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3巻
3-2
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◇
「ビセットさん、あれがナリア国の港ですか?」
「はい……半日もかからないで着くなんて、信じられない」
屋敷での貿易交渉を終えた僕達は、ナリア国を見たいというみんなと一緒に、フェリーで海を渡ってきた。移動中は海の魔物と何度か戦った。戦ったと言っても、モニカとオクパスちゃんが片付けたんだけどね。
フェリーにはお風呂もついているから、倒した後はモニカ達のバスタイムだったよ。
カエデ達に洗われて、ワチャワチャしていたな~。
「せんせ~、あれがナリア国?」
「ああ、そうだな。俺も初めて来るから、一緒に学ぼうな」
ザイと自衛団学校の生徒達も、社会見学を兼ねて一緒に来た。ザイを慕ってやってきた子供達は、異国に興味津々で目を輝かせている。
「みんな~、私達についてくるのよ~」
『は~い』
エルザさん達が引率して港に降り立つ。見たことのない船が港に着いたから、たくさんの人が港に集まってきている。
これはウィンスタにとって、良い宣伝になるな~。
「では皆さん、屋敷はこちらです」
ビセットさんを先頭に、みんなで列をなして歩く。その姿をナリア国の人達が興味深そうに見ていた。
大きな屋敷が見えてきた。その入口の前に、女性が一人立っている。女性ってことはビセットさんのお姉さんかな?
「ようこそおいでくださいました。私はビセットの姉のビシャスと申します。お見知りおきを」
「僕はウィンスタの王子のウィンです。今日は父に代わってやってきました」
「私はモニカだよ~」
ビシャスさんが淑女らしいお辞儀をしてきたので、僕も丁寧なお辞儀をして応えた。
モニカは自由奔放に育っているからまだそういうのはできないんだよね。
今度からお母様に教えてもらわないといけないかもな~。
「ふふ、モニカ姫様とウィン王子様ですね」
「そうだよ~。あと~、カエデお姉様とヴィクトリアお姉様。それにそれにね~」
可愛らしく笑うビシャスさんに、モニカが一人一人紹介していく。
全員の紹介が終わると、ビシャスさんは僕らを屋敷に招待してくれた。
「ウィン様。俺達は街を見てきます」
「生徒達に外を見る機会を増やしてやりたいんです」
「わかったよ。貿易は僕らの仕事だから大丈夫。いってらっしゃい」
「「ありがとうございます」」
ザイとエルザさんはそう言って、生徒達と街に消えていった。この街の売りや特産品に興味があるから、後でみんなに聞こうかな。
「ウィンスタはとても平和なのですね。子供が物事を知る機会を得られるのですから」
生徒達の様子を見ていたビシャスさんは、複雑な表情で屋敷に入った。
内戦って、やっぱり子供達の自由を奪うものなんだな。
僕達もビシャスさんに続いて屋敷に入る。
エントランスには左右に階段があったが、僕らは正面の扉の方に入った。
「皆様、こちらでおくつろぎください」
ビシャスさんが自らもてなしてくれるなんて、なんだか悪いな~。
執事さんとかはいないのかな?
気になって見回していると、ビシャスさんは恥ずかしそうに微笑んだ。
「うちはシェフしかいないの。ビセット、手伝って」
「はい、姉様」
執事すら雇えないってことか。大丈夫なのかな?
「お待たせいたしました。わたくし、シェフを務めさせていただいている、シェリと申します」
「あ、どうも。僕はウィンです。よろしく」
メイド服に身を包んだ女性が、微笑んで自己紹介してくれた。
この人が唯一の使用人さんってことかな?
「シェリは私達と一緒に育ちました。兄弟のようなものです」
「そんな、滅相もない。ただ、父が王様に仕えていたおかげで、同じ生活をさせてもらっていただけです」
シェリさんは真っ赤にした顔の前で両手をぶんぶん振っている。恥ずかしそうだけど、その様子を見る二人は、とっても優しい表情だ。
「皆さん、仲がいいんですね」
顔をさらに赤くするシェリさんだったけど、口を開いたのはビシャスさんだった。
「ふふ、シェリは可愛い妹よ。もうすぐ本物の妹になるしね」
「ね、姉さん……。恥ずかしながら、シェリのお腹の中に僕の子供がいます」
ってことは、二人は結婚するのかな?
