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ep0. 「真夏の夜の爪」 60.爪を切れ。傷がつくから
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少年はシャワーを浴びながらずっとこの夏の全てに思いを巡らせていた。
昭和九十五年のこの夏。長いようで一瞬で終わりを迎えようとしている夏。
永遠に続くかのように思われた少年とマコトの二人の世界は今夜終わるのだ。
料理。食事。据え膳。
シャンディガフ。ミニ四駆。蝶の模様。
調子外れのシャボン玉の童謡。望まれなかった子ども。黄緑色のストロー。
十四歳。妊娠。後悔。
手術。卵巣。子宮。
三百円の指輪。約束。結婚。
折られたベンツマーク。苺のショートケーキ。下手くそな嘘。
コルトパイソン。リボルバー。銀色の拳銃。
子猫。片目。眼帯。
マグナ50。折れたミラー。タンデム。
海。汗ばむ背中。ペットボトルの水。
柔らかい胸の感触。体温。涙。
すれ違う友達。コバルトブルーの絵の具。片想い。
黒いパーカー。銀色の髪。ダボダボな服のサイズ。
人工的な葡萄の香り。泣き声。その横顔。
「雪城マコト」
少年はその名を呼んだ。
返事はないが自分自身の身体がそれに反応していた。
いつもの事だが制御不可だった。何一つ自分の思い通りにはならなかった。
シフトレバーが硬いせいで現在地を発進すらできずにいる事に誰よりも少年自身が戸惑っていた。
少しの間逡巡した後、悩んだ末にシャワーの蛇口温度設定のツマミを勢いを付けてフルに回す。
数秒後に冷え切った水が少年の身体めがけて矢のように降りかかる。無言のまま少年はそれを全て浴びる。
夏の終わりの宵の時間帯は気温も心なしか控えめだった。身体がどんどん冷え切っていく。
もう少し冷やしていこう。少年は涙も汗も迷いも全て洗い流した。
シャワーから上がると少年はJAのロゴ入りの使い倒してゴワゴワになったスポーツタオルで身体を拭いた。
赤いTシャツと学生服のズボンを履き、靴下を履いた。
麦茶を飲みながらちゃぶ台の上に置いていた爪切りで爪を切った。
短くし過ぎて深爪しそうになったが概史のアドバイスを思い出した。
多分これくらいだろうか。爪切りの裏側の爪やすりで切り口を丸くした。
少年はなんとも言えない気分に襲われた。
爪。つめ。ツメ。
少年は自分の両手をじっと見た。
俺はこの手をどうするんだろう?
この指をどうするんだろう?
この爪はどうなるんだろう?
考えても何も答えは得られなかった。
いつも通りにワックスで髪をセットする。
降りた前髪を立たせて後ろに持っていく。いつものヘアスタイルだった。
俺は大人になるのか?鏡に映った自分自身に少年は問いかけた。
鏡の奥の自分は黙っていた。どこか泣きそうな顔であるようにすら思えた。
短ランを羽織るとボタンを留めずに少年は目を閉じ両頬を叩いた。
カラーボックスの上にあるフォトフレームを手に取ると行ってきます、と呟き少年は自宅を後にした。
昭和九十五年のこの夏。長いようで一瞬で終わりを迎えようとしている夏。
永遠に続くかのように思われた少年とマコトの二人の世界は今夜終わるのだ。
料理。食事。据え膳。
シャンディガフ。ミニ四駆。蝶の模様。
調子外れのシャボン玉の童謡。望まれなかった子ども。黄緑色のストロー。
十四歳。妊娠。後悔。
手術。卵巣。子宮。
三百円の指輪。約束。結婚。
折られたベンツマーク。苺のショートケーキ。下手くそな嘘。
コルトパイソン。リボルバー。銀色の拳銃。
子猫。片目。眼帯。
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海。汗ばむ背中。ペットボトルの水。
柔らかい胸の感触。体温。涙。
すれ違う友達。コバルトブルーの絵の具。片想い。
黒いパーカー。銀色の髪。ダボダボな服のサイズ。
人工的な葡萄の香り。泣き声。その横顔。
「雪城マコト」
少年はその名を呼んだ。
返事はないが自分自身の身体がそれに反応していた。
いつもの事だが制御不可だった。何一つ自分の思い通りにはならなかった。
シフトレバーが硬いせいで現在地を発進すらできずにいる事に誰よりも少年自身が戸惑っていた。
少しの間逡巡した後、悩んだ末にシャワーの蛇口温度設定のツマミを勢いを付けてフルに回す。
数秒後に冷え切った水が少年の身体めがけて矢のように降りかかる。無言のまま少年はそれを全て浴びる。
夏の終わりの宵の時間帯は気温も心なしか控えめだった。身体がどんどん冷え切っていく。
もう少し冷やしていこう。少年は涙も汗も迷いも全て洗い流した。
シャワーから上がると少年はJAのロゴ入りの使い倒してゴワゴワになったスポーツタオルで身体を拭いた。
赤いTシャツと学生服のズボンを履き、靴下を履いた。
麦茶を飲みながらちゃぶ台の上に置いていた爪切りで爪を切った。
短くし過ぎて深爪しそうになったが概史のアドバイスを思い出した。
多分これくらいだろうか。爪切りの裏側の爪やすりで切り口を丸くした。
少年はなんとも言えない気分に襲われた。
爪。つめ。ツメ。
少年は自分の両手をじっと見た。
俺はこの手をどうするんだろう?
この指をどうするんだろう?
この爪はどうなるんだろう?
考えても何も答えは得られなかった。
いつも通りにワックスで髪をセットする。
降りた前髪を立たせて後ろに持っていく。いつものヘアスタイルだった。
俺は大人になるのか?鏡に映った自分自身に少年は問いかけた。
鏡の奥の自分は黙っていた。どこか泣きそうな顔であるようにすら思えた。
短ランを羽織るとボタンを留めずに少年は目を閉じ両頬を叩いた。
カラーボックスの上にあるフォトフレームを手に取ると行ってきます、と呟き少年は自宅を後にした。
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