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12.順調な噂
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「今日もお帰りが早いですこと」
ちょうど食事の時間帯に帰宅したフレディは、そのまま食堂の席へと着く。
今まで仕事、仕事、で家にあまり寄り付かず、帰宅も遅かったフレディにサーラは皮肉を込めて言った。
「……文句あるのか」
「いーえ! 何がフレディ様を変えられたんでしょうねえ?」
恨めしい顔でフレディがサーラを見れば、彼女は更に皮肉を込めた。
「それよりもアリアは?」
サーラの皮肉を流し、フレディは食堂を見渡す。
フレディが早く帰宅する原因など、アリアがいるからに他ない。
「フレディ様、おかえりなさいませ!」
食事が乗ったワゴンを引いて、お仕着せ姿のアリアが入って来た。
「アリア……、君はまたメイドの仕事をしていたのか」
「はいっ!」
お仕着せ姿のアリアに複雑に思いながらも、フレディはまたアリアの手料理が食べられるのかと、期待に胸が膨らんだ。
「ん? 何か嬉しそうだね?」
「はいっ!」
いつもオドオドしているアリアがご機嫌で目の前に皿を並べていくのを見て、フレディは疑問に思う。
「あの……悪役令嬢として、フレディ様の虫除けの役割をちゃんと果たせたようで……嬉しいです」
少し顔を赤らめ、アリアはフレディに言った。
「んん?」
何のことかわからないフレディは首を傾げる。
「わたくしは、職場で女性に口付けをするような、いやらしい殿方になるようお教えしたつもりはありませんが?」
「?!」
アリアのうしろにいたサーラが怖い顔でフレディを睨んでいた。
「ま、まさか……?」
スティングからは明日には噂になっているから覚悟しろ、と言われた。
「はい……っ! その、昼間のキスが噂になっていて、フレディ様は悪女に夢中だと王城では噂になっているそうです」
何故か嬉しそうなアリアは横に置いておいて、フレディはがっくりとした。
「もうそんなに噂が……?!」
「潔癖で女嫌い。ローレン公爵家のフレディ様が悪女と結婚したこと自体、あっという間に情報が駆け巡りました。そんなフレディ様の噂なんて、瞬く間に広がるに決まっているでしょう」
愕然とするフレディにサーラが厳しい声色で言った。
「通いのメイドさんが教えてくれたんです。彼女は王城のメイドさんと仲良しだそうで、魔法省で働く方に見られていたそうで……」
恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに話すアリアに、フレディはムスッとした。
「ご自分の蒔かれた種でしょう?」
グラスにワインを注ぎ終わったサーラが耳元でボソリと呟いた。
キッとサーラを見れば、彼女はツーンとしている。
「可哀想に、リア。人前でこんな傷物にされてしまって……」
「傷物って……」
大袈裟に嘆くサーラにフレディはジトリと彼女を見る。
「私、私、悪妻の役目を果たせたみたいで嬉しいです!!」
二人の会話とはまたもや斜め上にアリアは喜んでいる。
「でもリア、あそこは開けた場所だから、魔法省の多くの働く人が目撃したと思うよ?」
「へっ……噂だけじゃなくて、実際に……?」
サーラの言葉にアリアは動きを止めた。
「フレディ様とリアのキスシーンを多くの人が見てたってこと」
そこまで聞いて、ようやく理解したのか、アリアの顔が赤く爆発した。
「わ、わわわ、私、何てことを?!」
赤い顔を両手で覆い、慌てふためくアリア。
そんなアリアを見て、フレディは愛おしさが募る。
「アリア、可愛い……」
「ふえ?!」
フレディの突然の甘い言葉に、アリアは増々顔を赤くして飛び上がった。
「……フレディ様?」
そんなフレディにサーラが釘を刺すように怖い顔で睨む。
「は、反省しているよ、サーラ」
「まったくです! 人前ではお控えなさいませ。リアが可哀想です!」
両手を上げて降参する仕草を見せたフレディに、サーラは呆れたように返した。
