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第二十八章 神降の国にて晩餐会を

終盤に

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各々の食事の様子や頻発したトラブルの取り繕いに追われる王族たちの様子、そんなものを肴に弱い炭酸の飲料水を飲む。
晩餐会はいつまで続くのだろうか、腹も膨れたしそろそろ疲れてきた。

「……エア様は──」

アルテミスは飽きもせず兄に話しかけている、兄は大した返事はしないというのに。

『ねぇねぇヘル君、暇なの?』

「…………忙しい」

『暇だよね。ボクも暇だからちょっと話そうよ。ボク今かなり困ってるし……帰れるのかなーって』

王と王妃は連れて行かれたのに、どうして彼はここに残っているのだろう。

「……なんで君はお咎めなしなの?」

『子供だから! いやぁ便利だよ美少年って』

確かに幼い子供の見た目はしているが──

『もちろん、それ以外にも理由はある。ボクは砂漠の国の預言者で国王の愛人だ、けれどそれ以前に海を越える占い師でもある。トリとは古い知り合いなんだ』

「とり……?」

『トリニテート・ハイリッヒ。この国の王様だよ、昔ちょっと占ってさぁー』

ナイは皿に大盛りになった生ハムメロンをフォークに刺して僕に差し出す。

『毒も呪いもないよ』

警戒する僕を笑いながらそう言った。先程のスープのようにベルゼブブが反応することはない、僕はフォークを受け取った。

「……ところでさ、ホテプって何?」

『砂漠の国の古代呪術用語で平和とかそんな意味』

「正反対じゃん……」

『知らないよ、王様が勝手に付けたあだ名だし。まぁでも……勘のいい人だよね。ボクの名前、当てたようなものだ』

名前の最初を取ってナイと僕に名乗ったように、王に名前の最後を取って名乗ったのだと思っていたが、どうやら偶然らしい。

『ヘクセ……キミのお兄さんさ、王女様に狙われてる感じ?』

「あぁ、みたいだよ。アルテミスさん見る目ないよ」

ナイは本当に雑談をしに来たのか? 善良な個体なのか? そんな疑問を抱きつつも僕はナイと共に兄達を観察し始めた。

「エア様、ワインは如何ですか?」

『要らない。炭酸ある?』

「お酒でなければ」

『それでいいよ、ちょうだい』

兄は僕が飲んでいるものと同じ炭酸飲料を選ぶ。酒の味も分からず酔えもしない兄は刺激を求めたのだろう。

『……君さ、さっき……僕がスープ飲んだ後、口調変わってたよね?』

「へっ? そ、そんな……聞き間違いです」

『…………僕ね、演技とか嘘とか、そういうの大嫌いなんだよ。心を読む魔法もある、使われたいの?』

兄が事前に警告するなんて──これは、もう使った後だろう。嘘を吐いた上で更にそれを誤魔化すかどうかを確認したいのだ。僕なら誤魔化せば失神するまで殴られる、流石に今ここでアルテミスに手を上げることはないだろうけど、良い結果にはならない。

「……晩餐会だし、初対面だし、少しくらい猫かぶるのは当然でしょ? あんな真似されたら演技抜けるに決まってるじゃない」

『それが君の素?』

「…………ま、そうね。幻滅した? お人形さんみたいな女じゃなくて」

『いや? そっちの方がいいよ』

それは本質から人形のような者でなくてはならないという意味だろうか。兄が従順な者より反発する者を好むなんてありえない。

「へっ? そ、そうなの?」

『うん……? まぁ、そうだけど。何? 僕そんなに人形好きそうに見える?』

「アンタの弟がアンタの好みは人形みたいに従順な女だって言ってたのよ」

僕はそこまで言っていない、僕に責任を押し付けるのはやめて欲しい。

『そう、ヘルが……ふふ、勘違いしてるんだね』

兄の視線がこちらに向く。僕は慌ててナイの方に首を振った、聞き耳はしっかりと立てたまま。

『……そんなに見つめられたら照れちゃうにゃん』

「…………気持ち悪いこと言わないでよ」

『うわ酷い、傷付く』

僕は兄がアルテミスに向き直ったのを確認し、視線を戻した。

『従順なのが好きなのはヘルだけだよ。ううん、違うね。ヘル以外の人間がどんな性格してようとどうでもいい、かな?』

想い人に面と向かって「弟以外どうでもいい」と言われるのはどんな気分だろう。自分に当てはめて──アルだとして、アルがカルコス以外どうでもいいと──あぁダメだ、刺してしまった。

