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教え子に叱られてしまった
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人が来た。水族館という大勢が集まる公共施設のトイレだ、そりゃ人は来る。今まで無人だったのが奇跡だ、あまり人気のない深海魚コーナーの近くだったからだろうか。
「……っ、んっ……ふ、ぅっ……」
根野も流石に腰振りを止めた。隣の個室に一人、手前の小便器に二人居る。楽しそうに話しながら入ってきた、男三人連れで水族館に来て何が楽しいんだか。
「ゔ、うぅっ……!」
腰振りが止まっていても挿入はされたままだ、俺の後孔は勝手に収縮して根野の陰茎をしゃぶる。俺は唇を噛んで口を閉じ、自分の肘に爪を食い込ませて痛みで声を殺す意志を保とうとした。しかし──
「…………ノゾム、入れっぱなし辛いから動いてていい?」
──根野は協力してくれなかった。
「んんんっ……!?」
「しー……ゆっくり動いてあげるから……ね? 静かに、ね……」
根野は俺の膝の裏に腕を通して俺を持ち上げ、扉に押し付けている。扉と自分で挟むようにして俺を持ち上げて犯しているのだ、腰を振れば当然扉がガタガタ鳴る。なのでゆっくりと腰を振り、扉が物音を鳴らさないようにした。根野が出来る気遣いの限界はこの程度だ。
「ん、ゔっ……ふぅっ、ぅうぅうーっ……!」
ゆっくりと腸壁を擦られる。数分の静止で根野の陰茎にすっかり馴染んだ腸壁を、ほぐすようにこねるようにねちっこく刺激する。
「んっ、ゔぅっ……!」
爪を立てた肘の皮が裂ける。唇から血が出ている気がする。隣や手前から聞こえてくる不愉快な排泄音と、緩やかなセックスによるぬちゃぬちゃという淫らな音が耳の奥で混じって狂う。
「イっ……ぐゔぅっ!」
再びの絶頂を果たし、今度こそ俺の意識は飛……ばなかった。コンコン、と扉が叩かれたからだ。
「あの、大丈夫すか? 体調悪い感じっすか? スタッフさんとか呼びます?」
空気が張り詰める。だが、根野が適当に誤魔化してくれるだろうという慢心がどこかにあった。
「……ノゾム、お返事してあげて」
そう耳元で囁かれ、俺は驚きで言葉が出なくなった。腰振りは止めているが、そういう問題じゃない。
「あのー……」
「何? 中で倒れてんの?」
「さぁ……覗く?」
本当に根野は何も言わないつもりなのか? ふざけるなこのイカレ教師、いや元教師か。
「……っ、大丈夫っ! です! 腹が……いや、痔で! あの、呻いちゃって」
腹痛で誤魔化そうと思ったが、腹が痛くて呻いたなんておかしいかと痔にしてみた。不自然ではないだろうか?
「あ、そっすか。なんかすいません」
「い、いえ…………ひぁっ!? ぁ、ゔっ……!」
根野が腰振りを再開した、先程までよりもゆっくりとだが、先程も言った通りそういう問題じゃない。睨みつけると根野は「そろそろイけそうだから」と吐息多めに囁いた。
「ずっ、いまっ……せっ、今、そのっ……出て、てっ……一番痛いとこでぇっ! もっ、恥ずかし、からっ……」
ぬちっ……にちっ……と腸壁を擦られる音が聞こえないように、声を少し大きくした。快感で跳ねる声を必死に誤魔化した。
「あ、は、はいっ、すんませんホント……」
「切れ痔かなー」
「どうでもいいだろ、さっさと行こうぜ」
三人組の男がトイレから出ていき、再び二人きりの時間が訪れる。根野は腰振りを激しく変えていき、果てるのとほぼ同時に俺を絶頂させた。
「イっ……くぅううっ!」
「……っ、はぁ……僕もイった。ふふ……ふふふっ、同時にイけたね、なんか達成感」
萎えた陰茎を抜くと根野は俺を下ろした。だが俺が足腰をガクガクと震わせていて自力で立てないと見ると、根野は俺を便座に座らせた。
「あ、またノゾム俺の服にぶっかけてる」
