[200万PV達成]それを捨てるなんてとんでもない！〜童貞を捨てる度に過去に戻されてしまう件〜おまけに相手の記憶も都合よく消えてる！？

ep10.

ep10.『聖母と道化、その支配人』 推理する気は最初からない探偵

俺はもう一度─────────棺のようなその部屋の扉を開く。

やはり鼻をつくような匂いが充満している。

天井にぶら下がったままの気の毒で哀れな母親を降ろして楽にしてやりたい衝動に駆られる。

けど、それは得策じゃない。

”今は“まだ───────何もしない方がいいだろう。

インパクトしかない部屋なのでさっきは細部まで見ることが出来なかったが────────

よく見ればあちこちに違和感が生じる。

婆ちゃんのものと思われる毛布の他にいくつかの毛布が無造作に床に投げられている。

これは仮説だが────────水森唯とその母親はこの部屋で1日の大半を過ごしていたんじゃないのか？

八畳ほどの部屋は狭くは無いが広いとも言えない。

介護用のベッドが大きなスペースを陣取っている。

壁に塗りたくられた排泄物が介護の悲惨さと壮絶さを物語っていた。

婆ちゃんの認知症が悪化して────────徘徊やこういった行動が急激にエスカレートしていったんだろう。

排泄物が付着したトイレットペーパーが折り畳まれた状態でベッドの下に落ちている。

婆ちゃんの様子を見るために水森唯とその母親が交代で見守りを続けていたとしたら？

水森唯には学校がある。

水森の母親は娘を学校に行かせるだろう。

休ませるなんて出来なかったんだろうな。

一人で介護の大半を引き受けて─────────水森は放課後に母親と介護を交代していたのかもしれない。

それにしてもそれじゃあんまりにもキツイだろう。

部屋の隅でチカチカと光る何かがある。

水森唯のスマホが畳の上に投げ捨てられている。

校則だと校内にスマホは持ち込み禁止だからな。

水森のことだ。基本は家に置いて充電してたんだろう。

充電コードがここにあるってことは─────────自室には戻らず、殆ど婆ちゃんの側に居たって事じゃないのか？

婆ちゃんの首に巻きついたままの充電コードは何を意味する？

床にあるスマホはそのままにされていた？

俺は首を振った。

今それを知ってどうするんだろう。

俺は探偵じゃないからな。

どうしてこうなったかなんて知らなくてもいいんだ。

そんなことは問題じゃない。

俺に出来ること。

わかってる筈だろ？










腹を括った俺は──────────二人の亡骸から目を逸らし、部屋の扉を再び閉めた。