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ep10.『聖母と道化、その支配人』王子不在の革命

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俺達はサンデーを食べ終わった後、横の小さな公園に移動した。

ブランコとベンチ、鉄棒だけが置かれた小さな公園。

水森唯はブランコに乗り、しばらく無言のまま漕いでいる。

「……今日はありがとう」

不意に発せられた水森唯からの言葉に俺は素で返答する。

「何言ってるんだよ?付き合わせたのは俺の方だし」

水森唯はポケットからさっきのコンパクトを取り出し、それを開く。

安全性に配慮してのことだろうか。おもちゃのコンパクトの鏡はプラスチックで出来ている。

「……ううん。私を誘ってくれてありがとう。何か私、吹っ切れた気がするの」

プラスチックの鏡は少し歪ませた周囲の景色を映し出す。

吹っ切れた?と俺が聞き返すと水森唯は頷いた。

「そう。私、きっと誰かが背中を押してくれるのを待ってたのね」

多分それは間違ってたんだけど、と言いながら水森唯は胸ポケットからさっきのシールを取り出した。

クリア素材で出来た丸い小さなシールには[Happy birthday]の文字が踊っている。

「どういうことだよ?」

俺がそう尋ねると水森唯はシールをコンパクトの鏡部分に貼りながらこう答えた。

「……わからない。でも」

水森唯は落ち着いた様子でこう続けた。

「……私、きっと白馬の王子様を待ってたんだと思う。何もかもを都合よく解決してくれる王子様を」

……?

水森唯の言葉の意図するところが判らず、俺は困惑した。

鏡の上に貼られたクリアシールが夕陽を反射し、鈍く光って見える。

「けど、それは間違ってた。佐藤君がそれに気付かせてくれたの」

気付かせたって、何を、と俺が聞き返すと水森唯はこう答えた。

「自分の道は自分で切り拓かなきゃ。だって自分の人生だもんね?」

どうして水森唯がこの結論に辿り着いたかなんて俺にはわからない。

だけど、確実に。








水森唯の中で何かが変わった。それは俺にも理解できた。
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