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第四章
47『ガムリの治療と【劣化版アムリタ】』
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アンナリーナがガムリの元に戻ると、アラーニェがミルク粥を食べさせているところだった。
「お腹すいているだろうけど今夜は軽めの食事でお願いね。
この後、薬湯を飲んで眠ってもらうわ」
「はい、よろしくお願いします」
アラーニェに何か言われたのだろうか、やけに大人しい。
だか、ここは彼女に任せて良さそうなので部屋に引き上げる事にする。
「熊さん……」
「おまえがあいつを保護したと感づいているものはいないと思うが、明日も出発までは外に出るな。
出来ればセトもこっちに残した方がいい」
あの時、見られていないとはいえ、2人があのあたりを散策していたのは事実だ。工房や店を冷やかしているので、アンナリーナたちの事を覚えているものはいるだろう。
「わかった」
出来ればもう少し買い物したかったアンナリーナだが、危険を犯してまですることではない。
まだ、陽も明けきらぬ早朝。
アンナリーナは自分では持ちきれないほどの荷物を持って、ガムリのテントに向かった。
助手はアラーニェとアマルだ。
「ガムリ、ガムリ起きて」
暗かったテント内を魔導ランプで照らし、アンナリーナはガムリを揺すり起こす。
眠くなる薬草の入った薬湯はよく効いたようだ。
「……んぁ? 俺は? ここはどこだ?」
「おはようガムリ。
これから治療を始めるから、これを飲んで欲しいの」
アラーニェの手で口許に持っていかれたのは鎮痛薬だ。これは炎症を抑える効果もある。
ガムリが飲み干したのを見届けてから、アンナリーナは今回使うポーション類を取り出した。
「リーナ様、それでは包帯を解いていきます」
血の滲んだ、右手の包帯を解いて傍らのトレーに入れていく。
そして用意していた桶に肘下から先を入れてポーションをかけ、洗い始めた。
「ふふ、懐かしい。
セトもこうしてトレーに浸けて治療したっけ」
昨日運び込んだ時に血や泥の洗浄は済ませてある。
これから始める治療は、砕けた骨を元に戻し、神経を含む組織を正常に戻す事なのだ。
そして今は【特級ポーション】を使用して、ガムリの右手の “ 再生 ”に掛かっている。
「アラーニェ、ガムリにこのポーションを飲ませてください」
今回、大量に用意したポーションの中で、瓶の様式が違うものが木箱丸々一箱分ある。
まるで香水瓶のような、その赤い瓶は普通のポーション瓶の約半分ほどの大きさしかない。
これは幻の万能ポーション……死人すら生き返らせると言い伝えられた【霊薬アムリタ】の劣化版である。
現在どうしても手に入らない素材を代替品に置き換えて、アンナリーナが作り上げた、今代最高の回復ポーションである。
実はアンナリーナ、このポーションを人体で試してみたかった。
そんな中現れ、拾ってきたこのガムリはアンナリーナにとって僥倖であったのだ。
その最高ランクポーションを湯水のごとく使用し、高ランクの治癒魔法を使って、ガムリの右手は砕かれた骨や潰れた肉が見事に再生し、ハンマーだこや火傷の痕すら残っていない。
「ねえ、ちょっと手を動かしてみて?」
目にしたことはなかったが、その痛みや動かす事が出来なかったことから、散々たる状態だったのだろうと想像がつく。
ガムリは手のひらに力を込め、まずは指を握り込んでみた。
「動く……」
「うん、一本ずつ動かしてくれる?」
親指、人差し指、中指、薬指、小指と順番に動かしてみて……手が震える。
「どうした?痛いの?」
「俺の手……俺の指」
「上手くいったようだね。
次は目に取り掛かるよ。その前にもう一本ポーションを飲んでくれる?」
劣化版とはいえ【アムリタ】は奇跡の薬だった。
アンナリーナの治癒力と共に完全に破裂した眼球を再生させ、傷を負った眼球を癒した。
本来なら視力など戻るはずのない状況だったガムリの視力を完全に治癒した【アムリタ】の威力、これがもし完全なものなら、言い伝えの通り死者を蘇らせても驚かないだろう。
「灯りを落とすね。
ゆっくりと目を開けてくれる?」
ガムリはその言葉に従い、ゆっくりと目を開けていく。
すでに瞼越しに明かりを感じていた。
「痛い? 大丈夫?」
目を開けることによってそのあとの事、もしも見えなかったらと考えるとガムリは中々決心出来ないのだろう。
