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サラリーマン天使と転生希望調査 1
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* * *
「――ってずっと前から思ってたんですけど、可能ですか!?」
「異世界でチートなスキル手に入れてウハウハなハーレム生活とかにご興味は」
「全然ないっすね」
「そうですかあ……」
「恋人がいたのに不慮の事故で死んでしまったら、普通そう願わね?」
《転生希望、どこかありますか?》
ふわふわの雲海の中で神々しい天使にそんなことを聞かれた良一は、恥ずかしさを我慢して己の恋愛を熱弁してみた。のだが、相手はつまらなさそうな顔で事務的に記録をとっているだけだ。
「僕が担当するのは死後の転生コースを第三希望まで伺い、生前の履歴書と共に神へ報告する事のみなんで。この業務についてからまだ日が浅くて新人なんですよね、察してください。あとあなたが希望するような輪廻転生はリスクが高いので諦める方が多いって先輩が言ってました」
「天使ってサラリーマンなのかよ……」
天界に纏わる神話はゲームオタクだった時分に多少見聞きしていたが、あれは半分本当で、半分嘘だということがよくわかった。
むしろ時代変遷に天界も適宜対応中なのかもしれない。目の前にいる天使は黒ぶちメガネにネクタイのスーツ姿。お堅い役所仕事が非常にお似合いな愛想の悪い青年だ。だがその背には立派な白い両翼が生えているし、髪は綺麗なシルバーブロンド。日本の一般庶民として公団アパートで育った良一には正直、魔訶不思議な光景だった。
「あの、リスクが高いってどういう?」
「えー、小池良一さん。あなた、恋人を置いて先立ったんですよね、しかも随分とお若いうちに」
「うぐっ……」
「老夫婦ならともかく、お相手の余生はまだ長い。あなたが輪廻転生を予約しても、向こうがあなたと同じ時代に転生できる確率は0.0023%。再会保証もありません」
「うぬぬ……」
「また、向こうが同じ転生を望むとは限りませんし、個人情報になるので天界では如何なる理由があっても他者にあなたの転生先をお伝えすることはできません。あ、お連れさんが亡くなるまで待合室で過ごす、なんてことも無理ですよ。ここ、見ての通り連日大混雑なんで、判定下りたらさっさと次の世界に移動していただかないと」
「て……天国シビアすぎだろ!」
ここは病院か、それとも大人気レストランか。たしかに自分に似たような足のない人間が、どこからともなくやってきては続々と雲海の奥へ案内されていく。
消えた己の足先を見つめ、良一は思わず舌打ちをした。
「あなたは第一希望の転生ルートを優先される権利をお持ちの優良魂です。成人後まもなく非業の死を遂げた方に与えられる特権なので、どうぞよく考えてお好きな道をご選択ください」
「はあ……」
見渡す限り雲しかない白の世界で、良一は溜息をついた。
(コンビニで肉まん買った直後に車に轢かれたってことしか覚えてないんだけど。非業の死、ねえ。肉まんを食べる前にズッタズタにされて心折れた俺に同情でもしてくれたんかな)
気づいた時には一人茫然とここに座っていた。ほどなくして目の前のスーツ天使に声を掛けられ、聞き取り調査を受けている真っ最中だ。色んな世界をかいつまんで紹介する各種世界パンフレットを渡されるも、急に決められるわけがない。
「人間、死んだら絶対転生とか、知らなかったな」
「絶対ではなく、守護天使との契約がある人間のみです。ノアの方舟、ご存知ですか?」
「……創世記? 方舟に乗ってる人間だけが大洪水を逃れて生き残る話」
「ええ。その逸話、正しくは天使と番の盟約を結べた人間のみ、神の力によって魂を保護され、転生を繰り返せるというものです。神の怒りに触れ、守護を失わないない限り、その魂だけは永久不滅です」
「へーえ。ほんとにゲームの世界みたい」
「とはいえ肉体寿命を操作することはできませんので、寿命の短い動植物に転生されることもあります。人間になれるとは限りません」
「ひええ、マジか」
「転生の門を通過する際、生前の記憶は完全抹消されますから。人間は毎回ここで驚かれますね」
「記憶……消えちゃうのか」
良一は思わず唇をかみしめた。記憶が消えてしまうのなら、置いてきてしまった恋人・享幸のことも忘れてしまうだろう。再会しても気づかない可能性もある。それはそれで会えなくて切ない胸の苦しみも、悲しい思いもしなくてすむかもしれないが――。
「でもやっぱ俺は享幸のそばにいたい……他に行きたいところなんてない」
「享幸――滝沢享幸、あなたの元恋人で元同級生。でお間違いないですか」
天使は至って事務的にプロフィールを確認しては羽ペンを走らせ続ける。
「まあ、その希望を叶える手法、なくもないですが」
「え……あるの? なんだよ、もったいぶらずに教えろよ!」
驚きの発言に目を丸くした良一はガバッと身を乗り出した。すごく面倒そうにため息をつきながら、天使は眼鏡のブリッジをくいと押し上げる。
