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プロローグ:ガレットとの日常
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俺、古谷 章太郎が道端で拾った魔法使い、ガレットと一緒に暮らすことになってから十日ほどが経った。
魔法使い、と言ってもまだ十分に魔力が回復してなくて、魔法を使うことは出来ないらしいけれど。
二人分の夕食が乗っているテーブル。俺とガレットが向かい合うようにして座っている。
目の前にいるガレットは、絵本の世界から飛び出してきた王子様、と言われてもおかしくないほどの美形。長い金髪に美しい金髪。正面から見ても横から見ても美しい、としか言い表せないくらいの端正な顔立ち。黙っていれば美術館に飾られている絵のよう。そんな美形の彼が家に同居人として一緒に住んでいて、そしてガレットが「魔法使いだ」ということに現実味を感じていないのも事実。
不思議な夢でも見ているんじゃないか、と思ってしまう。
「とてもおいしそうだね……!」
テーブルの上に乗った今日の夕食を見てガレットはきらきらと目を輝かせている。
今日の夕食は目玉焼きを乗せたハンバーグに付け合わせのブロッコリーとにんじん。キャベツサラダにコンソメスープ。そして白米。付け合わせのにんじんは花の形にくりぬいた。
この間、肉じゃがに同じ形のにんじんを入れたら随分と喜んでくれたから。
「食べるのが楽しみだ……!」
魔法使いだから1000歳ちょっと、くらいなことを言っていたけれど、外見年齢は高校一年生の俺よりも10歳くらい年上に見える。けれど、今、俺の作った夕食を見つめているガレットの表情はまるで初めてレストランに来た子どものようにあどけない。芸術品のような顔の造形と、子どものような表情の作り方がなんともギャップがある。
「いただきます」
二人で手を合わせて食事を始める。ガレットは小さくハンバーグを切ってそれを口に入れ、もぐもぐと咀嚼する。俺はなかなか手を動かせないまま反応を待つ。
「……どう?」
ガレットはここに来てから俺の作るものは何でも美味しい、と言って食べてくれているけれど、初めての料理を出す時はやっぱり緊張する。
「おいしいよ!」
ぱあ、と笑顔を浮かべるガレット。その表情に安心した。
「……よかった。おかわりもあるから」
「ありがとう!」
俺もコンソメスープに手を付けた。昨日作った肉じゃがの野菜とキャベツと冷蔵庫にあったベーコンを一緒に煮込んだもの。
広い家で一人で食べていた食事を、こうして二人で食べる。一人の時間が長すぎて、まだ慣れないけれど、なんだかあたたかい。
「章太郎」
「……何?」
「君の料理は本当においしいね。こうしてあたたかくおいしい食事を振る舞ってもらえるのは幸福だよ」
「……どうも」
面と向かって言われるとなんだか照れてしまって、そしてどう返事をすればいいのか分からなくて、素っ気ない返事しか出来なくなってしまう。
魔法使いを拾って、食事を振る舞ったら、随分と彼に気に入られてしまった。長い間の「一人暮らし」が影響して料理には多少の自信がある。だから、料理を気に入ってもらえるのは素直に嬉しい。
でも……。
「私は君と出会えて本当に幸せだよ。優しくて素敵な君といつも一緒にいられるのだから」
「……」
俺に向けられているその目はただ「美味しい料理を作ってくれる人」に向けられる視線ではない。かといって家族に向けられているような視線でもない。こういう目を一切向けられたことがないから分からないけれど、恋愛ドラマのイケメンが向けてくるような視線。
ずっと怖がられて、避けられてばかりの人生を送っていた俺にとってそういう態度を向けてくれる誰かがいるとは思わなかったし、こうして俺そのものまで気に入られるなんて夢にも思わなかった。
沈黙の時間が流れる。
嬉しくないわけではないけれど、それよりも、こういう感情を受け取ったことがなくて、やっぱり、どう答えればいいのか分からなくて戸惑ってしまう。
「章太郎」
俺が上手く返せないのに気を遣ってくれてか、ガレットが俺の名前を呼んだ。
「……何?」
出した瞬間に後悔してしまう。つい長年癖のように使ってしまった返事。不機嫌なわけでも、嫌なわけでも何でもなくて、周りの反応から身を守るように、無意識に防御するように強い態度を出すようになってしまった。
それでもガレットは気にする様子がなかった。そのまま穏やかな表情で俺に対して話しかける。その表情は外見年齢相応の柔らかい表情であった。
「明日も、ワタシのために料理を作ってくれるかい?」
「……ああ」
