聖女の取り巻きな婚約者を放置していたら結婚後に溺愛されました。

昔

「聖女のお茶会に来てくれない？」

アカリ様にそういわれたのは学園の放課後、私が一人帰りの支度をしている時でした。運が良いのか悪いのか、三人やアカリ様の取り巻きの方々は近くにはおらず、私とアカリ様の一対一の状況でした。

「聖女のお茶会、とは何でしょうか？」
なんとなく聞き覚えがある気もするのですが、あまりなじみのない言葉です。お茶会には何度かお邪魔させてもらったのですが、聖女の、と限定するのはなぜでしょうか。
「なんかー、聖女の義務なんだけど、貴族の子供とか学生を聖女がもてなす会なんだって！一番広い教会の庭で私主催のお茶会するの！子供は何か教会の偉い人が選ぶみたいなんだけど、学生は友達を連れてきていいって言うから、男友達はレーブとかブレイグとか誘ったんだけどさ、女の子も呼びたいなって？ミアに来てほしいなって思うんだけど、どう？来てくれない？」
正直お断りしようと思ったのですが、ダメ押しのように「ミアが駄目そうなら私が顔見知りな女子ってメーレさんとかシャガートさんくらいだから、あの人たち呼ぼうと思うんだけど」などと言われ、必死に説得しているうちにいつのまにか私が出席することとなってしまいました。
まぁ仕方ありません。メーレ様やシャガート様でもさすがに直接アカリ様からお茶会に招待されたら、断りのときに表情に怒りなどが出てしまうでしょうし、ブラーナ様などはもしかしたら決闘を申し込んでしまうかもしれません。
婚約者を奪っていながら当たり前のような顔をしている人にお茶会に誘われる、なんて状況、普通じゃいられませんよね。
それに、私は何となく『聖女のお茶会』というものが楽しみだったのです。心のどこかで、それがとても大事なことであると、私にとって何かの転機かもしれない、と何かが言うのです。
聖女のお茶会は休日の昼間、ガーデンパーティだそうです。ドレスで行くわけにはいかないですから、ワンピースを新調すべきでしょうか。お父様に頼んでみましょう。何となく心が浮足立っているのを感じていました。

「聖女のお茶会か、先代の聖女のときに開かれたきりだから１０年ぶりぐらいか。そういえばミアが初めてパーティのようなものに出席したのはあれが初めてだったなぁ。うちが貧乏なせいでお前にも散々迷惑をかけて・・・」

思わぬところから疑問が解消しました。目元を拭うお父様を横目に私は考え込んでいました。
デビュタントと、学園のパーティ。二度だと思っていたパーティへの出席が実はさらに幼いころにもう一つあったというのです。なぜでしょう。全く覚えていないです。１０年前なら私は大体５，６歳前後。記憶が全くない年だとは思えないのですが。

「あの時は肝が冷えたなぁ。少し目を離しているうちにお前が高位の令息に何やらごみのようなものを押し付けて・・・。必死に謝ってすぐに退出してしまったが、あの令息はどこの家の子供だったかな。お前はわんわん泣いていてろくにしゃべれないし、私も頭を下げっぱなしで顔をよく見れなかったし・・・」

疑問が浮かんだそばからすぐに解消します。もしかしたらメーレ様たちが婚約を解消することが出来ない理由も、お父様に聞けばすぐに解消するかもしれませんね。私が覚えていないのは、お父様に怒られた嫌な記憶だからすぐに忘れてしまいたかったのでしょう。ごみを押し付けたとは何でしょう。それぐらいの年には手芸を始めていましたから、もしかしたらよれよれの紐飾りなどかもしれませんね。力作の品をプレゼントしたのに怒られて、悲しいとともに腑に落ちない思いが残っていたのかもしれません。そんなことが起こっても手芸を続けていたのなら、私の肝はかなり太いと言わざるを得ませんね。何も覚えていませんが。

聖女のお茶会は結構大規模な行事らしく、ワンピースを新調する許可はすぐに出ました。出来上がったらお茶会よりも先にシャガート様たちやクロシェット侯爵家の皆さんに見せに行きましょうか。聖女のお茶会に対する疑問が解消した今、ほとんどパーティへの出席は義理のようになってしまいましたし。それにお茶会にはブレイグ様が出席なさるとアカリ様がおっしゃっていましたから、アカリ様とブレイグ様がすぐ近くで楽しげにしているのを一人で見なくてはならないということになります。もしアカリ様が呼んだ女学生が私一人なら、他の男子はほとんどがアカリ様の取り巻きということになりかねませんから、もしかしたらかなり肩身の狭い思いをすることになるかもしれません。これはもう新しいワンピースを楽しみにするしかありません。多少は楽しみに思っていたお茶会が急に憂鬱なものにしか感じられなくなって、私はため息を吐くのでした。