「リア、悪いのはフレディ様だから、あなたは気にしなくて良いのよ」
顔を赤くしてわたわたしているアリアに声をかけると、サーラはその場を後にした。
「……すまなかった、アリア……」
シン、と静まり返った食堂にフレディの声が低く響く。
「い、いえ!! あの、お仕事……ですから。それに、色々言われるのは慣れているので……」
アリアが口にした「仕事」「慣れている」というどちらの言葉も、フレディを悲しくさせた。
「アリア、君はもっと俺に甘えてくれて良いんだよ?」
「悪役令嬢としてですか?」
お仕事モードなアリアの言葉にフレディはがくりとする。
「いや、俺が君を甘やかすから、君も安心して身を任せて欲しい……っ」
「はい! 悪妻として、虫除けしつつ、離婚されるための我儘ムーブもお任せください!」
意気揚々と斜め上の返事が返って来て、やっぱりというか、少し期待したというか、フレディは机に肘を付いて頭を抱えた。
「フレディ様?」
アリアが覗き込むと、フレディはアリアの手を取った。
「ねえ、リアのままでも甘えて良いんだよ?」
あえて伝わるようにフレディは言った。アリアは目をパチクリさせると、フレディの手に自身のもう片方の手を添えた。
「アリア……」
ようやく伝わったかとフレディが期待の眼差しを向ける。
「フレディ様、リアはメイドですので、甘えるのは仕事ではありません」
真面目にきっぱりと言い切るアリアに、フレディはまたがっくりとした。
「フレディ様?」
きょとん、とするアリアに、フレディは完全に吹っ切れた
「うん。まあ、わかった。宣言した通り、俺は見せびらかすように外でも家でも、君に遠慮なく触れるし、君が仕事だって言うなら、存分に務めを果たしてもらうから。覚悟してね?」
握りしめられた手の隙間から、フレディが挑戦的な目でアリアを捕らえた。
そのラピスラズリの瞳に吸い込まれそうになり、アリアの胸が高鳴る。
フレディが自分の「悪役令嬢」に期待してくれているから嬉しくてこんなにも胸が煩いのだと、アリアは自分に言い聞かせるように、胸の中で何度も呟いた。
ちょうど食事の時間帯に帰宅したフレディは、そのまま食堂の席へと着く。
今まで仕事、仕事、で家にあまり寄り付かず、帰宅も遅かったフレディにサーラは皮肉を込めて言った。
「……文句あるのか」
「いーえ! 何がフレディ様を変えられたんでしょうねえ?」
恨めしい顔でフレディがサーラを見れば、彼女は更に皮肉を込めた。
「それよりもアリアは?」
サーラの皮肉を流し、フレディは食堂を見渡す。
フレディが早く帰宅する原因など、アリアがいるからに他ない。
「フレディ様、おかえりなさいませ!」
食事が乗ったワゴンを引いて、お仕着せ姿のアリアが入って来た。
「アリア……、君はまたメイドの仕事をしていたのか」
「はいっ!」
お仕着せ姿のアリアに複雑に思いながらも、フレディはまたアリアの手料理が食べられるのかと、期待に胸が膨らんだ。
「ん? 何か嬉しそうだね?」
「はいっ!」
いつもオドオドしているアリアがご機嫌で目の前に皿を並べていくのを見て、フレディは疑問に思う。
「あの……悪役令嬢として、フレディ様の虫除けの役割をちゃんと果たせたようで……嬉しいです」
少し顔を赤らめ、アリアはフレディに言った。
「んん?」
何のことかわからないフレディは首を傾げる。
「わたくしは、職場で女性に口付けをするような、いやらしい殿方になるようお教えしたつもりはありませんが?」
「?!」
アリアのうしろにいたサーラが怖い顔でフレディを睨んでいた。
「ま、まさか……?」
スティングからは明日には噂になっているから覚悟しろ、と言われた。
「はい……っ! その、昼間のキスが噂になっていて、フレディ様は悪女に夢中だと王城では噂になっているそうです」
何故か嬉しそうなアリアは横に置いておいて、フレディはがっくりとした。
「もうそんなに噂が……?!」
「潔癖で女嫌い。ローレン公爵家のフレディ様が悪女と結婚したこと自体、あっという間に情報が駆け巡りました。そんなフレディ様の噂なんて、瞬く間に広がるに決まっているでしょう」
