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16話 修羅場って思ったより嬉しくない
しおりを挟む今俺の目の前では2人の女性がおそらく俺のために揉めている。
一方は職場の先輩、もう一方は……なんか地元が一緒らしいという後輩。
地元が一緒で慕ってくるってどこかしらの族長にでもなった気分だ。
俺は言わずもがな恋愛初心者のため、こういう時の対処法を知らない。
できるとすれば全力で頭を下げて謝罪するくらい。
ただ今回の流れでは全くもって意味を為さないだろう。
頭を下げる理由がないからだ。
じゃあ結局どうするか。
幾億の思考の末、俺は静かに傍観している。
この沈黙の中、初めにジャブを打ったのは紗夜さん。
「で、西奈さん。あなたはなぜこんなことをしたの? 普段、冒険者にはここまで干渉しないよね? 」
「それは……先輩に早く強くなってほしいからですよ? 」
「私も彼に強くなってほしいとは思うけど、昨日冒険者になった子をダンジョンに……ましてやソロで行かせるなんてどうかしてる! あなたは海成くんを殺す気? 」
「彼ならいけると思ったんです。実際彼は1人で攻略した。誰の力も借りず。この結果が全てだと思いますが? 」
瑠璃の淡々とした言葉に紗夜さんは悔しげな顔をして、
「で、でも失敗する可能性がゼロではなかったわ。それに私は過程だって大事だと思う。初めは先輩と何度もダンジョンを攻略して、コツをつかむ。それでも遅くないはずよ! 」
「相羽さん、そのやり方でSランク冒険者になれると思っているんですか? 」
紗夜さんは瑠璃から目を逸らして押し黙ってしまった。
瑠璃は俺をSランク冒険者にしたいのか?
いやそのレベルにならないとニューロヴォアは倒せないってことかもしれない。
「あ、あの……お2人とも 」
言葉の合戦が一時途切れたのでようやく俺は割って入る。
「なに? 」
「なんですか? 」
言い合いの最中だっただめか、2人同時に苛立った口調で言葉を投げてきた。
「俺も無事だったわけだし、帰りません? 」
2人の口論の元は自分を含めた初心者冒険者に対する教育方針だとすると、それを止められるのも俺だけだろう。
そう思って割り込んでみた。
「そうですね! 先輩、本部に行きましょっ! 」
そう言って瑠璃が俺の右手を引いていく。
おいおい、どこ連れてく感じ?
すると残った左手を紗夜さんに掴まれて、俺は大の字のように伸びた肢位となった。
「うおっ! 」
「彼は第2支部の冒険者よ? わざわざ本部に行かなくていいはず。戻るならあなた一人で戻れば? 」
うわぁ……。
ちょっと落ち着いたかなって思ってたけど、紗夜さんはまだ相変わらずの喧嘩ごしだよ。
「うーん、それを言われちゃあ返す言葉もないですね……。じゃあ先輩が聞きたいこと、次会った時にお伝えしますねっ! ではまたっ! 」
彼女の怒りを受けながらも、瑠璃は全く気にする様子もなく俺に屈託のないような笑みを向け、走り去っていった。
こんな喧嘩の後にどうやったらそんな笑み浮かべられるんだよ。
彼女が紗夜さんに向けた表情や言葉は俺に向けたそれと大きく異なっていた。
俺としてはもう少しかよわいイメージだったんだが。
うーん、やっぱ女性のことはよく分からんっ!
「私はあんな教育許せないっ……! 」
紗夜さんは走り去っていく瑠璃に対してボソッとそう呟いた。
「紗夜さん? 」
「ううん、大丈夫。 今日は海成くんも疲れただろうし、帰りましょうか 」
たしかにちょっと……いやめちゃくちゃ疲れたっ!
そう思えば急に帰りたくなってきたな。
あ、そうだ帰ったらこの前買ったギャルゲーの続きしないと。
って考えられる時点でまだ意外と余力があるのかもしれない。
「はいっ! 疲れました! 帰りましょう! 」
「いや、元気そうねっ!? 」
俺の活気ある返事にすかさず笑顔でツッコミを加える紗夜さん。
さっきまで少し怒りや悲しみが混じったような顔をしていたが、やっぱり彼女には笑顔がよく似合う。
いや、素直に笑顔が1番可愛い……いや怒ってても可愛いけどそんなこと言ったらキモがられそうだから心に留めておく。
「いやいや、疲れましたよ!? もう一歩も動けないくらい…… 」
「一歩もどころかちょっと早歩きじゃない!? 言葉と行動が合ってないって! 」
そんなしょーもない話をしながら紗夜さんと帰ったのだった。
久後さんは紗夜さんのこと口うるさいとか言ってたけど、彼女はきっと真っ直ぐで責任感が強い人間なのだろう。
そうじゃなければダンジョンまで駆けつけてこないだろうし、あんなに強い抱擁はしてこない。
本当にいい先輩に巡り会えたものだ。
結局途中でタクシー拾ってくれたし、それもまさかの奢りだったし。
かっこよすぎた……。
いつか紗夜さんのような、そんな先輩に私はなりたい。
そしてそんな俺の冒険者人生が始まってあっという間に2週間が経過したのだ。
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