142 / 157
第二十六話「私も人だから」4
しおりを挟む
厳しい予選を勝ち残って、本選までやってこれたとしても、私の中で隆ちゃんの方が実力は上だという気持ちは変わっていない。
私はあまり他のライバルのことには目もくれずに、隆ちゃんのことばかり考えていた。
だけど、ピアノの前に来ると自然と実力の差なんてどうでもよくなって、思い通りの演奏を奏でることだけに徹することが出来た。
私は信じていた。私が気持ちよく理想の演奏ができた時、その時、観客も同じように感動してくれると。
”何のためにピアノを弾くのか、何のために頑張るのか”
ずっと、あの日コンクール出場を決意してから、私は考えながら今日まで練習を続け、本選まで上り詰めた。
そして、”答えは見つかった”から、後は最善を尽くすだけだった。
最終審査である本選では学生のオーケストラが一緒に演奏してくれる。
学生だからと初見の人は侮ってしまうところだけど、演奏してくれるのはクラシックのコンクールにも出ている有名な高校のブラスバンドで、実力は申し分なく、私の演奏にも紳士に対応してくれる。
その実感は前日のリハーサルの際に経験済みで、もう、後は自分の演奏をするだけだった。
本選である5人しかいないファイナリストに選ばれた私の出番は最後で、隆ちゃんは一番最初だった。
満足げに演奏を終えた隆ちゃんは私のことを応援してくれた。
私は隆ちゃんに恥ずかしくない演奏がしたい、ピアノと向き合う勇気をくれた隆ちゃんのためにも。
「楽しんできて、晶ちゃんのための舞台が目の前に待ってるよ」
隆ちゃんの言葉に私は頷いて、舞台袖からゆっくりと出ていく。
そして、大きな拍手と共に、私は観客の前に立った。
*
最後の演奏シーンの衣装チェンジは大変で、予定された時間の中でドレス姿に着替えを済ませ、舞台袖に向かわなければならない。
グランドピアノがセッティングされる光景を無視して私は急いで女子たちが待つ控え室へと向かう。
「本当良かった、衣装が無駄にならなくて」
「うん、大変だったもんね、作るの」
「ギリギリ間に合ってよかったよね」
控え室で着付けをしてもらう私の後ろで、女子たちの会話が聞こえた。
クライマックスの演奏シーンで着る白いドレスの衣装が完成したのは、ギリギリのことだった。この衣装の製作はそれはもう大変で、10人くらいの女子が、準備が大詰めのところで四苦八苦しながら作っていたのを思い出す。
私的には一度限りの演劇のためにそこまでこだわらなくてもと思ったけど、最後まで何か手伝いたいというその気持ちは凄く嬉しかった。
実際、着てみるとたまらなく恥ずかしいのだけど、せっかく作ってくれた豪華な衣装を着て、今更文句も言っていられないのが本当のところだ。
「これでバッチリかなっ!」
着付け担当の女子が言ってくれる、鏡で見るとグッとくるものあった。
「本当、私じゃないみたいですね」
着せ替え人形のように散々されて、馬子にも衣裳と言われたくはないと思いながらも、周りは上機嫌で私を応援してくれるので、もうあれこれいっていられる状況ではないと悟った。
「いよいよ最後だね、頑張って来て、お姉ちゃんっ!」
私が両手でドレスに手を添え掴みながら歩いて舞台袖に戻ると、舞台袖で見ていた光が興奮気味に応援してくれた。
「ありがとう、光がいつも一緒にいて練習に付き合ってくれたから」
私が光に感謝を告げた横で、羽月さんが感慨深げな表情で私を見て声を掛けてくれた。
「ラストスパート、頑張って来て!」
「はい、行ってきます」
羽月さんが最後に声を掛けてくれて、私はその言葉に応えようと強く頷き、気持ちを引き締めて、舞台へと向かった。
横目に浩二君の姿も見えて、気持ちは同じだと強く感じた。
私はあまり他のライバルのことには目もくれずに、隆ちゃんのことばかり考えていた。
だけど、ピアノの前に来ると自然と実力の差なんてどうでもよくなって、思い通りの演奏を奏でることだけに徹することが出来た。
私は信じていた。私が気持ちよく理想の演奏ができた時、その時、観客も同じように感動してくれると。
”何のためにピアノを弾くのか、何のために頑張るのか”
ずっと、あの日コンクール出場を決意してから、私は考えながら今日まで練習を続け、本選まで上り詰めた。
そして、”答えは見つかった”から、後は最善を尽くすだけだった。
最終審査である本選では学生のオーケストラが一緒に演奏してくれる。