「ビセット、何を恥ずかしがっているの。おめでたいことよ」
「だけど、まだ結婚もしていなかったのに……」
「そんなのいいのよ。どうせ結婚するのだから」
ビシャスさんは、恥ずかしそうに俯くビセットさんの肩をポンポン叩いてから、僕らに食事を勧めてくれた。
「さあ、早く食べましょ。皆さんもどうぞ」
シェリさんがどんどん料理を机に並べていく。
ボドさんほどじゃないけど、とっても美味しかった。
特にチリソースやスパイスを使った料理が辛旨で最高だ。
これを金の卵と一緒に食べたら……想像だけでじゅるりとよだれが……。
チーズもいっぱいあるし、この辺りでも貿易する価値はありそうだな~。
色々と考えているうちに、美味しい時間も終わりを迎える。
「食事も終わりましたし、早速貿易のお話を」
「はい」
食事をした席で、そのまま貿易交渉へと入る。まずはダイヤの話をするかな。
「ダイヤの原石っていうのは、どのくらいあるんですか?」
「この街から少し離れた所に鉱山がありまして、そこでとれています。ダイヤ以外にも産出されますが、一番とれるのがダイヤなんですよ」
一番がダイヤって、なんか凄いな。
「お父様は兄弟で争わせる時に、この土地と王都のどちらかを拠点として選べと言ってきました。この土地は私達の故郷でしたから、迷うまでもありませんでした」
「ダイヤがとれると聞いたのはその後だったね」
そうか、どっちの領地で戦うかを選べたわけね。でも、陣営の戦力は選べない。そこは完全に人望によるものってことだよな。
「私達は、他の兄弟とは違うところで育ちました。シェリと同じ生活をしていたのも、それが理由ですね」
「なんだか色々複雑そうな家庭ね……」
ビシャスさんの話を聞いて、エレクトラさんがため息混じりで話した。
二人だけ別のところで育ったのか~……。色々と不安だな~。
「この辺りは魔境が近くて魔物の素材は豊富なのですが、畑を作る範囲を壁で覆えなくて、食べ物は肉しかとれないのです。なのでダイヤを安く売ってでも作物を、食べ物を得なくてはならないのです」
「ま、魔境が近いんですか?」
「はい。……あっ! 心配しないでください! 戦力は揃っているので、魔物が来ても、返り討ちにできます」
……でも、魔物はやってくるってことか。
考えて見るとそれって凄いかもな~。
僕らみたいにチートを使っていないのに、魔物を寄せ付けない強さを持っているわけだよね。それって、戦力としては最高なんじゃ?
「この街の範囲だけが私達の領地。数は少ないですが、最高の戦力を有しています。ただ、どんなに強くても、数には勝てないでしょう。そんな状況の街と、貿易できますか?」
「ビシャスさんもビセットさんもとってもいい人ですし、シェリさんの料理も最高なので、僕はいいと思いますよ」
少し諦めにも似た表情をしたビシャスさんだったけど、僕の言葉を聞いて微笑んでくれた。
チリソースが手に入るし、ダイヤも手に入るし、いいことずくめだと思うけどね。
「ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ。ダイヤもいいんですが、他にも聞いていいですか?」
「はい、何でも聞いてください」
「じゃあ、シェリさんの作ったチリソースのレシピを」
「え?」
チリソースはさすがに【僕だけの農場】では作れないと思う。だから頼んだんだけど……。
「ふふ、いいですよ。一緒に作りますか?」
「おお、それはいいですね」
「ウィン、私達も一緒にやっていい?」
「いいに決まってるよ。シェリさんもいいですか?」
「はい! みんなで一緒に作りましょ」
シェリさんは微笑んで了承してくれた。
チリソース料理教室の始まり始まり~。
シェリさんにチリソースの作り方を教わって、材料のスパイスも取引することになった。
調合の仕方はすり潰して使うだけだから、量の加減さえわかれば結構簡単だった。
ただ、混ぜたスパイスを間違ってばらまくと、とても危険だ。くしゃみが止まらなくなる。
少しして、ザイが戻ってきた。
「ただいま戻りました、ウィン様」
「お帰りなさい。どうだった、街は?」
「はい、良い雰囲気でした! 料理も、ウィンスタとは少し違う感じのものが多くて美味しかったです。スパイスを混ぜたソースを肉や野菜にかけて食べていまして、少し辛いですが、とても興味深い味でした」
……シェリさんのチリソースっていうのでなんとなく考えていたけど……。
「ザイ達が食べたものって、茶色っぽくてドロドロしてたり、シャバシャバしてた?」
「はい! 見ていたのですか? ドロドロしていたものと、スープのようにさらさらしていたものがありました」
「やはり!」
むむ! これはまさかのあれじゃないですかな?
「確か名前は……」
「カレー!」
「さすがはウィン様。博識ですね」
うおぉぉぉぉぉぉぉー! 前世で飽きるほど食べたカレーが帰ってきた~。
【僕だけの農場】では得られないだろうと思っていたけど、まさかこの世界で巡りあえるとは!
