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4-2.嗄声

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「(ガバッ)あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!っ…はぁっ…はぁっ…はぁっ……はぁ…はぁ…………」

 ここは……そうだった。廃村で寝泊まりしてるんだっけか。

「………」

 外は……暗いな。まだ明け方前か。なんとも最悪な目覚めだな。

 取り敢えず、もうしばらく寝てから……

〈キキーッ!!〉
「……ん?」

 村の外から、何か……軋む様な音が?

「おい!早く運べ!!」

 何やら、外が騒がしい。

「(ガララッ)よし!ここに運べ!!」

 何だ?……下の方から?あぁ、そうか。ここ屋根裏だった。

 夜襲を警戒して登ったが、昼行灯でもなかったみたいだな。

 ともかく、出発の時刻って訳か。

 ここを起点にして、新たな町か村にでも行こうと思ったが、引き上げた方が良さそうだな。

「おい!こいつは助かるのか!?」
「わかりません。血が流れ過ぎています。」

 どうやら、怪我人も居る様だ。……怪我人か……そうだ!新しい薬を試しに作ってみたんだった。確か、血止めの効果があったはず……

 だから、何だ?

 怪我人が居るからって、何故助けに出るんだ?

 見ず知らずの人の前に出る事は、自分にとってはリスクしかない。

 もし彼らがここの住人だったなら、不法侵入を申告することになる。

 このまま立ち去る事にしよう。事前に屋根から出られる様に開けておいた。屋根裏から上に出て、外壁をカムフラージュネットを伝って降りれば……

「おい!誰か居ないか!!」

 外で誰かが叫ぶ。

「居たら返事をしてくれ!来る途中で馬車が盗賊に襲われたんだ!!」
「(カパッ)」

 なるほど。ここの住人ではなかったのか。

「頼む!仲間が血を流しているんだ!!」
「(バサッ)」

 薬は持っている。だが、薬を持っている事と、助ける事は別問題だ。

「今ならまだ助かるかもしれないんだ!!誰か!!」
「(スルスル)………(ストッ)」

 情に流されて、前世でどれだけのしっぺ返しを受けたことか。

「誰か……!!返事をしてくれっ…!!」
「………(ザッ)」
「!?君は……?」

 気がつくと、男の前に出ていた。流石に屋根裏から出て来たら不審がられるだろうし、外から回り込んだ。

「君!お父さんかお母さんは!?」

 さて、この薬を手渡して、さっさと立ち去ろう。

「(スッ)」
「?…これは?」

 けど、薬の説明くらいはするか。

「っ………」

 ………あれ?

「っ………!っ……………!?」

 声が…出なかった。

 プヨを相手に話す練習はしていた。だが、人に話しかけることが出来ない。喉の奥で、つかえて声が出ない。

「………」

 いや、もしかしたら……あの時から……わたしは……

「喋れないのかい?」
「………」
「ご両親……いや、大人の人は居ないかな?」

 ……仕方ない。

「(ヒョイッ)」

 割れた陶器の破片を手に取る。

「ん?」
「(ザクッ)っ!」
「!?お…おい!?」
「(ドクドクドクドク)っ!」

 ちょっと…深く切りすぎたかな。すかさず…

「(カパッ…スッ…ヌリヌリ)」
「(バッ)ちょっと腕を……あれ?」
「(ピタッ)」

 血は、うまく止まったようだ。薬の出来は上々だな。

「…!!(ズィッ)」
「あ…あぁ、なるほど。血止めの薬か。(パシッ)ありがとう。使わせてもらうよ。」

 さぁ、さっさと行ってくれ。

「(ガシッ)…ちょっと、ごめんね?」
「!?」

 抱え上げられた。


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