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入学手続き
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校舎に入る。
玄関ホール。
何階層になっているのかわからないが、吹き抜け構造になっていた。まるで積み上げたジェンガのなかにいるみたいだ。
不安定な構造にも見えるが、べつに安定しているとか不安定だとか、この世界にとっては意味はない。
5感も物理法則もある程度は現実に従っている。だが、常に従っているわけではない。重力加速度が9・8メートル毎秒毎秒である必要もない。
建物を空中に浮かすことだって難しいことではないのだ。
天井を見上げていると、首が痛くなってきた。右手。石造りの通路が伸びていた。左右には松明が設置されていた。中世ヨーロッパ風の雰囲気を模しているみたいだから、それに合わせているのだろう。
近くにあった松明に手をかかげてみた。ちゃんと熱は伝わってくる。
触れば熱いのだろう。
「なんかダンジョンにでも迷い込んだみたいね」
「実際、このヴェンヴ学園は、VDOOLの巣食うダンジョンみたいなもんじゃがな」
「この先で、編入手続きできるのよね」
「うむ」
歩いていると、通路の突き当りにはディスプレイがひとつ置かれていた。「学園名簿。登録VDOOL一覧」とあった。どうやら、そこで登録するらしかった。
エダに教えてもらいながら、登録手続きを済ませた。「バリデーションチェック・クリア」という文字が出てきて、ディスプレイにノウノの名前と企業名が記されることになった。
「企業名が、ロー・ミートになってるけど、これで良いの?」
ロー・ミート。
つまり、生肉って意味だろうか?
「エルシノア嬢を作ったクロディアスは、エルシノア嬢が垢BANされたときに、解体されておるからな。本当の企業名はクロディアスじゃが、そのまま名乗るわけにもいかん。まぁ、架空企業じゃな」
「そんなこと出来るんだ?」
「吾輩じゃからな」
と、ノウノの腕に抱えられたまま、エダは誇らしげに胸を張っていた。
「なんか犯罪臭がぷんぷんするわね」
この世界は当然のことながら、すべてプログラミングコードで記述されている。
世界を記述しているのだ。そりゃ堅牢なコードで記述されているだろうけれど、優秀なプログラマーなら、穴を作ることも出来るわけだ。
「吾輩の存在そのものが、違法みたいなところあるからな。国に目をつけられておるし、そのせいでこんな身体でないと、やっていけんし」
「なんかダメなヤツと手を組んじゃったような気がしてきたわ」
「今更、やっぱり辞めると言うても遅いからな。もう登録もしたし、アバターもオヌシに授けたんじゃから」
エダはそう言うと、振り向いてノウノの顔を見てきた。
頭部がカメラになっていて、どんな表情をしているのか、わからない。睨まれているような気がする。
「わかってる。言ってみただけよ。フォロワーさえ手に入れば、私は何でも良いんだから。でも、このアバターがポンコツだったら、ちょっと文句言うけどね」
「それはこっちのセリフじゃ。アバターの精度は間違いない。なにせ、あのエルシノア嬢の改良版じゃからな。吾輩のアバターを上手く使えなったら、吾輩だってオヌシに文句を言うからな」
まさに一蓮托生という感じだと思った。
ノウノは自分の胸裏を見つめてみた。
エダはどうしても、ロジカルンの犯罪を暴きたい心づもりのようである。そのために、ノウノにアバターを与えて、学園に潜り込ませたのだ。
その意気込みには、猛烈なものがある。
エダのその意気込みに、自分の闘志が釣り合っているだろうか、とノウノは不安に思ったのだ。
24社も選考落ちして来たのだ。さっさとインフルエンサーになって、落としてきた24社にザマァ見ろと言ってやりたい。
学園名簿に目をやる。そのいちばん上には、女王の名前とロジカルンという企業名が記載されている。
女王も、この学園にいるのだ。
ザコと言われた仕返しに、一発ぶん殴ってやりたいという気持ちが、思い出されてきた。大丈夫。ノウノにだって、意気込みはある。