根野にとってセックス直後、俺に声をかけることよりも、服についた俺の精液を拭うことの方が優先順位が上らしい。
「見た目には分かんないけどちょっと臭いかな」
服の匂いを嗅いだ後、根野はようやく俺に視線を向けて話しかけた。
「ノゾム、さっきのは興奮したねぇ。ノゾムもだろ? ぎゅうぎゅう締め付けてたもんね。痔だってさ、ふふ……今出てるって、ふふふふ」
くすくすと楽しそうに笑っている根野を見て流石に我慢の限界が訪れ、俺は根野の頬を引っ叩いた。
「センセのバカぁっ! なんで人居るのに動くんだよっ、なんでっ、俺が必死に声殺してんのにっ、邪魔ばっかぁ!」
目元と口元を拭い、口元を拭った方の手の甲に血がついているのを見て、やはり血が出るまで唇を噛んでしまっていたのだと理解した。比べるのはよくないと分かってはいるが、思わずにはいられない。レンやセンパイなら俺が唇から血を出していたら自分の服よりも先に心配するし、そもそも唇を噛ませないようにするだろうと。
「バレたらっ、センセ……捕まっちゃうんだよ? 今度こそ……お兄さんが助けてくれるとは限らないもん、お兄さん俺の味方ってわけじゃないんだし……センセが捕まるから、センセのためにダメって言ってんのになんでセンセが邪魔するのぉ……」
根野からの愛情は確かにあるはずなのに、それを疑ってしまう自分が嫌で涙が止まらない。早く「ごめん」と謝って俺を慰めて欲しい、涙を拭って欲しい、俺はチョロいからそれだけで愛情を疑えなくなる。
「嘘つき」
頭を撫でて欲しかったのに、それだけだったのに、根野は俺の頭を殴った。
「僕に痛いことしないって言ったくせに! 叩いた! 痛かった! 嘘つきっ! このっ……よくも!」
何度も殴られて、俺は自分の頭を抱き締めて身を守った。気が済むまで俺を殴って疲れたのか息を荒らげた根野は無言で個室から出ていった。
「…………痛い、なぁ……」
俺は個室の扉を閉め、服を整えながら考えた。撫でられたかったのに殴られるばかりだった根野の幼少期もこんな気持ちだったのだろうと。
「アナルパール……どうしよ、このまま鞄突っ込むのやだな……ビニールないし…………トイレットペーパー巻こっかな」
荷物を片付けながら俺は根野を哀れんだ。幼い頃の根野の気持ちが分かったから、母親と同じ轍を踏んでしまう根野があまりにも憐れだから、殴られたことへの恨みと失望は次第に消えていった。
「センセ……どこ?」
イルカが届けてくれた根野からのプレゼントを抱き締め、鞄をぶら下げ、個室から出るも根野は居ない。
幸せな家庭を望んでいるくせに、撫でられたかったのにのに殴られる悲しさを知っているくせに、俺のことを愛しているくせに、自分の心を今も苛む母親と同じようなことをしている自分自身を、根野は許せているだろうか? 自己嫌悪に苛まれてはいないだろうか? 俺が癒してあげないと。
「センセ……」
まずは叩いてごめんなさいを言って、きっと落ち込んでいるだろうから慰めて、それから、それから──
「…………センセぇ?」
リュウグウノツカイというらしい長い魚の標本を眺める根野を見つけた。
「……センセ」
「あ、ノゾム、おかえり」
根野の様子は至って普通だ。自己防衛本能か何かで俺を殴った記憶を失っているのだろうか、それとも根野自身の意思でなかったことにしようとしているのだろうか、どちらにしても憐れだ、可哀想な人だ、俺が慰めてあげないと。
「ごめんねセンセ、叩いたりして。嘘ついてごめんね。もう二度としない。ごめんね、許して、だいすき」
「…………ノゾム」
俺を見下ろした根野は目を見開き、涙を溢れさせて膝から崩れ落ちた。俺にすがりついて周りを気にせず泣き喚く根野の頭を撫でながら、やはり成長出来ていないのだなと実感する。
「……ごめんねセンセ、大好きだよ、大丈夫だよ、もう二度と……しないから」
もう二度としない。もう二度と、根野に何かをして欲しいなんて思わない。そんなこと思うから俺は根野を叱ってしまった、勝手に期待しておいて裏切られたと怒るなんて最低な行為だ。
