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第2章 地球活動編

第129話 女の怒り 水咲 二節 聖者襲撃編

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 異世界アリウス ギルドハウス第一会議室
 榛原水咲はいばらみさきは配れた資料を目に通し、あまりの馬鹿馬鹿しさに頭を抱えていた。

(昨日の今日よ。マスター、貴方、どんだけよ……)

 あの地球の歴史を変えかねない一大イベントからたった一日で、今度は女神様とドンパチだ。巻き込まれ体質といっても限度があると思う。
キリキリ痛む胃にポケットからこの頃お守りにすらなっている胃薬を飲み込んで、グルリと会議室を一望する。
 闇帝国ダークエンパイアのギルドへの編入と他の二王家の受け入れ準備により、今ギルドは猫の手も借りたいくらい忙しい。だから、この度緊急招集されたのは現在、偶然・・手の空いていた一番隊から新設される四番隊までの戦闘職。
 そして直ちに資料にある民間人の救助に動いて欲しいと、たった今、白髪青年メルヴィンから指示を受けたわけだが……。
 
(この面子、明らかに思金神おもいかねさんの悪意を感じるんだけど……)

 そう。この胃の痛みの一番の原因が収集されたこの面子と配られた資料の内容からだ。
 サブマスターのステラ、一番隊からはカリスとネメス、二番隊からはグレーテル、三番隊からはブラド、四番隊からは雫とユリ。さらになぜか多忙なはずのマリアまでいた。
 全員、女性であり、マスターに一定の想いを寄せている者達ばかり。
 そして火のような怒りの色を顔に漲らせつつも配布された資料に目を通している彼女達の姿を見れば、水咲が呼ばれた理由も概ね予想がつく。
 
――――――――――――――
 『雨女河村生贄事件』

 □背景事情:《雨女河村》は京都三家の一つ、和泉家の分家筋の系譜であり、宗家である和泉家から、『神降ろし』で召喚した天族との契約を約40年間にも及び強制履行してきた。

◆『神降ろし』:千年に一人と謳われた和泉家宗主――和泉久世いずみくぜが編み出した《混沌》第八階梯の極大魔術の奥義――《召喚同化術》レベル六――《魂魄昇華》の別名。
 五界の住人を召喚し、高位の魔術師数十名から数百名を生贄に肉体を形成する。召喚されたものは、疑似的な神格を得る。

□『神降ろし』により召喚された天族:
蜂瘡姫ほうそうき:魔術師200人の魂をもとに顕現した天族――女疫属。
◆女疫属:全て女性であり、寿命が通常の天族としては比較し短く、老いるのも早い。(それでもエルフ並みの寿命はある)他種族の男性と交わることでその生命力、スキル、魔術を吸収するスキル《交差剥奪》を有する。

□和泉家と天族との契約内容:有事の際、和泉家の戦力として力を振るう。その等価交換として、三年ごとに、若い女一人、一年ごとに若い男を三人ずつ生贄に差し出させる。和泉家が生贄を差し出す限りにおいて蜂瘡姫ほうそうきは契約から解放されない。

□生贄とされた者達の処遇:
〇若い女性――蜂瘡姫ほうそうきは《病魔呪》により女性から生気(生命力)を吸収し、若さと美貌を保つ。その際に生じる呪いにより、短命で三年で死亡しかつ、全身に膿疱が生成し肌は徐々に腐敗する。その膿疱は他者に触れると伝染する。
 また、和泉家は同時に和泉家と蜂瘡姫ほうそうきの意に反する行為につき巫女の知覚を通じて和泉家が感知する呪いを巫女にかける。
 そして、和泉家の指示でその間、力を吸われた女は蜂瘡姫ほうそうきの巫女として雨女河村の全権を掌握する。巫女に逆らった者は和泉家の総力を挙げて滅ぼされる。この理由は《雨女河村》の反乱防止の観点からである。