「本来は薬草の代わりに使われていたものが多く使われているらしく。スパイスによっては滋養強壮の効果や傷の治りをよくしたりするようです。さらには、呪いに効くものも多くて、生徒と一緒に勉強してしまいました」
そうか、この世界は回復魔法があまり発展していないから、こういう薬学の方が先行しているんだな。
しかし、本当にザイはいい先生をしているな~。エルザさんとも仲がいいしね。うん、本当にウィンスタに来てくれてよかったよ。
「せんせ~、一緒に食べよ~」
「ああ、先に食べてなさい。ウィン様と少し話したら行くから」
「絶対だよ~」
生徒達は二階にあがらせてもらって、テラスのある客間に案内された。とっても広いから生徒達を入れても余裕がある。そこで振る舞ってもらった軽食を、雑談しながら食べている。
「しかし、俺がこんなに幸せでいいのでしょうか……」
スペリオルに操られていたとはいえ、ザイは罪のない人達を動かして暗躍してきた。そのことが今でも彼の心を傷つけている。
でも、操られていたんだし、小さな頃からだから、どうしようもないよ。
「過去の過ちはなかったことにはできないよ。でも、君はそれを背負って、今から出会う人の手助けをするんだ。被害にあった人達は許してくれないかもしれないけど、僕らは君を許すよ」
「ウィン様……」
「ちょっと偉そうだったかな?」
「救われました。これから帝国で助けを求めてくる人達を助けていこうと思います」
ルザース帝国では、空位になった帝王の座を巡って内戦が始まっている。軍事政権だったからか、帝王の座を狙う者は後を絶たないんだとか。
まあ、そっちはスペリオルがなんとかするでしょ。ってこれはまだザイ達には内緒だった。
さすがに自分を操っていた相手がまだ生きていて、帝王の座に戻ろうとしているなんて、ザイが知ったら怒るだろうからね。
スペリオルはもともと表舞台から身を引くつもりだったんだけど、ヘイゼルフェード様と、その奥さんのエリュゼ様に説得されて、再び帝王ブルーザスとして帝国を治める決心をしたみたいだ。
生き返ったエリュゼ様が今度はスペリオルを支え、帝国を正しい道へと導く。
三人の間には悲しい因縁があったからね。提案したヘイゼルフェード様も、受け入れたエリュゼ様も、内心は複雑だろう。
でも、これが一番安全な方法なんだと思う。人死にも少なくて済む。なんてったって、スペリオルは人を複数操れるんだからね。
強引だけど、争いを企てている人の心を操れば、簡単に鎮圧できるし。
ザイも密かに冒険者パーティを使って国境付近で人助けしているみたいだし、僕らの仲間はみんないい子になったな~。
「まあ、そんなに肩肘張らずにね」
「はい! ありがとうございます、神様! あっ。申し訳ありません。ゼヌエルの癖がうつって、つい神様と……」
「ははは~……はは」
ゼヌエルの奴、裏では僕のことを神様神様って呼んでいるらしいんだよな。最近ではグラウエルも裏では言っているとか……僕の黒歴史を塩でもみもみしないでほしいな~。
まあ、それだけ信頼されているって思えばいいんだけどね。
「せんせ~、早く~」
「ああ、今行くよ。生徒のところに行ってきますね」
そう言って、ザイはテラスから屋敷に入っていった。
「平和だね、ウィン」
「うん。この街が良い街だっていうのはわかるね」
テラスから一緒に街を見ていると、カエデが呟いて髪をかき上げた。うん、綺麗だ。
この街の人達は食べ物に困っているというわりに、泥棒とかそういった人を見ない。
路地にいるような物乞いもいないし、人がみんな助け合って生きている。
これはビシャスさん達のおかげかな。食べ物をみんなで分け合って暮らしているんだよな。
それなのに客である僕らにいっぱい食べ物を出してくれて……何もお礼をしないなんて、ウィンスタの沽券にかかわるな。よし!
「ビシャスさん、ビセットさん! 一つプレゼントしたいものがあるんですが。きっと喜んでもらえると思います。ただそのかわり、少しだけ土地をいただいてよろしいですか? 用が済んだらちゃんと返しますから」
みんなと話していたビシャスさん達にそう言うと、二人は戸惑いの表情を見せた。
「土地ですか?」
「はい」
困惑しながらも、彼女はテラスから見える土地を僕にくれた。
なんでも言うこと聞いてくれそうだな。
「急なお願いに応えてくれて、ありがとうございます」
「いえ、こんなことでいいのならいつでも……それでこの土地とプレゼントと何か関係が?」
早速、ザイ達以外のみんなでその土地に来た。みんな、僕が何をしようとしているのかわからずに首を傾げているね。
「じゃあ、この作物の種を取り出しまして~」
「あ~」
「わかった!」
モニカとカエデが声を上げる。エレクトラさん達も気づいたみたいで、頷いているね。
僕の作物は、自分の土地でないと不思議な効果を発揮しない。
ただ、口約束でもいいから土地をもらったら、僕の土地という扱いになって、そこで作物を植えれば、即座に実をつけるようになる。
実は、天界の門の騒動が終わってから、僕らは魔法都市から土地をもらって、屋敷を建ててもらった。その土地の中で作物を植えたら、作物がすぐに実をつけたんだ。
ただし、一日で育つ作物はなしで、普通に緑化するだけなら、種をまくだけでも大丈夫だ。
「種を植えても実らないと思いますが?」
「まあ、見ていてください」
ビシャスさんが心配そうに見ている。でも、僕の作物は最強だからね。
「姉さん!?」
「まあ!? なんてことなの!?」
みるみる育って実をつけるトマト。やっぱり最初はトマトさんだな。
ビシャスさん達は驚き、戸惑って、抱き合っている。
「こんな奇跡が……」
「ど、どういうことなんですか?」
どうといわれましても……。こういう力としか言いようがないんだよな。
「きっとスキルと言われるやつだよ、姉さん」
「じゃあ、シザリ兄様のようなスキルってこと!?」
「シザリ?」
聞き覚えのない名前が出てきて、僕は思わず尋ねた。
「対立している一番上の兄です。兄は従える兵士が多ければ多いほど強くなるというスキルを持っているんです」
それはそれは……ランスよりは強そうだな~。
「それは凄いですね。でも、僕のスキルはさらに凄いですよ」
「え?」
張り合うわけじゃないけど、ビシャスさん達みたいないい人達がひどい仕打ちを受けるのは、見ていられない。砂漠の多い土地だから、どんどん緑地化しちゃうぞ!
