと……なんで? 僕の方来てよサク」

「……俺、別にお前らの一番になりたいとか思ってないよ。みんな仲良くしてて欲しい」

「えっ……ぁ、えっと、ここにいる人達みんないい人だし、誰が一番なんて決められないよ」

「嘘くさいなぁ。でも、そういう心構えでいてくれよ」

ネメシスの細い腕に腕を絡め、そっと引き寄せる。
頼りがいのあるネメスィと細身のネメシスに挟まれ、まさに両手に花──花、でいいのか? 美しいけれど雄々しい花だな。

「サクもみんなの順位決めてないんだよね?」

「いや、夫のアルマがなんだかんだ一番だ。腹立たしいことにな」

「そんな……俺は、態度変えたりしてない……はず。してないよな?」

前世でテレビか何かで知ったが、一夫多妻制の文化では夫は妻達の扱いを平等にしなければならないと聞いた。その決まりを本当に守っているのかは知らないが、大切なことなのは確かだ。

「……アルマが優先されることは多い」

「そ、それは……」

ハーレムの長だなんて意識するのは恥ずかしいし傲慢だと思うけれど、似たようなものになってしまったのだから振る舞いには気を付けなければ。俺が原因になる争いなんてあってはいけない。

「それは?」

「それは……抱く順番とかの話だよな? それは、お前らが勝手にアルマを主軸に色々決めてるんだろ」

「……アルマと俺への態度は違う。アルマと話す時のお前はまるで少女のようだ、愛らしく微笑んでいる……俺の時は違う」

「そんなっ………………ごめん。俺、ネメスィと会えた時も嬉しかったし喜んでたんだけど……そう見えなかったか」

顔を見た途端に「こんなものか」なんて言われてしまったんだ、そりゃ表情が硬くもなる。しかしさっきの出来事だけでネメスィがここまで拗ねるとは考えにくいし、きっと俺が不公平な態度を取っているのが事実なのだろう。

「ごめんな……」

お詫びの気持ちも込めてネメスィの腕に絡みついたが、振り払われてネメスィに抱きとめられた。

「ちょっとお兄ちゃん! サクになんてことするんだよ」

「義務感や詫びで媚びられても嬉しくない」

「面倒くさい男だなぁ……素直にサクのサービス受けておけばいいのに」

ネメシスに撫でられてもネメスィの傷だらけの背中を見て生まれる寂しい気持ちは和らがない。

「ネメスィ……ネメスィは、色んな相談できる友達みたいな感覚もあるんだ。ほら、店に潜入する目に見た目変えた時だって、ネメスィだけに相談したろ?」

「……あぁ、手間のかかる損な役回りばかりだよな」

「信頼してるんだよ。強いし、応用の効く力だし」

「そうか……? うん、まぁ……アルマは、何かと話されていないことか多い」

アルマは蚊帳の外にしてしまうことが多いと俺も分かっている。彼は身体が大きくて強いけれど特殊な力は持っていない。それだけが理由とは言えないが、大きな割合を占めていると思う。

「そうか……信頼の証、か」

「うん。ネメスィ無表情だしさ、多分無意識に真似しちゃうんだ」

「……悪い、妙なことを言った。少し……苛立っててな」

俺は濡れてしまわないようにと頭羽に引っ掛けていた袋を取り、中身を見せた。ネメスィが送ってくれたチョーカーの宝石だ、焦げてはいるが輝きを失ってはいない。

「持って、いたのか……てっきり燃え尽きたと」

「カタラが見つけておいてくれたんだ」

「……そうか、ありがとうな、大切にしてくれて。そしてすまない、目に見えて分かるチョーカーがなくなって気が立ってたんだ……愛されているのかも疑ってしまって。悪かったな」

「ううん、こっちこそごめんね、ネメスィ……」

話しながら向かい合い、互いの首に腕を絡める。自然と唇が重なり、俺達二人は幸福感に満ち溢れ、仲間はずれのネメシスにきっと睨まれた。
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