学生だからと初見の人は侮ってしまうところだけど、演奏してくれるのはクラシックのコンクールにも出ている有名な高校のブラスバンドで、実力は申し分なく、私の演奏にも紳士に対応してくれる。
その実感は前日のリハーサルの際に経験済みで、もう、後は自分の演奏をするだけだった。
本選である5人しかいないファイナリストに選ばれた私の出番は最後で、隆ちゃんは一番最初だった。
満足げに演奏を終えた隆ちゃんは私のことを応援してくれた。
私は隆ちゃんに恥ずかしくない演奏がしたい、ピアノと向き合う勇気をくれた隆ちゃんのためにも。
「楽しんできて、晶ちゃんのための舞台が目の前に待ってるよ」
隆ちゃんの言葉に私は頷いて、舞台袖からゆっくりと出ていく。
そして、大きな拍手と共に、私は観客の前に立った。
*
最後の演奏シーンの衣装チェンジは大変で、予定された時間の中でドレス姿に着替えを済ませ、舞台袖に向かわなければならない。
グランドピアノがセッティングされる光景を無視して私は急いで女子たちが待つ控え室へと向かう。
「本当良かった、衣装が無駄にならなくて」
「うん、大変だったもんね、作るの」
「ギリギリ間に合ってよかったよね」
控え室で着付けをしてもらう私の後ろで、女子たちの会話が聞こえた。
クライマックスの演奏シーンで着る白いドレスの衣装が完成したのは、ギリギリのことだった。この衣装の製作はそれはもう大変で、10人くらいの女子が、準備が大詰めのところで四苦八苦しながら作っていたのを思い出す。
私的には一度限りの演劇のためにそこまでこだわらなくてもと思ったけど、最後まで何か手伝いたいというその気持ちは凄く嬉しかった。
実際、着てみるとたまらなく恥ずかしいのだけど、せっかく作ってくれた豪華な衣装を着て、今更文句も言っていられないのが本当のところだ。
「これでバッチリかなっ!」
着付け担当の女子が言ってくれる、鏡で見るとグッとくるものあった。
「本当、私じゃないみたいですね」
着せ替え人形のように散々されて、馬子にも衣裳と言われたくはないと思いながらも、周りは上機嫌で私を応援してくれるので、もうあれこれいっていられる状況ではないと悟った。
「いよいよ最後だね、頑張って来て、お姉ちゃんっ!」
私が両手でドレスに手を添え掴みながら歩いて舞台袖に戻ると、舞台袖で見ていた光が興奮気味に応援してくれた。
「ありがとう、光がいつも一緒にいて練習に付き合ってくれたから」
私が光に感謝を告げた横で、羽月さんが感慨深げな表情で私を見て声を掛けてくれた。
「ラストスパート、頑張って来て!」
「はい、行ってきます」
羽月さんが最後に声を掛けてくれて、私はその言葉に応えようと強く頷き、気持ちを引き締めて、舞台へと向かった。
横目に浩二君の姿も見えて、気持ちは同じだと強く感じた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
”小説”震災のピアニスト
shiori
恋愛
これは想い合う二人が再会を果たし、ピアノコンクールの舞台を目指し立ち上がっていく、この世界でただ一つの愛の物語です
(作品紹介)
ピアニスト×震災×ラブロマンス
”全てはあの日から始まったのだ。彼女の奏でるパッヘルベルのカノンの音色に引き寄せられるように出会った、あの日から”
高校生の若きピアニストである”佐藤隆之介”(さとうりゅうのすけ)と”四方晶子”(しほうあきこ)の二人を中心に描かれる切なくも繊細なラブストーリーです!
二人に巻き起こる”出会い”と”再会”と”別離”
震災の後遺症で声の出せなくなった四方晶子を支えようする佐藤隆之介
再会を経て、交流を深める二人は、ピアノコンクールの舞台へと向かっていく
一つ一つのエピソードに想いを込めた、小説として生まれ変わった”震災のピアニスト”の世界をお楽しみください!
*本作品は魔法使いと繋がる世界にて、劇中劇として紡がれた脚本を基に小説として大幅に加筆した形で再構成した現代小説です。
表紙イラスト:mia様
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~
海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。
そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。
そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる