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第二章

5『鍋と怪獣大戦争』

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正直、この居心地の良い場所から動きたくなかったが、このままでは何も進まない。

「色々不足はあるけど、そろそろ出発しようかな」

 もちろんここは将来の拠点候補として地図に記入してある。
 アンナリーナの飛行の能力があれば、いつでも戻ってこれるだろう。
 この森から、隣国メンデルエタに向かうコースを確かめながら、一番近い村、または町を探した。

「私って、案外物知らずなんだよね。
 あの村にいるぶんにはそれでもよかったけど、これからはまずいんじゃない?」

 家族からは教育放棄され、老薬師は浮世離れしていた。
 村で貨幣を使うのは定期的にやってくる行商人相手だけ。
 それもアンナリーナ個人としては殆どない。
 さらに彼女はものの適正な価格というものを知らなかった。
 このままではよろしくない。

「ギフト【検索】」

「ステータスオープン」


 アンナリーナ 14才
 職業 薬師、錬金術師、賢者の弟子
 
 体力値 102400
 魔力値 2127483383/2127483584
(ステータス鑑定に1使用、検索に200使用)

 ギフト(スキル) ギフト(贈り物)
  [一日に一度、望むスキルとそれによって起きる事象を供与する]
 調薬
 鑑定
 魔力倍増・継続 (12日間継続)
 錬金術(調合、乾燥、粉砕、分離、抽出、時間促進)
 探索(探求、探究)
 水魔法(ウォーター、水球、ウォーターカッター)
 生活魔法(ライト、洗浄クリーン、修理リペア、ファイア、料理、血抜き、発酵)
 隠形(透明化、気配掩蔽、気配察知、危機察知、索敵)
 飛行(空中浮遊、空中停止)
 加温(沸騰)
 治癒(体力回復、魔力回復、解毒、麻痺解除、状態異常回復、石化解除)
 風魔法(ウインド、エアカッター、エアスラッシュ、ウインドアロー、トルネード、サファケイト)
 冷凍(凍結乾燥粉砕フリーズドライ)
 時間魔法(時間短縮、時間停止、成長促進、熟成)
 体力値倍増・継続(12日間継続)
 撹拌
 圧縮
 結界
 異空間収納(インベントリ、時間経過無し、収納無限、インデックス)
 凝血
 遠見
 夜目
 解析スキャン
 魔法陣
 マップ
 裁縫
 編み物
 刺繍
 ボビンレース
 検索


 この魔獣の森から一番近い村、モロッタイヤまでの最短ルートを決め、出発を決めたわけは単純だった。
 それは。

「鍋がない……」

 元々、老薬師は独り暮らし。
 ここ数年はアンナリーナがいたとはいえ、同居していたわけではない。
 作り置きのスープなどを鍋ごとアイテムバッグに保存していたが、ついに限界がきた。

「小さな村にどれだけ鍋があるかわからないけど、欲しい数が手に入るまで妥協しないよ。
 鍋鍋鍋鍋鍋鍋鍋鍋」

 体調が良くなった結果、アンナリーナは居心地の良いこの場所と鍋を計りにかけた。
 そして今、未練がましく探索をかけてこの場所にある宝玉や素材を採集をしながら出発の時を迎える。

「滝壺さん、またね!」

 そう言ってアンナリーナは飛び立っていった。



 森の中を飛びながら見つけた、魔獣【ジャイアント・キラービー】の巣を手に入れ、鑑定の結果その質の良さに満足していたアンナリーナが、その地響きに気づいたのは偶然ではなかったのだろう。

 地面が揺れ、木々の倒れる音。
 何かがぶつかる音に加え、獣の吠える声が聞こえてくる。

「何か……戦ってる?」

 そろり、そろりと近づいてみる。
 木々の間から垣間見えたその姿は、アンナリーナにとっても初めて見る魔獣だった。

「看破」

【殺戮熊〈キラーベア〉森熊の上位種、成獣は5m近くまで成長する。
 その素材は高価で取引される。
 大闘猿〈ジャイアントゴリラ〉
 巨大な類人猿。その存在は認められているが非常に珍しい。
 素材は超高価で取引される】

「おお!凄い、凄い!!
 これは絶対ゲットですぞ!
【血抜き】【血抜き】」

 怪獣大戦争よろしく、バトルしていた二匹が、突然糸が切れた人形のようにバタリと倒れた。

「【鑑定】」

『殺戮熊(死)、大闘猿(死)』

 ざっと見たところ、大きな傷などはないようだ。
 念のため解析してみたところ、大切な皮や牙、爪、骨などに異常はない。

「ラッキー、ラッキー!」

 嬉しさいっぱい、喜びいっぱいでホクホクしながら2頭をインベントリにしまい、その場を後にしようとした。

 のちに思い返してみても、なぜその時 “ それ ”に気づいたのかわからない。
 だが視界の隅にかすかに動くものを捉えたのは本当に偶然だった。

「なに?」

 殺戮熊と大闘猿の暴れた跡は木々がなぎ倒され、地面はえぐれ、惨々たる状況だ。
 そんななか違和感を感じて、あたりを見回していたアンナリーナは木の砕片と葉に覆われそうになった “ それ ”を見つけた。
 そっと葉を取り除く。
 そうしてそこに現れたのは、黒っぽい、小さなトカゲだった。

 普段のアンナリーナなら、それを見ても何も感じなかったかもしれない。
 だが先日、自身も命の危機に陥って感傷的になっていたのか、自分が重なったのか。
 虐げられていた事、動けなくなるほど殴る蹴るの暴行を受けた事を思い出したのだろうか。

「大変!」

 先ほど、ピクリと動いた頭は、今はもう微動だにしない。

「【解析】」

 つらつらと現れた情報はどれも絶望的なものばかりだ。

『トカゲ(瀕死)』

 全長10㎝ほどしかない身体の半分を占める尾は2ヶ所でちぎれかけている。特に根元は深刻で、皮一枚で繋がっている状態だ。
 表側に目立った傷はないが、腹側か、脇からなのか、破裂して内臓がはみ出している。
 全身の骨も粉砕されている。

「ああ……どうしたら。
 とりあえず【ヒール】」

 ポーションを取り出し、全身を清めるようにかけながら唱えた【ヒール】はさほど効果があったように思えない。
 解析をかけながら【ヒール】を唱え続けて、何回めかで効果を感じられなくなった。

「とりあえず傷はふさがったみたいだけど……手にとって大丈夫かな?」

 ここは殺戮熊たちが暴れたためにちょうど開けた土地になっていた。
 アンナリーナは素早くツリーハウスを出すと中に駆け込む。
 清潔な布を持って戻って来ると、手のひらに広げた布の上に慎重にトカゲを移し、ツリーハウスの中に戻っていった。

 調合に使うトレーを取り出し、新しい布を敷いてトカゲを置く。
 そこにポーションを、窒息しない程度の深さに入れて、浸した布を背にかけてやった。

「【解析】」

『トカゲ(重体)』

「少しはマシになったってこと?」
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