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第六話「期待と不安と」5

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 知恵熱まで感じていたところ、タイミングを見計らって光に相談出来たのは下校の途中だった。

「いいんじゃない、僕も演技指導や練習は付き合うから」
  
 ありがたいことに優しく光は言葉をかけてくれる。

 そんな光に対し、私はこんな童顔でピュアそうに見えて優しい光が、私のあずかり知らぬところで彼女とイチャイチャしているかと思うと、落ち着かない気持ちだった。

「……うん、ありがとう」
「お姉ちゃん、何か無理してる? 落ち着きないけど」
「そんなことないそんなことないそんなことない、変な想像なんでしてないからっ!」
「してたんだ、変な想像……」
「だから、してないってばーーー!!」

 私は恥ずかしさいっぱいで否定したが、もう光には私の考えてることなんて筒抜けだった。

「うーん、聞きたい?」

 光はちょっと考えて、またケロっとした表情で聞いてきた。
 いや、そんな風に聞かれても……、返答に困っちゃうよ。

「刺激の強い話はいい……、何だか、光、意地悪だよ」
「まぁまぁ、気にしなくていいんじゃない? お姉ちゃんもいい人きっと見つかるって」
「もう、他人事だと思って……」

 私と光は気づけば演劇と関係のない話をしながら、帰り道を歩いた。
 でも、私はそんな他愛のない会話をしながらも、決意を固めていた。



 翌日、私は八重塚さんに自分から話しかけて、大役を引き受けることを伝えた。

 私にできることがあるなら、人としてここは一つ頑張ってみようと思った。

 今はまだ分からないことだらけだけど、みんなのためにも頑張るんだ。

四方晶子しほうあきこさん、どんな人なんだろう……」

 大役を引き受け、気持ちを入れたところで私は教室の席に戻って考えにふけっていた。
 演技をするということは、その人になりきること。
 そのためには私はまず、四方晶子さんの気持ちに近づかなければならないと思った。

 頭上を見上げて、蛍光灯を見つめていたって分かることではない。私はちゃんと八重塚さんの想いが詰まった脚本に目を通すことにした。

 こうして、演劇クラスの座を懸けて、それぞれの準備が本格的に始動した。
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