家政夫くんと、はてなのレシピ

第二章 五品目 ”はてな”を包んで

13 今日のメニューは

　竹志と野保、そして天の3人は急いで昼ご飯を食べ終えると、いつものスーパーに買い物に行った。
　野保家では奈々たちの両親と奈々、そして晶が留守番をしている。天にも留守番を勧めたのだが、夕飯の買い物と聞きつけると、行くと言って聞かなかったのだ。
　一緒に留守番をするなら野保よりも晶の方がいい。皆の意見が一致し、晶の車を野保が運転して、こうして買い物に来ることになった。
「今日はそんなに量が多くなりそうか？」
「7人分ですしね。最初の予定からは変更になりましたし」
「ほぅ。ちなみに当初の予定は何だったんだ？」
「オムライスです。前に天ちゃんから聞いてたものの作り方に、ちょっと思い当たることがありまして……でも、今日の所は置いときます」
「いいのか？　もしかしたら……」
　野保はそこから先を口にしなかった。天の視線がこちらに向いていることを考え、控えた。
　夕飯を食べたら、奈々も天も、両親と一緒に帰ることになり、お別れしなくてはいけないかもしれない。
　まだ、その話題については決まっていないのだ。
「後からレシピを伝える手段はいくらでもありますから。今日の夕飯は、それよりもっとピッタリなものにしようと思って」
「ピッタリ？」
「僕の父さんが、よく作ってたメニューなんです。なんとなく、今の奈々ちゃんたち家族にも喜んでもらえるんじゃないかと思って」
「……そうか。それは、楽しみだな」
　野保は短く告げて、先を促した。口の端には、微かに笑みが浮かんでいる。
　竹志の決断を、尊重してくれているのだとわかった。
「それで？　買い足さないといけないものは何なんだ？」
「えーとですね……」
　必要なものは、あらかじめ書き出しておいた。野保も天も、竹志の持つメモを覗き込み、店内を見回した。
「白菜はあっちだな」
「お肉はあっちやんな」
「うん、皮も同じところに。あとは……」
　メモに書かれている材料が、いつになく多い。7人分といっても、種類が多くて野保は困惑した。
　だが竹志はメモに書かれてあるすべてのものすべてを手に取る。メモの上の方には、メニューに必要なものだとわかる材料が書かれているのだが、下半分に書かれたものには、野保も首を傾げていた。
　竹志があまりにも迷いなくぽいぽい放り込んでいくので、野保が途中で怪訝な顔で尋ねるのだった。
「なぁ泉くん、本当に作るのか？　さっき言っていた……」
「はい、もちろん」
「しかしこれは……いったい何になるんだ？」
「お互いに優しくなれる、魔法のメニューです」
「『お互いに優しく』？　これがか？」
　竹志は自信たっぷりに頷く。　　
「はい、僕の父さん直伝であり、自信作でもある『はてなの餃子』です」