愕然とするフレディにサーラが厳しい声色で言った。
「通いのメイドさんが教えてくれたんです。彼女は王城のメイドさんと仲良しだそうで、魔法省で働く方に見られていたそうで……」
恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに話すアリアに、フレディはムスッとした。
「ご自分の蒔かれた種でしょう?」
グラスにワインを注ぎ終わったサーラが耳元でボソリと呟いた。
キッとサーラを見れば、彼女はツーンとしている。
「可哀想に、リア。人前でこんな傷物にされてしまって……」
「傷物って……」
大袈裟に嘆くサーラにフレディはジトリと彼女を見る。
「私、私、悪妻の役目を果たせたみたいで嬉しいです!!」
二人の会話とはまたもや斜め上にアリアは喜んでいる。
「でもリア、あそこは開けた場所だから、魔法省の多くの働く人が目撃したと思うよ?」
「へっ……噂だけじゃなくて、実際に……?」
サーラの言葉にアリアは動きを止めた。
「フレディ様とリアのキスシーンを多くの人が見てたってこと」
そこまで聞いて、ようやく理解したのか、アリアの顔が赤く爆発した。
「わ、わわわ、私、何てことを?!」
赤い顔を両手で覆い、慌てふためくアリア。
そんなアリアを見て、フレディは愛おしさが募る。
「アリア、可愛い……」
「ふえ?!」
フレディの突然の甘い言葉に、アリアは増々顔を赤くして飛び上がった。
「……フレディ様?」
そんなフレディにサーラが釘を刺すように怖い顔で睨む。
「は、反省しているよ、サーラ」
「まったくです! 人前ではお控えなさいませ。リアが可哀想です!」
両手を上げて降参する仕草を見せたフレディに、サーラは呆れたように返した。
「リア、悪いのはフレディ様だから、あなたは気にしなくて良いのよ」
顔を赤くしてわたわたしているアリアに声をかけると、サーラはその場を後にした。
「……すまなかった、アリア……」
シン、と静まり返った食堂にフレディの声が低く響く。
「い、いえ!! あの、お仕事……ですから。それに、色々言われるのは慣れているので……」
アリアが口にした「仕事」「慣れている」というどちらの言葉も、フレディを悲しくさせた。
「アリア、君はもっと俺に甘えてくれて良いんだよ?」
「悪役令嬢としてですか?」
お仕事モードなアリアの言葉にフレディはがくりとする。
「いや、俺が君を甘やかすから、君も安心して身を任せて欲しい……っ」
「はい! 悪妻として、虫除けしつつ、離婚されるための我儘ムーブもお任せください!」
意気揚々と斜め上の返事が返って来て、やっぱりというか、少し期待したというか、フレディは机に肘を付いて頭を抱えた。
「フレディ様?」
アリアが覗き込むと、フレディはアリアの手を取った。
「ねえ、リアのままでも甘えて良いんだよ?」
あえて伝わるようにフレディは言った。アリアは目をパチクリさせると、フレディの手に自身のもう片方の手を添えた。
「アリア……」
ようやく伝わったかとフレディが期待の眼差しを向ける。
「フレディ様、リアはメイドですので、甘えるのは仕事ではありません」
真面目にきっぱりと言い切るアリアに、フレディはまたがっくりとした。
「フレディ様?」
きょとん、とするアリアに、フレディは完全に吹っ切れた
「うん。まあ、わかった。宣言した通り、俺は見せびらかすように外でも家でも、君に遠慮なく触れるし、君が仕事だって言うなら、存分に務めを果たしてもらうから。覚悟してね?」
握りしめられた手の隙間から、フレディが挑戦的な目でアリアを捕らえた。
そのラピスラズリの瞳に吸い込まれそうになり、アリアの胸が高鳴る。
フレディが自分の「悪役令嬢」に期待してくれているから嬉しくてこんなにも胸が煩いのだと、アリアは自分に言い聞かせるように、胸の中で何度も呟いた。
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