っていうか、この星、砂漠多いな~。大丈夫なのかな?
早速みんなを連れて街の外に出た。
魔物がいる世界だし、内戦中っていうだけあって、門や壁の警備は厳重だ。
よく見ると耳が長い人もいるな~。エルフさんかな?
砂漠地帯ということもあって、皆さん薄着で露出が凄い。ビキニアーマーなんて、普通にあるんだな~。
「外では何を?」
「まあ見ていてください」
僕はみんなに種の入った革袋を手渡す。
港から一キロほどの距離の場所に、種をばらまいていく。
「!? これはどういうことですか!?」
みんなで走り回ると、港の周りが緑地に変わっていく。
ビシャスさん達はすっごく驚いて、少しすると目に涙を浮かべていた。
「あなた様は神様だったのですね……」
ビシャスさんが跪いてしまった。門の兵士達の見える位置だから、少しざわざわしはじめているよ。
砂漠の緑地化なんて、まさに神の御業だもんな~。感動するよね。
「ビシャスさん……僕はただの人間ですよ」
「ですが、このような力……」
「あなたのお兄さんと一緒です。スキルの力ですよ」
まあ、今では僕の手から離れて活躍しているけどね。主にヘイゼル王国付近だけど。
「姉さん! これで食料問題は解決だよ」
「ええ、それに自然環境も改善できる……」
「姉さん……まだそんなことを」
「ビセット……。この星の寿命に関わることなのよ。緑を傷つけ続けた私達は、いつか報いを受ける時が来る。緑を増やすことでそれからまぬがれられるのよ」
二人の会話からも、僕が心配している通りの内容が聞こえてきた。
やっぱり、緑は大切にしないとね。
「サンドワーム達が増えていたのも、それが近いってことだと思うのよ」
わ~、サンドワームだってさ。昔の僕らの領地みたいだね。懐かしいな~。
「魔物なんだから、緑を増やしても一緒だよ、姉さん。奴らは増える時はすぐに増えるんだから」
あまりのことに二人とも興奮しちゃったな。
「まあまあ、二人とも。とにかく落ち着きましょう」
「あっ、すみません。取り乱しました」
ビシャスさん達はそう言って跪いた。嫌な予感が……。
「「神」」
うわ~、すっごい眼差しで僕を見つめてくる。嫌な予感的中だよ。
「お兄様はそういうの嫌いだよ」
「ウィンって呼んであげてね」
モニカとカエデがフォローしてくれた。
ヴィクトリアさんも頷いているけど、あなたもだからね。いい加減ゴッドっていうのはやめてね。
「また何かあったら言ってください。できる限りのことをしますよ」
「なぜ、そこまでしてくれるんですか?」
「理由か~。そうですね~。ビシャスさん達がいい人だからかな」
「それだけで……」
二人とも輝く目で僕を見つめるのをやめられない様子だ。
まあ、今回はこの街の周りだけで、この後は取引で増やしていこうかな。
「これ以上は取引が始まってからのお楽しみということで、今度からは――」
「ゴッド。何か来ます~」
「ん?」
ヴィクトリアさんが街とは反対側を指さした。
まだ砂漠の場所が砂煙を上げていて、こっちに向かってくる魔物が見える。
「噂をすればかな?」
サンドワームだ。久しぶりだな~。
じゃあ、みんなで狩りますか!
