スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~

カムイイムカ(神威異夢華)

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3巻

3-1

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 第一章 血塗られたダイヤ



てん魔境まきょう』が発生したヘイゼル王国の王都での死闘から約一ヵ月。
 元社畜の転生者である僕――ウィンは、家族や仲間と共に、自分達の国であるウィンスタに戻っていた。
 自室で目覚めた僕は、一足先に起きていたカエデと一緒に、朝ご飯を食べるために食堂へと向かう。
 カエデは、僕が持つスキル【ぼくだけの農場のうじょう】の世界の住人で、元はゲームのキャラだったけど、神様の力でこうして現実世界に存在するようになった。いつも僕を守ってくれる、頼れる存在だ。
 一応、ゲーム時代に結婚しているから、僕らは恋人というか夫婦というか、そんな感じだ。

「お兄様~、カエデお姉ちゃん。先に行っちゃダメです」
「ああ、ごめんな、モニカ」

 同じ部屋で寝ていたのに先に出てきてしまったから、妹のモニカに怒られちゃった。
 彼女は僕に抱きついてきて顔をスリスリしてくる。いつも甘えん坊さんのモニカだ。
 食堂には、すでにたくさんの人が集まっていた。

「おはようございます。お父様、お母様」
「おはよう、ウィン。今日も平和ね、あなた?」
「ああ、平和だな」

 リリスお母様とギュスタお父様が、幸せそうにつぶやいた。その視線の先では、料理人のボドさんが朝食を作っている。

「ボドさ~ん。何作ってるの~?」
「ああ、ステアさん。朝食のベーコンエッグですよ」

 すっかりウィンスタの住人になった魔法使いのステアライラさんが、ボドさんに後ろから抱きついて親しく会話している。
 そんなに仲が良いなら、早く付き合っちゃえばいいのにな~。ボドさんが鈍感どんかんみたいで、あと一歩が踏み出せないみたい。まあ、歳の差があるから、ボドさんにとっては娘がちょっかいを出してきているくらいにしか思っていないんだろうな。

「む~。そのステアさんっていうのやめてよ~。ステアって呼んで~」
「はいはい。じゃあステアにも手伝ってもらおうか。このパンケーキの生地きじを焼いてくれるかい?」
「は~い」

 仲良く料理をするお父さんと娘……そんな印象を受ける。
 食堂からその様子を見ているお父様とお母様は、幸せそうに肩を寄せ合って見つめている。
 あんな光景を見せられると、つくづくステアライラさん達を助けて良かったって思うよ。
 結局、全ては彼女の父親のスペリオルがみんなを操った結果だった。
 力を得るために魔法都市ヒルドラドと小競こぜいをして多くの死者を出したり、幼い頃のステアライラさんにトラウマを植え付けて魔法使いへのうらみを抱かせたりしていたんだよな。
 スペリオルは死人から力を得るみたいだからね。
 そして自分はルザース帝国の帝王ブルーザスに成り代わって、ヘイゼルの国王――ヘイゼルフェード様に復讐ふくしゅうする機会をうかがっていた。
 その計画に利用された者は他にもいる。

「ザイ~、生徒達が待ってるわよ~」
「ああ、わかっているよ、エルザ。先に行っててくれ」

 恋人のエルザさんに呼ばれて、ウィンスタに新設された自衛団学校へと走っていく元ルザース帝国の軍人、ザイもその一人だ。鳥人ちょうじんと人のハーフとして生まれた彼は、体内に見えない天界からの糸が組み込まれて、『天の魔境』を開くための門になるのだ。
 そして、その門の鍵になったのが、魔法都市の『永遠えいえん巫女みこ』エレポスさん。彼女はエルフとフェアリーのハーフらしく、生まれながらに魔法の才能があるが、僕を護衛する魔法使いのエレクトラさんの教えを受けて、ますます腕に磨きをかけている。

