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ep2 .
ep2 . 「訳有り令嬢と秘密の花園」 告白
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どういう事だろうか。
一瞬の緊張が二人の間に走ったかのように思えた。
どうして、と口から出かけた言葉を俺は紙一重で押し殺した。
深く聞いてはいけない気がした。
迂闊に触れれば彼女を傷付けてしまう話題である事は馬鹿の俺ですら理解できた。
彼女はゆっくりと遠くを見る。
金色の髪が風に揺れた。
わたくし……以前に大きな事故に遭った事がありますの、と花園リセは小さく呟いた。
大きな事故。
この貴婦人の御令嬢が?
にわかには信じがたかった。
しかし、いよいよこれはこちらからは触れてはいけない話題だぞ、と俺は確信した。
こちらの緊張を読み取ったかのように彼女は小さく微笑を浮かべた。
「だから、婚約は白紙ということになりましたの……ただそれだけの話なのですけど」
変なこと言ってしまってごめんなさいね、ビックリしたでしょう、と花園リセは俺の目を真っ直ぐに見て穏やかに笑った。
いや、と俺は首を振った。
でも良かったんじゃねぇの、と俺はつい口にしてしまう。
「え?」
花園リセが不思議そうな顔で俺を見る。
駄目だ、こんな事言っちゃいけない、とは頭では理解できているつもりだった。
しかし俺は自分が喋るのを自分自身で止められなかった。
「良かったじゃん、結婚前に相手の本性が分かってさ。相手の奴、リセさんが大変な時に助けるどころか見捨てて行くような男だったって事だろ?」
花園リセは驚いた様子で俺を見ていた。
「そんな奴とうっかり籍入れないで逆に良かったじゃねぇか。リセさんにはもっといい男が絶対居るんだからよ」
それに、と更に俺は余計な一言を言ってしまう。
「俺だったら絶対に怪我した婚約者にそんな思いさせないのに。意地でも絶対に婚約破棄なんかしねぇよ」
彼女はその大きな瞳を見開いて言葉を詰まらせた。
ゆっくりとした風が吹き、更に沈黙が流れる。
にゃあ、とマサムネが彼女の膝から降り、俺の懐に飛び込んでくる。
しまった、と俺は思った。
なんて事を言ってしまったのだろう。
俺はマサムネを抱き上げた。
俺は心底後悔した。
マサムネのしっぽがクルクルと俺の膝の上で動く。
彼女を傷付けるような事を言ってしまった。
花園リセはこんなにも俺とマサムネに親切にしてくれたって言うのに。
恩を仇で倍返ししたような形になったと思った俺は頭の中がパニックになっていた。
馬鹿か俺は。
最低だな。
花園リセが無言で俺の顔を見つめる。
一呼吸置くと彼女はふふ、と小さく笑った。
頼もしいんですのね、小さな騎士さんは、と彼女は俺をからかうように微笑んだ。
にゃあ、とマサムネが鳴き俺の膝に小さな爪を立てる。
「……あなたのお姫様に選ばれる女の子が羨ましいですわ」
そう言った花園リセは今度は悪戯っぽく笑った。
揶揄われてるのは俺の方?
一瞬の緊張が二人の間に走ったかのように思えた。
どうして、と口から出かけた言葉を俺は紙一重で押し殺した。
深く聞いてはいけない気がした。
迂闊に触れれば彼女を傷付けてしまう話題である事は馬鹿の俺ですら理解できた。
彼女はゆっくりと遠くを見る。
金色の髪が風に揺れた。
わたくし……以前に大きな事故に遭った事がありますの、と花園リセは小さく呟いた。
大きな事故。
この貴婦人の御令嬢が?
にわかには信じがたかった。
しかし、いよいよこれはこちらからは触れてはいけない話題だぞ、と俺は確信した。
こちらの緊張を読み取ったかのように彼女は小さく微笑を浮かべた。
「だから、婚約は白紙ということになりましたの……ただそれだけの話なのですけど」
変なこと言ってしまってごめんなさいね、ビックリしたでしょう、と花園リセは俺の目を真っ直ぐに見て穏やかに笑った。
いや、と俺は首を振った。
でも良かったんじゃねぇの、と俺はつい口にしてしまう。
「え?」
花園リセが不思議そうな顔で俺を見る。
駄目だ、こんな事言っちゃいけない、とは頭では理解できているつもりだった。
しかし俺は自分が喋るのを自分自身で止められなかった。
「良かったじゃん、結婚前に相手の本性が分かってさ。相手の奴、リセさんが大変な時に助けるどころか見捨てて行くような男だったって事だろ?」
花園リセは驚いた様子で俺を見ていた。
「そんな奴とうっかり籍入れないで逆に良かったじゃねぇか。リセさんにはもっといい男が絶対居るんだからよ」
それに、と更に俺は余計な一言を言ってしまう。
「俺だったら絶対に怪我した婚約者にそんな思いさせないのに。意地でも絶対に婚約破棄なんかしねぇよ」
彼女はその大きな瞳を見開いて言葉を詰まらせた。
ゆっくりとした風が吹き、更に沈黙が流れる。
にゃあ、とマサムネが彼女の膝から降り、俺の懐に飛び込んでくる。
しまった、と俺は思った。
なんて事を言ってしまったのだろう。
俺はマサムネを抱き上げた。
俺は心底後悔した。
マサムネのしっぽがクルクルと俺の膝の上で動く。
彼女を傷付けるような事を言ってしまった。
花園リセはこんなにも俺とマサムネに親切にしてくれたって言うのに。
恩を仇で倍返ししたような形になったと思った俺は頭の中がパニックになっていた。
馬鹿か俺は。
最低だな。
花園リセが無言で俺の顔を見つめる。
一呼吸置くと彼女はふふ、と小さく笑った。
頼もしいんですのね、小さな騎士さんは、と彼女は俺をからかうように微笑んだ。
にゃあ、とマサムネが鳴き俺の膝に小さな爪を立てる。
「……あなたのお姫様に選ばれる女の子が羨ましいですわ」
そう言った花園リセは今度は悪戯っぽく笑った。
揶揄われてるのは俺の方?
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