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二度目の高校生活 1

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 * * *

 かつて愛した男・滝沢享幸の息子として生まれ落ちたあの日から十六年が経った。

「なあ今度のテスト明け、みんなで遊園地いかねえ? クリスマスイベやってるって」
「いいなそれー、滝っちも来る?」
「え、あ……いや、俺はやめとく」

 ごめんな、と言いながら幸一こういちは学生かばんを取り出し、手元の荷物を乱雑に詰め込んで立ち上がった。
 ホームルーム終了後の教室。幸一の周囲には、帰り支度を済ませた友人たちが自然と集まってくる。

「あかんってお前ら、そういうの誘ったら」
「えーなんで」
「だって滝沢は……」

 唯一家庭の事情を知る友人の歩夢あゆむがクラスメイトを嗜めるように口出すが、幸一は「平気平気、気にすんな」と笑った。

「その日バイト入れてしまったからさあ、悪い。お土産期待してっから」
「へー滝っち、バイトしてるんか」
「なになに、もしかしてお前彼女いるん。デート代稼ぎのリア充かー?」
「そんな奴いたらお前らとつるんでないわ」

 それもそうかと笑いあう友人たちは男ばかりだ。

(まあ俺、体感的には二度目の高校生活だし。前はバカ過ぎて金欠酷かったから、節約しとかねぇとな)

 人生二巡目ともなると、精神だけはどんどん老けていくのがわかる。肉体は新品でも魂は中古。三十年以上は長生きしているような、そんな気分だ。だがおかげでいじめっ子対応にも寛大になれるし、どんなタイプの友人を作れば平和に過ごせるかもだいたい掴めている。
 周りから「滝っちって大人っぽい」と言われるのも悪くはない。

(昔はなんでも冷静に応対する享幸が大人びててカッコよく見えたもんだ)

 身体には血のつながりがきっちりある。当然、見た目も身長も享幸そっくりになった自分は、男女問わずそれなりの人気者になれたと自負している。中身は別として。

「こんなにカッコイイ奴なのに、彼女いないなんて普通おかしいだろ」
「しゃーない。幸一ってオープンすけべのロリコンだもん。中身が残念すぎる」
「うるせえ。俺は性癖に忠実に生きる男なんだ」

 ――などと息まいているが、彼女を作らない理由は別にある。

(生まれ変わっても恋愛対象はさして変わらなかったからな)

 小池良一だった時もちょうど高校生活の真っ最中に滝沢享幸と出会い、バカ騒ぎするうち親密な関係になった。あの頃はまだ男が男を好きになる――なんて表で堂々と言える時代ではなくて、性的指向がバレた時は陰湿な苛めに遭った。そんな自分を疎まず受け入れ、寄り添ってくれたのが享幸だ。

「ゲイかどうかはよくわからないけど、俺は良一が好きだよ」

 恋愛感情より性欲と好奇心が勝った青春時代。校内の死角に隠れて毎日のように身体を重ねていたことを思い出す。

(あの頃はゴムなくなった時、裏返してヤればなんとかなるんじゃね、ってバカなことしてたもんだ)

「まあお前らが遊園地で散財してる間、俺は将来のためにゴム買い置きしとくわ」
「おいぃマジかよ滝っち。推し課金じゃねえの」
「あーわかった、何十年後とかにレア物として高値で売るんか」
「つうかコンドームって劣化しねえの? 期限ないの」
「使わない前提でイジるなよ、てめえら!」

 いつもの仲間数人とバカげた話に花を咲かせながら自転車置き場に向かう。最中、ふいに歩夢が「マジで土産、何がいい? 滝沢の分買ってくるよ」と伺ってきた。

「えー歩夢やっさしー、惚れるわ」
「よせよ本当のことだから。照れるだろ」
「でも遊園地にコンドームはねえだろ」
「あったらびっくりするわーあはははは!」

 みんなで笑い飛ばす中、歩夢は幸一に近づき、二人だけに聞こえる程度の声で話しかけてくる。

「冗談抜きな話。バイトって嘘だろ。親父さんの病院にいくんだろ。大変だな、介護。部活も入ってないのはそれが理由なんじゃ」
「あ……うん、まあ。バイトもあるよ本当に。でも俺んち、結構前から親父と二人だから慣れてっし、別に大変でもないぜ。寝てる親父は怒らねえからゲーム三昧だし、病院に無料Wi-Fiあるからネットも使い放題だし?」
「なんだそれ。それでお前の推しキャラの絆レベル、爆上がりなのかよ」
「ふっふっふ、まーな。無課金勢なめんなよ。それに歩夢だってかわいい妹が病気で入院してたら、あんま遊びに行く気になんてならないだろ?」
「いやあ……あの鬼妹が入院したらつけあがって俺がこき使われる未来しか見えない」
「……それは……ドンマイだな」

 それでも土産は何がいいかと何度も伺ってくれる。

「お前、妹に都合よく扱われるのはそういうところだぞ」

 幸一は笑いながらその素朴な親切に礼を告げると、通学用自転車のサドルにまたがった。

「歩夢が選んでくれるものだったら、なんでも嬉しいよ」
「……!」
「じゃあなー、歩夢も塾がんばれよ。また明日!」

 その時ネックウォーマーの下に見える歩夢の頬が少しばかり赤くなったが、幸一は特に気にすることもなく手を振って別れた。

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