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ep9『ナイト・オブ・ファイヤー』 THIS IS THE KNIGHT

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バイクの音が段々と大きくなっているような気がする。

こっち方面に来てるのか?

夜中に幹線道路を走ったり、峠 (でもないただの山道)を攻めたりってのはこの近辺の族の定番の行動パターンだが─────────

この時間帯にこんな辺鄙な場所に来るってのは珍しいな。

「なんだろうな?何やってんだ?」

俺が独り言のように呟くと、概史が茶化すようにこう反応する。

「新人研修でもやってるとかじゃないスかww夜中の時間帯じゃ練習やりにくいとかww」

新人て、と俺が思わず反射的に口にすると、概史はやや真面目な表情でこう答えた。

「以前にもそういう話が出てたと思うんスけどww昔に比べてメンバーが減ってるらしいじゃないスか。今は2チームくらいしか残ってないって」

そっか、と適当な相槌を打ちながら俺は2本目の煙草に火を点ける。

「あwwでもww“伝説”の存在の話は健在っスねww未だに語り継がれてますしww」

伝説か。

「確か、『羽威刄闇(ワイバーン)』てチームの総長だったらしいよな、何年か前に滅茶苦茶に暴れてそこら中で恐れられてたとかなんとか」

数年程前の話なんだが───────今はそういう話は全く聞かなくなった。

「そうそうww『紅蓮の内藤』って名前でしたね、確かwww」

ネーミングだけだとそこまでって感じじゃないっスよねwwと概史は吹き出したように笑う。

「でもさ、聞いた話じゃさ、以前に7チームあった族のうち5チームはこの総長がぶっ潰したって──────」

元々、少子化で人材不足だったのにさ、業界にトドメ刺しちゃってるじゃんか、と俺が言うと概史がまたゲラゲラと笑った。

「走り屋業界壊滅wwwテラ破壊の神ww」

あれ、と俺はふと疑問を浮かべた。

「生き残りのチームのうち、破壊の神が居た方のチームが『羽威刄闇(ワイバーン)』だろ?じゃあさ」

もう片方のチームはなんて名前だったっけ、と俺が口にすると同時に───────大きなエンジン音が複数、けたたましく周囲に響く。

「……え?」

気付いた瞬間にはもう、俺達は十数台のバイクに取り囲まれていた。

俺と概史は思わず顔を見合わせた。

ガラも頭も悪そうな兄ちゃんが俺と概史の顔を交互に見る。

「おい!餓鬼どもも羽威刄闇(ワイバーン)のメンバーか?」

え、いや、と俺はそれを否定しようとするが、上手く伝わらないようだ。

まあそうだよな。

俺はと言えば、いつもの学ランに赤シャツ、ベルトには例のケースのチェーンがぶら下がっている。

おまけにしっかり喫煙中と来たもんだ。

今の俺の風貌はどっからどう見ても田舎ヤンキーそのものだろう。

暴走族の一員と間違われても仕方のない状況であることは俺にも理解できた。

しかし。

概史はどうだ?全く暴走族っぽくない普通の男子小学生じゃねぇか?

今だって着てるのはアニメイトで予約してまで買ったって言ってたキャラ物のパーカーだし────────

しかし、改めてそのデザインを見た俺は固まってしまう。

概史がハマっているというアニメのパーカー。

そこには、『天上天下唯我独尊』『暴走族卍愚連隊』の文字がデカデカとプリントされている。

おいおいおいおい。

これって誤解されないか!?

確か概史が熱中してるアニメって、ヤンキー系ジャンルだとは聞いてたが─────────(ちなみに俺はまだ見てない)

どうしよう。俺ら、なんかガチモンの兄ちゃんに誤解されてる?!

流行りのアニメを一通り視聴してるだけのミーハーな男子小学生なんだが!?

「あ、いや、違うんです。俺らはごく普通の一般人で────────」

そう言いかけた瞬間、鉄パイプが空を切って俺の肩先を掠めた。

「……っ!?」

は!?

いきなり殴りかかってくるとか気は確かか!?

「っせぇんだよ!!ゴチャゴチャ言ってねぇで内藤出せや!?」

居るんだろうが、そこによ!というイカれた兄ちゃんの言ってる意味は何一つわからない。

「いや、ここに内藤なんて人は居ませんけど──────」

俺は極力、冷静であることを心掛けながら丁寧に説明しようと試みる。

なんなんだろう、急すぎじゃねぇか。

人違いにしては乱暴でせっかち過ぎだし。

慌てん坊が過ぎる。

俺がそう答えたにも関わらず、イカれた兄ちゃんは俺の胸ぐらを掴んだ。

「あんだろ!ここにコレがよぉ!?居るじゃねぇか!?」

コレって?何の話?

誰のことを言ってるんだ?

「いやあの、家を間違われてませんか?……」

胸倉を掴まれたまま、それでも俺は必死に誤解を解こうと説得を試みる。

「ハァ!?餓鬼がゴチャゴチャと小賢しいんだよ!?馬鹿にしてんのか!?『紅蓮の内藤』出せってんだよ!」

しかし、シラフなのか元からなのかイカれた兄ちゃんは聞く耳を持たず、俺に殴りかかろうとする。

殴られる。

そう思った瞬間だった。

[パシッ!]という小気味良い音が周囲に響いた。

「え……!?」

殴られる瞬間、思わず目を瞑ってしまっていた俺は恐る恐る瞼を上げる。

俺の後ろに立っていたのは、鈴木先輩だった。

「……あ!鈴木先輩!」

混乱状態の俺は、救いの神の登場に思わず声を上げる。

イカれた兄ちゃんの拳を素手で受け止めた鈴木先輩は静かにこう言った。






















「───────────ワシが『紅蓮の内藤』じゃが」

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