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贈り物

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「そうかそうか、友人とドレスを揃えるのか、いいなぁ」
「マニッジ伯爵の家のドレスなのよね、あそこのはとても評判がいいからきっと素敵よ!」
ドレスの話をするとクロシェット侯爵と侯爵夫人は嬉しそうにしてくれました。学園卒業後すぐに嫁ぐことが決まっているため、侯爵家の皆さんと定期的に交流をしています。肝心の婚約者であるブレイグ様とは顔合わせ以来この場でお会いした事はないのですが。
「そんな風にするなら家からはドレスを贈らないほうがいいな」
クロシェット侯爵が頷きながら言います。
友人よりも婚約者は優先ですから、クロシェット侯爵家からドレスが贈られた場合、私はそれを着る必要があります。その場合せっかくのお揃いができなくなってしまいますから、クロシェット侯爵家からドレスを贈らない、と決めてくれたのはとても有難いです。ドレスを贈られる、というとても嬉しい話なのに気まずい思いをしながらドレスを着る、なんて事にならなくてすみますから。ちなみにここで重要なのはクロシェット侯爵家から、であってブレイグ様からではないところです。一般的には家からではなく婚約者からドレスが贈られる事が多いんですけどね。
「申し訳ないですが、そのようにお願いします」
なんて頭を下げたのですが。

「どうして贈られてきたんでしょう、これ…」
クロシェット侯爵家を訪問した数日後、私の家に大きな箱が贈られてきました。送り先はクロシェット侯爵家。中身は。
「きれいなドレス…」
なぜ、なぜ贈られてきたのでしょう。侯爵家からドレスは贈らないという話だったのに。長い丈の銀色の生地にに茶色のベルトの美しいドレスですが。
「どうしましょう…」
クロシェット侯爵家からの贈り物ですから、パーティではこれを着る事になります。お揃いにはできなくなってしまいます。銀のドレスと言っても、このドレスはブレイグ様の髪のような濃い銀、シャガート様の色は白銀ですから。嬉しいのです、ドレス自体は嬉しいのですが、友人とドレスをお揃いにできなくなることが少しだけ悲しいのです。気を取り直して私がドレスを広げ体に当ててみようとした時、
「すみません、すみません。こちらにブレイグ・クロシェット様からの贈り物が届かなかったでしょうか!」
玄関の方から大きな声が聞こえました。

「申し訳ございません!本日お届けした物なのですが、先程屋敷に戻ったところ令息様が先程の贈り物は間違いなので取りに戻れと!本当に申し訳ないのですが先程の物を引き取らせていただけないでしょうか!」
頭を下げ続けるクロシェット侯爵家の使用人に私は拍子抜けした気分でした。ドレスが届いたのは間違いだというのです。ドレスを箱に丁寧に戻すとぺこぺこと頭を何度も下げながら使用人は箱を持ち帰って行きました。一度贈ったものを取り返しに来るというのはかなり非常識ですが、この場合は助かりました。 
しかし、間違えた贈り物とはどういう事なのでしょう?しばらく考えてふと思い当たりました。
これは恐らくアカリ様宛のものですね。アカリ様に贈るはずが取り違えがあって私に贈られてしまったので慌てて取り戻しにきたのでしょう。ブレイグ様はセンスが微妙ですね。アカリ様に茶色のベルトは似合わないと思います。

…流石にこれにお礼の手紙などを贈る必要はないですよね。皮肉がすぎるでしょうか。
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