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「でもね、この首の傷はまだ浅いから治せるようになったんだよ!見てて!」
 
 目の前にある呆れた顔をよそに短剣で付けられた首の傷に手を当てた。そして、魔法をなるべくゆっくり使い、なおしていった。完治できると俺は満面の笑みを作り、男の人を見る。すると次は明らかに侮蔑しているような態度。なんとも言えない俺の魔法だけれどさ…。いくらなんでもそこまであからさまに引いてる顔をされると結構グサッと心に響く。まぁ、こんなことで喜ぶ俺も俺だけどさ…。嘘でもいいから少しだけ褒めて貰えたら~なんて…。
 
 内心そう思いつつも、俺の顔には真逆の満面の笑みを光らせる。
 
 「ね、ね!?凄いでしょ?俺頑張ったんだ!」
 「こりゃ…、驚いた…。公爵様も大変だろうな」
 「褒め言葉として受け取っとくよ!ありがとう!!」
 「…」
 
 俺がそこまで言うと、男の人は黙り込んだ。これくらいやれば俺ではないという証明になっただろうか。あの男はもう目も合わせようとしない。それに妙に俺のテンションも上がっていたけれど、胸の高鳴りもそして、恐怖もようやく収まった。

 更には、俺は俺自身の情報を渡したんだから、少しくらい手がかりを掴みたいという気持ちが徐々に底から湧き上がってくる。もちろん、男の雰囲気があのように殺意に変わればすぐにやめなければいけない。やりすぎたら、死ぬ。
 
 「あ、ちなみに、そのトカゲどんな形してるんですか?」
 「うん?」
 「いや、血眼になってそのトカゲを探しているようなので、もし見かけたら情報を渡そうと思いまして…。あなたにとってみれば大切なトカゲなんでしょう?私達の家はそこですので、もし敷地に入ってきてメイドが違えて駆除したら可哀想ではありませんか。教えていただけるのであれば、私達もそのトカゲ探しに協力しますが?」
 「ほ~う、それはそれは有難いね」
    「しかし、そのトカゲはどうして逃げ出したんですか?首輪まで付けていたのに」
    「では一つだけ、とある話をしよう」
 「話?」
 「そう、あるとこに1匹の生物がいましたと。生まれた時から利用され、酷い怪我を負わされ、遂に逃げ出した。まだ見ぬ未知の広~い世界に、たったの1匹で」
 
 男は話しながらも俺の周りを舐めるようにぐるっと一周して言う。今日1番、相手の顔を見れた機会かもしれない。いや、俺が落ち着きを取り戻したからだ。俺はしっかり彼を見た。

   フードの奥からあの俺も男の光る紫の目を捉える。が、その目は一つしか無い。片方には痛々しい傷によって閉ざされていた。男が俺を正面から覗き込んだ故に男の顔までよくわかる。長い髪もほんのり紫色が混じり、酷く傷んでいる。マントも思ったよりボロボロで、思ったより細い体付き。いや、あれはかなり痩せていた。
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