「皆さんは街の防壁の中へ!」
ビシャスさんが叫ぶけど、僕は首を横に振る。
「いえ、今後のためにも、僕達が退治します」
「ですが、もしものことがあっては」
「僕達に限って、もしもなんてありえませんよ。ねっ、みんな?」
僕がウインクすると、みんなも頷いてくれた。
すぐにモニカが突進していって、次いでエレクトラさんが炎の雨を降らせる。
その雨を華麗に避けて、モニカはサンドワームを拳で打ち上げ、続いていたカエデが空中で切りつけた。
綺麗に半分になったワームと焼け焦げたワームが出来上がったけど、後続がどんどんやってくる。
「あんな数のワーム……ありえない」
まだまだやってくるワームを見て、ビシャスさんが狼狽えてる。
エレポスさんやオクパスちゃんも張り切ってるな~。
ランス達も連れてくればよかった。
勝手にライバル視しているシュタイナー君が魔法都市に行ってしまったから、寂しそうなんだよな。ランスにそれを言うと怒るけどね。
「ビセットさん、あれがナリア国の港ですか?」
「はい……半日もかからないで着くなんて、信じられない」
屋敷での貿易交渉を終えた僕達は、ナリア国を見たいというみんなと一緒に、フェリーで海を渡ってきた。移動中は海の魔物と何度か戦った。戦ったと言っても、モニカとオクパスちゃんが片付けたんだけどね。
フェリーにはお風呂もついているから、倒した後はモニカ達のバスタイムだったよ。
カエデ達に洗われて、ワチャワチャしていたな~。
「せんせ~、あれがナリア国?」
「ああ、そうだな。俺も初めて来るから、一緒に学ぼうな」
ザイと自衛団学校の生徒達も、社会見学を兼ねて一緒に来た。ザイを慕ってやってきた子供達は、異国に興味津々で目を輝かせている。
「みんな~、私達についてくるのよ~」
『は~い』
エルザさん達が引率して港に降り立つ。見たことのない船が港に着いたから、たくさんの人が港に集まってきている。
これはウィンスタにとって、良い宣伝になるな~。
「では皆さん、屋敷はこちらです」
ビセットさんを先頭に、みんなで列をなして歩く。その姿をナリア国の人達が興味深そうに見ていた。
大きな屋敷が見えてきた。その入口の前に、女性が一人立っている。女性ってことはビセットさんのお姉さんかな?
「ようこそおいでくださいました。私はビセットの姉のビシャスと申します。お見知りおきを」
「僕はウィンスタの王子のウィンです。今日は父に代わってやってきました」
「私はモニカだよ~」
ビシャスさんが淑女らしいお辞儀をしてきたので、僕も丁寧なお辞儀をして応えた。
モニカは自由奔放に育っているからまだそういうのはできないんだよね。
今度からお母様に教えてもらわないといけないかもな~。
「ふふ、モニカ姫様とウィン王子様ですね」
「そうだよ~。あと~、カエデお姉様とヴィクトリアお姉様。それにそれにね~」
可愛らしく笑うビシャスさんに、モニカが一人一人紹介していく。
全員の紹介が終わると、ビシャスさんは僕らを屋敷に招待してくれた。
「ウィン様。俺達は街を見てきます」
「生徒達に外を見る機会を増やしてやりたいんです」
「わかったよ。貿易は僕らの仕事だから大丈夫。いってらっしゃい」
「「ありがとうございます」」
ザイとエルザさんはそう言って、生徒達と街に消えていった。この街の売りや特産品に興味があるから、後でみんなに聞こうかな。
「ウィンスタはとても平和なのですね。子供が物事を知る機会を得られるのですから」
生徒達の様子を見ていたビシャスさんは、複雑な表情で屋敷に入った。
内戦って、やっぱり子供達の自由を奪うものなんだな。
僕達もビシャスさんに続いて屋敷に入る。
エントランスには左右に階段があったが、僕らは正面の扉の方に入った。
「皆様、こちらでおくつろぎください」
ビシャスさんが自らもてなしてくれるなんて、なんだか悪いな~。
執事さんとかはいないのかな?
気になって見回していると、ビシャスさんは恥ずかしそうに微笑んだ。
「うちはシェフしかいないの。ビセット、手伝って」
「はい、姉様」
執事すら雇えないってことか。大丈夫なのかな?
「お待たせいたしました。わたくし、シェフを務めさせていただいている、シェリと申します」
「あ、どうも。僕はウィンです。よろしく」
メイド服に身を包んだ女性が、微笑んで自己紹介してくれた。
この人が唯一の使用人さんってことかな?
「シェリは私達と一緒に育ちました。兄弟のようなものです」
「そんな、滅相もない。ただ、父が王様に仕えていたおかげで、同じ生活をさせてもらっていただけです」
シェリさんは真っ赤にした顔の前で両手をぶんぶん振っている。恥ずかしそうだけど、その様子を見る二人は、とっても優しい表情だ。
「皆さん、仲がいいんですね」
顔をさらに赤くするシェリさんだったけど、口を開いたのはビシャスさんだった。
「ふふ、シェリは可愛い妹よ。もうすぐ本物の妹になるしね」
「ね、姉さん……。恥ずかしながら、シェリのお腹の中に僕の子供がいます」
ってことは、二人は結婚するのかな?
