上 下
3 / 5

第3話 出会いと始まりの魔法

しおりを挟む
プラムが5歳になった頃、彼女の日課は森の中でこっそり魔法の練習をすることだった。両親に見つからないように、そして村の人たちにも知られないように、プラムは毎日こっそりと森に向かった。彼女は水魔法のランクが低いことを気にしていたが、それでも少しずつ魔法を操ることが楽しくなり、いつか強くなれると信じていた。

森の中に流れる川のほとりで、彼女は魔法の杖を握りしめ、小さな水の流れを操作しようとしていた。水面に集中し、そっと呪文を唱えると、川の水が少しだけ揺れ動いた。それが彼女の努力の成果だった。ランク1とはいえ、少しずつ魔法が成長している実感があり、プラムは日々の練習に少しだけ自信を持ち始めていた。

ある日、プラムはいつものように川で練習していると、ふと人の気配に気がついた。目を凝らして川の反対側を見てみると、そこには一人の少年がいた。金色の髪が太陽の光を反射し、彼は一心不乱に魔法の練習をしていた。

「誰……?」

プラムは思わず身を潜めた。見たことのない少年だったが、その手には立派な魔法の杖が握られており、彼が魔法を使っている様子が見て取れた。彼の魔法は、プラムが使う水魔法とは違い、炎のような赤い光を放っていた。

「火の魔法……!」

プラムは興味津々でその様子を見つめた。少年は全身で集中している様子で、彼が動かす杖から放たれた炎が、まるで生き物のように空中を舞っていた。プラムの使う水魔法とは比較にならないほど力強く、彼の魔法は簡単に火を操っていた。

(すごい……こんな魔法が使えるなんて!)

プラムは息を呑んだ。彼の魔法を見ているうちに、自分の小さな魔法がますます情けなく思えてきた。それでも、彼の魔法の美しさに心を奪われ、しばらくの間、彼女はその場に隠れながらずっと見続けていた。

その後も、プラムは森に通うたびに、少年が一人で魔法の練習をしているのを見かけた。彼女は声をかける勇気はなく、遠くから見守ることしかできなかったが、彼の魔法に憧れを抱くようになっていた。

そんなある日、プラムがいつものようにこっそり少年の魔法を見ていると、ふいに彼がこちらを振り向いた。彼女の存在に気づいたのだ。

「誰だ!?」

少年は鋭い声で言った。プラムは驚いて木の影に隠れたが、もう遅かった。彼はすでに彼女を見つけていた。

「隠れても無駄だ、出てこい!」

仕方なくプラムは、ゆっくりと木の影から出て、少年の前に現れた。少年は彼女をじっと見つめ、少し眉をひそめた。

「君、ここで何をしているんだ?」

「えっと……」

プラムはどう説明すればいいのか迷った。自分がずっと彼の魔法を見ていたなんて言えない。しかし、嘘をつくこともできなかった。

「君……僕の魔法を見ていたのか?」

少年は何かを悟ったように、ため息をついた。プラムは黙って頷く。

「そうか。でも、君も魔法を使うんだろ?杖を持っているじゃないか」

少年はプラムの手にある杖を見て、そう言った。プラムはハッとして自分の杖を見下ろした。

「私は……水魔法しか使えないの。しかも、ランク1だから……」

プラムは視線を落とし、少し肩をすぼめた。少年は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに優しい目を向けた。

「ランク1だって?でも、魔法は魔法だろ。そんなに気にする必要はないさ」

少年はそう言うと、少し笑った。その笑顔に、プラムは少し安心した。

それから数日が経ち、プラムは再び森に行った。今度は自分の魔法の練習をするためだが、どこかで少年とまた会えるのではないかと期待していた。すると、予想通り、彼はまた川の近くで魔法の練習をしていた。

「こんにちは」

プラムは勇気を出して声をかけた。少年は驚いたように振り返ったが、すぐに笑みを浮かべた。

「また君か。今日は練習を見ているだけじゃなく、やってみる気になったのか?」

プラムは少し緊張しながら頷いた。

「君の名前は?」

「プラム。プラム・リーヴ」

「僕はルシアン。」

ルシアンはそう言うと、自分の杖を見せた。「君もやってみるといい。僕も最初は下手だったけど、練習すれば少しずつできるようになるさ」

その言葉に励まされ、プラムは川の水に向かって杖をかざした。何度も練習してきた動作だったが、今日は少し違った。ルシアンが見守っているというだけで、いつもよりも集中できる気がした。

