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プロローグ

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 この幸せは永遠だと、どこかで信じていた。


 ぺたんこの綿布団の上で、二人はいつまでも抱き合ってキスを交わしていた。「ホテルみたいなベッドじゃなくてごめんな」と言いながら、享幸たかゆきはゆっくり良一りょういちの骨ばった肌を撫で回す。

「俺はマットが柔らかいの、苦手だからいいんだよ」

 湿気て冷たかった布団が二人の体温で温められていく。まぐわうたびに零れる汗が綿に再び吸い込まれて硬さに磨きがかかるなら、それは幸せを沢山練り込んだ証だ。どこぞのホテル仕様ふわふわベッドなんて、一夜限りの客用みたいでよそよそしい。そんなもの家に欲しくない。

 何度も腰を打ち付けられ、息を荒げながら良一がそう告げると、享幸は嬉しそうに笑った。つられて短い黒髪から汗が零れ落ちる。

「良一はいつも……面白い発想するね。詩人みたい」
「なんだよ、悪いか」
「ううん、俺はお前のそういうところに救われてるよ」

 甲斐性なしでごめんね。そう言いながらも黄金の延べ棒みたいな硬さを固持した武器を背後から捩じ込んできた。

「ひぃっ」と啼き声をあげる良一を後ろ手に引き上げると、深く突き入れては意地悪く抜き、何度も宙に浮かせて腰を上下させる。享幸という男、普段は眼鏡が似合う真面目系なくせに、行為中は性欲に忠実で猛々しい。そして良一も素直に享楽を貪る方だ。若い男二人の恋愛は、甘いムードより肌を重ね合う回数を優先する。

「あっ、あ……っ、ふかい……キツ……っ」
「は、くっ……良一……愛してる……っ」
「ちょ、調子にのりやがって……っあ、そこ、だめ……ふぁああっ」
「良一かわいい……もっと乱れて……っ」

 二人は仲良く布団に倒れ込んだ。ぐっと背中に寄せられる肌から享幸の熱い呼吸が伝わり、良一の理性を蕩けさせていく。そこには確かな温もりが感じられた。

「はあっ……あ、……も、イクぅ……っ」

 良一は返事の代わりに享幸の腕にしがみついた。この男の形にくっきり拡げられ、結合と摩擦を喜ぶ内壁がびくびく痙攣する。この日何度目か忘れた絶頂を迎え、二人分の汗と涙と精液が飛び散るシーツには、コンドームの空袋が二つ。

(これ以上の幸せを望んだら、俺は贅沢病で死ぬ――)

 たとえ同性愛という理由で親に祝福されなくてもいい。ボロくて狭いアパート暮らしでも平気。享幸と二人、普通に暮らせる程度の収入とたまの休日があれば、他に何も望まない。ただひとつ、願うならば――

 これからもずっと、享幸の傍に居続けたい。この身体を離さないでほしい。


 たとえば。死んで生まれ変わったとしても、愛しい人の傍に居たい。
 そんな乙女ちっくで非現実的な願い事は、神様にだけ伝わればいいのだ。

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