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第四章
46『ガムリの怪我の理由』
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ガムリというそのドワーフは、若手としてたった一人、その年の10人衆のひとりに選ばれ、ありていに言えば調子に乗っていた。
10人衆と言うのは、東部工業都市ランブエールの鍛治ギルドで、前年度の売り上げが高かった順に選ばれる、名誉あるランキングである。
それは彼がたまたま、装飾過多な一振りの剣をオークションに出品した事から始まった。
その時たまたま、競りが紛糾し思いもよらない高値がついた事が原因で大金を手に入れ……有名人になったのである。
そして、王家に納品する宝剣の依頼を受けた鍛治ギルドから、候補者として選ばれ、ついに周囲の妬みが爆発した。
ガムリは拉致され、リンチを受け……放置された。
大切な目と右手を潰された彼は、アンナリーナが発見した時、ほぼ死にかけていたのだ。
「私はリーナ。薬師です。
あなたは今、目と右手に重篤な怪我を負っています」
「右手……俺の手は……?」
起き上がろうと足掻くドワーフを、アンナリーナは慌てて制する。
「待って、待って! 今起きちゃダメ!
ちょっと落ち着いて!
ねぇ、あなたお名前は?」
女の子の声と柔らかな感触、そして甘やかな香りにガムリの動きが止まる。
「俺は……俺の名はガムリ。
ランブエールの鍛治士だ。
あんたが助けてくれたのか?
……何と礼を言っていいのか」
「うんうん、それは怪我が完全に治ってからね。
それでね、これから軽く食事をしてもらって仮眠をとってもらう。
そのあと治療を始めるから起こすと思うけど」
「わかった……お願いします」
リーナが宿の食堂に顔を出すと、テオドールの他にタイニスとアルバインがテーブルを囲んでいた。
「リーナさん、ちょうどよかった。
今、彼らに話していたんだが、滞在が少し伸びそうなんだ。
明朝の出発が少し伸びて、午後には出発出来ると思うんだが」
タイニスの商談が延びているらしい。
朝一番で最後の話し合いをして、そのあと荷物を積み込み、出発するそうだ。
アンナリーナにとっては朗報である。
この後、真夜中から治療を始めようとしていたアンナリーナ自身の負担も減る。
「わかりました。午後からですね?」
アンナリーナはテオドールに目配せした。
「じゃあ俺たちはもう引き上げさせてもらう」
立ち上がったテオドールがアンナリーナをエスコートするように付き添って駐馬車場に向かっていく。
「おやすみなさい」
「なんつーか、過保護と言うか溺愛?と言うか……」
なんの気なしにサルバドールが呟いた言葉に、爆弾が返ってきた。
「そりゃあそうだろ。
あの歳で幼妻だ、可愛くてしょうがないだろうよ」
「幼妻ァ?!」
サルバドールは椅子をひっくり返す勢いで立ち上がった。
その目は大きく見開かれ、今彼らが向かった廊下を見つめている。
「なんだ、知らなかったのか?
あいつら正式に結婚してるぞ?」
「犯罪だ……犯罪だろう?」
ふるふると震えるサルバドールはまるで呪いの呪文のように呟いている。
「あの子はちゃんと成人してるぞ?
今は王都の魔法学院に在学中だが、最近彼女を追ってテオドールが王都での所属を決めたんだ。
こちらとしてはホクホクだな。
リーナの方もハイレベルな錬金薬師だしな」
「錬金薬師?」
「それは本当ですか?!」
タイニスが食いついてくる。
「てっきり従魔士だと思っていました」
「あの子の職種は薬師だ。
サブジョブはテイマーかもしれんな」
アンナリーナのギルドカードはシンプルだ。
必要最低限の事が常識的に偽装され、記されている。
「色々、規格外だがあまり詮索しない方がいい。
タイニスさんも、これから取り引きをしたいなら、一歩引いて付き合った方がいいですよ」
わざわざ言われなくても、タイニスは十分理解している。
10人衆と言うのは、東部工業都市ランブエールの鍛治ギルドで、前年度の売り上げが高かった順に選ばれる、名誉あるランキングである。
それは彼がたまたま、装飾過多な一振りの剣をオークションに出品した事から始まった。
その時たまたま、競りが紛糾し思いもよらない高値がついた事が原因で大金を手に入れ……有名人になったのである。
そして、王家に納品する宝剣の依頼を受けた鍛治ギルドから、候補者として選ばれ、ついに周囲の妬みが爆発した。
ガムリは拉致され、リンチを受け……放置された。
大切な目と右手を潰された彼は、アンナリーナが発見した時、ほぼ死にかけていたのだ。
「私はリーナ。薬師です。
あなたは今、目と右手に重篤な怪我を負っています」
「右手……俺の手は……?」
起き上がろうと足掻くドワーフを、アンナリーナは慌てて制する。
「待って、待って! 今起きちゃダメ!
ちょっと落ち着いて!
ねぇ、あなたお名前は?」
女の子の声と柔らかな感触、そして甘やかな香りにガムリの動きが止まる。
「俺は……俺の名はガムリ。
ランブエールの鍛治士だ。
あんたが助けてくれたのか?
……何と礼を言っていいのか」
「うんうん、それは怪我が完全に治ってからね。
それでね、これから軽く食事をしてもらって仮眠をとってもらう。
そのあと治療を始めるから起こすと思うけど」
「わかった……お願いします」
リーナが宿の食堂に顔を出すと、テオドールの他にタイニスとアルバインがテーブルを囲んでいた。
「リーナさん、ちょうどよかった。
今、彼らに話していたんだが、滞在が少し伸びそうなんだ。
明朝の出発が少し伸びて、午後には出発出来ると思うんだが」
タイニスの商談が延びているらしい。
朝一番で最後の話し合いをして、そのあと荷物を積み込み、出発するそうだ。
アンナリーナにとっては朗報である。
この後、真夜中から治療を始めようとしていたアンナリーナ自身の負担も減る。
「わかりました。午後からですね?」
アンナリーナはテオドールに目配せした。
「じゃあ俺たちはもう引き上げさせてもらう」
立ち上がったテオドールがアンナリーナをエスコートするように付き添って駐馬車場に向かっていく。
「おやすみなさい」
「なんつーか、過保護と言うか溺愛?と言うか……」
なんの気なしにサルバドールが呟いた言葉に、爆弾が返ってきた。
「そりゃあそうだろ。
あの歳で幼妻だ、可愛くてしょうがないだろうよ」
「幼妻ァ?!」
サルバドールは椅子をひっくり返す勢いで立ち上がった。
その目は大きく見開かれ、今彼らが向かった廊下を見つめている。
「なんだ、知らなかったのか?
あいつら正式に結婚してるぞ?」
「犯罪だ……犯罪だろう?」
ふるふると震えるサルバドールはまるで呪いの呪文のように呟いている。
「あの子はちゃんと成人してるぞ?
今は王都の魔法学院に在学中だが、最近彼女を追ってテオドールが王都での所属を決めたんだ。
こちらとしてはホクホクだな。
リーナの方もハイレベルな錬金薬師だしな」
「錬金薬師?」
「それは本当ですか?!」
タイニスが食いついてくる。
「てっきり従魔士だと思っていました」
「あの子の職種は薬師だ。
サブジョブはテイマーかもしれんな」
アンナリーナのギルドカードはシンプルだ。
必要最低限の事が常識的に偽装され、記されている。
「色々、規格外だがあまり詮索しない方がいい。
タイニスさんも、これから取り引きをしたいなら、一歩引いて付き合った方がいいですよ」
わざわざ言われなくても、タイニスは十分理解している。
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