「…………ごめんなさい」
俺は自分の最低な行為を反省し、俺が泣かせてしまった可哀想な根野を強く抱き締めた。
「……っ、んっ……ふ、ぅっ……」
根野も流石に腰振りを止めた。隣の個室に一人、手前の小便器に二人居る。楽しそうに話しながら入ってきた、男三人連れで水族館に来て何が楽しいんだか。
「ゔ、うぅっ……!」
腰振りが止まっていても挿入はされたままだ、俺の後孔は勝手に収縮して根野の陰茎をしゃぶる。俺は唇を噛んで口を閉じ、自分の肘に爪を食い込ませて痛みで声を殺す意志を保とうとした。しかし──
「…………ノゾム、入れっぱなし辛いから動いてていい?」
──根野は協力してくれなかった。
「んんんっ……!?」
「しー……ゆっくり動いてあげるから……ね? 静かに、ね……」
根野は俺の膝の裏に腕を通して俺を持ち上げ、扉に押し付けている。扉と自分で挟むようにして俺を持ち上げて犯しているのだ、腰を振れば当然扉がガタガタ鳴る。なのでゆっくりと腰を振り、扉が物音を鳴らさないようにした。根野が出来る気遣いの限界はこの程度だ。
「ん、ゔっ……ふぅっ、ぅうぅうーっ……!」
ゆっくりと腸壁を擦られる。数分の静止で根野の陰茎にすっかり馴染んだ腸壁を、ほぐすようにこねるようにねちっこく刺激する。
「んっ、ゔぅっ……!」
爪を立てた肘の皮が裂ける。唇から血が出ている気がする。隣や手前から聞こえてくる不愉快な排泄音と、緩やかなセックスによるぬちゃぬちゃという淫らな音が耳の奥で混じって狂う。
「イっ……ぐゔぅっ!」
再びの絶頂を果たし、今度こそ俺の意識は飛……ばなかった。コンコン、と扉が叩かれたからだ。
「あの、大丈夫すか? 体調悪い感じっすか? スタッフさんとか呼びます?」
空気が張り詰める。だが、根野が適当に誤魔化してくれるだろうという慢心がどこかにあった。
「……ノゾム、お返事してあげて」
そう耳元で囁かれ、俺は驚きで言葉が出なくなった。腰振りは止めているが、そういう問題じゃない。
「あのー……」
「何? 中で倒れてんの?」
「さぁ……覗く?」
本当に根野は何も言わないつもりなのか? ふざけるなこのイカレ教師、いや元教師か。
「……っ、大丈夫っ! です! 腹が……いや、痔で! あの、呻いちゃって」
腹痛で誤魔化そうと思ったが、腹が痛くて呻いたなんておかしいかと痔にしてみた。不自然ではないだろうか?
「あ、そっすか。なんかすいません」
「い、いえ…………ひぁっ!? ぁ、ゔっ……!」
根野が腰振りを再開した、先程までよりもゆっくりとだが、先程も言った通りそういう問題じゃない。睨みつけると根野は「そろそろイけそうだから」と吐息多めに囁いた。
「ずっ、いまっ……せっ、今、そのっ……出て、てっ……一番痛いとこでぇっ! もっ、恥ずかし、からっ……」
ぬちっ……にちっ……と腸壁を擦られる音が聞こえないように、声を少し大きくした。快感で跳ねる声を必死に誤魔化した。
「あ、は、はいっ、すんませんホント……」
「切れ痔かなー」
「どうでもいいだろ、さっさと行こうぜ」
三人組の男がトイレから出ていき、再び二人きりの時間が訪れる。根野は腰振りを激しく変えていき、果てるのとほぼ同時に俺を絶頂させた。
「イっ……くぅううっ!」
「……っ、はぁ……僕もイった。ふふ……ふふふっ、同時にイけたね、なんか達成感」
萎えた陰茎を抜くと根野は俺を下ろした。だが俺が足腰をガクガクと震わせていて自力で立てないと見ると、根野は俺を便座に座らせた。
「あ、またノゾム俺の服にぶっかけてる」
根野にとってセックス直後、俺に声をかけることよりも、服についた俺の精液を拭うことの方が優先順位が上らしい。
「見た目には分かんないけどちょっと臭いかな」
服の匂いを嗅いだ後、根野はようやく俺に視線を向けて話しかけた。
「ノゾム、さっきのは興奮したねぇ。ノゾムもだろ? ぎゅうぎゅう締め付けてたもんね。痔だってさ、ふふ……今出てるって、ふふふふ」