「でも、だからって、ロー・ミートって名前はどうなの? なんかダサくない?」
「そのほうが警戒されずに済むじゃろうが」
「まあ、そうかもしれないけどさ」
ロー・ミートか。
現実の肉体、みたいな意味を含んでいるんだろうか。
「企業名など、どうでも良かろう。それよりも、さっさと誰かほかの企業のVDOOLとバトルしてフォロワーを稼がんとな」
「そうね」
学園名簿には、フォロワー数も記載されている。
ノウノは最下位の「0」である。今までウサギの着ぐるみとして使っていたアカウントではない。
ロー・ミートのアバターとして、心機一転アカウントである。
玄関ホールに戻った。
「良いじゃない。私たちとバトルしようよ」「エモーションの最新作なんでしょ」「ロジカルンのアバターと白黒つける良いチャンスじゃない」「ほら、配信の準備もうできてるんだからさぁ」……と、甲高い声が聞こえてきた。
ロジカルンとエモーションという2大企業の名前が聞こえてきたので、ノウノも気になった。
ロジカルンが1位を走る国家企業ならば、エモーションはそれに勝るとも劣らぬ民間企業である。
ふたりの蛇女に、少女がひとり絡まれている様子だった。
蛇女というのは、上半身は人間なのに、下半身は蛇になっているアバターである。ふたりの蛇女は、少女のまわりをグルグルと這い回っている。
一方で、からまれている少女はというと、いたってふつうのアバターであり、おびえたように縮こまっている。
「蛇女のほうがロジカルンのアバターで、絡まれている娘のほうは、エモーションのアバターじゃな」
と、エダが言った。
「ロジカルンのVDOOLって、女王だけじゃないのね」
「そりゃでかい企業じゃからな。多様なVDOOLを学園に送り込んでおる」
正直、どっちの企業にたいしても、ノウノはあまり良い印象を持っていない。
ロジカルンは、あの女王の属している企業である。エモーションというのは、直近でノウノのことを一時選考で落とした企業である。
「まあ、ちょうど良いし、助けてあげましょうか」
エモーションのアバターは、あまりバトルに乗り気ではない様子だった。
エモーションのアバターを助ける気にはなれないが、ロジカルンのアバターが調子に乗っているのも、それはそれで気に食わない。
なにより今は、一刻もはやくバトルしたかった。今のこのアバターの精度と確かめたいのだ。
「ねえ、あんたたち」
と、ノウノは声をかけた。
「はぁ?」
と、2人の蛇女がノウノのほうを見た。
「そんなにバトルしたかったら、私とやりましょうよ」
「あんた、どこの企業よ」
「企業は、ロー・ミートってところよ」
ロジカルン相手に、ロー・ミートの名前を出すのは、ちょっと気恥ずかしいものがある。
個人企業であるうえに、なんなら偽名である。ついでに言うと、ロー・ミートという名前もダサい。
企業規模として圧倒的格差である。
「聞いたことない企業ね。あんたのフォロワー数は?」
「編入してきたばかりだから、0よ」
と、ノウノは正直に答えた。
「0って。笑っちゃうじゃない。私たちのフォロワー数は20万よ。そんな雑魚とやり合ったところで意味ないじゃない」
2人の蛇女は高らかに笑った。
吹き抜けになっている玄関ホールに、その甲高い笑い声がひびいた。
「まあ、そうよね。私に負けたら、ロジカルンの企業に傷がつくものね。でも、外見だけなら、私のほうが圧勝だと思うけど」
フォロワー数20万と聞いて、ちょっと気圧されるものがあった。とはいえ、ここで腰が引けている場合ではない。
ノウノのターゲットは、フォロワー数300万の女王なのだ。20万ぐらいなら軽くつぶす必要がある。
「言うじゃない。じゃあ表に出なさいよ。軽く捻ってあげるわ」
と、二人の蛇女は、ノウノの挑発に乗ってきた。
良し来た、と思った。
これは、チャンスである。
無名の企業のアバターが、あのロジカルンのアバターをぶっ飛ばせば、一躍有名になるかもしれない。
2匹の蛇女たちに続いて、ノウノも表に出た。
