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ep5.
ep5. 『囚人と海(下)』 吐露と嘔吐
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「え?」
少女の表情からは明らかな困惑が見て取れる。
それは尤もな事だと少年自身がよく理解していた。
「─────それはつまり……佐藤君がくぅちゃんと交際を開始したということでいいの?」
少年の発言の真意が掴めず、少女は怪訝そうな顔のままで硬直している。
真夜中の突然の訪問。
わざわざこんな時間に来たという事は、余程の事情があるのでは……という少女の気遣いにより辛うじて会話が成立している状態。
しかし少年の口から出た言葉は予想を大きく裏切るものだった。
「夢野とは付き合ってないし─────たぶんこれからも付き合わない」
じゃあどうして、と戸惑いを隠せない少女に対し少年は更に追い討ちを掛けるように続けた。
「時間ねぇから単刀直入に言うけど、俺─────」
ヤッてる最中、ずっとお前のこと考えてたんだ、と少年は粗い呼吸と共に心情を吐露した。
「─────!?」
少女が困惑し、狼狽するのも無理はなかった。
単刀直入どころではない。
オーバーキルとでも言える少年の発言に対し、少女は絶句した。
「いや違う、そう言う意味じゃなくて─────」
先程の発言が少女に誤解を与えた事に気付いた少年は慌てて首を振る。
しかし、誤解も何もあったものではない。
どう好意的に解釈したとしても、悪意や倒錯的なニュアンスは拭い去る事など出来なかった。
「俺、水森に話を聞いてから─────ずっとお前の事を考えてたんだ」
だからそんな変な意味とかじゃなくて、と取り繕うように少年は早口で捲し立てる。
変な意味でなく、正しい解釈での発言の意図というのは何処にあるというのだろう。
少女はますます戸惑った。
これ、と少年はポケットから何かを取り出し、少女に手渡す。
恐る恐る手を伸ばし、窓越しに少女が受け取った紙片は見覚えのあるものだった。
「─────これって……」
それは少女が一度も使う事なく失ってしまった二十枚綴りの食券だった。
どうしたのこれ、と少女は反射的に声を上げる。
「三年女子のトコに行ったんだよ。返してくれってな」
俺が行ったらやけにアッサリ返してきやがったぜ、と少年はやや得意そうに呟く。
「使ったらアシが付くしな。奴らも持て余してたみたいだぜ?」
少年が来たのをこれ幸いと、始末に困る『物的証拠』を慌てて押し付けて来たのだ。
食券の裏面には[シリアルナンバー]が捺印されており、所属学年ごとに番号が割り振られている。
使うことも出来ず、明るみになればタダでは済まない。
からかい半分の気持ちで取り上げてみたものの、捨てることも今更返却する事も出来ず三年女子としてもどうしたものか途方に暮れていた様子らしかった。
「なんかさ、ちょっと話したんだけどよ。奴ら、ちょっとした意地悪のつもりだったらしいぜ。すぐに夢野が謝りに来るとばかり思ってたらしくてさ」
要は何か持ち物を取り上げれば夢野がしおらしくなって先輩への態度を改めると思ってたらしくてさ、と少年は少女に事情を説明する。
そうだったの、と少女は少しほっとしたような表情を浮かべた。
「あたしが余計な事を喋っちゃったばっかりに─────佐藤君とくぅちゃんの大事な時間にまで心配掛けさせちゃったって訳だったのね」
気を遣わせちゃって悪かったわ、と少女は少し柔らかい声で言う。
違うんだ、ともう一度少年は首を振った。
「そういう意味でもなくて─────俺、ホントにお前の事ずっと考えてたんだ」
少女の表情からは明らかな困惑が見て取れる。
それは尤もな事だと少年自身がよく理解していた。
「─────それはつまり……佐藤君がくぅちゃんと交際を開始したということでいいの?」
少年の発言の真意が掴めず、少女は怪訝そうな顔のままで硬直している。
真夜中の突然の訪問。
わざわざこんな時間に来たという事は、余程の事情があるのでは……という少女の気遣いにより辛うじて会話が成立している状態。
しかし少年の口から出た言葉は予想を大きく裏切るものだった。
「夢野とは付き合ってないし─────たぶんこれからも付き合わない」
じゃあどうして、と戸惑いを隠せない少女に対し少年は更に追い討ちを掛けるように続けた。
「時間ねぇから単刀直入に言うけど、俺─────」
ヤッてる最中、ずっとお前のこと考えてたんだ、と少年は粗い呼吸と共に心情を吐露した。
「─────!?」
少女が困惑し、狼狽するのも無理はなかった。
単刀直入どころではない。
オーバーキルとでも言える少年の発言に対し、少女は絶句した。
「いや違う、そう言う意味じゃなくて─────」
先程の発言が少女に誤解を与えた事に気付いた少年は慌てて首を振る。
しかし、誤解も何もあったものではない。
どう好意的に解釈したとしても、悪意や倒錯的なニュアンスは拭い去る事など出来なかった。
「俺、水森に話を聞いてから─────ずっとお前の事を考えてたんだ」
だからそんな変な意味とかじゃなくて、と取り繕うように少年は早口で捲し立てる。
変な意味でなく、正しい解釈での発言の意図というのは何処にあるというのだろう。
少女はますます戸惑った。
これ、と少年はポケットから何かを取り出し、少女に手渡す。
恐る恐る手を伸ばし、窓越しに少女が受け取った紙片は見覚えのあるものだった。
「─────これって……」
それは少女が一度も使う事なく失ってしまった二十枚綴りの食券だった。
どうしたのこれ、と少女は反射的に声を上げる。
「三年女子のトコに行ったんだよ。返してくれってな」
俺が行ったらやけにアッサリ返してきやがったぜ、と少年はやや得意そうに呟く。
「使ったらアシが付くしな。奴らも持て余してたみたいだぜ?」
少年が来たのをこれ幸いと、始末に困る『物的証拠』を慌てて押し付けて来たのだ。
食券の裏面には[シリアルナンバー]が捺印されており、所属学年ごとに番号が割り振られている。
使うことも出来ず、明るみになればタダでは済まない。
からかい半分の気持ちで取り上げてみたものの、捨てることも今更返却する事も出来ず三年女子としてもどうしたものか途方に暮れていた様子らしかった。
「なんかさ、ちょっと話したんだけどよ。奴ら、ちょっとした意地悪のつもりだったらしいぜ。すぐに夢野が謝りに来るとばかり思ってたらしくてさ」
要は何か持ち物を取り上げれば夢野がしおらしくなって先輩への態度を改めると思ってたらしくてさ、と少年は少女に事情を説明する。
そうだったの、と少女は少しほっとしたような表情を浮かべた。
「あたしが余計な事を喋っちゃったばっかりに─────佐藤君とくぅちゃんの大事な時間にまで心配掛けさせちゃったって訳だったのね」
気を遣わせちゃって悪かったわ、と少女は少し柔らかい声で言う。
違うんだ、ともう一度少年は首を振った。
「そういう意味でもなくて─────俺、ホントにお前の事ずっと考えてたんだ」
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