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ep5.
ep5. 『囚人と海(下)』 ”王子と王女の証“
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少女が息を飲む様子が少年にも伝わって来た。
言葉を失い、動揺しているのが空気からも察せられる。
少年が思い詰めた様子で口を開く。
「前に体育の時間にバスケしてただろ?あの時、シュートを決めた時のお前の横顔─────すごく綺麗だなって思ってた」
二人の間に流れるように心地よい涼しさの風が吹いた。
「廃駅で泣いてた時も─────眼鏡を外したその素顔にも……俺、見とれてたんだ」
嘘じゃないし。マジで本当にそう思ったんだ、と少年は真剣な眼差しで強調した。
少女は俯き、少年を視界から外す。
九月の下旬。秋の真夜中。
周囲はシンと静まり返っている。
「─────なあ水森。前にお前、言ってたよな?」
“自分は王子様になれなかった“って─────少年は少女の眼を見据えて訊ねた。
少女は黙ったまま何も言わなかった。
だけど、と少年は続けた。
「なれると思う。水森が王子様になったらさ、たぶん岬京矢よりも凛としてカッコいいと思うし─────絶対似合うと思う」
それに、と少年は言葉に感情を乗せるようにぶつける。
「ホントはさ、母ちゃんみたいになりたかったんだろ?」
─────お姫様の方になりたかったんじゃねぇのかよ?と少年は少女に問いかけた。
それは……と少女は口ごもる。
「どっちでもなれると思うぜ?水森ならさ」
お姫様でも王子様でも─────水森ならなりたいもんになれると思う、と少年はポケットから出したものを少女の手のひらに置いた。
駄菓子屋のおもちゃの指輪。
スエカ婆ちゃん─────駄菓子屋の老店主に頼み込んで、プラケースに入った[10個入り おしゃれゆびわセット]を特別にバラ売りして貰ったものだった。
ガラスの指輪ですらない、プラスチックの石とぐにゃぐにゃの針金のような素材で出来た指輪。
「今更、食券を返されたって……もう二人の間にある溝は修復出来ねぇし、プレミアの付いた”王女の証“ももう買えねぇし」
本来なら夢野が自分で三年女子のトコに直談判に行って取り返すのがスジだったんだろうけど、と少年は息を吐き、呼吸を整えた。
「……今の俺に出来ることなんて何もねぇし、用意出来る”王女の証“の代わりもこんなんしかねぇけど─────」
少女の掌の上で、街路灯の灯りを反射した透明な石が小さく光る。
「何にだって……なりたいものになっていいんだしさ。それに、水森は飛べない蝶なんかじゃないだろ?」
少女は言葉を詰まらせたまま、小さな指輪を見つめた。
「羽根は壊れてなんかねぇし。いつでも空に飛んで行ける─────そんな気がしたんだよ」
だから俺、それだけ言いたかったんだ、と少年は少し照れたような表情を浮かべた。
二人の間を心地よい沈黙が包んだ。
「─────ありがとう……」
少女は小さな声でそう振り絞るのが精一杯だった。
自分の発言で真意を伝えられただろうか。
俺は上手くやれただろうか?
目の前で涙ぐむ少女の姿がぼんやりと視界から消えていく。
そのままゆっくりと少年の意識は遠のいていった。
言葉を失い、動揺しているのが空気からも察せられる。
少年が思い詰めた様子で口を開く。
「前に体育の時間にバスケしてただろ?あの時、シュートを決めた時のお前の横顔─────すごく綺麗だなって思ってた」
二人の間に流れるように心地よい涼しさの風が吹いた。
「廃駅で泣いてた時も─────眼鏡を外したその素顔にも……俺、見とれてたんだ」
嘘じゃないし。マジで本当にそう思ったんだ、と少年は真剣な眼差しで強調した。
少女は俯き、少年を視界から外す。
九月の下旬。秋の真夜中。
周囲はシンと静まり返っている。
「─────なあ水森。前にお前、言ってたよな?」
“自分は王子様になれなかった“って─────少年は少女の眼を見据えて訊ねた。
少女は黙ったまま何も言わなかった。
だけど、と少年は続けた。
「なれると思う。水森が王子様になったらさ、たぶん岬京矢よりも凛としてカッコいいと思うし─────絶対似合うと思う」
それに、と少年は言葉に感情を乗せるようにぶつける。
「ホントはさ、母ちゃんみたいになりたかったんだろ?」
─────お姫様の方になりたかったんじゃねぇのかよ?と少年は少女に問いかけた。
それは……と少女は口ごもる。
「どっちでもなれると思うぜ?水森ならさ」
お姫様でも王子様でも─────水森ならなりたいもんになれると思う、と少年はポケットから出したものを少女の手のひらに置いた。
駄菓子屋のおもちゃの指輪。
スエカ婆ちゃん─────駄菓子屋の老店主に頼み込んで、プラケースに入った[10個入り おしゃれゆびわセット]を特別にバラ売りして貰ったものだった。
ガラスの指輪ですらない、プラスチックの石とぐにゃぐにゃの針金のような素材で出来た指輪。
「今更、食券を返されたって……もう二人の間にある溝は修復出来ねぇし、プレミアの付いた”王女の証“ももう買えねぇし」
本来なら夢野が自分で三年女子のトコに直談判に行って取り返すのがスジだったんだろうけど、と少年は息を吐き、呼吸を整えた。
「……今の俺に出来ることなんて何もねぇし、用意出来る”王女の証“の代わりもこんなんしかねぇけど─────」
少女の掌の上で、街路灯の灯りを反射した透明な石が小さく光る。
「何にだって……なりたいものになっていいんだしさ。それに、水森は飛べない蝶なんかじゃないだろ?」
少女は言葉を詰まらせたまま、小さな指輪を見つめた。
「羽根は壊れてなんかねぇし。いつでも空に飛んで行ける─────そんな気がしたんだよ」
だから俺、それだけ言いたかったんだ、と少年は少し照れたような表情を浮かべた。
二人の間を心地よい沈黙が包んだ。
「─────ありがとう……」
少女は小さな声でそう振り絞るのが精一杯だった。
自分の発言で真意を伝えられただろうか。
俺は上手くやれただろうか?
目の前で涙ぐむ少女の姿がぼんやりと視界から消えていく。
そのままゆっくりと少年の意識は遠のいていった。
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