廃墟みたいな建物が立ち並ぶ庭園の一角で、蛇女は足を止めた。……その蛇みたいな下半身を、足と言って良いのかは、わからないけど。
まるで中世都市の廃墟といった風情である。大通りのほうには石畳の道が整えられていたが、このあたりは、地肌がむき出しになっている。
軽く蹴り飛ばすと、砂がさらさらと舞い上がる。左右には石灰でかためられた建物の壁がある。
建物とはいえ、壁に穴が開いており、簡単に中に入ることもできる。裏路地的な場所なのかもしれない。
「どっちが私の相手になってくれるの」
「私たちは、双子幼のアバターよ。私たち2人でひとつ」
蛇女は互いの尾を絡めるようにしてそう言った。
「2対1ってこと? それって卑怯じゃない?」
「そう思うなら、バトルを辞退しなさいよ。喧嘩を売ってきたのは、そっちでしょ」
2対1でも大丈夫だろうか。不安になって抱えているエダのことを見下ろした。
心配要らん、そのアバターの敵ではない――と、エダが言った。
なら、あとはノウノの問題だということだ。
乗ってやろうと思った。ノウノのフォロワーは0である。企業だって架空である。負けても何も失うものはないのだ。
どうすんのよ、と蛇女がふたりの声を重ねて急かしてきた。
「わかったわよ。2対1だろうが、3対1だろうが、相手してやろうじゃない」
「配信の準備をするわよ」
と、蛇女たちはディスプレイを開けていた。
「え? 配信準備?」
「当たり前でしょ。あんたをボコすところを、世界中に公開しなくちゃ。せっかく相手してあげるんだから、あんたも配信準備をしておきなさいよ」
そう言われても、VDOOLとしての実戦は、ノウノにとっては、これがはじめてなのだ。どう設定すれば良いのか曖昧である。
吾輩に任せろ、と配信準備はエダがやってくれることになった。
エダはノウノの腕から降りて、ディスプレイを開けていた。
2匹の蛇女とノウノがいるあたりの上空に、ディスプレイが展開された。自分の姿が、空中に展開されたディスプレイに映し出されていた。
一瞬、そのディスプレイに映し出されているのが、ノウノ自身なのだと気付くのに間があった。
今までのウサギの着ぐるみとは違う。なんて美しいアバターなんだろうか、と見惚れた。
蛇女たちが、ノウノの売った喧嘩を買ってくれたのは、ノウノのことを舐めているから――だけじゃない。
それだけじゃない。
たしかにノウノのアバターの外見が、優れているからだ。
そう確信した。
蛇女たちは、ノウノのアバターに軽く妬みを覚えたはずである。
ディスプレイに、「3、2、1」とカウントダウンされていた。「GO!」。
玄関ホール。
何階層になっているのかわからないが、吹き抜け構造になっていた。まるで積み上げたジェンガのなかにいるみたいだ。
不安定な構造にも見えるが、べつに安定しているとか不安定だとか、この世界にとっては意味はない。
5感も物理法則もある程度は現実に従っている。だが、常に従っているわけではない。重力加速度が9・8メートル毎秒毎秒である必要もない。
建物を空中に浮かすことだって難しいことではないのだ。
天井を見上げていると、首が痛くなってきた。右手。石造りの通路が伸びていた。左右には松明が設置されていた。中世ヨーロッパ風の雰囲気を模しているみたいだから、それに合わせているのだろう。
近くにあった松明に手をかかげてみた。ちゃんと熱は伝わってくる。
触れば熱いのだろう。
「なんかダンジョンにでも迷い込んだみたいね」
「実際、このヴェンヴ学園は、VDOOLの巣食うダンジョンみたいなもんじゃがな」
「この先で、編入手続きできるのよね」
「うむ」
歩いていると、通路の突き当りにはディスプレイがひとつ置かれていた。「学園名簿。登録VDOOL一覧」とあった。どうやら、そこで登録するらしかった。
エダに教えてもらいながら、登録手続きを済ませた。「バリデーションチェック・クリア」という文字が出てきて、ディスプレイにノウノの名前と企業名が記されることになった。
「企業名が、ロー・ミートになってるけど、これで良いの?」
ロー・ミート。
つまり、生肉って意味だろうか?