『……キミ怖くない?』

「人の妄想覗かないでくれる?」

覗けるのか、なんて答えが分かり切った質問は必要無い。

「えっと……それじゃあ、アタシみたいにちょっと乱暴な女の子でも、いいの?」

『いいよ、どうでも、ね』

「…………もしかして、女の子に興味無いの?」

『無いよ? 男だろうと女だろうと関係ない。僕はヘルにしか興味無い』
 
どうしてそうハッキリ言ってしまうのか、僕と血が繋がっているとは思えない潔さだ。

『なーんか今の言い方だとさ、禁断の兄弟恋ぁ痛っ!? フォーク持ったまま殴ったね!? チクってしたぁ!』

刺さなかった事を感謝して欲しい。それでなくても殺意を抑えるのが大変だというのに。

「……無い、の?」

『無いね』

「…………少しも?」

『少しも』

「デートしたいとかも?」

『そんなの時間の無駄だよ』

せっかく「兄はやめておけ」と言いたい気持ちを我慢してアルテミスに夢を見せていたのに、引っぱたいて夢から覚ますような真似をされるなんて──つくづく思う、練った計画ほど上手くいかないと。

「恋愛したいとかないの!?」

『だからないって』

「け、結婚とか……子供とか、は?」

『面倒臭いね。子供なんて、僕より優秀でもそうでなくても殺しちゃいそうだし』

自分より優秀な者なんて許せない、自分の血を引いておいて優秀でないなんて許せない、と言ったところか。それから考えれば僕は魔法を扱えても同じ目に遭っていたのかもしれない。

『まぁ、そんなに僕の遺伝子が欲しいならあげてもいいけど? なんて、そんな台詞君は嫌いだよね』

「…………ええ、嫌いよ。大っ嫌い」

『知ってた。でもね、こんな言い方でも寄ってくる子、かなり居るんだよ。君みたいな子なかなか居ない』

「……最低ね」

『冷めてくれたかな? 悪いね、ヘルの友達をヘルの目の前で振る訳にはいかないだろ? 君の方から嫌ってくれて助かったよ』

初めから知っていたのか? いや、当然か。兄は心を読む魔法も扱えるのだから。
僕がアルテミスに紹介しろと言われていたことも、アルテミスの恋心も、分かっていて当然だ。

「…………希少鉱石の国でアンタに化けた人形を見て、優しそうで格好良くて……いいなって思った。ダメね、アタシ。にぃのおかげで男子と関わってこられなかったから、アンタの本性見抜けなかった」

『責任転嫁は良くないよ。それに、優しそうってのは間違いじゃない。僕は優しいお兄ちゃんだからね』

「弟にだけは、って事ね。アイツがアンタの紹介渋ってた訳が分かった……はぁ、ホント最悪」

アルテミスは結った髪を乱雑に解き、毛先にかけて薄くなっていく金色の髪を振り乱す。丁寧に繊細に編み込まれていたせいか、揺れる髪には緩やかなウェーブがかかっていた。

『キミに優しかったっけ?』

「……殴ってる時以外はかなり」

『ここに来るまで結構雑に扱われてたみたいだけど』

「…………見てたの? 今視たの? やめてよね」

ずっと見張られているにしても記憶を覗かれているにしても、同じくらい不愉快だ。

「計画がパァね、アンタ誰か紹介しなさいよ」

『……オキュロフィリアのダンピール、酒乱の鬼に、女装してる鬼、喋るライオンにトラ、無口なバカ、これくらいなら紹介出来るよ』

「ろくなのが居ないじゃない」

『高望みする前に自分を見た方がいいよ?』

アルテミスは口の悪さ以外に欠点はないと思う。見た目の好みは人それぞれだけれど。

『ボクの知り合い今度連れてきてあげようかなぁ』

「歓迎の証に弓の斉射するよう言っておくよ」

『わぁ酷い。それで死なない奴ならいいってことだね?』

不憫な事にアルテミスはしばらくの間まともな出会いはできなさそうだ。
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