「水よ、動け!」

プラムが呪文を唱えると、川の水が少しだけ揺らぎ、ほんの少しだが形を変えた。ルシアンはそれを見て、満足げに頷いた。

「いいじゃないか!ちゃんと動いてるよ。魔法は使えば使うほど上手くなる。僕だって、最初は火を操れなかったんだ」

プラムは驚いた。

「本当に?君の魔法はすごく強そうに見えるけど……」

ルシアンは笑って首を振った。

「まだまだだよ。君も僕も、これから強くなっていくんだ。一緒に練習すれば、もっと上手くなれるかもしれない」

プラムはその言葉に胸を打たれた。一緒に練習する——それは、彼女がずっと望んでいたことだった。

その日から、プラムとルシアンは森の川辺で一緒に魔法の練習をするようになった。プラムは水魔法を、ルシアンは火魔法を練習し、お互いに刺激を与え合いながら、少しずつ成長していった。

ルシアンは魔法のランクの違いを全く気にせず、むしろプラムが使う水魔法の可能性を楽しそうに話してくれた。

「水魔法は、火魔法と組み合わせることで新しい魔法を作り出せるかもしれないよ。例えば……蒸気を作るとかね」

プラムはその言葉に目を輝かせた。魔法のランクが低いからといって、諦める必要はないのだ。二人で一緒に魔法を探求し、新しい力を見つけていく。それが彼女たちの新たな冒険の始まりだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

憧れていた魔法の世界なのにしょぼい魔法しか使えない

一ノ瀬満月
ファンタジー
 可奈子は病気で長い入院生活を送っていたが、もし生まれ変わるなら魔法が存在する世界に転生して魔法使いになりたいと願っていたところ、何かしらの存在により魂を別世界に飛ばされ、気づいたら小さな集落の果物農家の赤ちゃんに乗り移っていた。  成長するにつれ、少しずつ日本で暮らしていた頃の記憶が蘇り、家族が魔法を使えることで自分もいろいろな魔法が使えるのではないかと期待に胸を躍らせたが、3歳の時に測定した魔法適性で「水魔法 ランク1」しかないことが判明。期待していた分ショックが大きく、しかも城内にある魔法研究所の所員になる夢が絶たれしばらく塞ぎ込んでいたが、5歳の時に森の中の川の近くで魔法の練習をしている少年に出会う。  レベルが低くても多くの種類の魔法が使えるよう少年と一緒に魔法の練習をしていくなかで、隠された才能が開花し、家族や集落に住む人々を救うことになる。  果樹園の中で育まれる友情、家族愛、恋愛、そして魔法の探求を描いたファンタジー。 ※ 同じタイトル、同じあらすじで、AIと人間が別々に書いて別作品として投稿します。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

全裸ドSな女神様もお手上げな幸運の僕が人類を救う異世界転生

山本いちじく
ファンタジー
 平凡で平和に暮らしていたユウマは、仕事の帰り道、夜空から光り輝く物体が公園に落ちたのを見かけた。  広い森のある公園の奥に進んでいくと、不思議な金色の液体が宙に浮かんでいる。  好奇心を抱きながらその金色の液体に近づいて、不用心に手を触れると、意識を失ってしまい。。。  真っ白な世界でユウマは、女神と会う。  ユウマが死んでしまった。  女神は、因果律に予定されていない出来事だということをユウマに伝えた。  そして、女神にもお手上げな幸運が付与されていることも。  女神が作った別の世界に転生しながら、その幸運で滅亡寸前の人類を救えるか検証することに。  ユウマは突然の死に戸惑いながら、それを受け入れて、異世界転生する。

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった お詫びということで沢山の チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。 自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。

貞操逆転世界の温泉で、三助やることに成りました

峯松めだか(旧かぐつち)
ファンタジー
貞操逆転で1/100な異世界に迷い込みました 不意に迷い込んだ貞操逆転世界、男女比は1/100、色々違うけど、それなりに楽しくやらせていただきます。 カクヨムで11万文字ほど書けたので、こちらにも置かせていただきます。 ストック切れるまでは毎日投稿予定です ジャンルは割と謎、現実では無いから異世界だけど、剣と魔法では無いし、現代と言うにも若干微妙、恋愛と言うには雑音多め? デストピア文学ぽくも見えるしと言う感じに、ラブコメっぽいという事で良いですか?

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした

せんせい
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ―――

処理中です...