「エルシノア嬢を作ったクロディアスは、エルシノア嬢が垢BANされたときに、解体されておるからな。本当の企業名はクロディアスじゃが、そのまま名乗るわけにもいかん。まぁ、架空企業じゃな」
「そんなこと出来るんだ?」
「吾輩じゃからな」
と、ノウノの腕に抱えられたまま、エダは誇らしげに胸を張っていた。
「なんか犯罪臭がぷんぷんするわね」
この世界は当然のことながら、すべてプログラミングコードで記述されている。
世界を記述しているのだ。そりゃ堅牢なコードで記述されているだろうけれど、優秀なプログラマーなら、穴を作ることも出来るわけだ。
「吾輩の存在そのものが、違法みたいなところあるからな。国に目をつけられておるし、そのせいでこんな身体でないと、やっていけんし」
「なんかダメなヤツと手を組んじゃったような気がしてきたわ」
「今更、やっぱり辞めると言うても遅いからな。もう登録もしたし、アバターもオヌシに授けたんじゃから」
エダはそう言うと、振り向いてノウノの顔を見てきた。
頭部がカメラになっていて、どんな表情をしているのか、わからない。睨まれているような気がする。
「わかってる。言ってみただけよ。フォロワーさえ手に入れば、私は何でも良いんだから。でも、このアバターがポンコツだったら、ちょっと文句言うけどね」
「それはこっちのセリフじゃ。アバターの精度は間違いない。なにせ、あのエルシノア嬢の改良版じゃからな。吾輩のアバターを上手く使えなったら、吾輩だってオヌシに文句を言うからな」
まさに一蓮托生という感じだと思った。
ノウノは自分の胸裏を見つめてみた。
エダはどうしても、ロジカルンの犯罪を暴きたい心づもりのようである。そのために、ノウノにアバターを与えて、学園に潜り込ませたのだ。
その意気込みには、猛烈なものがある。
エダのその意気込みに、自分の闘志が釣り合っているだろうか、とノウノは不安に思ったのだ。
24社も選考落ちして来たのだ。さっさとインフルエンサーになって、落としてきた24社にザマァ見ろと言ってやりたい。
学園名簿に目をやる。そのいちばん上には、女王の名前とロジカルンという企業名が記載されている。
女王も、この学園にいるのだ。
ザコと言われた仕返しに、一発ぶん殴ってやりたいという気持ちが、思い出されてきた。大丈夫。ノウノにだって、意気込みはある。
「でも、だからって、ロー・ミートって名前はどうなの? なんかダサくない?」
「そのほうが警戒されずに済むじゃろうが」
「まあ、そうかもしれないけどさ」
ロー・ミートか。
現実の肉体、みたいな意味を含んでいるんだろうか。
「企業名など、どうでも良かろう。それよりも、さっさと誰かほかの企業のVDOOLとバトルしてフォロワーを稼がんとな」
「そうね」
学園名簿には、フォロワー数も記載されている。
ノウノは最下位の「0」である。今までウサギの着ぐるみとして使っていたアカウントではない。
ロー・ミートのアバターとして、心機一転アカウントである。
玄関ホールに戻った。
「良いじゃない。私たちとバトルしようよ」「エモーションの最新作なんでしょ」「ロジカルンのアバターと白黒つける良いチャンスじゃない」「ほら、配信の準備もうできてるんだからさぁ」……と、甲高い声が聞こえてきた。
ロジカルンとエモーションという2大企業の名前が聞こえてきたので、ノウノも気になった。
ロジカルンが1位を走る国家企業ならば、エモーションはそれに勝るとも劣らぬ民間企業である。
ふたりの蛇女に、少女がひとり絡まれている様子だった。
蛇女というのは、上半身は人間なのに、下半身は蛇になっているアバターである。ふたりの蛇女は、少女のまわりをグルグルと這い回っている。
一方で、からまれている少女はというと、いたってふつうのアバターであり、おびえたように縮こまっている。
「蛇女のほうがロジカルンのアバターで、絡まれている娘のほうは、エモーションのアバターじゃな」
と、エダが言った。
「ロジカルンのVDOOLって、女王だけじゃないのね」
「そりゃでかい企業じゃからな。多様なVDOOLを学園に送り込んでおる」
正直、どっちの企業にたいしても、ノウノはあまり良い印象を持っていない。
ロジカルンは、あの女王の属している企業である。エモーションというのは、直近でノウノのことを一時選考で落とした企業である。
「まあ、ちょうど良いし、助けてあげましょうか」
エモーションのアバターは、あまりバトルに乗り気ではない様子だった。
