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最終話「好きという気持ち」8
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私はその時、聞いてはいけないことを聞いてしまいました。
"稗田さんが、浩二のことを好き?"
一体、どういうこと? 聞きたいわけじゃない、聞こうと思ったわけじゃない。
私はただ、稗田さんと真奈ちゃんのために飲み物とお菓子を持って、部屋に入ろうと扉の前まで歩み寄っただけ、聞こうと思って聞いたわけじゃない、聴こえてしまっただけ。
それに、真奈ちゃんは私の気持ちを知っていて、それなのに稗田さんを選んだ?
私が浩二と一番、たくさん支え合って、真奈ちゃんの面倒を見て、一緒に寄り添って来たのに。
どうして……、真奈ちゃんは私のことを、お姉ちゃんが一番だといつも言ってくれていたのに。
今までの日々は一体何だったの?
私がずっと躊躇して浩二に告白しなかったから?
そんなこと、考えたくない……。
でも、私は確かにずっと逃げてきた。浩二と羽月さんが別れた後も、自分も含めて誰も傷つけたくないって、結論をズルズルと先延ばして来て、関係が悪い方向に変わってしまうのを恐れて逃げてきた。
だから、これは当然の仕打ち。報いなんだ。
きっと、私が変わらない限り、こんなことを繰り返していくんだ、私は……。
ねぇ、こんな愚かな私はどうしたらいい?
もしも、稗田さんと浩二が付き合った後で、その後に何が残るの?
わからない、わからないよ……。
私はどうしようもないほど、形なんてどうでもよくて、ただずっと浩二のそばにいたい。
アイドルになんてなりながら、そんな都合のいいことばかり考えてきたんだ。
不安は受験や就職で歩んでいく道が枝分かれしていく可能性のある、今年に入ってからあったはずなのに……。
羽月さんの時以上に、どうしようもなく今は稗田さんに奪われたくない、二人が付き合って疎遠になってしまうのが怖い。
私は部屋の中で仲良く話す二人の話し声を聞くたびに、心が張り裂けそうになりながら、途方もない疎外感に襲われた。
私の気持ちを置いて、話しだけが二人の中で進んでいくような、それは恐怖そのもの。
たまらず私はお盆を両手に持ったまま台所に戻り、机の上にお盆を置くと、沸々と湧いてくる負の感情に身体を震わせたまま、樋坂家を飛び出して自分の部屋まで駆け込んだ。
「“お願い、私の浩二を取らないで……、お願いよ……っ”」
声も身体も震えていた。いつか触れた身体を通して伝わる温度も失われてしまうような心地で身体が冷めていき、思い出が遠ざかっていくような気分だ。
私は途端に力が抜けて、そのまま上半身をベッドに傾けると、そのまま感じたことのない眩暈を引き起こしながら倒れ込んだ。
もう後には引けないほどに、これまでの日常が歪んで崩れていく。
このまま何もしなければ、大切なものを簒奪されてしまう。
このまま機会を失ってしまっては二人は付き合ってしまい、浩二は取り戻せないかもしれない。
今度こそ、浩二は稗田さんと未来を誓い合い、添い遂げるかもしれない。
そんな予感が、大切な当たり前の日々が失われる危機感が、不安の中で私を黒く包み込んでいった。
*
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EPISODE3 “Clover destiny & World end archive”
"稗田さんが、浩二のことを好き?"
一体、どういうこと? 聞きたいわけじゃない、聞こうと思ったわけじゃない。
私はただ、稗田さんと真奈ちゃんのために飲み物とお菓子を持って、部屋に入ろうと扉の前まで歩み寄っただけ、聞こうと思って聞いたわけじゃない、聴こえてしまっただけ。
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どうして……、真奈ちゃんは私のことを、お姉ちゃんが一番だといつも言ってくれていたのに。
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だから、これは当然の仕打ち。報いなんだ。
きっと、私が変わらない限り、こんなことを繰り返していくんだ、私は……。
ねぇ、こんな愚かな私はどうしたらいい?
もしも、稗田さんと浩二が付き合った後で、その後に何が残るの?
わからない、わからないよ……。
私はどうしようもないほど、形なんてどうでもよくて、ただずっと浩二のそばにいたい。
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不安は受験や就職で歩んでいく道が枝分かれしていく可能性のある、今年に入ってからあったはずなのに……。
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たまらず私はお盆を両手に持ったまま台所に戻り、机の上にお盆を置くと、沸々と湧いてくる負の感情に身体を震わせたまま、樋坂家を飛び出して自分の部屋まで駆け込んだ。
「“お願い、私の浩二を取らないで……、お願いよ……っ”」
声も身体も震えていた。いつか触れた身体を通して伝わる温度も失われてしまうような心地で身体が冷めていき、思い出が遠ざかっていくような気分だ。
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もう後には引けないほどに、これまでの日常が歪んで崩れていく。
このまま何もしなければ、大切なものを簒奪されてしまう。
このまま機会を失ってしまっては二人は付き合ってしまい、浩二は取り戻せないかもしれない。
今度こそ、浩二は稗田さんと未来を誓い合い、添い遂げるかもしれない。
そんな予感が、大切な当たり前の日々が失われる危機感が、不安の中で私を黒く包み込んでいった。
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