くすくすと楽しそうに笑っている根野を見て流石に我慢の限界が訪れ、俺は根野の頬を引っ叩いた。
「センセのバカぁっ! なんで人居るのに動くんだよっ、なんでっ、俺が必死に声殺してんのにっ、邪魔ばっかぁ!」
目元と口元を拭い、口元を拭った方の手の甲に血がついているのを見て、やはり血が出るまで唇を噛んでしまっていたのだと理解した。比べるのはよくないと分かってはいるが、思わずにはいられない。レンやセンパイなら俺が唇から血を出していたら自分の服よりも先に心配するし、そもそも唇を噛ませないようにするだろうと。
「バレたらっ、センセ……捕まっちゃうんだよ? 今度こそ……お兄さんが助けてくれるとは限らないもん、お兄さん俺の味方ってわけじゃないんだし……センセが捕まるから、センセのためにダメって言ってんのになんでセンセが邪魔するのぉ……」
根野からの愛情は確かにあるはずなのに、それを疑ってしまう自分が嫌で涙が止まらない。早く「ごめん」と謝って俺を慰めて欲しい、涙を拭って欲しい、俺はチョロいからそれだけで愛情を疑えなくなる。
「嘘つき」
頭を撫でて欲しかったのに、それだけだったのに、根野は俺の頭を殴った。
「僕に痛いことしないって言ったくせに! 叩いた! 痛かった! 嘘つきっ! このっ……よくも!」
何度も殴られて、俺は自分の頭を抱き締めて身を守った。気が済むまで俺を殴って疲れたのか息を荒らげた根野は無言で個室から出ていった。
「…………痛い、なぁ……」
俺は個室の扉を閉め、服を整えながら考えた。撫でられたかったのに殴られるばかりだった根野の幼少期もこんな気持ちだったのだろうと。
「アナルパール……どうしよ、このまま鞄突っ込むのやだな……ビニールないし…………トイレットペーパー巻こっかな」
荷物を片付けながら俺は根野を哀れんだ。幼い頃の根野の気持ちが分かったから、母親と同じ轍を踏んでしまう根野があまりにも憐れだから、殴られたことへの恨みと失望は次第に消えていった。
「センセ……どこ?」
イルカが届けてくれた根野からのプレゼントを抱き締め、鞄をぶら下げ、個室から出るも根野は居ない。
幸せな家庭を望んでいるくせに、撫でられたかったのにのに殴られる悲しさを知っているくせに、俺のことを愛しているくせに、自分の心を今も苛む母親と同じようなことをしている自分自身を、根野は許せているだろうか? 自己嫌悪に苛まれてはいないだろうか? 俺が癒してあげないと。
「センセ……」
まずは叩いてごめんなさいを言って、きっと落ち込んでいるだろうから慰めて、それから、それから──
「…………センセぇ?」
リュウグウノツカイというらしい長い魚の標本を眺める根野を見つけた。
「……センセ」
「あ、ノゾム、おかえり」
根野の様子は至って普通だ。自己防衛本能か何かで俺を殴った記憶を失っているのだろうか、それとも根野自身の意思でなかったことにしようとしているのだろうか、どちらにしても憐れだ、可哀想な人だ、俺が慰めてあげないと。
「ごめんねセンセ、叩いたりして。嘘ついてごめんね。もう二度としない。ごめんね、許して、だいすき」
「…………ノゾム」
俺を見下ろした根野は目を見開き、涙を溢れさせて膝から崩れ落ちた。俺にすがりついて周りを気にせず泣き喚く根野の頭を撫でながら、やはり成長出来ていないのだなと実感する。
「……ごめんねセンセ、大好きだよ、大丈夫だよ、もう二度と……しないから」
もう二度としない。もう二度と、根野に何かをして欲しいなんて思わない。そんなこと思うから俺は根野を叱ってしまった、勝手に期待しておいて裏切られたと怒るなんて最低な行為だ。
「…………ごめんなさい」
俺は自分の最低な行為を反省し、俺が泣かせてしまった可哀想な根野を強く抱き締めた。
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