「ビセット、何を恥ずかしがっているの。おめでたいことよ」
「だけど、まだ結婚もしていなかったのに……」
「そんなのいいのよ。どうせ結婚するのだから」
ビシャスさんは、恥ずかしそうに俯くビセットさんの肩をポンポン叩いてから、僕らに食事を勧めてくれた。
「さあ、早く食べましょ。皆さんもどうぞ」
シェリさんがどんどん料理を机に並べていく。
ボドさんほどじゃないけど、とっても美味しかった。
特にチリソースやスパイスを使った料理が辛旨で最高だ。
これを金の卵と一緒に食べたら……想像だけでじゅるりとよだれが……。
チーズもいっぱいあるし、この辺りでも貿易する価値はありそうだな~。
色々と考えているうちに、美味しい時間も終わりを迎える。
「食事も終わりましたし、早速貿易のお話を」
「はい」
食事をした席で、そのまま貿易交渉へと入る。まずはダイヤの話をするかな。
「ダイヤの原石っていうのは、どのくらいあるんですか?」
「この街から少し離れた所に鉱山がありまして、そこでとれています。ダイヤ以外にも産出されますが、一番とれるのがダイヤなんですよ」
一番がダイヤって、なんか凄いな。
「お父様は兄弟で争わせる時に、この土地と王都のどちらかを拠点として選べと言ってきました。この土地は私達の故郷でしたから、迷うまでもありませんでした」
「ダイヤがとれると聞いたのはその後だったね」
そうか、どっちの領地で戦うかを選べたわけね。でも、陣営の戦力は選べない。そこは完全に人望によるものってことだよな。
「私達は、他の兄弟とは違うところで育ちました。シェリと同じ生活をしていたのも、それが理由ですね」
「なんだか色々複雑そうな家庭ね……」
ビシャスさんの話を聞いて、エレクトラさんがため息混じりで話した。
二人だけ別のところで育ったのか~……。色々と不安だな~。
「この辺りは魔境が近くて魔物の素材は豊富なのですが、畑を作る範囲を壁で覆えなくて、食べ物は肉しかとれないのです。なのでダイヤを安く売ってでも作物を、食べ物を得なくてはならないのです」
「ま、魔境が近いんですか?」
「はい。……あっ! 心配しないでください! 戦力は揃っているので、魔物が来ても、返り討ちにできます」
……でも、魔物はやってくるってことか。
考えて見るとそれって凄いかもな~。
僕らみたいにチートを使っていないのに、魔物を寄せ付けない強さを持っているわけだよね。それって、戦力としては最高なんじゃ?
「この街の範囲だけが私達の領地。数は少ないですが、最高の戦力を有しています。ただ、どんなに強くても、数には勝てないでしょう。そんな状況の街と、貿易できますか?」
「ビシャスさんもビセットさんもとってもいい人ですし、シェリさんの料理も最高なので、僕はいいと思いますよ」
少し諦めにも似た表情をしたビシャスさんだったけど、僕の言葉を聞いて微笑んでくれた。
チリソースが手に入るし、ダイヤも手に入るし、いいことずくめだと思うけどね。
「ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ。ダイヤもいいんですが、他にも聞いていいですか?」
「はい、何でも聞いてください」
「じゃあ、シェリさんの作ったチリソースのレシピを」
「え?」
チリソースはさすがに【僕だけの農場】では作れないと思う。だから頼んだんだけど……。
「ふふ、いいですよ。一緒に作りますか?」
「おお、それはいいですね」
「ウィン、私達も一緒にやっていい?」
「いいに決まってるよ。シェリさんもいいですか?」
「はい! みんなで一緒に作りましょ」
シェリさんは微笑んで了承してくれた。
チリソース料理教室の始まり始まり~。
シェリさんにチリソースの作り方を教わって、材料のスパイスも取引することになった。
調合の仕方はすり潰して使うだけだから、量の加減さえわかれば結構簡単だった。
ただ、混ぜたスパイスを間違ってばらまくと、とても危険だ。くしゃみが止まらなくなる。
少しして、ザイが戻ってきた。
「ただいま戻りました、ウィン様」
「お帰りなさい。どうだった、街は?」
「はい、良い雰囲気でした! 料理も、ウィンスタとは少し違う感じのものが多くて美味しかったです。スパイスを混ぜたソースを肉や野菜にかけて食べていまして、少し辛いですが、とても興味深い味でした」
……シェリさんのチリソースっていうのでなんとなく考えていたけど……。
「ザイ達が食べたものって、茶色っぽくてドロドロしてたり、シャバシャバしてた?」
「はい! 見ていたのですか? ドロドロしていたものと、スープのようにさらさらしていたものがありました」
「やはり!」
むむ! これはまさかのあれじゃないですかな?
「確か名前は……」
「カレー!」
「さすがはウィン様。博識ですね」
うおぉぉぉぉぉぉぉー! 前世で飽きるほど食べたカレーが帰ってきた~。
【僕だけの農場】では得られないだろうと思っていたけど、まさかこの世界で巡りあえるとは!
