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3章:学校生活
1:章太郎の学校生活
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買い物に行ってから数日。六月に入った。
ガレットとの日常にも慣れて楽しく過ごしている。彼に抱いている俺の感情は一体どういう名前を付ければいいのかわからない日々が続いているけれど。今週の土曜日に一緒に食事を作ろうと計画している。
それでも、相変わらず学校では一人の日常を送っている。入学当初に流れていた俺に関しての噂は落ち着いては来たけれど、やっぱりなんとなく避けられているような空気感は変わらなかったし、俺も誰かと積極的に関わったり、ということは躊躇してしまった。
季節柄、屋上を使っていたけれど、雨が降る日が多くなってきたから、昼食は学校の空き教室とか、テスト直前以外はほとんど使われていない職員室前の勉強スペースで食べている。
ただ、家で過ごしている彼のことを考えているから、前よりも気持ちは明るくなったような気がする。
今日は久々に晴れたから屋上で食べた。やっぱり一人だったけれど、今日の弁当の出来もガレットが褒めてくれたから、寂しさは感じなかった。
昼休み。階段を降りて廊下を歩いて自分の教室に向かう。
「ん……?」
うちのクラスの少し前から声が聞こえてきた。
「新入部員募集しています! よろしくお願いします…!」
段ボールで作ったかわいらしいデザインのプラカードを下げている小柄な生徒が、何かを配っていた。時季外れの部活の勧誘? 彼が俺を見上げる。目が合った。彼からはあまり怯えの瞳は見えない。そのまま、す、と俺の手の方にチラシを差し出してくれた。
「どうも……」
会釈してそれを受け取る。珍しいこともあるんだな。すぐ近くにほかの生徒がいたから、そちらに気を取られていたのかもしれない。
料理研究部、と書かれたチラシ。丸っこいかわいいフォントと目玉焼きを焼いているフライパンのイラストが描かれている。「料理が好きなら大歓迎! 作ったり食べたりしよう!」とキャッチコピーのように活動内容が記載されている。
「……」
料理は好きだし、楽しそうではあるけれど、俺が入ったところで、あまり役に立てるとは思わない。それどころか、俺が入ると悪い噂が広がってしまうかもしれない。興味がないわけではないけれど。そう考えると少し申し訳なくてそっとそれを四つ折りにして、ファイルの中に仕舞った。
家に帰る。ガレットは俺が帰って来る度に玄関先まで毎日迎えに来てくれる。
「おかえり。章太郎」
「ただいま。ガレット」
そして、俺を見るひどく幸せそうな表情をする。デートで長い時間恋人を待っていた、みたいな顔。その表情で俺も嬉しくなってしまう。小学校の頃、帰って着て母さんが出迎えてくれた時の嬉しさとは似ているようで、少し違う気がする。
そのまま、お互いの一日を共有する。ほとんどはガレットが観たテレビ番組の話とか、レシピ本から得た情報が主だけれど。レシピ本もそろそろ読み終わりそうだから、俺の使わない教科書も貸した。それも随分と楽しそうに読んでいる。教科書に関しては俺よりも真面目に読んでいるかもしれない。この時間で、今日も食べたいものを訊く。冷蔵庫の中身とも相談した結果冷しゃぶと野菜サラダになった。
「楽しみだね、土曜日」
「そうだな」
ガレットは、まるで遊園地にでも行くかのように、土曜日の話をしている。今週の土曜日に、二人で一緒に食事を作ろうと決めたから。
「章太郎」
「ん?」
「……そういえば、学校はどうだったんだい?」
ガレットが問いかけた。あまり彼からそういう問いかけをすることがないから、俺は思わず身構えてしまった。
「……ああ、うん。まあ、楽しかったよ……」
時間をかけて考えた後、明らかに不自然な答えを返した。
楽しくない、と言ったらガレットを心配させてしまうかもしれないから嘘を言った。明らかに嘘を言っている、というのが分かるような口ぶりになってしまう。
