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ep10.『聖母と道化、その支配人』Happy birthday

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俺達は運ばれたパフェの写真を少し撮り、それから食べることにした。

俺はチョコ、水森唯はストロベリーを選ぶ。

最初に口を付ける前にそれぞれのサンデーを交換し、それから自分のものを食べる。

大盛りに思われたが意外にも容器は小ぶりで、二人ともあっという間に平らげてしまった。

俺達は顔を見合わせて少し笑った。

「……なんだか御免なさいね。変なこと言っちゃって」

水森唯がそう言ったので俺は首を振った。

「何言ってるんだよ。俺が無理矢理誘ったんだし」

でも、と水森唯は少し笑顔を見せた。

「……お陰で楽しかったわ。こんないいロケーションのオシャレなお店でデートみたいなことが体験出来るなんて」

水森唯はスマホのカメラロールに視線を落とす。

「オシャレなパフェを男子と二人で食べて、しかもそれがカースト一軍の佐藤君とだなんて」

今後一生無さそうな出来事だわ、と言う水森唯に対し、俺はその言葉を否定する。

「俺がカースト一軍?んなこたぁないだろ?腫れ物扱いされてるだけだろうしさ」

それに、と俺は強調してこう続けた。

「俺でよかったらさ、またこうして一緒にここに来ようぜ。なかなか美味いサンデーだったじゃねぇか」

たまにはこういうのも悪くねぇし実際楽しいよな、と俺が言うと水森唯は表情を柔らかくした。

「……ありがとう。佐藤君。私、一生こういうことって出来ない人間なんだと思ってた」

オシャレなお店でオシャレな食べ物を男子と一緒に食べる。

それは水森唯にとっては特別な出来事だったんだろう。

俺にはイマイチわからないが、これは何か意味のあることに思えた。

水森唯にとっての小さな、だけど大きな第一歩。

俺達がサンデーを食べ終わったのを見終わったのか、さっきの店員が近付き、おずおずと何かを差し出して来た。

「……これは?」

水森唯が怪訝そうに店員に尋ねる。

「……あの、ごめんなさい。さっきはつい、話を立ち聞きなんかしてしまって……!」

店員はそう言うと何かを水森唯に手渡して来た。

「これ、今日が誕生日のメンバー会員様へ差し上げるノベルティなんです。よかったら──────!」

俺は水森唯に手渡された物を覗き込んだ。

『Happy birthday』の小さな丸いステッカーと、この店のチケット。

「……?」

私、今日は誕生日なんかじゃないですよ、と水森唯が不思議そうに告げると店員はこう答えた。














「……今日って……新しい自分に生まれ変わった記念日───────じゃないですか!?」
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