「本来は薬草の代わりに使われていたものが多く使われているらしく。スパイスによっては滋養強壮の効果や傷の治りをよくしたりするようです。さらには、呪いに効くものも多くて、生徒と一緒に勉強してしまいました」
そうか、この世界は回復魔法があまり発展していないから、こういう薬学の方が先行しているんだな。
しかし、本当にザイはいい先生をしているな~。エルザさんとも仲がいいしね。うん、本当にウィンスタに来てくれてよかったよ。
「せんせ~、一緒に食べよ~」
「ああ、先に食べてなさい。ウィン様と少し話したら行くから」
「絶対だよ~」
生徒達は二階にあがらせてもらって、テラスのある客間に案内された。とっても広いから生徒達を入れても余裕がある。そこで振る舞ってもらった軽食を、雑談しながら食べている。
「しかし、俺がこんなに幸せでいいのでしょうか……」
スペリオルに操られていたとはいえ、ザイは罪のない人達を動かして暗躍してきた。そのことが今でも彼の心を傷つけている。
でも、操られていたんだし、小さな頃からだから、どうしようもないよ。
「過去の過ちはなかったことにはできないよ。でも、君はそれを背負って、今から出会う人の手助けをするんだ。被害にあった人達は許してくれないかもしれないけど、僕らは君を許すよ」
「ウィン様……」
「ちょっと偉そうだったかな?」
「救われました。これから帝国で助けを求めてくる人達を助けていこうと思います」
ルザース帝国では、空位になった帝王の座を巡って内戦が始まっている。軍事政権だったからか、帝王の座を狙う者は後を絶たないんだとか。
まあ、そっちはスペリオルがなんとかするでしょ。ってこれはまだザイ達には内緒だった。
さすがに自分を操っていた相手がまだ生きていて、帝王の座に戻ろうとしているなんて、ザイが知ったら怒るだろうからね。
スペリオルはもともと表舞台から身を引くつもりだったんだけど、ヘイゼルフェード様と、その奥さんのエリュゼ様に説得されて、再び帝王ブルーザスとして帝国を治める決心をしたみたいだ。
生き返ったエリュゼ様が今度はスペリオルを支え、帝国を正しい道へと導く。
三人の間には悲しい因縁があったからね。提案したヘイゼルフェード様も、受け入れたエリュゼ様も、内心は複雑だろう。
でも、これが一番安全な方法なんだと思う。人死にも少なくて済む。なんてったって、スペリオルは人を複数操れるんだからね。
強引だけど、争いを企てている人の心を操れば、簡単に鎮圧できるし。
ザイも密かに冒険者パーティを使って国境付近で人助けしているみたいだし、僕らの仲間はみんないい子になったな~。
「まあ、そんなに肩肘張らずにね」
「はい! ありがとうございます、神様! あっ。申し訳ありません。ゼヌエルの癖がうつって、つい神様と……」
「ははは~……はは」
ゼヌエルの奴、裏では僕のことを神様神様って呼んでいるらしいんだよな。最近ではグラウエルも裏では言っているとか……僕の黒歴史を塩でもみもみしないでほしいな~。
まあ、それだけ信頼されているって思えばいいんだけどね。
「せんせ~、早く~」
「ああ、今行くよ。生徒のところに行ってきますね」
そう言って、ザイはテラスから屋敷に入っていった。
「平和だね、ウィン」
「うん。この街が良い街だっていうのはわかるね」
テラスから一緒に街を見ていると、カエデが呟いて髪をかき上げた。うん、綺麗だ。
この街の人達は食べ物に困っているというわりに、泥棒とかそういった人を見ない。
路地にいるような物乞いもいないし、人がみんな助け合って生きている。
これはビシャスさん達のおかげかな。食べ物をみんなで分け合って暮らしているんだよな。
それなのに客である僕らにいっぱい食べ物を出してくれて……何もお礼をしないなんて、ウィンスタの沽券にかかわるな。よし!
「ビシャスさん、ビセットさん! 一つプレゼントしたいものがあるんですが。きっと喜んでもらえると思います。ただそのかわり、少しだけ土地をいただいてよろしいですか? 用が済んだらちゃんと返しますから」
みんなと話していたビシャスさん達にそう言うと、二人は戸惑いの表情を見せた。
「土地ですか?」
「はい」
困惑しながらも、彼女はテラスから見える土地を僕にくれた。
なんでも言うこと聞いてくれそうだな。
「急なお願いに応えてくれて、ありがとうございます」
「いえ、こんなことでいいのならいつでも……それでこの土地とプレゼントと何か関係が?」
早速、ザイ達以外のみんなでその土地に来た。みんな、僕が何をしようとしているのかわからずに首を傾げているね。
「じゃあ、この作物の種を取り出しまして~」
「あ~」
「わかった!」
モニカとカエデが声を上げる。エレクトラさん達も気づいたみたいで、頷いているね。
僕の作物は、自分の土地でないと不思議な効果を発揮しない。
ただ、口約束でもいいから土地をもらったら、僕の土地という扱いになって、そこで作物を植えれば、即座に実をつけるようになる。
実は、天界の門の騒動が終わってから、僕らは魔法都市から土地をもらって、屋敷を建ててもらった。その土地の中で作物を植えたら、作物がすぐに実をつけたんだ。
ただし、一日で育つ作物はなしで、普通に緑化するだけなら、種をまくだけでも大丈夫だ。
「種を植えても実らないと思いますが?」
「まあ、見ていてください」
ビシャスさんが心配そうに見ている。でも、僕の作物は最強だからね。
「姉さん!?」
「まあ!? なんてことなの!?」
みるみる育って実をつけるトマト。やっぱり最初はトマトさんだな。
ビシャスさん達は驚き、戸惑って、抱き合っている。
「こんな奇跡が……」
「ど、どういうことなんですか?」
どうといわれましても……。こういう力としか言いようがないんだよな。
「きっとスキルと言われるやつだよ、姉さん」
「じゃあ、シザリ兄様のようなスキルってこと!?」
「シザリ?」
聞き覚えのない名前が出てきて、僕は思わず尋ねた。
「対立している一番上の兄です。兄は従える兵士が多ければ多いほど強くなるというスキルを持っているんです」
それはそれは……ランスよりは強そうだな~。
「それは凄いですね。でも、僕のスキルはさらに凄いですよ」
「え?」
張り合うわけじゃないけど、ビシャスさん達みたいないい人達がひどい仕打ちを受けるのは、見ていられない。砂漠の多い土地だから、どんどん緑地化しちゃうぞ!