ガレットは、俺が嘘を言っている、と知ってか知らずか、少し間を置いて「そうなんだね」と言うだけで、後は何も訊かなかった。それが、少しありがたかった。
ガレットとの日常にも慣れて楽しく過ごしている。彼に抱いている俺の感情は一体どういう名前を付ければいいのかわからない日々が続いているけれど。今週の土曜日に一緒に食事を作ろうと計画している。
それでも、相変わらず学校では一人の日常を送っている。入学当初に流れていた俺に関しての噂は落ち着いては来たけれど、やっぱりなんとなく避けられているような空気感は変わらなかったし、俺も誰かと積極的に関わったり、ということは躊躇してしまった。
季節柄、屋上を使っていたけれど、雨が降る日が多くなってきたから、昼食は学校の空き教室とか、テスト直前以外はほとんど使われていない職員室前の勉強スペースで食べている。
ただ、家で過ごしている彼のことを考えているから、前よりも気持ちは明るくなったような気がする。
今日は久々に晴れたから屋上で食べた。やっぱり一人だったけれど、今日の弁当の出来もガレットが褒めてくれたから、寂しさは感じなかった。
昼休み。階段を降りて廊下を歩いて自分の教室に向かう。
「ん……?」
うちのクラスの少し前から声が聞こえてきた。
「新入部員募集しています! よろしくお願いします…!」
段ボールで作ったかわいらしいデザインのプラカードを下げている小柄な生徒が、何かを配っていた。時季外れの部活の勧誘? 彼が俺を見上げる。目が合った。彼からはあまり怯えの瞳は見えない。そのまま、す、と俺の手の方にチラシを差し出してくれた。
「どうも……」
会釈してそれを受け取る。珍しいこともあるんだな。すぐ近くにほかの生徒がいたから、そちらに気を取られていたのかもしれない。
料理研究部、と書かれたチラシ。丸っこいかわいいフォントと目玉焼きを焼いているフライパンのイラストが描かれている。「料理が好きなら大歓迎! 作ったり食べたりしよう!」とキャッチコピーのように活動内容が記載されている。
「……」
料理は好きだし、楽しそうではあるけれど、俺が入ったところで、あまり役に立てるとは思わない。それどころか、俺が入ると悪い噂が広がってしまうかもしれない。興味がないわけではないけれど。そう考えると少し申し訳なくてそっとそれを四つ折りにして、ファイルの中に仕舞った。
家に帰る。ガレットは俺が帰って来る度に玄関先まで毎日迎えに来てくれる。
「おかえり。章太郎」
「ただいま。ガレット」
そして、俺を見るひどく幸せそうな表情をする。デートで長い時間恋人を待っていた、みたいな顔。その表情で俺も嬉しくなってしまう。小学校の頃、帰って着て母さんが出迎えてくれた時の嬉しさとは似ているようで、少し違う気がする。
そのまま、お互いの一日を共有する。ほとんどはガレットが観たテレビ番組の話とか、レシピ本から得た情報が主だけれど。レシピ本もそろそろ読み終わりそうだから、俺の使わない教科書も貸した。それも随分と楽しそうに読んでいる。教科書に関しては俺よりも真面目に読んでいるかもしれない。この時間で、今日も食べたいものを訊く。冷蔵庫の中身とも相談した結果冷しゃぶと野菜サラダになった。
「楽しみだね、土曜日」
「そうだな」
ガレットは、まるで遊園地にでも行くかのように、土曜日の話をしている。今週の土曜日に、二人で一緒に食事を作ろうと決めたから。
「章太郎」
「ん?」
「……そういえば、学校はどうだったんだい?」
ガレットが問いかけた。あまり彼からそういう問いかけをすることがないから、俺は思わず身構えてしまった。
「……ああ、うん。まあ、楽しかったよ……」
時間をかけて考えた後、明らかに不自然な答えを返した。
楽しくない、と言ったらガレットを心配させてしまうかもしれないから嘘を言った。明らかに嘘を言っている、というのが分かるような口ぶりになってしまう。
ガレットは、俺が嘘を言っている、と知ってか知らずか、少し間を置いて「そうなんだね」と言うだけで、後は何も訊かなかった。それが、少しありがたかった。
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