「制限条件があります」
「――ってずっと前から思ってたんですけど、可能ですか!?」
「異世界でチートなスキル手に入れてウハウハなハーレム生活とかにご興味は」
「全然ないっすね」
「そうですかあ……」
「恋人がいたのに不慮の事故で死んでしまったら、普通そう願わね?」
《転生希望、どこかありますか?》
ふわふわの雲海の中で神々しい天使にそんなことを聞かれた良一は、恥ずかしさを我慢して己の恋愛を熱弁してみた。のだが、相手はつまらなさそうな顔で事務的に記録をとっているだけだ。
「僕が担当するのは死後の転生コースを第三希望まで伺い、生前の履歴書と共に神へ報告する事のみなんで。この業務についてからまだ日が浅くて新人なんですよね、察してください。あとあなたが希望するような輪廻転生はリスクが高いので諦める方が多いって先輩が言ってました」
「天使ってサラリーマンなのかよ……」
天界に纏わる神話はゲームオタクだった時分に多少見聞きしていたが、あれは半分本当で、半分嘘だということがよくわかった。
むしろ時代変遷に天界も適宜対応中なのかもしれない。目の前にいる天使は黒ぶちメガネにネクタイのスーツ姿。お堅い役所仕事が非常にお似合いな愛想の悪い青年だ。だがその背には立派な白い両翼が生えているし、髪は綺麗なシルバーブロンド。日本の一般庶民として公団アパートで育った良一には正直、魔訶不思議な光景だった。
「あの、リスクが高いってどういう?」
「えー、小池良一さん。あなた、恋人を置いて先立ったんですよね、しかも随分とお若いうちに」
「うぐっ……」
「老夫婦ならともかく、お相手の余生はまだ長い。あなたが輪廻転生を予約しても、向こうがあなたと同じ時代に転生できる確率は0.0023%。再会保証もありません」
「うぬぬ……」
「また、向こうが同じ転生を望むとは限りませんし、個人情報になるので天界では如何なる理由があっても他者にあなたの転生先をお伝えすることはできません。あ、お連れさんが亡くなるまで待合室で過ごす、なんてことも無理ですよ。ここ、見ての通り連日大混雑なんで、判定下りたらさっさと次の世界に移動していただかないと」
「て……天国シビアすぎだろ!」
ここは病院か、それとも大人気レストランか。たしかに自分に似たような足のない人間が、どこからともなくやってきては続々と雲海の奥へ案内されていく。
消えた己の足先を見つめ、良一は思わず舌打ちをした。
「あなたは第一希望の転生ルートを優先される権利をお持ちの優良魂です。成人後まもなく非業の死を遂げた方に与えられる特権なので、どうぞよく考えてお好きな道をご選択ください」
「はあ……」
見渡す限り雲しかない白の世界で、良一は溜息をついた。
(コンビニで肉まん買った直後に車に轢かれたってことしか覚えてないんだけど。非業の死、ねえ。肉まんを食べる前にズッタズタにされて心折れた俺に同情でもしてくれたんかな)
気づいた時には一人茫然とここに座っていた。ほどなくして目の前のスーツ天使に声を掛けられ、聞き取り調査を受けている真っ最中だ。色んな世界をかいつまんで紹介する各種世界パンフレットを渡されるも、急に決められるわけがない。
「人間、死んだら絶対転生とか、知らなかったな」
「絶対ではなく、守護天使との契約がある人間のみです。ノアの方舟、ご存知ですか?」
「……創世記? 方舟に乗ってる人間だけが大洪水を逃れて生き残る話」
「ええ。その逸話、正しくは天使と番の盟約を結べた人間のみ、神の力によって魂を保護され、転生を繰り返せるというものです。神の怒りに触れ、守護を失わないない限り、その魂だけは永久不滅です」
「へーえ。ほんとにゲームの世界みたい」
「とはいえ肉体寿命を操作することはできませんので、寿命の短い動植物に転生されることもあります。人間になれるとは限りません」
「ひええ、マジか」
「転生の門を通過する際、生前の記憶は完全抹消されますから。人間は毎回ここで驚かれますね」
「記憶……消えちゃうのか」
良一は思わず唇をかみしめた。記憶が消えてしまうのなら、置いてきてしまった恋人・享幸のことも忘れてしまうだろう。再会しても気づかない可能性もある。それはそれで会えなくて切ない胸の苦しみも、悲しい思いもしなくてすむかもしれないが――。
「でもやっぱ俺は享幸のそばにいたい……他に行きたいところなんてない」
「享幸――滝沢享幸、あなたの元恋人で元同級生。でお間違いないですか」
天使は至って事務的にプロフィールを確認しては羽ペンを走らせ続ける。
「まあ、その希望を叶える手法、なくもないですが」
「え……あるの? なんだよ、もったいぶらずに教えろよ!」
驚きの発言に目を丸くした良一はガバッと身を乗り出した。すごく面倒そうにため息をつきながら、天使は眼鏡のブリッジをくいと押し上げる。
「制限条件があります」
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