魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん

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第二章

58『結界と異世界版卵酒(?)』

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その頃フランクは、外で馬の世話をしていた。
 アンナリーナがテントに入ってすぐに彼も、水や飼葉の用意をする為に飛び出していたのだ。

 そこにザルバとアンナリーナがやって来る。
 ザルバは万一に備えて【魔獣よけの香】を馬車の中に移した。
 御者台も一応覆いをかけて固定していく。
 アンナリーナは馬たちに【回復】をかけて、首筋を撫でてやった。

「【結界】は、雨風と音は防げると思うけど、光は無理だよ?
 雷、驚かない?」

「餌が済んだら最後に頭巾をかぶせるから大丈夫だ。
 いつ【結界】を張るんだ?」

 アンナリーナは空を見上げる。

「あともう少しだね。
 そっちもなるべく早く終わらせて」

「おう、軽くブラシかけたら中に入るわ」

 そのあとアンナリーナはマチルダを誘って所用に行く。
【異世界買物】で携帯トイレを買う事も考えたが、ゲルトに馬車の裏側に穴を掘っておいてもらう。
 ……それを使うことのないよう祈るばかりだ。

 次はキャサリンの周りを覆って小規模な【結界】を張り、音声を遮断してやる。これで少々騒いでも安眠できるだろう。

「何かお手伝いできるかしら」

 昨日のことなど嘘のように元気なマチルダが、アンナリーナにとって力強い言葉をかけてきた。

「ありがとうございます。
 皆に食器の用意をするよう、言ってもらえますか?
 え……っと、スープ用の深皿とお皿とスプーンとフォーク。
 あとはコップかな。
 急だったから大したものはできなかったけど」

 アンナリーナは魔導コンロを出して、先ほど仕込んだスープの仕上げを始めた。
 戻ってきたザルバやフランクの手を【洗浄】する。
 そしてアンナリーナはドアから外を覗いた。
 すっかり闇に包まれたあたりは、時折まだ遠い稲妻に照らされて、姿を晒す。
 アンナリーナは馬たちと乗り合い馬車を思い浮かべ、声を出さずに唱えた。

「【最上級、結界】」

 この時外側から見れば、一瞬淡く光って見えただろう。
 そのまま何事もなかったように夕食の準備を続ける彼女の、魔力の多さに驚愕する。

「さあ、フランクにも手伝ってもらうよ。ザルバさんはお疲れ様……準備が調うまで休憩していて?」

「ああ、嬢ちゃんありがとう」

 ゲルトがすべての窓を閉めて固定し、最後にドアを閉めて鍵をかけた。
 これで灯りはアンナリーナの魔導燈だけになったが、明るさを強くしたので問題ない。


「これからスープを配ります!
 量的にはたっぷりあるけど、男の人にはちょっと軽いかもしれないので、パンは各自持ってるものでお願いします」

 まずは深皿を持った乗客たちが並ぶ。
 元鉱夫のキンキとジンガが先を争うように先頭に立ち、皿を差し出した。
 育ちの良いグスタフやロバートは大人しくそのあとに続いている。

「量はたっぷりあるから。
 お代わりもできるよ」

 8人に給餌しても、まだ半分以上残っている。
 次にアンナリーナはアイテムバッグから次々と鍋や皿を取り出し始めた。

「ちょっとずつ残っていた料理を出すよ」

 まず出てきたのは、先日【醤油】を手に入れたあとに、試しに作ってみたトサカ鳥のモモ肉とゆで卵の甘辛煮。
 作っているだけでお腹がいっぱいになってしまったので、アンナリーナもまだ食していない。
 それを魔導コンロに据えた。

「フランク、ちょっと手伝って!
 マチルダさん、どうもありがとう。
 もう座って、召し上がって?」

 ふつふつと煮込まれた甘辛煮を、その鍋ごと出した途端、男たちが群がった。アンナリーナの作るものが珍しいものだと聞いていた乗客たちの食いつきが凄まじい。

「あらら……」

 イゴルのところで手に入れた加工品は使いたくない。
 だからアンナリーナはゲルトに聞いてみた。

「肉……足らないかなぁ?」

 バッグからトマトとアスパラガスのサラダを取り出し、マチルダに渡す。
 アボガドと水に晒した薄切り玉ねぎ、そしてハムをマヨネーズで和えたもの。それに醤油を少しだけ落とし、混ぜてまた、マチルダに渡した。

「今のは私の分を残しておいてね」

 次に出したボウルを見てフランクが不満げな顔で睨んできた。

 ゆで卵のポテトサラダ。
 彼の大好物だ。
 そしてハムポテトサラダの入ったボウルを出した時、フランクが悲鳴をあげた。

「そんなに好きなの?
 また作ってあげるから皆んなに回して。こら、どれだけ取ってんのよ!」

 皿に山盛り取り分けてからグスタフに渡す。

「これだけあれば大丈夫だろう。
 各自持っているパンを食べれば良いし」

 最後にアンナリーナは2つの水差しを【ウォーター】の水で満たし、床に置いた。


 やはりよく食べるのは護衛の2人とキンキとジンガだ。
 スープの中にパスタを入れてよかったとアンナリーナは安堵した。


「ザルバさん、ちょっと……」

 入り口に近い隅にザルバを招いて、アンナリーナはこの後、出そうと思っているものの事を聞いてみた。

「旅の間、宿屋以外では原則飲酒禁止だとわかっているけど……薬酒の類もだめですかね?
 風邪予防に飲んでもらおうと思っているんですが」

「それは酒精は強いのか?」

「私でも飲める程度、だけど」

「じゃあ、大丈夫だろう」

 ザルバとの話が終わり、アンナリーナがまた、魔導コンロの前に陣取り、材料を取り出し始める。

 まず、鍋にミルクを入れ、沸騰させないように温める。
 そのあと別の鍋にバターと蜂蜜をたっぷりと入れ、ローヤルゼリーも少し落とす。
 あとはそこにミルクを注ぎ入れ【異世界買物】で購入したラム酒を入れて出来上がり。
 これは日本で言うところの卵酒のようなもので、風邪を引き始めのアンナリーナに老薬師がよく作ってくれたものだ。

「これは風邪を予防する飲み物です。
 カップに一杯飲んで休んで下さいね」

 一口飲んだ男たちがびっくりしてアンナリーナを見つめたのは、無理もない事だった。

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