「エレポス~、訓練の時間よ~」
「エレクトラ様、ご飯食べてからじゃダメですか?」
「はいはい、駄々だだをこねない。一回目の訓練は朝ご飯の前よ」

 これまた親子みたいな雰囲気ふんいきの二人を、侍女のポーラさんが感慨深そうに見守っている。
 エレポスさんの実の両親は、残念ながら殺されてしまっているからね。
 それにしても、ブルーザスに操られたエレポスさんがザイのお腹をつらぬいて門を出した時は驚いた。
 天界からの糸は、天界の領域の物質でできていて、エレポスさんみたいなエルフとフェアリーのハーフでないとれられない不思議な物質だ。
 実はザイのお腹をかなくても、糸を触って魔素マナを込めればそこから門が出るらしい。
 なぜか仲間になった二人の天使に聞いたから、間違いないだろうな。
 ちなみに、僕とモニカも意識すれば触れられるみたいだ。わからないけど、レベルが関係しているんじゃないかなと思う。不思議だ。

「ウィン様~。港に船が来ています」

 うわさをすれば、その天使――グラウエルとゼヌエルが、僕を呼ぶ声が聞こえた。
 少し遠いから、窓から全身が見えているけど、その体は家よりも大きい。
 今のところ海の向こうで交易している国はないから、船が来る予定はないんだけどな~。

「じゃあ、朝ご飯がまだだけど、ちょっと様子を見てこようかな」

 どっこいしょと重い腰を上げると、カエデが微笑みながら手をつないでくれた。
 心なしか距離が――物理的に――縮まったように感じて、少し身長がのびたかもしれないと、うれしさが込み上げてくる。
 外に出ると、いつの間にかウィンスタに居ついているヘイゼル王国の貴族、エグザとグスタの姿が見えた。二人は天使の肩に乗っている。何か通じ合うものがあったのか、いつの間にか天使達と仲良くなっていたんだよな。

「なんか、船に乗ってる連中が、恥をかかせやがってとか言ってるみたいだぜ」
「何かしたのか、ウィン?」

 二人とも首をかしげている。

「船を持っている知り合いなんていないしな~。何かの間違いじゃないかな?」
「お兄様! 私が聞いてくるよ!」

 そう言うなり、モニカが海の方へ走り出した。すぐに声が届かないくらい遠くに行ってしまった。

「あっ! モニカ……。まったく、あれでもウィンスタのお姫様なのに……」
「ゴッド、モニカ様のことはお任せください!」

 そう進み出てくれたのは、金髪の女性騎士ヴィクトリアさん。カエデ、エレクトラさんとあわせて仲良し三姉妹だ。
 と、ヴィクトリアさんも返事も待たずにモニカを追いかけて行ってしまった。

「ヴィクトリアさん!? ああ~、行っちゃった……」
「ヴィクトリアは、その~。真面目だから」

 あきれていると、カエデが擁護ようごした。
 確かに、ヴィクトリアさんは真面目まじめすぎるくらいにまっすぐな人だからな~。
 色々と考えながら、僕も港へと歩き出す。

「ウィン、来てくれたか」
「あれが例の船だ」

 港に着くと、ヘイゼル王国時代に領地を接していた貴族で、今は僕らの国に所属しているアウグストと、ヘイゼルフェード王の息子である勇者ランスもいた。
 二人が指さす先を見ると、大きな船が海に浮かんでいるのが見える。
 には骸骨がいこつが描いてあるので、僕の常識がこの世界でも通じるなら、いかにも海賊かいぞくという感じだ。

「やっぱり海賊?」
「ああ、あれは完全に悪党の船だな」

 疑問に思っているとランスがうなずいた。海賊船で間違いないみたいだね。
 そういえば、先に行ったはずのモニカとヴィクトリアさんはどうしたんだろう?

「モニカとヴィクトリアさんを見なかった?」
「ああ、二人とも灯台の上からあの船に飛び移ったぞ」

 うわ~、さすがと言うかなんと言うか。船は港に停泊しているわけではないけど、モニカ達の能力を考えれば、あの距離ならジャンプで届くだろう。
 程なくして、水面が間欠泉かんけつせんのように噴き上がり、モニカ達が飛び移った船が空中に吹き飛ばされた。