っていうか、この星、砂漠多いな~。大丈夫なのかな?
早速みんなを連れて街の外に出た。
魔物がいる世界だし、内戦中っていうだけあって、門や壁の警備は厳重だ。
よく見ると耳が長い人もいるな~。エルフさんかな?
砂漠地帯ということもあって、皆さん薄着で露出が凄い。ビキニアーマーなんて、普通にあるんだな~。
「外では何を?」
「まあ見ていてください」
僕はみんなに種の入った革袋を手渡す。
港から一キロほどの距離の場所に、種をばらまいていく。
「!? これはどういうことですか!?」
みんなで走り回ると、港の周りが緑地に変わっていく。
ビシャスさん達はすっごく驚いて、少しすると目に涙を浮かべていた。
「あなた様は神様だったのですね……」
ビシャスさんが跪いてしまった。門の兵士達の見える位置だから、少しざわざわしはじめているよ。
砂漠の緑地化なんて、まさに神の御業だもんな~。感動するよね。
「ビシャスさん……僕はただの人間ですよ」
「ですが、このような力……」
「あなたのお兄さんと一緒です。スキルの力ですよ」
まあ、今では僕の手から離れて活躍しているけどね。主にヘイゼル王国付近だけど。
「姉さん! これで食料問題は解決だよ」
「ええ、それに自然環境も改善できる……」
「姉さん……まだそんなことを」
「ビセット……。この星の寿命に関わることなのよ。緑を傷つけ続けた私達は、いつか報いを受ける時が来る。緑を増やすことでそれからまぬがれられるのよ」
二人の会話からも、僕が心配している通りの内容が聞こえてきた。
やっぱり、緑は大切にしないとね。
「サンドワーム達が増えていたのも、それが近いってことだと思うのよ」
わ~、サンドワームだってさ。昔の僕らの領地みたいだね。懐かしいな~。
「魔物なんだから、緑を増やしても一緒だよ、姉さん。奴らは増える時はすぐに増えるんだから」
あまりのことに二人とも興奮しちゃったな。
「まあまあ、二人とも。とにかく落ち着きましょう」
「あっ、すみません。取り乱しました」
ビシャスさん達はそう言って跪いた。嫌な予感が……。
「「神」」
うわ~、すっごい眼差しで僕を見つめてくる。嫌な予感的中だよ。
「お兄様はそういうの嫌いだよ」
「ウィンって呼んであげてね」
モニカとカエデがフォローしてくれた。
ヴィクトリアさんも頷いているけど、あなたもだからね。いい加減ゴッドっていうのはやめてね。
「また何かあったら言ってください。できる限りのことをしますよ」
「なぜ、そこまでしてくれるんですか?」
「理由か~。そうですね~。ビシャスさん達がいい人だからかな」
「それだけで……」
二人とも輝く目で僕を見つめるのをやめられない様子だ。
まあ、今回はこの街の周りだけで、この後は取引で増やしていこうかな。
「これ以上は取引が始まってからのお楽しみということで、今度からは――」
「ゴッド。何か来ます~」
「ん?」
ヴィクトリアさんが街とは反対側を指さした。
まだ砂漠の場所が砂煙を上げていて、こっちに向かってくる魔物が見える。
「噂をすればかな?」
サンドワームだ。久しぶりだな~。
じゃあ、みんなで狩りますか!
「皆さんは街の防壁の中へ!」
ビシャスさんが叫ぶけど、僕は首を横に振る。
「いえ、今後のためにも、僕達が退治します」
「ですが、もしものことがあっては」
「僕達に限って、もしもなんてありえませんよ。ねっ、みんな?」
僕がウインクすると、みんなも頷いてくれた。
すぐにモニカが突進していって、次いでエレクトラさんが炎の雨を降らせる。
その雨を華麗に避けて、モニカはサンドワームを拳で打ち上げ、続いていたカエデが空中で切りつけた。
綺麗に半分になったワームと焼け焦げたワームが出来上がったけど、後続がどんどんやってくる。
「あんな数のワーム……ありえない」
まだまだやってくるワームを見て、ビシャスさんが狼狽えてる。
エレポスさんやオクパスちゃんも張り切ってるな~。
ランス達も連れてくればよかった。
勝手にライバル視しているシュタイナー君が魔法都市に行ってしまったから、寂しそうなんだよな。ランスにそれを言うと怒るけどね。
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