上 下
9 / 10

9

しおりを挟む
    「なぜ逃げだしたと思う?」
 「そ、それは利用されていたから嫌になったんでしょ?怪我もされていたんなら逃げ出すのは当たり前─」
 「どうかな。生まれた時からだぞ?傷を作る世界しか見ていないんだ。どうして嫌だという感情が生まれると思う?逆に傷を作られることによって周りは喜ぶんだぞ?それが、当たり前の世界。何故逃げだした?」
 「そ、それは…」
 「とある日、外部を知るある二人の人物が1匹を尋ねたからだ。そして、1匹は外の世界を知ることになりました。1匹と二人は互いに信頼を深め、1匹は自分自身の感情を持ち始め、1匹は自身の魔法を使い外に出られる可能性知り、二人は戦う自信を掴んだ。そして、二人と1匹は共に助け合い、利用者達が閉じ込めた鳥籠のような世界から逃げ出し、遂に未来への扉開きましたとさー、っと」
 
 そこまで言うと、男は身軽に近くにあった木の上に登る。木の枝に腰を下ろし、俺をそこから見下げる。そして、俺のカバンをそこから投げた。これには思わず声がもれてしまった。慌てて受け止めると、彼の手には俺のお昼ご飯であるサンドイッチが握られていた。俺も腹ぺこなのに、男は俺に何も言わず、大きな口で堂々と頬張る。その光景に俺は何をしているのか、何を聞いているのか少し呆れた。
 
 「で、どうだった話は?」
 「あ、いい話でしたよ。何かの童話か何かで?」
 「んーな訳あるか」
 「ハイハイ、それは1匹がトカゲですか?二人の内あなたが入っていると?」
 「それはねーよ。トカゲの話は間違えないが、二人は死んだとの噂だ」
 「では…あなたは利用する側…」
 「…フッ、さぁどうだろうね、ルシオちゃん♪」
 「……」
 
 奴はまだのうのうと俺のサンドイッチを頬張る。それに俺をちゃん呼び。前世でもそんな呼び方をするやつはいなかった。簡単な挑発なのは分かってはいるが、やつに言われるのは心底イライラする。少し文句を言ってやりたいところだったが、男はサンドイッチをぺろっと平らげたようで、すっと立ち上がった。立ち姿は月に照らされ、髪も風に揺れ、目と髪の紫色が悔しいほどに綺麗だった。今の話と言い、明らかに自信と余裕を持っている、俺の敵である事には違いない。そう強く思った。
 
 「あ~、最後に」
 「なんですか?」
 「俺は何としてもその1匹を探し出すつもりだ。そして、1匹には今信用出来る仲間がいない。お前も仲間がいないと力の無いものはこの世界では生きていけない。俺からの助言だ」
 「…それはどうもありがとう。けど、仲間がいるからこそ出来ないこともあるでしょう?」
 「そう思うからこそ、出来ないんだ。お前は」
 「はい??」
 「まぁいい、また会おうな、ルシオちゃん♡」
 「くっ…!」
 「トカゲちゃんにもよろしく!」
 
 奴は木の上でウインクしながらそういった。簡単な挑発だけど、ちゃん付け2回と煽るような喋り方をやられると腹が立つ。一言言ってやりたいが、奴は身軽に木から木へ移り猿のように一瞬で去っていた。
 
 しばらく、静寂が俺を包み込んだ。その森はあまりにも静か。嵐のような、よく分からない人だった。助かったから良かったけれど…。
 
 「って、夜じゃん!!早く家に戻らないとッ!」
 
 そのあとは慌てて家に帰るやいなや、マイラとイルダが俺を見つけるなり、泣きながら抱きしめてくれた。二人は帰ってこない俺を心配して探していたようだ。こうしてみると帰って来れて良かったと心から思う。血は繋がっていないけれど、マイラとイルダが本当の家族同然のように思う。しかし、嫌いな家族やその他の使用人こっ酷く怒られ、結果、謹慎処分になったルシオちゃんだった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

まさか転生? 

花菱
ファンタジー
気付いたら異世界?  しかも身体が? 一体どうなってるの… あれ?でも…… 滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。 初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……

惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。  秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。  ——パンである。  異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。  というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。  そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。

せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。

リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。 そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。 そして予告なしに転生。 ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。 そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、 赤い鳥を仲間にし、、、 冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!? スキルが何でも料理に没頭します! 超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。 合成語多いかも 話の単位は「食」 3月18日 投稿(一食目、二食目) 3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

処理中です...