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第二十六話「私も人だから」4
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厳しい予選を勝ち残って、本選までやってこれたとしても、私の中で隆ちゃんの方が実力は上だという気持ちは変わっていない。
私はあまり他のライバルのことには目もくれずに、隆ちゃんのことばかり考えていた。
だけど、ピアノの前に来ると自然と実力の差なんてどうでもよくなって、思い通りの演奏を奏でることだけに徹することが出来た。
私は信じていた。私が気持ちよく理想の演奏ができた時、その時、観客も同じように感動してくれると。
”何のためにピアノを弾くのか、何のために頑張るのか”
ずっと、あの日コンクール出場を決意してから、私は考えながら今日まで練習を続け、本選まで上り詰めた。
そして、”答えは見つかった”から、後は最善を尽くすだけだった。
最終審査である本選では学生のオーケストラが一緒に演奏してくれる。
学生だからと初見の人は侮ってしまうところだけど、演奏してくれるのはクラシックのコンクールにも出ている有名な高校のブラスバンドで、実力は申し分なく、私の演奏にも紳士に対応してくれる。
その実感は前日のリハーサルの際に経験済みで、もう、後は自分の演奏をするだけだった。
本選である5人しかいないファイナリストに選ばれた私の出番は最後で、隆ちゃんは一番最初だった。
満足げに演奏を終えた隆ちゃんは私のことを応援してくれた。
私は隆ちゃんに恥ずかしくない演奏がしたい、ピアノと向き合う勇気をくれた隆ちゃんのためにも。
「楽しんできて、晶ちゃんのための舞台が目の前に待ってるよ」
隆ちゃんの言葉に私は頷いて、舞台袖からゆっくりと出ていく。
そして、大きな拍手と共に、私は観客の前に立った。
*
最後の演奏シーンの衣装チェンジは大変で、予定された時間の中でドレス姿に着替えを済ませ、舞台袖に向かわなければならない。
グランドピアノがセッティングされる光景を無視して私は急いで女子たちが待つ控え室へと向かう。
「本当良かった、衣装が無駄にならなくて」
「うん、大変だったもんね、作るの」
「ギリギリ間に合ってよかったよね」
控え室で着付けをしてもらう私の後ろで、女子たちの会話が聞こえた。
クライマックスの演奏シーンで着る白いドレスの衣装が完成したのは、ギリギリのことだった。この衣装の製作はそれはもう大変で、10人くらいの女子が、準備が大詰めのところで四苦八苦しながら作っていたのを思い出す。
私的には一度限りの演劇のためにそこまでこだわらなくてもと思ったけど、最後まで何か手伝いたいというその気持ちは凄く嬉しかった。
実際、着てみるとたまらなく恥ずかしいのだけど、せっかく作ってくれた豪華な衣装を着て、今更文句も言っていられないのが本当のところだ。
「これでバッチリかなっ!」
着付け担当の女子が言ってくれる、鏡で見るとグッとくるものあった。
「本当、私じゃないみたいですね」
着せ替え人形のように散々されて、馬子にも衣裳と言われたくはないと思いながらも、周りは上機嫌で私を応援してくれるので、もうあれこれいっていられる状況ではないと悟った。
「いよいよ最後だね、頑張って来て、お姉ちゃんっ!」
私が両手でドレスに手を添え掴みながら歩いて舞台袖に戻ると、舞台袖で見ていた光が興奮気味に応援してくれた。
「ありがとう、光がいつも一緒にいて練習に付き合ってくれたから」
私が光に感謝を告げた横で、羽月さんが感慨深げな表情で私を見て声を掛けてくれた。
「ラストスパート、頑張って来て!」
「はい、行ってきます」
羽月さんが最後に声を掛けてくれて、私はその言葉に応えようと強く頷き、気持ちを引き締めて、舞台へと向かった。
横目に浩二君の姿も見えて、気持ちは同じだと強く感じた。
私はあまり他のライバルのことには目もくれずに、隆ちゃんのことばかり考えていた。
だけど、ピアノの前に来ると自然と実力の差なんてどうでもよくなって、思い通りの演奏を奏でることだけに徹することが出来た。
私は信じていた。私が気持ちよく理想の演奏ができた時、その時、観客も同じように感動してくれると。
”何のためにピアノを弾くのか、何のために頑張るのか”
ずっと、あの日コンクール出場を決意してから、私は考えながら今日まで練習を続け、本選まで上り詰めた。
そして、”答えは見つかった”から、後は最善を尽くすだけだった。
最終審査である本選では学生のオーケストラが一緒に演奏してくれる。
学生だからと初見の人は侮ってしまうところだけど、演奏してくれるのはクラシックのコンクールにも出ている有名な高校のブラスバンドで、実力は申し分なく、私の演奏にも紳士に対応してくれる。
その実感は前日のリハーサルの際に経験済みで、もう、後は自分の演奏をするだけだった。
本選である5人しかいないファイナリストに選ばれた私の出番は最後で、隆ちゃんは一番最初だった。
満足げに演奏を終えた隆ちゃんは私のことを応援してくれた。
私は隆ちゃんに恥ずかしくない演奏がしたい、ピアノと向き合う勇気をくれた隆ちゃんのためにも。
「楽しんできて、晶ちゃんのための舞台が目の前に待ってるよ」
隆ちゃんの言葉に私は頷いて、舞台袖からゆっくりと出ていく。
そして、大きな拍手と共に、私は観客の前に立った。
*
最後の演奏シーンの衣装チェンジは大変で、予定された時間の中でドレス姿に着替えを済ませ、舞台袖に向かわなければならない。
グランドピアノがセッティングされる光景を無視して私は急いで女子たちが待つ控え室へと向かう。
「本当良かった、衣装が無駄にならなくて」
「うん、大変だったもんね、作るの」
「ギリギリ間に合ってよかったよね」
控え室で着付けをしてもらう私の後ろで、女子たちの会話が聞こえた。
クライマックスの演奏シーンで着る白いドレスの衣装が完成したのは、ギリギリのことだった。この衣装の製作はそれはもう大変で、10人くらいの女子が、準備が大詰めのところで四苦八苦しながら作っていたのを思い出す。
私的には一度限りの演劇のためにそこまでこだわらなくてもと思ったけど、最後まで何か手伝いたいというその気持ちは凄く嬉しかった。
実際、着てみるとたまらなく恥ずかしいのだけど、せっかく作ってくれた豪華な衣装を着て、今更文句も言っていられないのが本当のところだ。
「これでバッチリかなっ!」
着付け担当の女子が言ってくれる、鏡で見るとグッとくるものあった。
「本当、私じゃないみたいですね」
着せ替え人形のように散々されて、馬子にも衣裳と言われたくはないと思いながらも、周りは上機嫌で私を応援してくれるので、もうあれこれいっていられる状況ではないと悟った。
「いよいよ最後だね、頑張って来て、お姉ちゃんっ!」
私が両手でドレスに手を添え掴みながら歩いて舞台袖に戻ると、舞台袖で見ていた光が興奮気味に応援してくれた。
「ありがとう、光がいつも一緒にいて練習に付き合ってくれたから」
私が光に感謝を告げた横で、羽月さんが感慨深げな表情で私を見て声を掛けてくれた。
「ラストスパート、頑張って来て!」
「はい、行ってきます」
羽月さんが最後に声を掛けてくれて、私はその言葉に応えようと強く頷き、気持ちを引き締めて、舞台へと向かった。
横目に浩二君の姿も見えて、気持ちは同じだと強く感じた。
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