薄暗いテントの中、辛抱強く待ったのちガムリが目を開けるまでには少々の時間を要した。
「お腹すいているだろうけど今夜は軽めの食事でお願いね。
この後、薬湯を飲んで眠ってもらうわ」
「はい、よろしくお願いします」
アラーニェに何か言われたのだろうか、やけに大人しい。
だか、ここは彼女に任せて良さそうなので部屋に引き上げる事にする。
「熊さん……」
「おまえがあいつを保護したと感づいているものはいないと思うが、明日も出発までは外に出るな。
出来ればセトもこっちに残した方がいい」
あの時、見られていないとはいえ、2人があのあたりを散策していたのは事実だ。工房や店を冷やかしているので、アンナリーナたちの事を覚えているものはいるだろう。
「わかった」
出来ればもう少し買い物したかったアンナリーナだが、危険を犯してまですることではない。
まだ、陽も明けきらぬ早朝。
アンナリーナは自分では持ちきれないほどの荷物を持って、ガムリのテントに向かった。
助手はアラーニェとアマルだ。
「ガムリ、ガムリ起きて」
暗かったテント内を魔導ランプで照らし、アンナリーナはガムリを揺すり起こす。
眠くなる薬草の入った薬湯はよく効いたようだ。
「……んぁ? 俺は? ここはどこだ?」
「おはようガムリ。
これから治療を始めるから、これを飲んで欲しいの」
アラーニェの手で口許に持っていかれたのは鎮痛薬だ。これは炎症を抑える効果もある。
ガムリが飲み干したのを見届けてから、アンナリーナは今回使うポーション類を取り出した。
「リーナ様、それでは包帯を解いていきます」
血の滲んだ、右手の包帯を解いて傍らのトレーに入れていく。
そして用意していた桶に肘下から先を入れてポーションをかけ、洗い始めた。
「ふふ、懐かしい。
セトもこうしてトレーに浸けて治療したっけ」
昨日運び込んだ時に血や泥の洗浄は済ませてある。
これから始める治療は、砕けた骨を元に戻し、神経を含む組織を正常に戻す事なのだ。
そして今は【特級ポーション】を使用して、ガムリの右手の “ 再生 ”に掛かっている。
「アラーニェ、ガムリにこのポーションを飲ませてください」
今回、大量に用意したポーションの中で、瓶の様式が違うものが木箱丸々一箱分ある。
まるで香水瓶のような、その赤い瓶は普通のポーション瓶の約半分ほどの大きさしかない。
これは幻の万能ポーション……死人すら生き返らせると言い伝えられた【霊薬アムリタ】の劣化版である。
現在どうしても手に入らない素材を代替品に置き換えて、アンナリーナが作り上げた、今代最高の回復ポーションである。
実はアンナリーナ、このポーションを人体で試してみたかった。
そんな中現れ、拾ってきたこのガムリはアンナリーナにとって僥倖であったのだ。
その最高ランクポーションを湯水のごとく使用し、高ランクの治癒魔法を使って、ガムリの右手は砕かれた骨や潰れた肉が見事に再生し、ハンマーだこや火傷の痕すら残っていない。
「ねえ、ちょっと手を動かしてみて?」
目にしたことはなかったが、その痛みや動かす事が出来なかったことから、散々たる状態だったのだろうと想像がつく。
ガムリは手のひらに力を込め、まずは指を握り込んでみた。
「動く……」
「うん、一本ずつ動かしてくれる?」
親指、人差し指、中指、薬指、小指と順番に動かしてみて……手が震える。
「どうした?痛いの?」
「俺の手……俺の指」
「上手くいったようだね。
次は目に取り掛かるよ。その前にもう一本ポーションを飲んでくれる?」
劣化版とはいえ【アムリタ】は奇跡の薬だった。
アンナリーナの治癒力と共に完全に破裂した眼球を再生させ、傷を負った眼球を癒した。
本来なら視力など戻るはずのない状況だったガムリの視力を完全に治癒した【アムリタ】の威力、これがもし完全なものなら、言い伝えの通り死者を蘇らせても驚かないだろう。
「灯りを落とすね。
ゆっくりと目を開けてくれる?」
ガムリはその言葉に従い、ゆっくりと目を開けていく。
すでに瞼越しに明かりを感じていた。
「痛い? 大丈夫?」
目を開けることによってそのあとの事、もしも見えなかったらと考えるとガムリは中々決心出来ないのだろう。
薄暗いテントの中、辛抱強く待ったのちガムリが目を開けるまでには少々の時間を要した。
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