お飾り王妃の受難〜陛下からの溺愛?!ちょっと意味がわからないのですが〜

湊未来

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前編

散財家の裏の顔

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 あの華美なドレスや装飾品の行方を調べさせて数日、手元に届いた調査書を見つめ、ため息を溢す。

 やはり、私の力ではこれ以上の調査は難しい。

 今のお飾り王妃の立場では使える者達も限られてくる。流石に、市井の闇の部分の調査となると手詰まりだった。

 ミーシャ様のドレスは、予想通り市井の闇ルートで売買されている事が分かった。ただ、不思議な事に一般的な貴族相手の金貸しや装飾品の買取り業者を介していないのだ。どうやら実体の分からない、とある商会へと毎回持ち込まれているようなのだが。

「ルアンナ、このミルガン商会って……」

「はい。表向きは、若い女性相手の小物やアクセサリー、化粧品などを売る店をいくつか経営している商会ですが、この報告書を見る限りでは裏の顔もありそうですね」

「ただ、裏で何をやっているかまでは分からないと」

「えぇ。しかし、若い女性相手の商売だけで、あれ程大きな商会にまで成長するとも思えませんしね。しかも、商売相手は平民の女性達ですから、使えるお金にも限りがございます」

「確かにそうね。貴族相手の商売をしているって事もないの?」

「商会便覧を見た限りでは、ありませんね。貴族相手に商売をする時は、申請が必要になりますから。店先にも許可証は掲示されていませんでした」

 ルザンヌ王国では、平民相手の商売と貴族相手の商売をする時では、売り上げ金に対する税率が変わるため、貴族相手の商売をする店は申請許可が必要となる。そして、申請許可が下りた店は、国から許可証が発行され、それを店先に掲示する義務が課せられている。

「そう。つまり平民相手の商売を隠れみのに、裏で貴族相手の商売をしている可能性があるという事ね」

「はい、その可能性が高いかと」

 しかも、公爵夫人御用達の闇商会だとすると、簡単に尻尾を掴ませるとも思えない。だから、調査書には実体不明の商会と書いてあったのね。

「厄介ね。ミーシャ様は、闇商会を使ってドレスや装飾品を売りさばき、お金にしていると」

「いいえ、違います。バレンシア公爵夫人は、使用済みのドレスや装飾品をミルガン商会に持ち込んでいるだけです。お金には替えていません」

「えっ⁈ 持ち込んでいるだけで、お金に替えていないって、どういう事?」

「つまり、公爵夫人はドレスと装飾品をミルガン商会に横流ししているだけという事です」

「……益々、意味がわからないわ。横流しだけして、お金を受け取らなければミーシャ様のふところは潤わないわよ。公爵家のお金だけ、どんどん目減りしていくだけじゃない。そんな事続けていれば、公爵家が破綻はたんすると、流石に馬鹿でも気づくでしょう」

 表立ってドレスや装飾品をお金に換金する事が出来ないから、闇ルートで売り捌いていると考えていたが、話はそう単純ではないのかもしれない。

「ミーシャ様が個人的にミルガン商会からお金を借りているとかもないのよね?」

「はい、それは無いかと」

 バレンシア公爵家の家計を握っているのはミーシャ様だ。自身の思い通りに公爵家のお金を使える立場にある者が、わざわざ闇商会からお金を借りるなんて事はしないだろう。もし仮に、公爵家の財政がすでに破綻していて、闇ルートでお金を借りたとしても、夜会のたびに、衣装を新調するなんて事は出来ない。

「では何故、ミーシャ様は横流しなんてしているのかしら?」

「申し訳ありません。そこまでの情報を探る事は不可能でした」

「いいのよ。私の力が弱いせいで貴方達に無理を強いてしまっているわ。本当、ごめんなさい」

「ティアナ様……
決してご自身を卑下ひげなさらないでください。全ては、あのヘタレ陛下のせいで御座いますから!」

「ル、ルアンナ……ヘタレって……」

「あぁ、ついつい心の声が。何でもございませんのよ。そんなことより、ご自身を責める癖そろそろお辞めくださいね。わたくし達、侍女は皆、ティアナ様の下で働ける事を誇りに思っております。貴方様が、それを否定される事だけはお辞めください」

 ルアンナの言う通りだ。

 力がない事も、発言力がない事も、お飾りと言う立場も、自身が招いた結果なのだ。それを変える努力もせずに、お飾りとただ嘆くばかりで今まで私は何をやって来たのだろうか。お飾りという立場に逃げていただけなのではないだろうか。

 自分の生きたいように生きると誓ったあの日、私は侍女ティナという自由に生きる、もう一人の自分を手に入れた。

 しかし、王妃ティアナは何も変わっていない。

 お飾りという立場に甘んじて何も変わろうとはしなかった。その結果が、したってくれる仲間達に過度な負担をかける現状を招いてしまった。

 王妃ティアナも侍女ティナも、どちらも私なんだ。

 今こそ、王妃ティアナが変わる時なのかもしれない。

「ルアンナ、ありがとう。わたくしも変わらねばならないわね。メイシン公爵夫人に会って来るわ。手配をよろしくね」

「承知致しました」

 部屋を退室していくルアンナを見送り、考える。

 バレンシア公爵夫人の裏の顔を知っているのは、彼女しかいないと。
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