「ん? 遠くにたくさんの船が見える?」

 あちゃ~と頭を抱えていると、いつの間にか水平線を埋め尽くすほどの船団が出現していた。
 ありゃりゃ、結構大きな海賊団だったみたいだね。

「バケモノの街だっていうのはよ~くわかった! 戦争だ、戦争!」

 船からそんなさけごえが聞こえてくる。

「致し方ない! 総員防衛態勢! 海賊が攻めてくるぞ!」
「了解だ」

 僕が号令をかけると、ランスがすぐに走っていって、灯台の光を赤に変えた。
 真っ赤な灯台の光を合図に、ウィンスタの住人が集まってくる。

「ウィンスタにあだなすやからはどこだい?」

 みんな指の骨をパキパキ鳴らして、やる気満々た。

「ウィン様。我々も行きますか?」

 天使二人の問いに、僕は頷いて答える。

「ああ、グラウエルとゼヌエルは砲弾が来たらはじいておいて」
「了解いたしました」

 港に撃ち込まれたらたまらないからね。天使の二人にはガードとして働いてもらおう。
 二人の肩から降ろされたエグザとグスタが呟く。

「あの数の海賊船なら、俺達の出番もあるか?」
「いやいや、俺達普通の人間じゃ無理だ。ここは任せよう」
「そうだな。グラウエルとゼヌエルを応援でもするか」

 訓練をしていても超人と共闘は難しいよな。素直すなおに身を引くのも、彼らの美点かもしれないな。

「ウィン様。元帝国軍人の力お見せします! 行くぞ、エルザ」
「了解!」

 ザイがエルザさんを抱えて飛んでいった。鳥人でもハーフの彼は片翼しかないみたいだけど、魔法の加護みたいので飛行できるらしい。

「ボドさん! 行ってきます!」
「ああ、ステア、お弁当」
「わ~、ありがとう、ボドさん。お礼にほっぺにチュ~ね」
「ははは、くすぐったいよステア」

 こっちはこっちで新婚さんプレイですか。戦いに行くだけなのに、お弁当はおかしいよ、ボドさん。それに、朝食がまだじゃないか。二人は完全に敵をくさっておいでだ。

「シュタイナー様が魔法都市にいてよかったね」

 カエデが二人を見て呟いたので、疑問をぶつける。

「え? なんで?」
「だって、あそこも新婚さんだから……」

 そう言って、カエデはほおを赤らめながらうつむいてしまった。
 【僕だけの農場】の世界にある国――エリアルドの王、シュタイナー君は、魔法都市の大司祭アーカイブさんとよろしくやっている。
 もしかして、カエデさんはああいうプレイをしたいのか? ではでは――

「カエデ、しゃがんで」
「ウィン?」

 カエデに少しだけしゃがんでもらうと、僕は彼女のほっぺにチュ~した。
 一瞬で赤くなるカエデ。そういえば、今までこういうことをしていなかったと気づく。デートもしていないし、我慢させていたみたいだね。これからはちゃんとデートしよう、うん。

「ありがとう、ウィン……」
「ふふ、じゃあ行こう。僕らも」
「うん! 海のデートだね」
「ん? はは、そうだね。海を駆け回るデートだ」

 灯台のある丘へと走り出して、カエデと一緒に海へと飛び込む。

「ウィン様~。わらわも参戦いたします~」

 灯台から飛び下りると、海底神殿の住人のオクパスちゃんが、シーサーペントと共に海から現れて、背中の触手で僕らをキャッチした。本当に器用だな~。

「オクパス様、張り切りすぎですが、格好良いですよ~。ささ、早く行きましょう!」

 彼女の部下のゲーラさんも相変わらずなようだ。

「なはは~。わらわは格好良いのじゃ~。行くのじゃ、シーサーペント!」
「キシャー」

 先頭の海賊船にはモニカとヴィクトリアさんが乗っているはずだから、制圧は時間の問題だ。
 僕らは他の船団を倒すだけ。ザイやステアライラさんもすでに船団の船に乗り込んでドンパチやっているよ。
 住人達の中でも海を走れる人はすでに到着している。ランスとアウグストもなんとか間に合って、戦っているね。最近はアウグストもなかなか強くなってきている。軍神とたたえられたアリューゼ様の血を引くだけあるな。まあ、自力で海面を走れるほどではないから、文字通りランスにおんぶにだっこだけどね。
 しかし、ウィンスタの住人はとんでもない。多種多様な種族がいて、実力もトップレベルだ。