エモーションのアバターを助ける気にはなれないが、ロジカルンのアバターが調子に乗っているのも、それはそれで気に食わない。
なにより今は、一刻もはやくバトルしたかった。今のこのアバターの精度と確かめたいのだ。
「ねえ、あんたたち」
と、ノウノは声をかけた。
「はぁ?」
と、2人の蛇女がノウノのほうを見た。
「そんなにバトルしたかったら、私とやりましょうよ」
「あんた、どこの企業よ」
「企業は、ロー・ミートってところよ」
ロジカルン相手に、ロー・ミートの名前を出すのは、ちょっと気恥ずかしいものがある。
個人企業であるうえに、なんなら偽名である。ついでに言うと、ロー・ミートという名前もダサい。
企業規模として圧倒的格差である。
「聞いたことない企業ね。あんたのフォロワー数は?」
「編入してきたばかりだから、0よ」
と、ノウノは正直に答えた。
「0って。笑っちゃうじゃない。私たちのフォロワー数は20万よ。そんな雑魚とやり合ったところで意味ないじゃない」
2人の蛇女は高らかに笑った。
吹き抜けになっている玄関ホールに、その甲高い笑い声がひびいた。
「まあ、そうよね。私に負けたら、ロジカルンの企業に傷がつくものね。でも、外見だけなら、私のほうが圧勝だと思うけど」
フォロワー数20万と聞いて、ちょっと気圧されるものがあった。とはいえ、ここで腰が引けている場合ではない。
ノウノのターゲットは、フォロワー数300万の女王なのだ。20万ぐらいなら軽くつぶす必要がある。
「言うじゃない。じゃあ表に出なさいよ。軽く捻ってあげるわ」
と、二人の蛇女は、ノウノの挑発に乗ってきた。
良し来た、と思った。
これは、チャンスである。
無名の企業のアバターが、あのロジカルンのアバターをぶっ飛ばせば、一躍有名になるかもしれない。
2匹の蛇女たちに続いて、ノウノも表に出た。
廃墟みたいな建物が立ち並ぶ庭園の一角で、蛇女は足を止めた。……その蛇みたいな下半身を、足と言って良いのかは、わからないけど。
まるで中世都市の廃墟といった風情である。大通りのほうには石畳の道が整えられていたが、このあたりは、地肌がむき出しになっている。
軽く蹴り飛ばすと、砂がさらさらと舞い上がる。左右には石灰でかためられた建物の壁がある。
建物とはいえ、壁に穴が開いており、簡単に中に入ることもできる。裏路地的な場所なのかもしれない。
「どっちが私の相手になってくれるの」
「私たちは、双子幼のアバターよ。私たち2人でひとつ」
蛇女は互いの尾を絡めるようにしてそう言った。
「2対1ってこと? それって卑怯じゃない?」
「そう思うなら、バトルを辞退しなさいよ。喧嘩を売ってきたのは、そっちでしょ」
2対1でも大丈夫だろうか。不安になって抱えているエダのことを見下ろした。
心配要らん、そのアバターの敵ではない――と、エダが言った。
なら、あとはノウノの問題だということだ。
乗ってやろうと思った。ノウノのフォロワーは0である。企業だって架空である。負けても何も失うものはないのだ。
どうすんのよ、と蛇女がふたりの声を重ねて急かしてきた。
「わかったわよ。2対1だろうが、3対1だろうが、相手してやろうじゃない」
「配信の準備をするわよ」
と、蛇女たちはディスプレイを開けていた。
「え? 配信準備?」
「当たり前でしょ。あんたをボコすところを、世界中に公開しなくちゃ。せっかく相手してあげるんだから、あんたも配信準備をしておきなさいよ」
そう言われても、VDOOLとしての実戦は、ノウノにとっては、これがはじめてなのだ。どう設定すれば良いのか曖昧である。
吾輩に任せろ、と配信準備はエダがやってくれることになった。
エダはノウノの腕から降りて、ディスプレイを開けていた。
2匹の蛇女とノウノがいるあたりの上空に、ディスプレイが展開された。自分の姿が、空中に展開されたディスプレイに映し出されていた。
一瞬、そのディスプレイに映し出されているのが、ノウノ自身なのだと気付くのに間があった。
今までのウサギの着ぐるみとは違う。なんて美しいアバターなんだろうか、と見惚れた。
蛇女たちが、ノウノの売った喧嘩を買ってくれたのは、ノウノのことを舐めているから――だけじゃない。
それだけじゃない。
たしかにノウノのアバターの外見が、優れているからだ。
そう確信した。
蛇女たちは、ノウノのアバターに軽く妬みを覚えたはずである。
ディスプレイに、「3、2、1」とカウントダウンされていた。「GO!」。
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