〇若い男性――蜂瘡姫ほうそうきとその配下の者達の床の相手。生命力が枯渇するまで、《交差剥奪》で絞り取られる。数か月で次の生贄を待たずして全て死亡。

□和泉家の対応:家親戚レベルでの密告制度を確立。審議会やマスメディア等に密告したものは全て内密に殺される。

□《雨女河村》の重要人物:
神楽蛍かぐらほたる:現在の蜂瘡姫ほうそうきの巫女。本名――遊馬蛍あすまほたる遊馬壬あすまじんの妹であり、滝真白ましろを姉のように慕う。後一年の命。

盤井伍策ばんいごさく:《雨女河村》の村長。過去に和泉家と蜂瘡姫ほうそうきに反乱を企て、親友を同志もろとも殺されている。それ以来、表面上は大人しく従っている。

滝道夫たきみちお:現在は、妻と真白を次の巫女にすると脅され密告役を命じられていた。

遊馬壬あすまじん:村人を人質に和泉家のスパイとして明神高校と審議会へ潜入している。

滝真白たきましろ:村人を人質に和泉家のスパイとして明神高校と審議会へ潜入している。

□敵戦力:
蜂瘡姫ほうそうき:レベル691。
・《病魔呪》:《至高》第5階梯のスキル。他者の生命力を奪い自身の生命力とする。その副作用として奪った者に呪いをかける。
・《眷属化》:《至高》第5階梯のスキル。他者を眷属化する。
・《交差剥奪》:《至高》第4階梯のスキル。異性と交わることで生命力、魔術、スキルを吸収する。
・《高位召喚》:《至高》第5階梯のスキル。特定の高位の存在を召喚できる。

※《病魔呪》は《交差剥奪》よりも、生命力強奪の効率が遙かによい。

◆魔術。
・《不死病術》::不死者化する術。《混沌》7階梯の魔術。

〇配下151名:蜂瘡姫ほうそうきが《高位召喚術》により呼び出した。スキル《交差剥奪》をもつ。
蜂子ほうし:レベル302。
・その他、平均レベル250。

〇和泉家殲滅部隊――《死泉しせん》109名:レベル平均120。若干名レベル200を超えているものがいる。

□マスターの現在:今、村人を人質に取られ《交差剥奪》の生贄候補として捕縛中。

■作戦の最重要目的:村人の迅速、無傷の救助と敵戦力排除。

■救助対象:
〇村の役員達と遊馬壬あすまじん滝真白ましろ:村の寄合所。(マスターが救出すべき)

〇村の役員達の家族:神社の第一祭具殿。(幹部により救出すべき)
 ――――――――――――――

 清々しいまでの悪役っぷりだが、先日の闇帝国ダークエンパイアと比較してもどっこいどっこいだろう。それなのにこの部屋に充満する癇癪玉が破裂するかのような激烈な憤怒は闇帝国ダークエンパイアのときを遥かに超えている。それもこれも、あの文言のせいだ。
 即ち――『今、村人を人質に取られ《交差剥奪》の生贄候補として捕縛中』

「殺す……」

 カリスのこの物騒な呟きを誰も否定せず、魔力を陽炎のように全身から迸らせる。

思金神おもいかねさん、これ狙ってやってるのかな?)

 いずれにせよ、水咲がこの場に呼ばれた理由は彼女達のストッパー役だ。まったくその役を演じ切る自信などないが、一応の努力はしてみようと思う。

「行きましょう」

「……」

 まったく心の籠っていない静かなステラの声を契機に、一斉に無言で立ち上がる一同。
 悪鬼羅刹化した彼女達の姿に、秋の冷気に似た戦慄が水咲の背筋を走り抜ける。あのメルヴィンでさえも頬を引き攣らせているのだ。せんなきことといえよう。
 近い将来《雨女河村》で起こる地獄のような光景を思い描き、敵の女性達の幸薄い未来に水咲は合掌した。

 ……………………………………
 お読みいただきありがとうございます。
 雨女河村生贄事件が書き終わりましたので投稿いたします。
 ネメスがユリと同じ髪型なのには理由があります。これもいずれ本編かSSで述べたいなと思ってます。
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