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ep8
ep8『我が逃走』 Not Gonna Get Us その③
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手術?
少年は思わず聞き返す。
「……見たんだろ、君も。僕の卒アルをさ」
わかるだろ、それくらい、と詐欺師は少し含みを持たせたように呟く。
ネットにばら撒かれた個人情報。
かつての一條刻夜の姿の断片。
その姿は───────現在の一條本人には許し難いものだったのであろうことは少年にも容易に推察できた。
セルフイメージと現実との乖離。
そのことについて本人が最も苦悩していたであろうことも────────ありありと手にとるように理解できた。
だが。
それは正しいことと言えるのか?
これから自分が行おうとしていることも。
少年は自問する。
答えなんかない。
しかし、確実に────────刻一刻とその瞬間は迫っているのだ。
「意味ねぇよ」
少年はやや苛立ったように吐き捨てた。
「……え?」
詐欺師は聞き返す。
「そんなの意味なんかねぇっつったんだよ。それはアンタが一番よく知ってんだろ?」
そんなことしたってアンタの本質は何も変わんねぇんだからさ、と少年は詐欺師の顔を見据えながら言った。
「そんなんじゃアンタが一番欲しいものは手に入んねぇよ。そこに答えは無ぇんだから」
「……」
詐欺師が息を呑み、動揺していることは少年にも伝わった。
「ネットにばら撒かれてた住所見てさ、アンタの家まで行ったんだよ」
少年は静かに続けた。
「アンタにも事情ってモンがあったかもしれねぇ。色々あったんだろうけどさ──────────」
だけどアンタのやったことは何もかも間違ってるんじゃねぇの?と少年は深い怒りの感情を抑えつけるように断言する。
「アンタにも親が居るんだろ?こんなんどう考えてもおかしいだろうが」
「その言葉、そっくりそのまま君に返すよ」
家族のことに言及されたからか、詐欺師もやや語気を荒げる。
「馬鹿だね。こんな危ないとこに来てどうしようっていうんだい?」
まだ間に合うだろう?早く飛び降りなよ、と詐欺師は少年を追い払うような仕草を見せた。
「君はお父さんとお母さんを心配させるような事をしちゃいけないよ」
詐欺師の言葉に少年はすかさず反応する。
「家族なんて居ねぇよ。俺一人だ」
馬鹿言っちゃいけないよ、と詐欺師は鼻で笑った。
「自分一人で大きくなったつもりなのかい?そうじゃ無いだろう。思い上がりも甚だしいよ」
いや、と少年は首を振った。
「父親は生まれてから一回も会ったことねぇし。存在すら知らねぇ。育ててくれた爺さんと婆さんも死んじまった。どっかで生きてると思ってた母親は山奥の地底湖でいつの間にか死んでた」
生き残ってんの俺だけなんだよ、という少年の言葉に詐欺師は言葉を失った。
「……は?」
「今はただ、一人でバイトして食い繋いでる。だからアンタがすっげぇ羨ましいんだぜ?父ちゃんと母ちゃんが生きてんだろ?」
それだけで他にもう何も要らねぇじゃねぇか、と呟いた少年の言葉の重みに詐欺師はただ黙った。
「そんなこと───────今このタイミングで言われても困っちゃうじゃないか」
これ以上はその点に言及したくないと言った様子の詐欺師はそれきり少し黙った。
目前に迫る死という避けられない事象。
今更、何かに気付いたところで後悔が増すばかりだろう。
それはあまりにも重く──────鈍い痛みを伴う。
今の詐欺師には到底、一人では背負いきれないものだった。
押しつぶされそうな致死量の後悔が遅効性の毒のように詐欺師の体内を駆け巡る。
少年は詐欺師の肩に手を置いた。
「前言撤回すんぜ。やっぱアンタはクズだな。生きてる価値もねぇ。だったら最後くらい────────存分に罰と苦しみを味わってから死になよ」
……そのつもりだよ、と詐欺師は蚊の鳴くような声で呟く。
「そうじゃねぇよ」
少年は詐欺師の腕をグイと引っ張った。
「アンタさ。黒焦げになって死ぬ前に────────ヤらせろよ」
少年は思わず聞き返す。
「……見たんだろ、君も。僕の卒アルをさ」
わかるだろ、それくらい、と詐欺師は少し含みを持たせたように呟く。
ネットにばら撒かれた個人情報。
かつての一條刻夜の姿の断片。
その姿は───────現在の一條本人には許し難いものだったのであろうことは少年にも容易に推察できた。
セルフイメージと現実との乖離。
そのことについて本人が最も苦悩していたであろうことも────────ありありと手にとるように理解できた。
だが。
それは正しいことと言えるのか?
これから自分が行おうとしていることも。
少年は自問する。
答えなんかない。
しかし、確実に────────刻一刻とその瞬間は迫っているのだ。
「意味ねぇよ」
少年はやや苛立ったように吐き捨てた。
「……え?」
詐欺師は聞き返す。
「そんなの意味なんかねぇっつったんだよ。それはアンタが一番よく知ってんだろ?」
そんなことしたってアンタの本質は何も変わんねぇんだからさ、と少年は詐欺師の顔を見据えながら言った。
「そんなんじゃアンタが一番欲しいものは手に入んねぇよ。そこに答えは無ぇんだから」
「……」
詐欺師が息を呑み、動揺していることは少年にも伝わった。
「ネットにばら撒かれてた住所見てさ、アンタの家まで行ったんだよ」
少年は静かに続けた。
「アンタにも事情ってモンがあったかもしれねぇ。色々あったんだろうけどさ──────────」
だけどアンタのやったことは何もかも間違ってるんじゃねぇの?と少年は深い怒りの感情を抑えつけるように断言する。
「アンタにも親が居るんだろ?こんなんどう考えてもおかしいだろうが」
「その言葉、そっくりそのまま君に返すよ」
家族のことに言及されたからか、詐欺師もやや語気を荒げる。
「馬鹿だね。こんな危ないとこに来てどうしようっていうんだい?」
まだ間に合うだろう?早く飛び降りなよ、と詐欺師は少年を追い払うような仕草を見せた。
「君はお父さんとお母さんを心配させるような事をしちゃいけないよ」
詐欺師の言葉に少年はすかさず反応する。
「家族なんて居ねぇよ。俺一人だ」
馬鹿言っちゃいけないよ、と詐欺師は鼻で笑った。
「自分一人で大きくなったつもりなのかい?そうじゃ無いだろう。思い上がりも甚だしいよ」
いや、と少年は首を振った。
「父親は生まれてから一回も会ったことねぇし。存在すら知らねぇ。育ててくれた爺さんと婆さんも死んじまった。どっかで生きてると思ってた母親は山奥の地底湖でいつの間にか死んでた」
生き残ってんの俺だけなんだよ、という少年の言葉に詐欺師は言葉を失った。
「……は?」
「今はただ、一人でバイトして食い繋いでる。だからアンタがすっげぇ羨ましいんだぜ?父ちゃんと母ちゃんが生きてんだろ?」
それだけで他にもう何も要らねぇじゃねぇか、と呟いた少年の言葉の重みに詐欺師はただ黙った。
「そんなこと───────今このタイミングで言われても困っちゃうじゃないか」
これ以上はその点に言及したくないと言った様子の詐欺師はそれきり少し黙った。
目前に迫る死という避けられない事象。
今更、何かに気付いたところで後悔が増すばかりだろう。
それはあまりにも重く──────鈍い痛みを伴う。
今の詐欺師には到底、一人では背負いきれないものだった。
押しつぶされそうな致死量の後悔が遅効性の毒のように詐欺師の体内を駆け巡る。
少年は詐欺師の肩に手を置いた。
「前言撤回すんぜ。やっぱアンタはクズだな。生きてる価値もねぇ。だったら最後くらい────────存分に罰と苦しみを味わってから死になよ」
……そのつもりだよ、と詐欺師は蚊の鳴くような声で呟く。
「そうじゃねぇよ」
少年は詐欺師の腕をグイと引っ張った。
「アンタさ。黒焦げになって死ぬ前に────────ヤらせろよ」
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