「船団は制圧しつつあるか~。僕らは一番奥に行こうか」
「了解しました~」

 オクパスちゃんに指示すると、シーサーペントが船団の奥の少し離れた所にいた小型の船に向かった。一隻だけちょっと様子が違うから、気になるんだよね。
 海賊のリーダーなのか、それとも巻き込まれた無関係な船なのか。

「どりゃ~!」

 オクパスちゃんは水面から飛び上がって、船の甲板に降り立つ。

「ありがとう、オクパスちゃん」
「ふひっ。ウィン様のためならいくらでも~」

 頭をでてめると、面白い顔で笑って、犬みたいに舌を出した。可愛かわいいんだけど、おかしな子だ。
 オクパスちゃんを撫でていると、甲板にいた男に声をかけられた。

「あなた達は?」

 問答無用で攻撃してこないってことは、海賊じゃないのかな?

「私達はウィンスタ王国の者です。あなたは?」

 僕の前に立ったカエデが刀に手を添えて警戒しつつ、尋ねた。
 声をかけてきた男は、洗練された動作で僕らにお辞儀じぎする。

「僕はナリア国、第八王子のビセットと申します。貴国の噂を聞いて、貿易の交渉に参りました」

 わ~、初の貿易相手だ~。まあ、ヘイゼルとも取引はしているけど、あそこは半分身内みたいなものだからね。僕は話に応じることにした。

「貿易なら、喜んでお話をうかがいましょう。とりあえず、港に入りましょうか。オクパスちゃん、ゲーラさん。流れ弾が来ないように船を守ってくれるかな?」
「わらわ達にお任せあれ」

 僕の後ろで待機していたオクパスちゃんとゲーラさんに海に戻ってもらって、船を港に向かわせる。しかし、戦いの喧騒けんそうが聞こえるので、ビセットさんは心配そうだ。

「本当に海賊は大丈夫なんですか?」
「ウィンスタのみんなが海賊なんかに負けるはずないから、心配いりませんよ」

 僕が頷くと、ビセットさんは苦笑いしながら話を進めた。

「で、では気にせずに進めさせていただきます。ウィンスタではとても特別な食べ物がとれると聞きました。恥ずかしながら、僕の国は砂漠が多く、作物がみのりません。畜産も適しておらず、サソリやサンドワームの肉などを食べて暮らしています。なので、貴国の食料と、我が国の鉱物を取引したいのですが……」

 なつかしいな~。僕らの国も元々は砂漠と荒野の不毛の土地だったからな~。でも、【僕だけの農場】でとれる作物を植えたことで、一気に緑化して、豊かな土地になっている。
 ビセットさんのことはまだよく知らないから、特別な作物を売るなら、しっかり話をして見極めないとな。
 海賊船団の中を船が通ると、それぞれの船からウィンスタのみんなの歓迎の声が聞こえてきた。

「ようこそ、ウィンスタへ~」

 戦闘はほとんど終わっていて、すっかり海賊団は拘束こうそくされているみたいだ。
 僕も暴れたかったな~、なんてね。暴れるのはモニカに任せよう。
 あっという間に片がついてしまい、ビセットさんは驚いている。

すごいですね、ウィンスタの方々は。大海賊ロドランの船団を損害も出さずに制圧するなんて……。貿易をする商人の間では、あの帆の絵を見たら、抵抗せずにすぐに金品を用意しておけと言われているくらいなのですが」
「へ~。凄い海賊なんだね」

 そこまで恐れられている海賊団なのか~。でも、なんでそんな海賊が来たんだろう?
 まあ、建国したばかりの国だから狙ってきたのかな。適当にいちゃもんをつけて金品を奪う。ああいう人達にとってはそれでいいんだよね。
 いくらか流れ弾が飛んできたけど、全てオクパスちゃんとシーサーペント達が防いでくれて、船は無事に港に着いた。

「改めて、ようこそウィンスタへ。僕はウィン。一応、この国の王子にあたります」
「!? そ、そうでしたか。光栄です、ウィン王子」

 改めて歓迎して名乗ると、ビセットさんは僕の手の甲にキスをした。そういう文化のある国なのかな?
 港にはお父様も様子を見に来ていたので、早速ビセットさんを紹介する。