ガレットにどういう感情を抱いているのか、今の俺には上手く言葉に表すことが出来ない。
でも、ガレットと一緒に過ごす時間は、楽しいし、心地いい。
魔法使い、と言ってもまだ十分に魔力が回復してなくて、魔法を使うことは出来ないらしいけれど。
二人分の夕食が乗っているテーブル。俺とガレットが向かい合うようにして座っている。
目の前にいるガレットは、絵本の世界から飛び出してきた王子様、と言われてもおかしくないほどの美形。長い金髪に美しい金髪。正面から見ても横から見ても美しい、としか言い表せないくらいの端正な顔立ち。黙っていれば美術館に飾られている絵のよう。そんな美形の彼が家に同居人として一緒に住んでいて、そしてガレットが「魔法使いだ」ということに現実味を感じていないのも事実。
不思議な夢でも見ているんじゃないか、と思ってしまう。
「とてもおいしそうだね……!」
テーブルの上に乗った今日の夕食を見てガレットはきらきらと目を輝かせている。
今日の夕食は目玉焼きを乗せたハンバーグに付け合わせのブロッコリーとにんじん。キャベツサラダにコンソメスープ。そして白米。付け合わせのにんじんは花の形にくりぬいた。
この間、肉じゃがに同じ形のにんじんを入れたら随分と喜んでくれたから。
「食べるのが楽しみだ……!」
魔法使いだから1000歳ちょっと、くらいなことを言っていたけれど、外見年齢は高校一年生の俺よりも10歳くらい年上に見える。けれど、今、俺の作った夕食を見つめているガレットの表情はまるで初めてレストランに来た子どものようにあどけない。芸術品のような顔の造形と、子どものような表情の作り方がなんともギャップがある。
「いただきます」
二人で手を合わせて食事を始める。ガレットは小さくハンバーグを切ってそれを口に入れ、もぐもぐと咀嚼する。俺はなかなか手を動かせないまま反応を待つ。
「……どう?」
ガレットはここに来てから俺の作るものは何でも美味しい、と言って食べてくれているけれど、初めての料理を出す時はやっぱり緊張する。
「おいしいよ!」
ぱあ、と笑顔を浮かべるガレット。その表情に安心した。
「……よかった。おかわりもあるから」
「ありがとう!」
俺もコンソメスープに手を付けた。昨日作った肉じゃがの野菜とキャベツと冷蔵庫にあったベーコンを一緒に煮込んだもの。
広い家で一人で食べていた食事を、こうして二人で食べる。一人の時間が長すぎて、まだ慣れないけれど、なんだかあたたかい。
「章太郎」
「……何?」
「君の料理は本当においしいね。こうしてあたたかくおいしい食事を振る舞ってもらえるのは幸福だよ」
「……どうも」
面と向かって言われるとなんだか照れてしまって、そしてどう返事をすればいいのか分からなくて、素っ気ない返事しか出来なくなってしまう。
魔法使いを拾って、食事を振る舞ったら、随分と彼に気に入られてしまった。長い間の「一人暮らし」が影響して料理には多少の自信がある。だから、料理を気に入ってもらえるのは素直に嬉しい。
でも……。
「私は君と出会えて本当に幸せだよ。優しくて素敵な君といつも一緒にいられるのだから」
「……」
俺に向けられているその目はただ「美味しい料理を作ってくれる人」に向けられる視線ではない。かといって家族に向けられているような視線でもない。こういう目を一切向けられたことがないから分からないけれど、恋愛ドラマのイケメンが向けてくるような視線。
ずっと怖がられて、避けられてばかりの人生を送っていた俺にとってそういう態度を向けてくれる誰かがいるとは思わなかったし、こうして俺そのものまで気に入られるなんて夢にも思わなかった。
沈黙の時間が流れる。
嬉しくないわけではないけれど、それよりも、こういう感情を受け取ったことがなくて、やっぱり、どう答えればいいのか分からなくて戸惑ってしまう。
「章太郎」
俺が上手く返せないのに気を遣ってくれてか、ガレットが俺の名前を呼んだ。
「……何?」
出した瞬間に後悔してしまう。つい長年癖のように使ってしまった返事。不機嫌なわけでも、嫌なわけでも何でもなくて、周りの反応から身を守るように、無意識に防御するように強い態度を出すようになってしまった。
それでもガレットは気にする様子がなかった。そのまま穏やかな表情で俺に対して話しかける。その表情は外見年齢相応の柔らかい表情であった。
「明日も、ワタシのために料理を作ってくれるかい?」
「……ああ」
ガレットにどういう感情を抱いているのか、今の俺には上手く言葉に表すことが出来ない。
でも、ガレットと一緒に過ごす時間は、楽しいし、心地いい。
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