「お父様、ナリア国のビセット王子が訪ねてきてくれました」
「ナリア国……。確か、内戦をしている?」

 内戦……そういえば、第八王子とか言っていたな。地位が高くてお金を持っていると、そういう問題は避けられないよなあ。

「はい。恥ずかしながら、一番目の兄と姉が跡目争いをしています。父が、死ぬ前に後継者を決めると言って、始まりました」

 自然発生型じゃなくて、お父さんが意図的に後継者争いのきっかけを作ったみたい。なんて親だ。子供同士で争わせるなんて……。

「外で話すのもなんですから、屋敷に向かいましょう」

 お父様がそう言って、ビセットさんを屋敷へと案内した。
 は~、砂漠の土地で内輪揉うちわもめなんてやっていたら、食べ物にも困るわけだ。
 考えてみれば、ビセットさんは王子なのに、船の乗員は別として、護衛騎士みたいな人は一人もついていない。それだけ人材が不足しているということだろうか。
 彼はいい人っぽいから、助けてあげたいけどな~。
 屋敷につくと、僕とお父様、ビセットさんとでソファーに向かい合わせに座った。
 すかさず、ボドさんと執事のランディさんが紅茶とパンケーキを出した。

「皆様、朝食も抜きで出かけられたので」

 ボドさんはそう言いながら、ジャムを二種類、パンケーキの皿のはしに載せた。うん、美味おいしそう。

「いいんですか?」
「はい、どうぞ」
「ありがたい。僕もお腹が空いていまして……」

 ビセットさんは顔を赤くして俯いた。少しするとすぐに顔を上げて、パンケーキを食べはじめる。って……手で食べる文化?

「ビセット様。フォークを」
「ランディ、いいんだ。こちらに合わせる必要はないだろう」

 ランディさんが指摘するけど、お父様がそれをたしなめた。素手で食べる文化もあるからね。こっちから何かを言うのも違うかな。

「ああ、すみません。外の国ではそうでしたね。つい、美味しそうで……」

 ビセットさんは恥ずかしそうにしている。

「しかし、美味しいですね。卵でしょうか? 深みのある味がパンケーキをさらに美味しくしています」

 ビセットさんはフォークを持ってそう言った。
 金の卵は調味料なしでも出汁だしの味が利いていて、料理に使えばその料理に合った味に変わる、最強の卵。しかも、からは純金みたいだ。
 でも、今のところ殻を売るのはやめている。そんなに金を売ってしまったら、金そのものの価格が暴落してしまうからね……。
 いずれ殻を使って自国の通貨を作ってもいいな~。夢が広がる。

「先ほど話に出た内戦ですが、僕は姉の方についています。兄は王位を継承したら、すぐにでも他国へと侵略戦争を始めるでしょう。それを止めたいのです」

 パンケーキをもにゅもにゅと食べながら、ビセットさんは真剣な眼差まなざしで告げた。
 少し面白いけど、こらえてこちらも真剣な目で頷く。

「残念ながら姉の味方は僕だけ。別の兄弟達は兄についています。強い者につくのは当たり前のことですよね……」

 弱い方につく馬鹿ばかはいない……そう呟いて、ビセットさんは俯く。
 彼にとってそのお姉さんは、守りたい人なんだろうな。

「昔から姉さんはみんなに優しくて、兄弟達もみんな大好きだった。だけど、兄はきつく当たって、かたきにしていました。それなのにみんな兄について……姉さんは絶対に僕が守らないといけないんです」
「お姉さんのことが大事なんだね」
「はい……」

 ビセットさんは姉想いでとてもいい人っぽいね。

「ところで、取引に使うという鉱石を見せてもらっても?」
「はい、こちらです」
「!? ダイヤ!?」
「はい、ブラッドダイヤです」

 赤黒いダイヤを取り出すビセットさん。ルビーかと思ったら、お父様はダイヤって言ってる。

「これは加工したものですが、なにぶん人手不足でして、取引するのは原石になってしまうのですが」

 申し訳なさそうに言うビセットさん。原石でも十分凄いと思うけどな。

「あなたの人柄ひとがらもいい。こちらとしても願ってもないことです」
「!? ありがとうございます!」

 お父様もビセットさんのことを気に入ったみたい。
 ブラッドダイヤも凄い物だろうし、いい取引ができそうだ。


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